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終幕後03 アーヴァイン大司教の活躍
27. 教会と王権 1
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巡礼の旅、というものは敬虔な信徒なら一度は誰も行きたいと思うものだ。
しかし実際問題、路銀や道中の安全を考えればできる人間は限られている。その日、食べていけるだけの糧しか得られないというのは、貧民街の住人に限った話ではない。平民の多くに当てはまる。
それならばと領主が箱馬車を仕立てて支援することで、教会に信仰心を披露すると同時に領民の求心力を得られた。フィールディア教側も巡礼者の食費相当以上の寄進を得ることで、中央から見捨てられたような寂れた教会の活動資金を得られ、両者にとって良い関係を維持できるのだった。
「良いこと尽くしだったはずなんですけどねえ。しかし悪党はどんな状況でも犯罪の温床にすることができるんですね」
アーヴァイン大司教はニヤリと笑う。
「私は巡礼の旅を食い物にして私服を肥やす悪党のようですよ」
「この程度の端金で喜ぶと思われるとは、猊下は随分と甘く見られましたね」
悪党にされた主人に向かって、側仕えであるセリムは「舐められましたね」と苦笑気味だ。
机の上にあるのは、アーヴァインの不正の証拠である。
偽造だが。
巡礼者は教会に泊まるのが常だ。
領主の主催する巡礼の旅に寄進は付き物だ。その額を実際より小さく記録し差額を着服する、なんとも小悪党が考えそうな横領の手口だ。単純だからこそバレにくい、存外、悪くない手段である。寄進の受け取りと帳簿への記載は中立派の司祭が行い、アーヴァイン派の司祭の手を経た後、監察官の手により精査され、汚職が摘発される手筈が整っていた。
実際にはアーヴァイン派に見せかけた敵対派閥の司祭から、上層部に奏上される予定だった。
現在、証拠書類一式、アーヴァインの手元にあるのだが。
「さて少々悪戯が過ぎるようですし、お仕置きの時間といきましょうか」
とても良い笑顔を浮かべて宣言した。
しかし実際問題、路銀や道中の安全を考えればできる人間は限られている。その日、食べていけるだけの糧しか得られないというのは、貧民街の住人に限った話ではない。平民の多くに当てはまる。
それならばと領主が箱馬車を仕立てて支援することで、教会に信仰心を披露すると同時に領民の求心力を得られた。フィールディア教側も巡礼者の食費相当以上の寄進を得ることで、中央から見捨てられたような寂れた教会の活動資金を得られ、両者にとって良い関係を維持できるのだった。
「良いこと尽くしだったはずなんですけどねえ。しかし悪党はどんな状況でも犯罪の温床にすることができるんですね」
アーヴァイン大司教はニヤリと笑う。
「私は巡礼の旅を食い物にして私服を肥やす悪党のようですよ」
「この程度の端金で喜ぶと思われるとは、猊下は随分と甘く見られましたね」
悪党にされた主人に向かって、側仕えであるセリムは「舐められましたね」と苦笑気味だ。
机の上にあるのは、アーヴァインの不正の証拠である。
偽造だが。
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実際にはアーヴァイン派に見せかけた敵対派閥の司祭から、上層部に奏上される予定だった。
現在、証拠書類一式、アーヴァインの手元にあるのだが。
「さて少々悪戯が過ぎるようですし、お仕置きの時間といきましょうか」
とても良い笑顔を浮かべて宣言した。
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