laugh~笑っていて欲しいんだ、ずっと~

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「ほんとは……会わせんのヤダし」

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*侑利side*

連休なんてすぐに終わるもんで……

特に今回は…親の帰国があったから……何かバタバタして落ち着かないまま、慶の年始休みは終わってしまった。

でも、慶は……どことなく満足そうで……俺の親に受け入れられた事が少なからず自信になってるんだろう…。

いつの間にか母さんと電話番号交換してるし…。

ま、楽しくやってくれるなら良いけどさ。


……で、今日は慶が新年初出勤な訳だけど………
こっちはこっちでスッキリ解決してない問題がある……

今日……あの日以来初めて、慶が工藤と会う。

数日空いて……工藤はどんな心境で居るんだろうか…。

慶の事を諦める、と言った。
だけど、実際に慶を見たら……やっぱりまた気持ちが揺らいだりしないだろうか……


「侑利くん、何考えてる?」

助手席の慶に聞かれた。

BIRTHは元旦から一週間休みってのが恒例。
だから休みの俺が慶を仕事に送ってる。

「…別に…」
「嘘だぁ~」
「何だよ」
「…俺の事、気になってる顔してるよ」

そう言って、自分で恥ずかしくなったのか、へへッと笑う。

「お前の事、気にならない時はねぇけどな」
「も~~~っ、侑利くんっ、可愛いっ」

何だ、それ。
マジでナメられてんな…。

でも、気になってんのは確か。
だってさ、工藤が居るって分かってるとこに、お前を行かせる訳だからさ……俺だって穏やかじゃねぇよ…。


「ほんとは……会わせんのヤダし」

今年も俺の嫉妬は凄まじい。

「付いてって後ろで見ててやろうかってマジで思うわ」

会社の人にしてみたら、お前誰だよって感じだけどな…それ。
……とか考えてたら、不意に助手席から手を伸ばした慶が俺の頭をポンポンと撫でた。

「…何だよ」
「侑利くんの事、もう傷付けない」

分かってるよ。
俺の女々しい嫉妬心がすんげぇ邪魔してるって事はさ……

でも……性格だから仕方ない……
俺だって、お前と付き合って初めて、自分のこんな一面知ったしな…。


「侑利くんが幸せだと、俺も幸せなんだ~」


それは、俺のセリフだ。
全く同じ言葉返してやるよ、お前に。

「お前の事は信じてるよ。ただ、俺の嫉妬が強すぎるだけだ」
「……嫌いじゃないよ?…そんなとこ」

慶はそう言って可笑しそうに笑う。

「これでも、セーブしてる」
「あはは、強すぎ~~」
「俺が本気出したら多分すげぇぞ」
「もぉ~~っ、侑利くん、可愛いっ」
「お前、そればっかじゃねぇか」

お互いしか目に入って無いって、俺にもよく分かってる。
だから、工藤が慶を好きだとしたって……動揺する事は無い…。

それでも、気になって仕方ないんだから……俺の女々しさってどうなってんだ…。




*工藤side*

とうとう……この日が来てしまった。

年末年始の休みが終わり、今日あの日以来初めて羽柴くんに会う。

あの公園で話した日から今日まで………諦めないといけないって思って過ごして来たけど…………


正直……全く諦め切れてない俺が居て……………ほんと…嫌になる…。


会ってないと、気持ちばっかりが溜まってくからかも知れない…。
会社で顔を合わせてた方が、気持ちが落ち着くんじゃないかって……思えるくらい…。

午後4時40分。
いつも、羽柴くんはこれぐらいの時間にやって来る。

しばらく会って無いから………羽柴くんを見たら…自分の気持ちがどうなるのか分からない。

手に入る望みの無い相手だ。

………諦めないと…。


裏で確認したい事があって行ってた帰り、工場に向かう通路の途中で……心の準備も出来てないまま、羽柴くんに会った。

思わず、足が止まる。
羽柴くんも…。


やっぱり………………すごいキレイ。


……少し……沈黙…。


「……あ、あのっ、」

先に声を出したのは羽柴くんだった。

「あ、うん、何?」

久しぶりに聞く声。

「あの……あ、…明けましておめでとうございます…」
「……っふ、はははっ」

何を言われるのかちょっと身構えたけど、予想外の一言で思わず笑ってしまった。

「あ、ごめんごめん、何言うのかってちょっと緊張してたから、つい笑っちゃって」

笑う俺を見て、羽柴くんが一気に困った顔をする。
………可愛いよね、ほんと。

「…良かった。元気に来てくれて」
「え…」
「……会って話はしたけど……やっぱり、俺と会うの嫌じゃないかなぁ、とか思ってたからさ」
「…そんな事ないです」

それはほんとに思ってた。
辞める、って言われても仕方ない事をしたんだし……。

並んで……同じ方向へ通路を歩く。

「彼とは大丈夫?」
「え?」

彼、という言葉に羽柴くんが急いで顔を上げた。

「俺が……ややこしくしちゃったから、その後、問題ないかなぁと思って」
「…大丈夫です…いつも通りです」

いつも通り、か。
上手く行ってる、って言われると思ったから……いつも通り、って言う言葉の選び方が優しい羽柴くんらしいな、って思った。

俺の、勝手な欲目かも知れないけど……。

「そっか、良かった」

……また、少しの沈黙…。
工場までがすごく遠く感じる。


「本音を言うとね…………羽柴くんを忘れるのって想像以上に難しくて、困ってる」


あっさり、さっぱり、忘れられたらどんなに楽かって思う。
こんなにハマってた事に、自分でも驚いてるよ…。


「だけど……もう、羽柴くんにあんな顔して欲しくないからさ…」
「…あんな顔…?」
「うん。……二次会の後で彼が来た時……彼と俺の間でさ……ごめんなさいって言った時の顔………ほんとに、辛そうで…俺、何やってんだろうって思ったんだ」

あの時の顔は……今でも鮮明に覚えてる。
泣きそうに歪んだ、辛そうな……顔…。


「ちゃんとするよ、俺。断言したしね、諦めるって。羽柴くんにも…彼にも」


これは思いっきり強がりだけど、業と明るい声で言った。


「もう、羽柴くんを傷付けたくない」


好きな人の傷付く顔は見たくない。


「何か…ごめんね」
「…え…」
「羽柴くんへの気持ちはさ、去年でケリつけるつもりだったのに……持ち越しちゃってさ…」


……彼の居ない所でこんな事を言って……俺って、ズルいよな……
こんなにしてまで、羽柴くんを繋ぎ止めて置きたいんだ、俺って……


「ちゃんと終わらせるから………これからも…可愛い部下で居て欲しい」


今、羽柴くんに拒絶されたら、立ち直る自信は全く無い。


「女々しいね、俺…はは、ごめんね」
「いえ、そんなこと…」

羽柴くんはそう言って黙ってしまった。
……俺の事……重いって思ってるかも知れない……。

そりゃ、そうだよな……会って、あんな話しといて……まだ、1ミリも諦められて無いんだもんな……


工場の入口まで来た。

「じゃあ、頑張って」
「はい……あの………」
「ん?」

羽柴くんが、小さい声で言った。


「……戻れないですか?………前みたいに……」


…不安そうに聞いて来る………その表情止めてよ……
……今は必死で、気持ちに蓋をしてる最中だからさ…


「……時間はかかると思う……でも……俺も、戻りたいって思ってる」


ヤバい……
何か、泣きそうだ。


「はい」と、困ったように笑う羽柴くんの顔が、儚くてキレイで……手に入らない現実と蓋を押し退けて来ようとする気持ちと……よく分からない感情で……胸の奥が痛い。


「あ、俺、事務所行かないと。羽柴くんも久々の仕事だし、間違いの無いようにっ」

泣きそうな感覚を吹き飛ばしたくて、平静を装って少し早口でそう言うと、羽柴くんは笑顔で頷いて工場に入って行った。


やっぱり………好きだって実感させられる…。


………こんなに無理矢理……好きな気持ちを押し込めた事が無くて……



手放しで好きになれない現実が……辛くて仕方ない。



こんなんで………諦めるなんて出来るんだろうか……。




~~~~~~~~

*侑利side*

10時を少し過ぎて会社から出て来た慶は、小走りに車までやって来て素早く乗り込んで来た。

「走って来たじゃん」
「うんっ」
「何で?」
「え~、だって~……早く会いたかったし」

あー……可愛い。

今すぐ襲ってやりてぇけど、ここではまず無理だしな…。
とりあえず、車を出した。

「今日、アイツと会った?」

気になってたから直ぐに聞いた。
俺の言葉に少し身構えたのが分かる。

「うん」

そりゃ、会うわな…。

「何か言われた?」
「…………うん、」

少し……心拍数が上がる。

「…忘れらんねぇって?」
「…………そんな感じ…」

やっぱり………そう言う話になんだな……。

「でも……時間はかかるかも知れないけど、諦める…って」

……いつまでも慶の事を好きで居られたら、俺だってそのままにはしておけねぇわ。
酒を飲んでたとは言え、ああいう事をする奴だし……

いつまた、慶への気持ちが大きくなるか分からない。
……正直、俺は……それなら、バイトだって変わってくれて構わない。

会い続けて忘れらんなくてまた手を出されたら、黙ってらんねぇし。
それなら、会わないようにするしかねぇじゃん、って…。

慶は、せっかく決まったバイトだし、今までクビが続いた事もあって……きっと、辞めずに頑張ろうって思ってるんだと思う。

俺んちに住んでる生活費の事も考えてるだろうし。

俺は、全く気にしてねぇし、むしろ、工藤と気まずくなってしんどくなるんだったら別のバイトに変われば良いって思ってる。

何も、工藤に気を遣って続ける必要は無い。

「……侑利くん……俺は…普通にしてて良いよね…?」
「あぁ、そうだな、でも……無理だと思ったらすぐ言えよ」
「…うん」

慶が俺の左手をそっと握って来た。
俺もそれに応えて握り返す。

「侑利くんが居てくれたら…安心」
「何、可愛い事言ってんの」
「ほんとにそう思ってる」

赤信号で止まる。
慶の方を見ると……何も言わないけど、きっとキスしたいんだなって顔してる。

握った手を引っ張り距離を少し縮めて、軽く触れるだけのキスをした。

信号が変わって、また走り出す。

「いつまで……こんな感じなのかな…」

不安そうな慶の声。

「……それは……アイツにしか分かんねぇけど……」

工藤の気持ちが落ち着くまで…だよな。
……でも、落ち着くとは限らない。

諦める、と言ったものの……毎日職場で顔を合わすんだ……

「慶……無理なら続ける必要ねぇよ?お前は気にするかも知れねぇけど……それは仕方ないじゃん……」
「………………」

何も言わない。
分かるよ……逃げてるような気がするんだろ?

だけどさ……

「そういう選択肢もあるって事だよ」

また何かあってからじゃ遅い。
次何かあったら、俺は多分、アイツを許す事は出来ないだろうから。


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