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終幕後03 アーヴァイン大司教の活躍
17. 愛妾と庶子の王子 1
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第14回恋愛対象にて応援くださった皆様、ありがとうございます。
お蔭を持ちまして書籍化にこぎつけました。
暖かい感想の数々、励みになりました。
近況ボードにも詳細を書いていますが、ポータルの刊行予定にも発売情報がありますので、ご参照ください。
__________________
セルティア王国には珍しい妾腹の王子がいる。
珍しいのは大陸中で信仰されているフィールディア教が一夫一婦制だからだ。
だから愛人、国王であれば愛妾、公妾と呼ばれる立場の女性はいても、正妻以外から生まれた子供は全て非嫡子であり相続権はない。
そもそも愛人との間に子が生まれた場合、愛人とその夫の子にするか、愛人側の実家の籍に入るのが普通なのだ。
しかし現国王には庶子の王子がいる。四人いる愛妾がそれぞれ一人ずつ男児を産んだからだ。
女癖の悪い国王だが、父親の責任というものは承知していたらしい。全員を認知するのと同時に、王位継承権は無いものの、貴族として必要充分な教育受けさせ、独立時には地方の中堅貴族としてやっていける領地と伯爵位を与えている。
もっとも独立したのは一番年長の庶子である第三王子だけであるが。
「人の欲望というのは際限ないものだね」
庶子でありながら王子という立場を得たのだから、それで満足すれば良いものの、愛妾とその実家は子が独立するときに得られる、地方とはいえそれなりに豊かな領地や与えられる爵位よりも、もっと良いものを欲していた。
「王家の醜聞に関わる気はありませんが、政情不安はよくないからね」
うっすらと微笑みを浮かべながら、どう愛妾の実家を追い落とすか考える。楽しい陰謀の時間の始まりだ。
アーヴァインの元には政変ともよべる、王太子の暗殺計画の情報が届いていた。成功する見込みは低いが、ありえないという程でもない。関わっているのは未だ独身の王子たちの実家だ。全て高位貴族だが、中央政治に関わっている家ではない。
とはいえ先代当主が娘を王に差し出しただけあって、代が変わっても権力欲は人よりも多い。無能と謗られるほどではないが、決して有能といわれるほどでもない頭の持ち主が、何人集まっても良い案が浮かぶはずもない。
そもそも己の家の利益を優先するべく動く者が何人もいて、上手くいく訳がない。
愚かなことだ……。
この際、未婚の庶子をまとめて排除する方向でいくか。
そう考えた直後、第四王子は母親の実家の野心に全く無関心だったことを思い出す。
本人は第二王子の右腕として活躍中であり、王太子の覚えもめでたい。
王太子への牽制のために第四王子を潰しても良いが、エミリアに免じて救済しておくかと思い直す。
数年前にアーヴァンが手を貸した信心深い女性は、王太子妃の側近であり、第四王子とも親しい。心優しい彼女は中央政治の関係者になった今でも、幼い頃のまま真っ直ぐで善人のままだ。
彼女を泣かさずとも貴族家の二つや三つ潰すことは可能である。
政敵が知れば、女を気にするのは甘いと嘲笑するだろう。
だが手間をかけても良いと思う程度に、アーヴァインにとってエミリアは可愛い存在だった。
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そもそも愛人との間に子が生まれた場合、愛人とその夫の子にするか、愛人側の実家の籍に入るのが普通なのだ。
しかし現国王には庶子の王子がいる。四人いる愛妾がそれぞれ一人ずつ男児を産んだからだ。
女癖の悪い国王だが、父親の責任というものは承知していたらしい。全員を認知するのと同時に、王位継承権は無いものの、貴族として必要充分な教育受けさせ、独立時には地方の中堅貴族としてやっていける領地と伯爵位を与えている。
もっとも独立したのは一番年長の庶子である第三王子だけであるが。
「人の欲望というのは際限ないものだね」
庶子でありながら王子という立場を得たのだから、それで満足すれば良いものの、愛妾とその実家は子が独立するときに得られる、地方とはいえそれなりに豊かな領地や与えられる爵位よりも、もっと良いものを欲していた。
「王家の醜聞に関わる気はありませんが、政情不安はよくないからね」
うっすらと微笑みを浮かべながら、どう愛妾の実家を追い落とすか考える。楽しい陰謀の時間の始まりだ。
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とはいえ先代当主が娘を王に差し出しただけあって、代が変わっても権力欲は人よりも多い。無能と謗られるほどではないが、決して有能といわれるほどでもない頭の持ち主が、何人集まっても良い案が浮かぶはずもない。
そもそも己の家の利益を優先するべく動く者が何人もいて、上手くいく訳がない。
愚かなことだ……。
この際、未婚の庶子をまとめて排除する方向でいくか。
そう考えた直後、第四王子は母親の実家の野心に全く無関心だったことを思い出す。
本人は第二王子の右腕として活躍中であり、王太子の覚えもめでたい。
王太子への牽制のために第四王子を潰しても良いが、エミリアに免じて救済しておくかと思い直す。
数年前にアーヴァンが手を貸した信心深い女性は、王太子妃の側近であり、第四王子とも親しい。心優しい彼女は中央政治の関係者になった今でも、幼い頃のまま真っ直ぐで善人のままだ。
彼女を泣かさずとも貴族家の二つや三つ潰すことは可能である。
政敵が知れば、女を気にするのは甘いと嘲笑するだろう。
だが手間をかけても良いと思う程度に、アーヴァインにとってエミリアは可愛い存在だった。
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