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終幕後03 アーヴァイン大司教の活躍
31. 教会と王権 5
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「根回しもせずに大きな事件をぶち込むなんて、性質(タチ)が悪いなあ!」
笑いながら言うのはアーヴァインの従弟であり懐刀でもあるマスグレイヴ司祭だ。
二人の近くには茶の支度をする傍仕えのセリムもいるが、マスグレイヴはまったくの普段通りだった。幼いころ兄弟のように親しくしていた従兄弟たちは、大人になって上司と部下と関係が変わったが、相変わらず仲が良く、信頼しあえる間柄だった。
「しかも捕り物までの猶予が全くなかったって?」
「対応できないのが無能なんですよ。仕事を肩代わりして差し上げたのですから、後片付けくらいは頑張ってもらわないと……。まあ今回は無能ではない証明ができて良かったと思うよ」
日ごろとは違い、幼い頃から付き合いのあるマスグレイヴを相手にするアーヴァインは、砕けた言葉遣いだ。実際には無能ではないことの証明どころか優秀さを発揮する結果だったが、アーヴァインはお構いなしで言い放つ。
順位が低いとはいえ王位継承権を持つエギル公爵を筆頭に、王子を産んだ愛妾の実家を含め、合わせて六家の上位貴族が加担していた政変である。
未遂に終わって良かったものの、実行に移されれば少なからず被害を出し、国内は混乱に見舞われただろうと思われる。
「失敗する未来しかなかったとはいえ、捕り物で何人か死んで、責任からその数倍の首が胴と泣き別れになるのを、さらっと告発してのけるのは国王も肝が冷えただろうな」
「種を撒く方が悪いんですよ」
アーヴァインはワインの香りを楽しみながら口に含む。
芳醇な香りと柔らかな甘味と酸味が調和して、良い出来なのを実感する。
「そもそも庶子の王子などを認めるから、今回のようなことになるんだ。子が可愛いだけなら愛妾と子をそれなりの待遇にするだけで良かったというのに」
兄王子の教訓を生かしきれていない国王に、駄目出しをすること自体が無駄だと思いつつ、つい嫌味の一つも吐いてしまう。
「エギルは王の種じゃないけどな!」
「とっとと処分しないのが悪いんですよ」
数代前の国王の弟が臣籍に下って興した家だが、王の兄が関係する醜聞を始め、いくつもの問題を抱えた家をそのまま放置していた王は、責を問われても仕方がない。
「ようやくだったな」
「ああ……」
マスグレイヴの言葉に小さく返す。
一族の娘を地獄のような生活に落とす原因になったエギル前公爵や、その性質を受け継いだ息子たちを、アーヴァインの一族は誰一人として許していなかった。
アーヴァインにとっては幼い頃、よく遊んでくれた優しい叔母である。たった一人だったとしても、被害者をこれ以上出してはいけないのだ。犠牲になるのが一族の血を引かない女性でも、貴族ではないただの平民でも、等しくエギルの魔の手から守るのは使命だった。
今回の事件に関わっていた前公爵、現公爵とその二人のは処刑された。罪の一切を知らなかった公爵夫人は、辺境の小さな修道院に入った。強制はしていないが、二度と外の世界に出てくることはないだろう。長い結婚生活の中で夫人は、心身ともに疲れ果てていた。修道院の静寂に包まれた生活が、擦り切れた心を穏やかに癒してくれることを願っている。
エギルの一族を追い落とすのに予定より時間をかけ過ぎたのは後悔が残る。
だが同時に政変の目を摘めたのは重畳だった。平和が乱されれば、戦う力の無い者から傷ついていくのだ。
――――――――――――――――
アーヴァイン大司教編完結です。
途中、書き上げたファイルを誤って削除してしまい、発見までの1年大変お待たせしました。
申し訳ありません。
これにて作品も完結になりますが、書籍の発売日などに記念SSを発表予定です。
笑いながら言うのはアーヴァインの従弟であり懐刀でもあるマスグレイヴ司祭だ。
二人の近くには茶の支度をする傍仕えのセリムもいるが、マスグレイヴはまったくの普段通りだった。幼いころ兄弟のように親しくしていた従兄弟たちは、大人になって上司と部下と関係が変わったが、相変わらず仲が良く、信頼しあえる間柄だった。
「しかも捕り物までの猶予が全くなかったって?」
「対応できないのが無能なんですよ。仕事を肩代わりして差し上げたのですから、後片付けくらいは頑張ってもらわないと……。まあ今回は無能ではない証明ができて良かったと思うよ」
日ごろとは違い、幼い頃から付き合いのあるマスグレイヴを相手にするアーヴァインは、砕けた言葉遣いだ。実際には無能ではないことの証明どころか優秀さを発揮する結果だったが、アーヴァインはお構いなしで言い放つ。
順位が低いとはいえ王位継承権を持つエギル公爵を筆頭に、王子を産んだ愛妾の実家を含め、合わせて六家の上位貴族が加担していた政変である。
未遂に終わって良かったものの、実行に移されれば少なからず被害を出し、国内は混乱に見舞われただろうと思われる。
「失敗する未来しかなかったとはいえ、捕り物で何人か死んで、責任からその数倍の首が胴と泣き別れになるのを、さらっと告発してのけるのは国王も肝が冷えただろうな」
「種を撒く方が悪いんですよ」
アーヴァインはワインの香りを楽しみながら口に含む。
芳醇な香りと柔らかな甘味と酸味が調和して、良い出来なのを実感する。
「そもそも庶子の王子などを認めるから、今回のようなことになるんだ。子が可愛いだけなら愛妾と子をそれなりの待遇にするだけで良かったというのに」
兄王子の教訓を生かしきれていない国王に、駄目出しをすること自体が無駄だと思いつつ、つい嫌味の一つも吐いてしまう。
「エギルは王の種じゃないけどな!」
「とっとと処分しないのが悪いんですよ」
数代前の国王の弟が臣籍に下って興した家だが、王の兄が関係する醜聞を始め、いくつもの問題を抱えた家をそのまま放置していた王は、責を問われても仕方がない。
「ようやくだったな」
「ああ……」
マスグレイヴの言葉に小さく返す。
一族の娘を地獄のような生活に落とす原因になったエギル前公爵や、その性質を受け継いだ息子たちを、アーヴァインの一族は誰一人として許していなかった。
アーヴァインにとっては幼い頃、よく遊んでくれた優しい叔母である。たった一人だったとしても、被害者をこれ以上出してはいけないのだ。犠牲になるのが一族の血を引かない女性でも、貴族ではないただの平民でも、等しくエギルの魔の手から守るのは使命だった。
今回の事件に関わっていた前公爵、現公爵とその二人のは処刑された。罪の一切を知らなかった公爵夫人は、辺境の小さな修道院に入った。強制はしていないが、二度と外の世界に出てくることはないだろう。長い結婚生活の中で夫人は、心身ともに疲れ果てていた。修道院の静寂に包まれた生活が、擦り切れた心を穏やかに癒してくれることを願っている。
エギルの一族を追い落とすのに予定より時間をかけ過ぎたのは後悔が残る。
だが同時に政変の目を摘めたのは重畳だった。平和が乱されれば、戦う力の無い者から傷ついていくのだ。
――――――――――――――――
アーヴァイン大司教編完結です。
途中、書き上げたファイルを誤って削除してしまい、発見までの1年大変お待たせしました。
申し訳ありません。
これにて作品も完結になりますが、書籍の発売日などに記念SSを発表予定です。
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