41 / 89
終幕後01 ネイサン=ファーナムの決闘履歴
11. 後輩の妹 2
しおりを挟む
ネイサンがアークライト子爵家を訪問したのは、昼を少し過ぎたころだった。
前日の夜に帰宅して、家族と晩餐を共にしたときにもしかしたら子爵家の後見を頼むかもしれないと父親に話しておいた。
アークライト家の応接室には当主の他、妻と娘も待っている。まだ十代の娘が、今回の婚約に関係する妹なのだろうとあたりを付けながら入室した。
「初めまして、ネイサン=ファーナムと申します」
貴族的な作法に則ってネイサンが名乗る。特に爵位を告げなくても、この国の男爵以上の貴族家は三百程度しななく、当主なら当たり前のように家名と爵位が頭に入っている。
対する令嬢の父親――アークライト子爵も同様に名乗った。
「エリカさんの婚約の事で、兄君であるナイジェル君から相談がありまして。しかしお父上の意向も聞かず、私が動くことはできませんから、本日、確認のためにお伺いいたしました」
「息子が無理を言っても申し訳ございません。娘にはできたら好いた男と一緒になって欲しいと思っていますが、如何せん我が家は子爵家、お相手は侯爵家ですから、是非にと言われれば折れざるを得ません。ジョナスのことは幼い頃から知っていて、良い青年になったと思っています。娘と一緒になってくれればとは思いますが、儘ままならぬものです」
「そういうことでしたら、私がお役に立てるでしょう。我が家がアークライト家の後見になります。父からの許可をとっておりますので問題はありません。ハズウェル家も侯爵家で家格は同程度ですから、我が家だけでは弱いのですが、私の友人の実家も同時に後見につきます。友人はアトキンス家の三男です。家格は足りませんが、本人はイアン殿下の側近です」
アトキンス家は伯爵家で由緒正しく歴史のある家だ。伯爵家とはいえそれなりの家格を持っている。その上、グレアム本人は王子の側近を務める逸材だ。
イアン殿下は王太子の弟にあたる第二王子であり王妃を母に持つ。
王太子は同母弟妹と大変仲が良い。その側近を務めるというだけで相手は引く。
「彼は私と同い年ながら非常に優秀です。二十歳そこそこで殿下の側近になったのが、家の権力ではなく実力で得たものだと言えば、お判りになっていただけると思います。事情を知っている者なら、彼個人を敵に回すのが得策ではないと理解できるでしょう」
「ありがたい申し出ですが、我が家と何ら関係の無い両家に、お力添えしていただく訳にはまいりません」
「家とは関係がありませんが、ナイジェル君個人とは無関係ではありませんよ。彼の上官が私の友人でして。彼が私の爵位を当てにしたことは、今まで一度もありませんでした。ですが今回、ご子息のために権力を使ってくれと頭を下げてきました。親しい友人の願いを無碍にするほど、私は薄情な男ではありません。アトキンス家の三男、グレアムも一緒です。ジョナス殿の上司の友人なんですよ。最近の彼はひどく落ち込んでいて、上司も相当心配しているようでした。そういう訳で、お父上の意向さえ判明すれば、手を貸すのは吝やぶさかではありません」
そう言うと出されたお茶を一口飲んだ後、ニヤリと笑う。
「本音を言えばハズウェルのやり方が気に入りません。女性を口説くのに家名を脅しに使うような阿呆が、妻を幸せにできると思えませんね」
初対面の、自分の親と同世代の男を前にぶっちゃけ過ぎたかと思ったが、子爵は全く気にしなかった。
「本音を言えば私もそうだ。くたばれと思っている」
「あなた!」
「お父さま!」
妻と娘が当主の仮面を外した子爵に驚いている。相手は息子と歳が変わらないとはいえ、侯爵家の人間なのだ。
「そういうことなので、是非、僕にこの件を任せていただきたい。叩きのめしてやりますよ」
前日の夜に帰宅して、家族と晩餐を共にしたときにもしかしたら子爵家の後見を頼むかもしれないと父親に話しておいた。
アークライト家の応接室には当主の他、妻と娘も待っている。まだ十代の娘が、今回の婚約に関係する妹なのだろうとあたりを付けながら入室した。
「初めまして、ネイサン=ファーナムと申します」
貴族的な作法に則ってネイサンが名乗る。特に爵位を告げなくても、この国の男爵以上の貴族家は三百程度しななく、当主なら当たり前のように家名と爵位が頭に入っている。
対する令嬢の父親――アークライト子爵も同様に名乗った。
「エリカさんの婚約の事で、兄君であるナイジェル君から相談がありまして。しかしお父上の意向も聞かず、私が動くことはできませんから、本日、確認のためにお伺いいたしました」
「息子が無理を言っても申し訳ございません。娘にはできたら好いた男と一緒になって欲しいと思っていますが、如何せん我が家は子爵家、お相手は侯爵家ですから、是非にと言われれば折れざるを得ません。ジョナスのことは幼い頃から知っていて、良い青年になったと思っています。娘と一緒になってくれればとは思いますが、儘ままならぬものです」
「そういうことでしたら、私がお役に立てるでしょう。我が家がアークライト家の後見になります。父からの許可をとっておりますので問題はありません。ハズウェル家も侯爵家で家格は同程度ですから、我が家だけでは弱いのですが、私の友人の実家も同時に後見につきます。友人はアトキンス家の三男です。家格は足りませんが、本人はイアン殿下の側近です」
アトキンス家は伯爵家で由緒正しく歴史のある家だ。伯爵家とはいえそれなりの家格を持っている。その上、グレアム本人は王子の側近を務める逸材だ。
イアン殿下は王太子の弟にあたる第二王子であり王妃を母に持つ。
王太子は同母弟妹と大変仲が良い。その側近を務めるというだけで相手は引く。
「彼は私と同い年ながら非常に優秀です。二十歳そこそこで殿下の側近になったのが、家の権力ではなく実力で得たものだと言えば、お判りになっていただけると思います。事情を知っている者なら、彼個人を敵に回すのが得策ではないと理解できるでしょう」
「ありがたい申し出ですが、我が家と何ら関係の無い両家に、お力添えしていただく訳にはまいりません」
「家とは関係がありませんが、ナイジェル君個人とは無関係ではありませんよ。彼の上官が私の友人でして。彼が私の爵位を当てにしたことは、今まで一度もありませんでした。ですが今回、ご子息のために権力を使ってくれと頭を下げてきました。親しい友人の願いを無碍にするほど、私は薄情な男ではありません。アトキンス家の三男、グレアムも一緒です。ジョナス殿の上司の友人なんですよ。最近の彼はひどく落ち込んでいて、上司も相当心配しているようでした。そういう訳で、お父上の意向さえ判明すれば、手を貸すのは吝やぶさかではありません」
そう言うと出されたお茶を一口飲んだ後、ニヤリと笑う。
「本音を言えばハズウェルのやり方が気に入りません。女性を口説くのに家名を脅しに使うような阿呆が、妻を幸せにできると思えませんね」
初対面の、自分の親と同世代の男を前にぶっちゃけ過ぎたかと思ったが、子爵は全く気にしなかった。
「本音を言えば私もそうだ。くたばれと思っている」
「あなた!」
「お父さま!」
妻と娘が当主の仮面を外した子爵に驚いている。相手は息子と歳が変わらないとはいえ、侯爵家の人間なのだ。
「そういうことなので、是非、僕にこの件を任せていただきたい。叩きのめしてやりますよ」
27
お気に入りに追加
3,653
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。