laugh~笑っていて欲しいんだ、ずっと~

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「……帰って…来るよね…」

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* 侑利side *

さっきから、慶が困ってる。

慶がBIRTHに到着したのは20分程前。
普通に店の入口から入って来たんだけど、俺はその時偶然入口の近くに居て、ドアからひょっこり顔を出した慶を直ぐに見付けた。

慶はまだ俺に気付かずに店内をキョロキョロ見渡して……多分、俺を探してた。

「慶」
「あっ、侑利くんっ」

後ろから呼ぶと、嬉しそうな顔して振り返る。

「似合ってんじゃん」
「ほんと?」

ほんとに似合ってる。
前回より少し短く仕上げられたスタイルは、それはそれでやっぱり似合ってて、ほんとにそのままどうぞ雑誌に載って下さいって言いたくなるような、レベルの高さ。

「マジで可愛い」

店内の音楽の音量に隠れるように耳元でそう言ってやると、嬉しそうに少し照れながら「えへへ」と笑う。

「おおぉ~~~っ、慶ちゃんっ、可愛いじゃん」

どこからともなく天馬もやって来た。
俺以外から可愛いと言われて明らかに困ってる。

「慶ちゃん、こんばんは」

巴流まで合流。

「あ、こんばんは」
「慶ちゃん、髪切った?」
「はいっ」
「切る度に美人度が増すね」

ほら、また困ってる。
ほんと、いつまで経ってもネガティブだよな、お前。


慶をカウンターに連れて行くと、今度は、司くんが慶を構い出す。
桐ケ谷さんは今日は休みだけど、もし居たら思いっきり慶の事を弄り倒すんだろうな……

「慶ちゃん、髪切ったんだ。何か美人っていうか可愛い方が勝ってんな」
「俺もそう思う」

全くの同意見だったから、サラッと言ってみたけど……司くんには突っ込まれた。
当の本人は聞いてねぇし。

そして、これも予想通り、今まさに厨房から出て来ようとしてる奴……

「慶ちゃ~ん」

手を振りながら健吾が登場した。
慶もつられて緩く振り返す。

「ちょっと、マジかぁ~~っ」
「何だよ」

天馬が一応聞く。

「どんだけ可愛くなったら気が済むのっ」

出たぞ。
健吾は慶の事、好きだからなぁ~……

「可愛いから、何かご馳走しちゃうよ~」

…甘すぎだろ。

「あ…えっと、食べて来ました」
「え?そうなの?……じゃあ、デザートは?パフェとか」
「…パフェ……」

慶が明らかにキラキラした目で俺を見て来る。

「健吾、パフェだわ」
「あはは、オッケ。チョコ系、イチゴ系、ヨーグルト系、どれが良い?」
「え………え、と……う~~ん……じゃあ……えっと………チョコで」
「かわいっ」

健吾には、どれもこれもストライクなんだな、きっと。

とにかく此処に居たら、全員が思いっきり絡んで来るから慶も退屈しないだろし、俺がその場に居なくても誰かが見てくれてるから何となく安心出来る。

今日だって、ちょっと髪を切って来ただけで、こんだけ盛り上がるんだからな…。



「はい、俺の奢り」

慶の前にチョコのパフェが置かれたけど………すげぇ事になってる。
何から何まで乗ってんじゃん!って言うぐらいのスペシャル感…。

ざっと見たところ、フルーツは5種類乗ってるし、更にはクッキーとかアイスとか小っちゃいシュークリームとかもチョコとクリームの上に鎮座してて、底にはコーンフレークも詰まってる……もう、オールスター戦みたいになってて、すげぇインパクト…。

正直俺は引いたけど、慶は「わぁ~」とか言いながら、嬉しそうな顔でパフェをあちこちから見てる。

そして、そんな慶を満足そうに健吾が見てる。

「ちょっとやり過ぎた感あるけどね、サービスだから大丈夫でしょ?食べ切れなかったら侑利と分けな」

慶は小さく手を合わせて「いただきます」を言うと、最上部に乗っかってるクッキーから手をつける。

好きだもんな、そういうの。
コンビニでもよくスイーツコーナーを見て「決められないよ~」とか言って困ってる。

最初は誰に会っても緊張しかしなかったけど、随分と慣れて来た。
ここのスタッフが全員ほんとに良い奴ってのが一番デカい。

そうじゃ無かったら、俺も連れては来ない。
こんな風に、自分達の輪の中に慶を置いてくれる事に、ほんとに感謝してる。

こういう職種って割とギスギスしてて、ナンバー1争いとかでスタッフ同士が足引っ張って…ってよく聞くから、ほんとに職場には恵まれたな、って心底思う。

大人になってから、こんなに気が合う友達が何人も出来るとも思って無かったしな…。
学生時代の友達とは全く違う存在。

「侑利くん、食べる?」

慶が可愛い顔して聞いて来る。

「美味い?」
「うん」
「じゃあ、それちょうだい」

イチゴのとこを指差すと…

「え~~~っ……イチゴだし……」

何だよ…ダメなのかよ…

「バナナは?」
「却下かよ」
「あはは、バナナも美味しいと思うよ?チョコバナナ」

そう言って、イチゴを確保してる辺りも何だかツボだわ。




~~~~~~~~

「でね、瀬戸さんと三上さんが、フリーなら月1でやってるカット割引する日の受付とレジのバイトしませんか、って」

リベルテでバイトの話になり、辞めた事を言うとそんな提案が来たらしい。

まぁ……リベルテのあの2人が慶を気に入っている事は、俺だってバカじゃないんだから気付く。
でも……工藤とは違って……何て言うか……ファンみたいな感じなんだろう…。

単発でそういうバイトに入るのは別に構わないけど、店に立って来た人とやたら絡むのはちょっとな……もう、これ以上ファンを増やしてくれるな、っていう希望もあって…。

「勝手に決めんなよ…相談、」
「分かってる~」

俺を遮って、フワフワした声で言う。
やっぱ、ナメられてんな……とか思いながら、到着したマンションの駐車場に車を停める。





「あ~、明日は買い出し行かねぇと多分何もねぇな」
「そうだね~」

…などと、他愛もない話を時間を考慮した小声で話しながら、5階で止まったエレベーターから降りる。


……が、



「っ、え……」



俺は思わず立ち止まる。

普通に少し後ろを来てた慶が、突然立ち止まった俺にぶつかって「も~、何で止まるのっ」とか文句言ってるけど………



俺の部屋のドアの前に………真由がしゃがみ込んでたら、立ち止まるしかない…。



俺に気付いて真由は急いで立ち上がった。

その顔は………やっぱり泣いている。


「真由……」


何時だと思ってんだ。

俺の肩越しに真由を捉えただろう慶をチラッと見ると、既にその顔は不安で一杯で……



「…侑ちゃん………ごめんね……」


涙声で真由が小さく言う。


……この状況は……流石に俺もかなり動揺してるけど………

とにかく、部屋の前まで行く。


慶は無言で俺の後ろに付いて来たけど……きっと、頭ん中真っ白なんだろうな…。


「何してんの、すげぇ時間だけど」

とにかく……そこから聞いて行く。

「…うん……ごめんね………っ、ふ……」

謝るばかり。
泣いてて……どうしようもない。

「ちょっと待てる?」
「……うん」

真由をそこに待たせて玄関の鍵を開け、慶を中へ入れる。

「待ってて」
「…うん」

もう一度そう言って、ドアを閉めた。




………無言…。


「……元カノ」


慶の目が少し見開かれる。
言いたい事は分かるよ。


「……え……あの……真面目に付き合ってた…?」


やっぱり…そうなるよな。
ここで違うと言ったって……白々しいだけだ……。


「あぁ…うん、そう」


………慶は、さっきまでのフワフワした雰囲気は完全に消えて……今はもう、不安に揺らぐ視線と既に零れ落ちそうになってる涙……


「慶、ごめんな……ちょっと…出て来る」

「…え…、」

辛そうな顔…。
こんな顔、させたい訳じゃない…。

「話……聞いたら、ちゃんと帰す」

もう一度、「ごめん」と言って、ドアに手を掛ける。

「侑利くん…」

慶に呼び止められて…振り返ると…


「……帰って…来るよね…」


不安一杯の顔でそう言った。
ドアから手を離し、慶の体を引き寄せて抱きしめる。

「当たり前だ」

そう言って、軽くキスをした。
こんな事で、安心させられる事はないって思うけど……行き成り降って来た不安を少しでも無くす術として、それぐらいしか浮かんで来なかった。

要するに、俺も相当焦ってる。


ドアを閉めながら、隙間から見た慶の目から涙の滴が零れ落ちた。

後ろ髪を引かれる思いで、ドアを閉める。


ガチャン、と響いた無機質な音が、慶の心に傷を付けたように思えて……苦しかった。



* 慶side *

「あ~、明日は買い出し行かねぇと多分何もねぇな」

わ~い、また食材選んでる侑利くんが見られるな~…とか呑気に考えながら「そうだね~」などと緩い返事をする。

明日は晩ご飯何作って貰おうかな~…とか思いながら歩いてたら、行き成り前で侑利くんが立ち止まったから思わず背中にぶつかった。

「わっ、…も~、何で止まるのっ」

侑利くんの背中を軽く叩いて抗議するけど…………


直ぐに、止まった意味が分かった。



誰か居る………ドアの前に………女の人…。



「真由……」



誰……。

侑利くんが「真由」と言ったその人は……とてもキレイな小柄な人で……


侑利くんの事を「侑ちゃん」と呼んで………そして……



泣いている。



急に早くなった心臓が、煩い…。


こんな時間に……部屋の前でずっと……侑利くんの帰りを待ってるなんて……


ここが侑利くんの部屋だって……知ってるんだ……



侑利くんは俺を先に玄関に入れて、その人に「待ってて」と言った。


待たせて……どうするの?




………無言…。



「……元カノ」


侑利くんがボソッと言った。
だから……家も知ってるんだ……

だから……「侑ちゃん」なんだ……


「……え……あの……真面目に付き合ってた…?」


1人だけ……自分も好きになったって言ってた……一緒に住もうと思ってたくらい好きだった……


「あぁ…うん、そう」


……やっぱり……
あの人なんだ………

真由っていうんだ………


何で……来たの……



「慶、ごめんな……ちょっと…出て来る」

「…え…、」


侑利くんの一言が……頭に一気に響き出す。

一緒に行くの?
真由さんと…?

………俺は……


「話……聞いたら、ちゃんと帰す」


侑利くんも……困惑してる。
…きっと……泣いてる真由さんを……放ってはおけないんだろうな……


だけど………もう、とっくに終わってるのに………


……何で来るの……

侑利くんは、もう一度俺に「ごめん」と言って、ドアに手を掛ける。


「侑利くん…」


思わず、呼び止めた。


「……帰って…来るよね…」


……何だか………もう、帰って来ないんじゃないかって思えて、そう聞いた。

侑利くんはドアから手を離し、俺の体を引き寄せて抱きしめる。


「当たり前だ」


そう言って、軽くキスをしてくれた。


ほんとは行かないで欲しい……

ここで真由さんに、今すぐ帰るように言って……それで終わりにして欲しい……


「行かないで」って言って、引き止めたい……


……でも……侑利くんは……こんな時間に泣きながら頼って来た昔の彼女を……そのまま玄関先で追い返せるような人じゃない。

何時間も待ってたのかも知れない……


侑利くんがドアをゆっくり閉める。
その隙間から心配そうに俺を見る侑利くんを見たら……一気に涙が零れてしまった。


ガチャン、と響いた無機質な音が、俺と侑利くんを遠ざけるような気がして……苦しかった。

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