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終幕後02 伯爵夫人ブリトニーの流儀
03. リプセット商会 1
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夜会より二か月ほど遡る。
ブリトニーは妹の嫁ぎ先であるリプセット商会に足を運ぶ。仲の良い姉妹だが、しかし単に遊びに来たとは誰も思わない。事実、妹であるティナの顔を見るのはついでであり、本命はその夫であるニコラスとの商談だった。
リプセット商会はブリトニーの実家がある領地の貿易港に店を構える商会だ。主に宝石の輸入を手掛けている。宝飾品の加工と販売を行う婚家であるエレンディア家の良い取引相手であった。
「邪魔をするわよ、ニコ」
「また来たのか、トニー」
幼馴染であり義弟でもあるニコラス=リプセットは、ブリトニーにとって大切な取引相手であり、気の置けない友人だ。
それはニコラスも同様で、義姉というよりは親しい友人という方が近い感覚で接している。お互いにニコ、トニーと愛称で呼び合うのも昔から変わらない。
「船が港に戻ってきたというから、仕入れたものを見せてもらいに来たのよ」
「相変わらず耳が早いな、隣とはいえ違う領地に嫁いだっていうのに」
大海を渡る船が帰港したのは二日前だ。それから荷下ろしをして整理がついたのが今朝、商品を見るのに丁度という絶妙さでブリトニーは現れたのだ。
思うに未婚の、実家にいたころからブリトニーは時機を見るのに聡い少女だったなとニコラスは思い出しながら、目の前の幼馴染が目当てにしている商品を取り出して机に置く。
「開けるわよ」
そう一言断ってから、ブリトニーは机に置かれた箱を次々と開けていく。
中身は全て紅玉だった。粒は小さいが照りが良く美しい。
「綺麗な石が入ったわね」
「いつもとは違う産地なんだ。色、透明度、照りどれをとっても前よりいいだろう」
そういいながらニコラスは何箱も追加して机に置く。
「そうね、この国では小さい石は好まれないけれど、これならいけそうだわ」
この国――セルティア王国では大ぶりな宝石を多く使ったものが好まれる。小さな石は貧乏くさいという訳だ。しかしブリトニーはその評価に異を唱えている。繊細な細工の美しさを知らない愚か者の意見だと。
確かに中心になる石が大きいのは豪華で強い印象を与える。
でも全て大きな石で揃える必要があるかといえば違う。主役になる石を引き立てるために小さな石で取り巻いたり、女性的な優美さを感じさせるのも良いと思うのだ。
全体として均整のとれた美しさが必要なのだと、ブリトニーは声高に主張している。
男性陣からは冷笑でもって迎えられたが、女性陣からの支持は勝ち取っている。
「流行らない石でも君なら流行らせることができるだろう? 手を出さないのは勿体ないくらい良い石だったから買い付けてきたらしい。それとこっちが誰もが欲しがるような一級品の大きな石だ」
そうやって出てきたのは小さな箱だった。中には赤ん坊の拳ほどもあるような半球状の紅玉だった。
鮮やかな赤の中に六条の光を湛たたえている。
「凄いわね、大きさもだけど、色と輝きが見事よ」
「そうだろう、それでもっと凄いのがこれだ」
更に追加で出てきた箱の中には、同じく六条の輝きを持つ紅玉が二個。前のよりも一回り小さいが同じ色で、合わせて作られたかのようだった。
「まあ! これで首飾りと耳飾りを作ったら素敵でしょうね」
うっとりと見とれながら呟く。この石たちをどう飾り立てたらより美しくできるのか悩みながら。
「紅玉三石とこちらの小粒のものをひと箱で幾ら位になるかしら?」
「まあこれくらいかな?」
ニコラスが指を四本立てて返す。
「もう少し三本、いいえ二本半くらいにならないかしら?」
「それはいくら何でも安すぎる!」
商談に入った二人は金額でせめぎ合う。
そんな中、ふとブリトニーの目に入ってきたのは、隅の方に置かれている、赤とはいえないような色の薄い紅玉だった。
ブリトニーは妹の嫁ぎ先であるリプセット商会に足を運ぶ。仲の良い姉妹だが、しかし単に遊びに来たとは誰も思わない。事実、妹であるティナの顔を見るのはついでであり、本命はその夫であるニコラスとの商談だった。
リプセット商会はブリトニーの実家がある領地の貿易港に店を構える商会だ。主に宝石の輸入を手掛けている。宝飾品の加工と販売を行う婚家であるエレンディア家の良い取引相手であった。
「邪魔をするわよ、ニコ」
「また来たのか、トニー」
幼馴染であり義弟でもあるニコラス=リプセットは、ブリトニーにとって大切な取引相手であり、気の置けない友人だ。
それはニコラスも同様で、義姉というよりは親しい友人という方が近い感覚で接している。お互いにニコ、トニーと愛称で呼び合うのも昔から変わらない。
「船が港に戻ってきたというから、仕入れたものを見せてもらいに来たのよ」
「相変わらず耳が早いな、隣とはいえ違う領地に嫁いだっていうのに」
大海を渡る船が帰港したのは二日前だ。それから荷下ろしをして整理がついたのが今朝、商品を見るのに丁度という絶妙さでブリトニーは現れたのだ。
思うに未婚の、実家にいたころからブリトニーは時機を見るのに聡い少女だったなとニコラスは思い出しながら、目の前の幼馴染が目当てにしている商品を取り出して机に置く。
「開けるわよ」
そう一言断ってから、ブリトニーは机に置かれた箱を次々と開けていく。
中身は全て紅玉だった。粒は小さいが照りが良く美しい。
「綺麗な石が入ったわね」
「いつもとは違う産地なんだ。色、透明度、照りどれをとっても前よりいいだろう」
そういいながらニコラスは何箱も追加して机に置く。
「そうね、この国では小さい石は好まれないけれど、これならいけそうだわ」
この国――セルティア王国では大ぶりな宝石を多く使ったものが好まれる。小さな石は貧乏くさいという訳だ。しかしブリトニーはその評価に異を唱えている。繊細な細工の美しさを知らない愚か者の意見だと。
確かに中心になる石が大きいのは豪華で強い印象を与える。
でも全て大きな石で揃える必要があるかといえば違う。主役になる石を引き立てるために小さな石で取り巻いたり、女性的な優美さを感じさせるのも良いと思うのだ。
全体として均整のとれた美しさが必要なのだと、ブリトニーは声高に主張している。
男性陣からは冷笑でもって迎えられたが、女性陣からの支持は勝ち取っている。
「流行らない石でも君なら流行らせることができるだろう? 手を出さないのは勿体ないくらい良い石だったから買い付けてきたらしい。それとこっちが誰もが欲しがるような一級品の大きな石だ」
そうやって出てきたのは小さな箱だった。中には赤ん坊の拳ほどもあるような半球状の紅玉だった。
鮮やかな赤の中に六条の光を湛たたえている。
「凄いわね、大きさもだけど、色と輝きが見事よ」
「そうだろう、それでもっと凄いのがこれだ」
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「まあ! これで首飾りと耳飾りを作ったら素敵でしょうね」
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「まあこれくらいかな?」
ニコラスが指を四本立てて返す。
「もう少し三本、いいえ二本半くらいにならないかしら?」
「それはいくら何でも安すぎる!」
商談に入った二人は金額でせめぎ合う。
そんな中、ふとブリトニーの目に入ってきたのは、隅の方に置かれている、赤とはいえないような色の薄い紅玉だった。
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