三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良

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終幕後01 ネイサン=ファーナムの決闘履歴

11. 後輩の妹 2

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 ネイサンがアークライト子爵家を訪問したのは、昼を少し過ぎたころだった。

 前日の夜に帰宅して、家族と晩餐を共にしたときにもしかしたら子爵家の後見を頼むかもしれないと父親に話しておいた。

 アークライト家の応接室には当主の他、妻と娘も待っている。まだ十代の娘が、今回の婚約に関係する妹なのだろうとあたりを付けながら入室した。

「初めまして、ネイサン=ファーナムと申します」

 貴族的な作法に則ってネイサンが名乗る。特に爵位を告げなくても、この国の男爵以上の貴族家は三百程度しななく、当主なら当たり前のように家名と爵位が頭に入っている。

 対する令嬢の父親――アークライト子爵も同様に名乗った。

「エリカさんの婚約の事で、兄君であるナイジェル君から相談がありまして。しかしお父上の意向も聞かず、私が動くことはできませんから、本日、確認のためにお伺いいたしました」

「息子が無理を言っても申し訳ございません。娘にはできたら好いた男と一緒になって欲しいと思っていますが、如何せん我が家は子爵家、お相手は侯爵家ですから、是非にと言われれば折れざるを得ません。ジョナスのことは幼い頃から知っていて、良い青年になったと思っています。娘と一緒になってくれればとは思いますが、儘ままならぬものです」

「そういうことでしたら、私がお役に立てるでしょう。我が家がアークライト家の後見になります。父からの許可をとっておりますので問題はありません。ハズウェル家も侯爵家で家格は同程度ですから、我が家だけでは弱いのですが、私の友人の実家も同時に後見につきます。友人はアトキンス家の三男です。家格は足りませんが、本人はイアン殿下の側近です」

 アトキンス家は伯爵家で由緒正しく歴史のある家だ。伯爵家とはいえそれなりの家格を持っている。その上、グレアム本人は王子の側近を務める逸材だ。

 イアン殿下は王太子の弟にあたる第二王子であり王妃を母に持つ。

 王太子は同母弟妹と大変仲が良い。その側近を務めるというだけで相手は引く。

「彼は私と同い年ながら非常に優秀です。二十歳そこそこで殿下の側近になったのが、家の権力ではなく実力で得たものだと言えば、お判りになっていただけると思います。事情を知っている者なら、彼個人を敵に回すのが得策ではないと理解できるでしょう」

「ありがたい申し出ですが、我が家と何ら関係の無い両家に、お力添えしていただく訳にはまいりません」

「家とは関係がありませんが、ナイジェル君個人とは無関係ではありませんよ。彼の上官が私の友人でして。彼が私の爵位を当てにしたことは、今まで一度もありませんでした。ですが今回、ご子息のために権力を使ってくれと頭を下げてきました。親しい友人の願いを無碍にするほど、私は薄情な男ではありません。アトキンス家の三男、グレアムも一緒です。ジョナス殿の上司の友人なんですよ。最近の彼はひどく落ち込んでいて、上司も相当心配しているようでした。そういう訳で、お父上の意向さえ判明すれば、手を貸すのは吝やぶさかではありません」

 そう言うと出されたお茶を一口飲んだ後、ニヤリと笑う。

「本音を言えばハズウェルのやり方が気に入りません。女性を口説くのに家名を脅しに使うような阿呆が、妻を幸せにできると思えませんね」

 初対面の、自分の親と同世代の男を前にぶっちゃけ過ぎたかと思ったが、子爵は全く気にしなかった。

「本音を言えば私もそうだ。くたばれと思っている」

「あなた!」

「お父さま!」

 妻と娘が当主の仮面を外した子爵に驚いている。相手は息子と歳が変わらないとはいえ、侯爵家の人間なのだ。

「そういうことなので、是非、僕にこの件を任せていただきたい。叩きのめしてやりますよ」
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