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終幕後03 アーヴァイン大司教の活躍
19. 愛妾と庶子の王子 3
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アーヴァインの前に、新たに夫婦になる二人が立つ。
庶子の第四王子ホレスとその妻マーサである。
ホレスは結婚に伴い領地と伯爵位を与えられて臣籍降下した。今後はロズホーン伯爵として生きることになる。
母である愛妾も王宮を辞し、息子の領地についていくことになっていた。王妃にとってかわる野心を秘めて愛妾となった女性だが、長年、王宮で王の愛妾として暮らした結果、無理だと悟ったのだ。実家を継いだ兄は未だ野望を持っているが、知ったことではないのだろう。
「良いお式をありがとうございます」
結婚式を終えたばかりのアーヴァインに礼を言ったのは、ホレスの母であるローズマリーだった。派手めな容姿を持つ美人だが、今日は花嫁が主役とばかり、品は良いがかなり地味な装いだった。
「ケイシーの式がこちらでしたけれど、立場的に執り行っていただけるか心配でしたの」
ホレスと同じく庶子の王子である第三王子は、成人と同時に早々と結婚して王籍を離脱している。
その結婚式もアーヴァインがギーラン大聖堂にて執り行っているが、母としては心配だったのだろう。
「新郎は難しい立場でありますが、彼自身の罪ではないでしょう? そういうことです」
「ありがとうございます」
ローズマリーは深々と頭を下げる。
今まで誰かに頭を下げた経験は一度も無かったが、息子のためになら何度でも頭を下げる用意があった。
「王宮を出て、ご子息と一緒に領地に向かわれるとか」
「ええ、本当は修道院に行こうと思っていたのですけれど、息子と嫁から勧められましたの。とはいえ別棟を建てて、そちらに住む予定ですが。新婚家庭を邪魔してはいけませんでしょう?」
修道院に入るといっても、修道女になるのではない。多額の寄進をして修道院で暮らすのだ。額が多ければ下女をつけてもらえる。何枚ものドレスをしまう衣裳部屋や、多くの侍女に囲まれた生活は難しいが、静かに暮らすには十分なのだ。
「王宮の華やかな生活から修道院とはまた、随分な変わりようですね」
「飽きましたの。若い頃は華やかで楽しい場所ですが、年を取ると少々騒がしさがきつく感じます。心を許せる友の一人もおりませんし、侍女ですら気を許すことができません。歳のせいか、そろそろ身を落ち着ける場所が欲しいと思いましたの」
「確かに王宮は何かと騒がしいですね」
目の前の女性は神の教えに背く存在だが、必ずしも敵ではない。
「もし王都に来られることがあればお立ち寄りください。告解も相談も受け付けますよ。いつでも歓迎いたします」
聖職者らしい慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。
「さあ、新郎の母がいつまでもこんなところで油を売ってはいけません。子供たちの傍にいなくては」
優しく急かして、ローズマリーを息子の元に誘った。
庶子の第四王子ホレスとその妻マーサである。
ホレスは結婚に伴い領地と伯爵位を与えられて臣籍降下した。今後はロズホーン伯爵として生きることになる。
母である愛妾も王宮を辞し、息子の領地についていくことになっていた。王妃にとってかわる野心を秘めて愛妾となった女性だが、長年、王宮で王の愛妾として暮らした結果、無理だと悟ったのだ。実家を継いだ兄は未だ野望を持っているが、知ったことではないのだろう。
「良いお式をありがとうございます」
結婚式を終えたばかりのアーヴァインに礼を言ったのは、ホレスの母であるローズマリーだった。派手めな容姿を持つ美人だが、今日は花嫁が主役とばかり、品は良いがかなり地味な装いだった。
「ケイシーの式がこちらでしたけれど、立場的に執り行っていただけるか心配でしたの」
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その結婚式もアーヴァインがギーラン大聖堂にて執り行っているが、母としては心配だったのだろう。
「新郎は難しい立場でありますが、彼自身の罪ではないでしょう? そういうことです」
「ありがとうございます」
ローズマリーは深々と頭を下げる。
今まで誰かに頭を下げた経験は一度も無かったが、息子のためになら何度でも頭を下げる用意があった。
「王宮を出て、ご子息と一緒に領地に向かわれるとか」
「ええ、本当は修道院に行こうと思っていたのですけれど、息子と嫁から勧められましたの。とはいえ別棟を建てて、そちらに住む予定ですが。新婚家庭を邪魔してはいけませんでしょう?」
修道院に入るといっても、修道女になるのではない。多額の寄進をして修道院で暮らすのだ。額が多ければ下女をつけてもらえる。何枚ものドレスをしまう衣裳部屋や、多くの侍女に囲まれた生活は難しいが、静かに暮らすには十分なのだ。
「王宮の華やかな生活から修道院とはまた、随分な変わりようですね」
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聖職者らしい慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。
「さあ、新郎の母がいつまでもこんなところで油を売ってはいけません。子供たちの傍にいなくては」
優しく急かして、ローズマリーを息子の元に誘った。
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