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「侑利に連絡しなくて良いの?」
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* 慶side *
あれから……何となく……少し気まずい感じがして……いつもはくっ付いて寝るけど、少しだけ距離を空けて寝た。
いつもベッドに入ると、どちらからともなくしょうもない話をして笑ったりするけど、それも無くて……
別にケンカした訳じゃないけど……何となく……
俺も……突然の真由さんの登場に、だいぶ動揺したし……最後には「会わないで」とか言っちゃって……
侑利くんはほんとに優しいから………俺にそう言われて、きっとすごく困ったと思う。
自分にしか分からない、その人への感情とか思い出とかは誰だってあるもので……侑利くんだって、真由さんに対しての懐かしい気持ちとか…そういうのがある訳で……
それを……「会わないで」なんて言われても……
大事にしてた思い出に、無理矢理蓋をしろと言われてるようなもんだし……
侑利くんへの独占欲だけで、そんな事を言ってしまった心の狭さに自分でもびっくりしてる。
だからって…今更撤回は出来ない。
「やっぱり会って良いよ」とは……心の狭い俺は、絶対に思えないんだ……
呆れてるかな………面倒くさいとか思われてるかも知れない……
優しいから、絶対そんな事、思ってても俺には言わないだろうけど……
何かそんな色んな事がモヤモヤしちゃって……起きてからも微妙な空気を引き摺ってる。
侑利くんは普通にしてくれてるのに……俺が…何か……意識しちゃって……不自然。
真由さんの存在が……影響ありすぎ……。
今日は侑利くんは仕事だから、買い出し兼て昼ご飯でも食べに行くのかな~とか思ってたけど……何となく…落ち込んじゃってて……
仕事探しするからハローワーク行く、って言って、俺だけ出て来てしまった。
もちろん、ほんとにハローワークに来てる訳だけど……
急に別行動を言い出した俺に、侑利くんは困った顔をしながら「気をつけてな」って言ってくれた。
……俺だけを見てくれるし……優しくて、カッコ良くて、……ほんとに…大好きだけど………
真由さんと喋ってるの見た時に……やっぱり……女の人って良いな…って思った。
真由さんと侑利くんは……すごく「お似合い」で……俺には無い雰囲気を持ってるし……すごく小さくてキレイで…こういう人をみんな可愛いって思うんだろうな、とか思ったし……
とにかく………侑利くんの気持ちが……グラつくんじゃないかって、そればっかりしか考えられなくなった。
「はぁ…」
バイト情報を貼り出してる掲示板の前で、小さく溜息が出た。
掲示板のど真ん前を陣取ってるけど……求人内容なんて全く頭に入って来ない。
早く仕事を見付けたい気持ちはあるけど……正直、今日は、自分が作ってしまった微妙な空気に耐えられず、ハローワークを口実に逃げて来ただけだ…。
侑利くん……どう思ってるかな……心配してるかな……
買い出し…行かないと何もないって言ってた…………
一緒に……行きたいな……
いつまでもバカみたいに気にしてるのは俺の方で……侑利くんはちゃんと俺の待ってる家に帰って来て、ちゃんと抱きしめてくれた…。
なのに、何が不満なんだよーっ。
………こんなので、気まずくなるの…無意味だよね……
侑利くんと真由さんは、もう終わってるんだし……今、侑利くんと付き合ってるのは俺で、侑利くんは俺の事、独占したいくらい好きだっていつも言ってくれるし……
よしっ、
帰って……困らせてゴメンって謝ろう。
やっぱり、侑利くんと一緒に居たい。
買い出しだって行きたいしっ。
そう思えて来たら、何か居ても立っても居られなくて……俺は建物を飛び出し自転車に跨ると勢いよく漕ぎ出した。
~~~~~~~~~
結構早く帰って来れたから、これなら買い出しもゆっくり行けるな…とか思いながら、マンションの敷地に入ろうとしたけど……
俺は……思わず両方のブレーキを握りしめた。
キキ、とタイヤが小さく軋んで自転車が止まる。
頭で考えるより先に体が動いて……隠れるようにマンションに入る手前の壁際に自転車を立てかけた。
その角度から見えた駐車場に………侑利くんが居たから…。
1人じゃなくて………その前に…
真由さんが居る。
行き成り、バクバクと心臓が大きく打ち始めて……脈打ってる音が耳に大きく聞こえ出す。
………また……会いに来たの?
壁際に沿って…ゆっくり歩いて……2人が見えるギリギリのところから、覗くように見る。
こっちに斜めに背中を向けてる侑利くんと、その前に向かい合う形で真由さんが居た。
遠くて…話し声までは聞こえない。
でも、2人である事は間違いなくて……
何があって駐車場で会ってるのかは分からないけど……
分かるのは……真由さんが、やっぱり泣いてるって事…。
隠れて見てる事に…ふっと虚しくなる。
何やってんだ、俺……
真由さんは……侑利くんの事……好きなのかな…
久しぶりに会って……また、気持ちが戻っちゃったのかも……
侑利くんだって……すごく好きだった真由さんが自分を頼って来てくれたら……やっぱり……女の真由さんの方が良いって思うかも知れない…。
何の話してるんだろ……
侑利くんの表情は見えないけど……
今、侑利くんの気持ちは目の前の真由さんに注がれてて……何だか……俺の知らない侑利くんが居るみたいで、苦しくなる…。
もう……盗み見なんて止めようかな……
虚しさに圧し潰されそうになって、そう思った時……
不意に……侑利くんが手を伸ばし……真由さんの腕を掴み……そのまま自分の方へ引き寄せて………
抱きしめた。
「………え、…」
心臓が……止まったかと思った。
真由さんの手が…侑利くんの背中に回されて……同じ様に、侑利くんを抱きしめる。
「……嘘だ……」
もう……見れなかった。
もう、見たくなかった…。
急いで自転車に駆け寄り、くるりと向きを変えてソレに跨る。
気が付いたら……今来た方へ戻ってた。
マンションから……2人から…夢中で逃げた。
「……嘘だ……嘘だ……」
だけど…嘘じゃないって事は……よく分かってる……
だって、この目でしっかり見た…。
一心不乱に漕いだ。
あまり行先は考えず……ひたすら走った。
真由さんが抱き付いたんだったら……ここまでショックじゃなかったのに……
侑利くんの方から、引き寄せて抱きしめたから………
……もう……辛くて苦しくてどうしようもない。
だいぶ走って………どこだか分からない所に来た。
建物は、見た事あるものが幾つか見えてるから……この辺りかな…と予想は出来るけど……どこをどう走ってここまで来たのかは、正直分からない。
気持ちも、足も、疲れて……歩道にあったベンチに座った。
待ち合わせしてる人たちが沢山居る、オシャレな歩道の広場。
大きな時計が午後3時をさしてる。
侑利くん…ハローワーク行ったにしては長いな…とか思ってるかな……
……真由さんと居るから……俺の事なんか気にしてないか……
真由さんに気持ちが戻って……俺に、どうやって別れ話するか考えてたりして………
ははは………
笑えない…。
………どうしよう………
こんなの……帰れないじゃん………
~~~~~~~~
ボーッとしてた。
ただただ座ってた。
どれぐらい時間が経ったのか分からず、広場の時計を見ると……さっきは3時だったのに、もう4時になろうとしてる。
1時間も……ここに居たんだ……
流石に………遅いって思ってるかな……
ずっと侑利くんと真由さんの事を考えてて……周りの声とか街の煩さとか…全く聞こえてなかった。
ふと、取り出した携帯には、メッセージが数件と着信が1件……
どれも、侑利くんだ…。
『まだ帰んねぇの?』
『買い出し行かねぇの?』
『慶、何かあった?』
『おい、何してる?』
……返事してなかったから、この後、電話も来てる。
『お前、何やってんだよ』
……これが入ったのは……今さっき…。
読んだのバレちゃった……
どうしよう……
vvvvv…vvvvv…vvvvv…vvvvv…vvvvv…
俺が読んだって分かった瞬間、電話がかかって来たけど………心の準備が全く出来てない…。
怖くて……出られないよ……
暫く鳴って………切れた。
その後、直ぐに入ったメッセージには……
『シカトかよ、もう良いわ』
………怒らせちゃった……
……ケンカしたいんじゃないのに………
だけど………真由さんを引き寄せて抱きしめた侑利くんを見てしまったから………話す勇気が出ない……
ほっといても涙は沢山出て来るのに…………侑利くんに向き合う勇気は出ない……
見るんじゃ無かった……あんなの……
急いで帰るんじゃ無かった……
「……っ、……ぅ、……ふ、…っ、うぅ、」
行き交う人にバレない様に、顔を隠す様に俯く。
もう……動ける気がしない……
「…慶ちゃん?」
え……
突然、近くで呼ばれた名前に、バッと顔を上げると……
「やっぱりっ、慶ちゃんっ、どしたのっ、何泣いてんのっ」
奏太さんが居た…。
……その、驚いた……そして、心配そうな顔を見たら……何だか、一気に張り詰めてた糸が切れたみたいに滝の様に涙が溢れて来た。
「慶ちゃん、どしたの、何があったの?こんなとこで…1人?」
声は出せない。
泣くしか出来ない。
奏太さんはキョロキョロと周りを見渡して、俺が1人かどうか確認してる。
「とにかく……おいで」
奏太さんは俺を立たせると、俺の自転車を押しながら付いて来るように言った。
俺は……言われた通りに付いて行く。
多分、すれ違う人達に見られてるけど……だからって涙を止める事は俺には不可能で……ただ、奏太さんを追って歩いた。
……その先には、路肩に車を停めて出て来てくれてる天馬さんが居て……トランクを開けて自転車が積み込めるようにしてくれてた。
「車で走ってたんだ。そしたら、慶ちゃんに似た人が居るな~と思ってさ~、」
天馬さんに自転車を渡しながら、奏太さんが明るい声で言う。
きっと、気を遣ってくれてるんだ……。
「とにかく、乗りな」
自転車を後ろに積み込んでくれた天馬さんが、俺に向かって言う。
俺はそれにも答えられず泣いたままで……奏太さんに押されるようにして、車に乗った。
「家、送ろうか?」
運転席から俺を振り返って言った天馬さんに、急いで何度も首を振る。
…そんな俺を見て、2人は顔を見合わせてて……きっと侑利くんと何かあったってもうバレてんだろうなって思った…。
「じゃあ、奏太んち向かうけど、良い?」
今度は、うん、と頷く。
「はい、慶ちゃん」
奏太さんは俺の隣に乗ってくれてて、鞄からハンドタオルを出して俺に渡してくれた。
受け取ったソレで、何度も涙を拭く。
早く…止めたいのに………出来ないよ……
「侑利に連絡しなくて良いの?」
侑利、と聞いただけで……ボタボタと涙が落ちる。
……カッコ悪いよ…こんなの……
「慶ちゃん、ちょっと落ち着こうね」
奏太さんが背中を撫でてくれる。
いつも優しくて……ほんとに大好き……
さっきから……鞄の中の携帯が、メッセージやら電話やらを知らせてるけど………どれも確認して居ない……
もう、きっと完全に……侑利くんを怒らせてる事は間違いないだろうな……
「電話……久我さんじゃないの?」
携帯が鳴ってる音に気付いた奏太さんが、遠慮がちに聞いて来た。
「出なくて良いの?」
……うん、と頷いて俯いてしまった俺の背中を、奏太さんはまた優しく撫でてくれた。
あれから……何となく……少し気まずい感じがして……いつもはくっ付いて寝るけど、少しだけ距離を空けて寝た。
いつもベッドに入ると、どちらからともなくしょうもない話をして笑ったりするけど、それも無くて……
別にケンカした訳じゃないけど……何となく……
俺も……突然の真由さんの登場に、だいぶ動揺したし……最後には「会わないで」とか言っちゃって……
侑利くんはほんとに優しいから………俺にそう言われて、きっとすごく困ったと思う。
自分にしか分からない、その人への感情とか思い出とかは誰だってあるもので……侑利くんだって、真由さんに対しての懐かしい気持ちとか…そういうのがある訳で……
それを……「会わないで」なんて言われても……
大事にしてた思い出に、無理矢理蓋をしろと言われてるようなもんだし……
侑利くんへの独占欲だけで、そんな事を言ってしまった心の狭さに自分でもびっくりしてる。
だからって…今更撤回は出来ない。
「やっぱり会って良いよ」とは……心の狭い俺は、絶対に思えないんだ……
呆れてるかな………面倒くさいとか思われてるかも知れない……
優しいから、絶対そんな事、思ってても俺には言わないだろうけど……
何かそんな色んな事がモヤモヤしちゃって……起きてからも微妙な空気を引き摺ってる。
侑利くんは普通にしてくれてるのに……俺が…何か……意識しちゃって……不自然。
真由さんの存在が……影響ありすぎ……。
今日は侑利くんは仕事だから、買い出し兼て昼ご飯でも食べに行くのかな~とか思ってたけど……何となく…落ち込んじゃってて……
仕事探しするからハローワーク行く、って言って、俺だけ出て来てしまった。
もちろん、ほんとにハローワークに来てる訳だけど……
急に別行動を言い出した俺に、侑利くんは困った顔をしながら「気をつけてな」って言ってくれた。
……俺だけを見てくれるし……優しくて、カッコ良くて、……ほんとに…大好きだけど………
真由さんと喋ってるの見た時に……やっぱり……女の人って良いな…って思った。
真由さんと侑利くんは……すごく「お似合い」で……俺には無い雰囲気を持ってるし……すごく小さくてキレイで…こういう人をみんな可愛いって思うんだろうな、とか思ったし……
とにかく………侑利くんの気持ちが……グラつくんじゃないかって、そればっかりしか考えられなくなった。
「はぁ…」
バイト情報を貼り出してる掲示板の前で、小さく溜息が出た。
掲示板のど真ん前を陣取ってるけど……求人内容なんて全く頭に入って来ない。
早く仕事を見付けたい気持ちはあるけど……正直、今日は、自分が作ってしまった微妙な空気に耐えられず、ハローワークを口実に逃げて来ただけだ…。
侑利くん……どう思ってるかな……心配してるかな……
買い出し…行かないと何もないって言ってた…………
一緒に……行きたいな……
いつまでもバカみたいに気にしてるのは俺の方で……侑利くんはちゃんと俺の待ってる家に帰って来て、ちゃんと抱きしめてくれた…。
なのに、何が不満なんだよーっ。
………こんなので、気まずくなるの…無意味だよね……
侑利くんと真由さんは、もう終わってるんだし……今、侑利くんと付き合ってるのは俺で、侑利くんは俺の事、独占したいくらい好きだっていつも言ってくれるし……
よしっ、
帰って……困らせてゴメンって謝ろう。
やっぱり、侑利くんと一緒に居たい。
買い出しだって行きたいしっ。
そう思えて来たら、何か居ても立っても居られなくて……俺は建物を飛び出し自転車に跨ると勢いよく漕ぎ出した。
~~~~~~~~~
結構早く帰って来れたから、これなら買い出しもゆっくり行けるな…とか思いながら、マンションの敷地に入ろうとしたけど……
俺は……思わず両方のブレーキを握りしめた。
キキ、とタイヤが小さく軋んで自転車が止まる。
頭で考えるより先に体が動いて……隠れるようにマンションに入る手前の壁際に自転車を立てかけた。
その角度から見えた駐車場に………侑利くんが居たから…。
1人じゃなくて………その前に…
真由さんが居る。
行き成り、バクバクと心臓が大きく打ち始めて……脈打ってる音が耳に大きく聞こえ出す。
………また……会いに来たの?
壁際に沿って…ゆっくり歩いて……2人が見えるギリギリのところから、覗くように見る。
こっちに斜めに背中を向けてる侑利くんと、その前に向かい合う形で真由さんが居た。
遠くて…話し声までは聞こえない。
でも、2人である事は間違いなくて……
何があって駐車場で会ってるのかは分からないけど……
分かるのは……真由さんが、やっぱり泣いてるって事…。
隠れて見てる事に…ふっと虚しくなる。
何やってんだ、俺……
真由さんは……侑利くんの事……好きなのかな…
久しぶりに会って……また、気持ちが戻っちゃったのかも……
侑利くんだって……すごく好きだった真由さんが自分を頼って来てくれたら……やっぱり……女の真由さんの方が良いって思うかも知れない…。
何の話してるんだろ……
侑利くんの表情は見えないけど……
今、侑利くんの気持ちは目の前の真由さんに注がれてて……何だか……俺の知らない侑利くんが居るみたいで、苦しくなる…。
もう……盗み見なんて止めようかな……
虚しさに圧し潰されそうになって、そう思った時……
不意に……侑利くんが手を伸ばし……真由さんの腕を掴み……そのまま自分の方へ引き寄せて………
抱きしめた。
「………え、…」
心臓が……止まったかと思った。
真由さんの手が…侑利くんの背中に回されて……同じ様に、侑利くんを抱きしめる。
「……嘘だ……」
もう……見れなかった。
もう、見たくなかった…。
急いで自転車に駆け寄り、くるりと向きを変えてソレに跨る。
気が付いたら……今来た方へ戻ってた。
マンションから……2人から…夢中で逃げた。
「……嘘だ……嘘だ……」
だけど…嘘じゃないって事は……よく分かってる……
だって、この目でしっかり見た…。
一心不乱に漕いだ。
あまり行先は考えず……ひたすら走った。
真由さんが抱き付いたんだったら……ここまでショックじゃなかったのに……
侑利くんの方から、引き寄せて抱きしめたから………
……もう……辛くて苦しくてどうしようもない。
だいぶ走って………どこだか分からない所に来た。
建物は、見た事あるものが幾つか見えてるから……この辺りかな…と予想は出来るけど……どこをどう走ってここまで来たのかは、正直分からない。
気持ちも、足も、疲れて……歩道にあったベンチに座った。
待ち合わせしてる人たちが沢山居る、オシャレな歩道の広場。
大きな時計が午後3時をさしてる。
侑利くん…ハローワーク行ったにしては長いな…とか思ってるかな……
……真由さんと居るから……俺の事なんか気にしてないか……
真由さんに気持ちが戻って……俺に、どうやって別れ話するか考えてたりして………
ははは………
笑えない…。
………どうしよう………
こんなの……帰れないじゃん………
~~~~~~~~
ボーッとしてた。
ただただ座ってた。
どれぐらい時間が経ったのか分からず、広場の時計を見ると……さっきは3時だったのに、もう4時になろうとしてる。
1時間も……ここに居たんだ……
流石に………遅いって思ってるかな……
ずっと侑利くんと真由さんの事を考えてて……周りの声とか街の煩さとか…全く聞こえてなかった。
ふと、取り出した携帯には、メッセージが数件と着信が1件……
どれも、侑利くんだ…。
『まだ帰んねぇの?』
『買い出し行かねぇの?』
『慶、何かあった?』
『おい、何してる?』
……返事してなかったから、この後、電話も来てる。
『お前、何やってんだよ』
……これが入ったのは……今さっき…。
読んだのバレちゃった……
どうしよう……
vvvvv…vvvvv…vvvvv…vvvvv…vvvvv…
俺が読んだって分かった瞬間、電話がかかって来たけど………心の準備が全く出来てない…。
怖くて……出られないよ……
暫く鳴って………切れた。
その後、直ぐに入ったメッセージには……
『シカトかよ、もう良いわ』
………怒らせちゃった……
……ケンカしたいんじゃないのに………
だけど………真由さんを引き寄せて抱きしめた侑利くんを見てしまったから………話す勇気が出ない……
ほっといても涙は沢山出て来るのに…………侑利くんに向き合う勇気は出ない……
見るんじゃ無かった……あんなの……
急いで帰るんじゃ無かった……
「……っ、……ぅ、……ふ、…っ、うぅ、」
行き交う人にバレない様に、顔を隠す様に俯く。
もう……動ける気がしない……
「…慶ちゃん?」
え……
突然、近くで呼ばれた名前に、バッと顔を上げると……
「やっぱりっ、慶ちゃんっ、どしたのっ、何泣いてんのっ」
奏太さんが居た…。
……その、驚いた……そして、心配そうな顔を見たら……何だか、一気に張り詰めてた糸が切れたみたいに滝の様に涙が溢れて来た。
「慶ちゃん、どしたの、何があったの?こんなとこで…1人?」
声は出せない。
泣くしか出来ない。
奏太さんはキョロキョロと周りを見渡して、俺が1人かどうか確認してる。
「とにかく……おいで」
奏太さんは俺を立たせると、俺の自転車を押しながら付いて来るように言った。
俺は……言われた通りに付いて行く。
多分、すれ違う人達に見られてるけど……だからって涙を止める事は俺には不可能で……ただ、奏太さんを追って歩いた。
……その先には、路肩に車を停めて出て来てくれてる天馬さんが居て……トランクを開けて自転車が積み込めるようにしてくれてた。
「車で走ってたんだ。そしたら、慶ちゃんに似た人が居るな~と思ってさ~、」
天馬さんに自転車を渡しながら、奏太さんが明るい声で言う。
きっと、気を遣ってくれてるんだ……。
「とにかく、乗りな」
自転車を後ろに積み込んでくれた天馬さんが、俺に向かって言う。
俺はそれにも答えられず泣いたままで……奏太さんに押されるようにして、車に乗った。
「家、送ろうか?」
運転席から俺を振り返って言った天馬さんに、急いで何度も首を振る。
…そんな俺を見て、2人は顔を見合わせてて……きっと侑利くんと何かあったってもうバレてんだろうなって思った…。
「じゃあ、奏太んち向かうけど、良い?」
今度は、うん、と頷く。
「はい、慶ちゃん」
奏太さんは俺の隣に乗ってくれてて、鞄からハンドタオルを出して俺に渡してくれた。
受け取ったソレで、何度も涙を拭く。
早く…止めたいのに………出来ないよ……
「侑利に連絡しなくて良いの?」
侑利、と聞いただけで……ボタボタと涙が落ちる。
……カッコ悪いよ…こんなの……
「慶ちゃん、ちょっと落ち着こうね」
奏太さんが背中を撫でてくれる。
いつも優しくて……ほんとに大好き……
さっきから……鞄の中の携帯が、メッセージやら電話やらを知らせてるけど………どれも確認して居ない……
もう、きっと完全に……侑利くんを怒らせてる事は間違いないだろうな……
「電話……久我さんじゃないの?」
携帯が鳴ってる音に気付いた奏太さんが、遠慮がちに聞いて来た。
「出なくて良いの?」
……うん、と頷いて俯いてしまった俺の背中を、奏太さんはまた優しく撫でてくれた。
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