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王宮侍女の活躍
24. 望まない再会
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しばらく椅子に座って休憩した後、エミリアは夫人たちへの挨拶に回り、新しく知り合った友人と会話を楽しんだりと女性向けの社交に勤しみ、ひと段落してまた壁の花よろしく隅の方で休憩する。
夫であるネイサンは相変わらず、友人たちとの会話を続けている。体裁を気にせず素のままでいられる社交はとても楽しそうだった。
時間を忘れて語らう夫に、エミリアは口元を綻ばせる。
そんな時だった、もう二度と会わないと思い込んでいた人物と再会したのは。
「なぜお前がここにいる!」
言葉と同時に椅子を蹴られて転がり落ちる。
エミリアの悲鳴は小さかったものの、周囲の視線を集めるには十分だったが、当事者二人はそのことに気付かなかった。
「何故と言われましても、招かれたからここにいるのです」
ゆっくりと床から立ち上がりこたえる。突然の暴力に恐怖を感じたが、それよりも騎士の妻としての矜持が勝ったのだ。
「夫は騎士ですもの、招かれてもおかしくはありません。それよりもカーティス様は気に入らない者は誰であれ、暴力を振るわれる方でしたのね」
暗に妻を殴るのは家庭内の問題で、対外的には問題無いという周囲の判断は間違いなのだと指摘する。この男は外でも暴力を振るう身勝手かつ狂暴な男なのだと。
エミリアとブレットとの婚姻は何年も前に終わっている。既に赤の他人であり、言い訳のできる状況ではない。たとえ本人は軽く椅子を蹴っただけで、倒れることを予期していなかったとしてもだ。
「エミリアッ!!」
近くで談笑していたネイサンは、暴力を受けた愛妻に駆け寄る。到着した頃には既に自力で立ち上がっていたが、それでも慈しむように怪我の有無を確認する。
「どういうことか説明してもらおう、カーティス」
今まで聞いたことのないような夫の地響きのような低い声に、腕の中でビクリとする。
「こちらのご婦人が椅子から立ち上がろうとして、転ばれただけです」
「蹴り倒したように見えたのは気のせいだと……?」
「そうです。たまたま、そのように見える場面だけで――」
「ほう、貴様は妻がまともに椅子から立ち上がれないほど作法ができていないと、そう妻を侮辱するのだな。その上で自分には不自然で不作法なまでに、足を大きく振り上げて歩く癖があると」
「そういう訳では……いやその通りです」
「あくまで我が妻がまともな作法が身についていないと、そう侮辱されるのだな?」
繰り返し問う。ネイサンは怒り心頭だった。
夜会で騒動を起こすことは、主催者である前騎士団長の顔に泥を塗ることだと理解していたが、それでも許すことはできなかった。
「どうした、騒々しい」
人垣を割って入ったのは、申し訳ないと思っていた主催者本人だった。
「申し訳ありません、妻が謂われのない暴力と侮辱を受けて許せませんでした」
ネイサンが素直に頭を下げて謝罪するのに続いてブレットも謝罪するが、暴力と侮辱に対しては否定した。
「ご婦人に暴力というのは重大な問題だな、騎士の風上にもおけん。しかし双方の言い分は真反対の主張で、片方はそんな事実は無いと言う。であれば決闘によって自分の正しさを証明するしかあるまい」
なんて暴力的な……!
こんなに証人が多いのだから、ネイサンの主張が事実であることは簡単に判明するというのに……。
エミリアは前騎士団長の乱暴な解決方法に異議を唱えたかったが、しかし夫の顔を潰すこともできず、腕の中で俯き唇を噛みしめる。
「新妻殿は騎士団流の解決方法は気に入らぬか?」
エミリアに向かって決闘を決めた本人が問う。
「いいえ……はい、私のために夫が剣を抜くなんて……」
「野蛮だな、確かに。だがこれが騎士団流なのだ。騎士は口の達者でない者が多くてな、口の上手い者が良い目を見ることが往々にしてある、それで遺恨を残さない方法として決闘が主流になった経緯がある。騎士の妻になったのなら、こういったことも理解せねばなるまいよ」
前騎士団長が優しくエミリアを諭す。小娘も同然の若い女の否定的な言葉だったが、馴染みのない流儀に戸惑っているだけなのだと寛容な態度を示す。
騎士の妻としての経験年数だけは長いエミリアだったが、騎士達の交流の場に出たことは無く、荒事には不慣れだった。
「大丈夫、こういうことは何度も経験している。泣かせる真似はしない」
エミリアにだけ聞こえる声でネイサンが優しく囁く。両腕に少しだけ力を込めたのは、まるで守るかのようだった。
「ネイサン……」
「大丈夫ですよ」
妻を見つめる瞳はどこまでも優しい。
「では明日、正午、騎士団の闘技場で決闘を執り行う。立ち合いは儂が務める。それぞれの付き添いは上官に務めさせる、以上だ」
今日、明日の話は、人員の都合をつけなくてはいけないが、既に退役したとはいえ多大な影響力のある前騎士団長には造作も無く、その場で決闘の予定まで決まった。
夫であるネイサンは相変わらず、友人たちとの会話を続けている。体裁を気にせず素のままでいられる社交はとても楽しそうだった。
時間を忘れて語らう夫に、エミリアは口元を綻ばせる。
そんな時だった、もう二度と会わないと思い込んでいた人物と再会したのは。
「なぜお前がここにいる!」
言葉と同時に椅子を蹴られて転がり落ちる。
エミリアの悲鳴は小さかったものの、周囲の視線を集めるには十分だったが、当事者二人はそのことに気付かなかった。
「何故と言われましても、招かれたからここにいるのです」
ゆっくりと床から立ち上がりこたえる。突然の暴力に恐怖を感じたが、それよりも騎士の妻としての矜持が勝ったのだ。
「夫は騎士ですもの、招かれてもおかしくはありません。それよりもカーティス様は気に入らない者は誰であれ、暴力を振るわれる方でしたのね」
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エミリアとブレットとの婚姻は何年も前に終わっている。既に赤の他人であり、言い訳のできる状況ではない。たとえ本人は軽く椅子を蹴っただけで、倒れることを予期していなかったとしてもだ。
「エミリアッ!!」
近くで談笑していたネイサンは、暴力を受けた愛妻に駆け寄る。到着した頃には既に自力で立ち上がっていたが、それでも慈しむように怪我の有無を確認する。
「どういうことか説明してもらおう、カーティス」
今まで聞いたことのないような夫の地響きのような低い声に、腕の中でビクリとする。
「こちらのご婦人が椅子から立ち上がろうとして、転ばれただけです」
「蹴り倒したように見えたのは気のせいだと……?」
「そうです。たまたま、そのように見える場面だけで――」
「ほう、貴様は妻がまともに椅子から立ち上がれないほど作法ができていないと、そう妻を侮辱するのだな。その上で自分には不自然で不作法なまでに、足を大きく振り上げて歩く癖があると」
「そういう訳では……いやその通りです」
「あくまで我が妻がまともな作法が身についていないと、そう侮辱されるのだな?」
繰り返し問う。ネイサンは怒り心頭だった。
夜会で騒動を起こすことは、主催者である前騎士団長の顔に泥を塗ることだと理解していたが、それでも許すことはできなかった。
「どうした、騒々しい」
人垣を割って入ったのは、申し訳ないと思っていた主催者本人だった。
「申し訳ありません、妻が謂われのない暴力と侮辱を受けて許せませんでした」
ネイサンが素直に頭を下げて謝罪するのに続いてブレットも謝罪するが、暴力と侮辱に対しては否定した。
「ご婦人に暴力というのは重大な問題だな、騎士の風上にもおけん。しかし双方の言い分は真反対の主張で、片方はそんな事実は無いと言う。であれば決闘によって自分の正しさを証明するしかあるまい」
なんて暴力的な……!
こんなに証人が多いのだから、ネイサンの主張が事実であることは簡単に判明するというのに……。
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「新妻殿は騎士団流の解決方法は気に入らぬか?」
エミリアに向かって決闘を決めた本人が問う。
「いいえ……はい、私のために夫が剣を抜くなんて……」
「野蛮だな、確かに。だがこれが騎士団流なのだ。騎士は口の達者でない者が多くてな、口の上手い者が良い目を見ることが往々にしてある、それで遺恨を残さない方法として決闘が主流になった経緯がある。騎士の妻になったのなら、こういったことも理解せねばなるまいよ」
前騎士団長が優しくエミリアを諭す。小娘も同然の若い女の否定的な言葉だったが、馴染みのない流儀に戸惑っているだけなのだと寛容な態度を示す。
騎士の妻としての経験年数だけは長いエミリアだったが、騎士達の交流の場に出たことは無く、荒事には不慣れだった。
「大丈夫、こういうことは何度も経験している。泣かせる真似はしない」
エミリアにだけ聞こえる声でネイサンが優しく囁く。両腕に少しだけ力を込めたのは、まるで守るかのようだった。
「ネイサン……」
「大丈夫ですよ」
妻を見つめる瞳はどこまでも優しい。
「では明日、正午、騎士団の闘技場で決闘を執り行う。立ち合いは儂が務める。それぞれの付き添いは上官に務めさせる、以上だ」
今日、明日の話は、人員の都合をつけなくてはいけないが、既に退役したとはいえ多大な影響力のある前騎士団長には造作も無く、その場で決闘の予定まで決まった。
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