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終幕後03 アーヴァイン大司教の活躍

06. 嫡子の認知 3

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「大司教、一体どういうことですか!」

 ミサの後、待ち伏せしていたアボット男爵はアーヴァイン大司教に詰め寄る。

「どうもこうも、よほどのことがなければ離婚は認められませんよ。当然ではありませんか」

「しかし、離婚が成立しなければ、再婚できませんし、跡継ぎを得られません!」

「それは男爵家の問題であり、教会が関知することではありません」

 取り付く島もなく、アーヴィンは男爵を切り捨てる。

「どうでもよろしいが、家の醜聞を大勢の前で話していることに気付かれた方が、ご自分のためですよ」

 ミサが終わった直後である。当然だが大勢の人が周囲にいた。

「自分で招いた結果です。責任が自分にあることを自覚しなさい」

 それだけ言ってアーヴァイン大司教はその場を後にする。




 三か月後、やつれ切ったアボットがギーラン大聖堂を訪れる。

 アーヴァイン大司教に直訴した直後から、既に数十回の訪問になる。その度に門前払いを食らっているアボットだったが、だからといって訪問を止めることはできない。自分の子に男爵家を継がせるためである。

「頑張るねえ、彼も」

 側仕えのセリムに言いながら、アボットの本来は必要でなかった苦労を嗤う。

「恨みを買うのも怖いし、そろそろ許してあげましょうか」

「恨みを買う前に殺せば良いだけなのに……全然、怖いと思っていないでしょう?」

「まあね、彼如きを怖がってたら、王族は相手にできないからね」

 物騒なことを言う主従は、面会の場に向かう。

「お待たせしました。男爵の熱心さに絆されて面会する気になりましたよ」

「では離婚を認めてもらえるのですね!」

「その前に認知が先です。そして離縁に際して、わざわざ他国から嫁いできた女性を、気が変わったというだけで着の身着のまま追い出したなんて、外聞の悪い状態のままという訳にはいきません」

「では……」

 カタリナが帰国したことは、既にアボットの耳にも入っている。

 アーヴァイン大司教の言葉通り、妻が国から持参した物以外、何もを持たせずに追い出した。とても円満とは言えない状況で、これからやり直すこともできない。

「……どうしたら、既にアレは帰国している。既に追い出して手の届かない場所にいるというのに、どうすれば良いのです!」

「幼な子を抱いた母親に無体なことはできませんよ。私の方で困らないように手を尽くしています。ですから男爵はその分を寄進という形で返せば良いのです。ちなみに経費は金貨換算で約五千枚です」

「は……? 金貨五千枚なんてあり得ないでしょう!」

「彼女はれっきとした貴族のご婦人ですよ。女性の一人旅なんかで家に帰せるとお思いですか? 当然ですが付添人と護衛をつけて、宿だってそれなりのものを手配しています。船は一等客室ですよ。それ以外にも家を追い出されてから旅立つまでの生活費、産婆への謝礼など、全ての費用の総額です。彼女のご実家の格を考えれば安い方でしょうね」

「……」

「別に強制ではありませんから、どのようになさっても構いませんよ。私の問題ではありません」

 アーヴァインは微笑みのまま相手を突き放した。

 実際、どう転んでも困るのはアボットだけで、それ以外の人間が困ることは無い。

 だからどうでもいいのだ。

 アボットに提示した金額の中には、立て替えているカタリナへの慰謝料や、アーヴァイン大司教自身への手数料、身を寄せた聖アマーリエ女子修道院への寄付なども含まれており、実際の出費の五倍ほどになっているが、それには特に触れない。

 不幸な女性に費用を請求する気は全くないが、不幸な女性を生み出した元凶には、何倍もの請求をおこない自分と教会への手間賃をもらわなければ、働いた価値がないのだ。

「……わかりました。教会へのご寄進をさせていただきます」

 絞り出すように声をだしたアボットは、アーヴァイン大司教の提示した金額を寄進として支払うと約束して退出する。

 数日後、アーヴァイン大司教に面会すれば、今までの拒絶はなんだったのかと驚くほどの速さで取り次がれ、寄進を受け取られた。

 その後はとんとん拍子に、嫌った元妻との間に生まれた子が第一子として記載され、同時に離婚も成立した。

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金貨5千枚:男爵家の1年半分の収入相当として書いています
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