laugh~笑っていて欲しいんだ、ずっと~

seaco

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「笑っとけって言ったのに」

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クリスマスイブ前日。

前日だと言うのに、BIRTHは週末ばりに忙しい。
昨年もイブ前日は忙しかった。

クリスマスが待てないのか、近付くにつれてだんだん客足が増えて来る。
当日はどうなるんだ、って思うけど……。

クリスマス前の駆け込み的なコンパも2組入ってて、とにかく人が多い…。

「あーもう、めっちゃ忙しいじゃん」

指名から解放された巴流がやって来た。

「クリスマス効果だな」
「…何がクリスマスだよ」
「いやいや、お前だってランチデートすんだろ?」
「…何で知ってんだよ」
「大和に聞いたし」

俺の答えに盛大に溜息を吐く。

「何だよ、上手く行ってねぇのか?」
「違う違う、逆逆、その逆」
「…上手く行ってんの?」
「行きすぎてるわ」
「ははっ、良かったじゃん」

巴流の肩をバシッと叩く。
割と思いっきり。

「いってぇしっ」
「あはは、何だよ。上手く行ってんのに、何が不服なんだよ」

巴流と大和は、何だかんだで上手く行ってるらしい。
どっちがどう問題はあったけど、とりあえずは巴流が襲われる事はなく今まで来てるようだ。

「何か……最近、段々……大和の視線が怖い」
「何それ」
「俺がフラフラしねぇか、すんごい見てる」
「…ぷっ、」
「おいっ、笑ってんなよっ」

いや、面白いからさ。

「監視されてんの?」
「ちょっと前、あのアイドルからさぁ……また酔っ払って電話かかって来てさぁ…」
「あー…大和に怒られたの?」
「…激怒だよ」

……それでか。
まぁ……大和にしてみたら、穏やかじゃねぇわな。

「じゃあクリスマスで挽回するしかねぇな」
「…あぁ、まぁ」
「良いじゃん、ランチ」

24、25は全員出勤だから、どっか行くなら昼間しかねぇしな。
大和も文句言いつつも、巴流の事すげぇ好きなんだな…。

まぁ、俺的には巴流がバカだから、大和みたいな冷静な奴が面倒みてくれたら安心するけどな。
慶とは違ったタイプの「ほっとけない」系なのかも知れねぇな……巴流は。

「侑利は?」
「何」
「クリスマス」

あー……この前誕生日旅行したし、ケーキ食ったし、クリスマスって言っても特に何も慶と話してないな…。
ランチデートとまでは行かないけど、何となく「クリスマスだし昼飯どっか食べに行く?」みたいな話はしたけど。

「特にねぇよ」
「えっ、嘘だろっ」
「何で」
「クリスマスだぞ」
「分かってるよ」
「いや、分かってねぇよ。お前、まさか普通に過ごそうとしてんじゃねぇだろうなぁ」

……そんな珍しいもん見るみたいな目で見られるような事なのか…

俺的にはクリスマスよりも誕生日の方がよっぽど大事なイベントな訳で、更には、クリスマスよりも年越しの方が盛り上がるじゃん、って思ってる。

クリスマスというイベントを無視してる訳じゃねぇけど……誕生日でだいぶ充実したから、クリスマスは普通で良いかっていう考えもあるんだけど……

これは、慶にしてみたら物足りねぇのか?

「慶ちゃん、楽しみにしてんじゃねぇの?クリスマス」
「別に、そんな言ってねぇけど」
「いやいや……ロマンチックに過ごしたいでしょ、女心としては」

女じゃねぇし。

プレゼントは買ってる。
もう要らないって言われそうだけど、一応。

ずっと気になってた、かなり年季の入った財布を新調した。

年季の入り方から、大事にしてる思い出の財布なのかもと思って聞いてみた事があったけど、慶の返事は「あ~、これ、ずっと前に単発でイベントのバイト入った時に、隣のブースの人が売れ残ったからってくれたんだ~。まさかこんなに長く使うなんてね~」だった。

それなら心置きなく新しい財布に変えれるじゃん、って思ってそうした。
それを、明日にでも渡そうかと思ってたくらいだ。

「……巴流は何すんの」
「まぁ、夜は仕事だしな~、そんなにする事ねぇけど……だからランチをちょっと普段行かねえようなとこにした。何かさ、昼でも個室に通してくれるとこあってさ」
「何それ、リサーチしたの」
「したよっ、俺がっ」
「ははっ、ウケるわ」

まぁ…でも、特別感はあって、そりゃ嬉しいだろうし気分的に盛り上がるんだろうな、そういう事したら。

「でもさ、大和ああ見えて、意外と尽くされんのに弱いとこあってさ」
「そうなの?」
「自分の為に用意された、とか、けっこう好きなんだよ、アイツ」
「へぇ~、意外」
「ま、そこも可愛いんだけどね」
「何だよ、ウゼェわ」

悪い悪い、と笑いながら巴流はカウンターに戻って行った。
……って言うか、俺も何かロマンチックな事した方が良いのか?

でも、もう、今日23日だし……





「久我さんっ」

そんな事を考えてたら、不意に名前を呼ばれた。

「あ、」

そこには、あの日以来初めて会う光が立っていた。
少し後ろには、いつも一緒に来る天馬ファンの純って子じゃなくて……アイツ……え、と、確か……


そうだ……翔真だ。


新堂翔真。


光の少し後ろから俺をジッと見てる。


「久我さんっ、……お久しぶりですっ」

光は、少し照れたような困ったような顔をして言った。

「久しぶり」

久しぶりでもねぇけどな……でも、光がBIRTHに来てた頻度からすれば久しぶりと言って間違いじゃないだろう。

あの、告白を受けてから10日くらい経ってる。


「久我さん、俺…前進しました」
「…そうみたいだな」

翔真はまだずっと俺を見据えてる。

「…前に話した、大学の友達です。……えっと…付き合う事にしました」

えへへ、みたいなのを付け足して、恥ずかしそうに翔真を俺の前に引っ張り出す。
翔真は……前に1人でここへ来て、俺に「光を弄ぶな」と忠告をして帰った経緯があるからか、俺の前に突き出されてもの凄く困惑してる。

そりゃ、そうだよな……あんな事言いに来て、今度は彼氏に昇格してまた俺の前に立ってんだから…。


「初めまして、久我侑利です」


だから……初対面のフリしてやった。
俺って、案外誰にでも優しいんだ。

翔真は、俺の初対面発言に一瞬すげぇ驚いた顔をしたけど、すぐに普通の表情を作り、


「あ、初めまして、新堂翔真です」


と言った。


「どうしても、久我さんに報告したくて」
「あぁ、ありがとう」
「えへへ」

……何か…振った俺と、振られた光と、光を待ってた翔真と…って……俺も複雑な気分だけど、まぁ、光が前進したんならそれで良い。

「少し居て良いですか?」
「もちろん良いよ。何か飲む?」
「あ、今日は翔真が車なんで、両方ともアルコール無しで」

ちょうど空いた近くのテーブルに着く。

「翔真何にする?」
「…んー…じゃあ、これ」

翔真はサラトガクーラーを指差した。

「じゃ、これと、俺はお任せで」
「はい、かしこまりました」

光は、少し嬉しそうな表情で着てる上着を脱いで隣の椅子に置いてる。
2人の前を去る瞬間、光には分からないように翔真が俺に軽く礼をしたから、俺も緩くそれに礼を返す。

まぁ、翔真も複雑なんだろうな、今。

当事者の俺が言うのも何か気が引けるけど、光には早く吹っ切れて欲しいって思ってた。
光は良い奴だと思うし、見た目も中身もかわいらしい奴だけど、俺はほんとに慶の事しか考えられない人間になってしまってるから、これ以上俺を好きだって思ってくれても、それに答える事はこの先もずっと出来ない。

だったら、早く俺なんか止めて光を大事にしてくれる人と出会って欲しいって思ってた。

……だから俺は、光と翔真の事は、本当に応援したいと思ってる。
翔真はどう思ってんのか知らねぇけど…。







フロアのついでにトイレを見回って出て来たら、出た所で翔真に声をかけられた。

「あの…」
「あぁ、」

立ち止まると、翔真は向こうの席の光の背中を気にしながら俺の前に立った。

「…さっきは、どうも」

初対面のフリをした事を言ってるんだろう。

「あぁ、いや、別に」

俺がそう言うと、翔真は何とも気まずそうな表情で、漫画みたいに頭をポリポリ掻いたりしながら、

「…ありがとうございました、言わないでくれて」

と言った。

俺が…光を遊んでると思ってたんだもんな…。
そりゃ、その表情にもなるだろう。

「あぁ、」
「それと……あの時は…失礼な事言って、」

思ったより真面目なんだな…
あの時の事、すんげぇ気にしてんじゃん。

「や、別に良いよ、気にしてない。…それより、いつから付き合ってんの?」
「…昨日です」

ホヤホヤかっ。

「アイツが、ここに来て、久我さんに報告したいって」

……きっと、それが光の気持ちの切り替えになるんだろう。


「アイツは、まだ諦めきれてないのかも知れません。そんなに直ぐに忘れられないと思います。……でも、アイツは……俺と付き合うって言ってくれました。……今はまだアイツの中に久我さんが居るのかも知れないけど……俺は、…俺を好きにさせます」


何か、すげぇ事言われた気がする…。
……これは、2人の問題って言うか……俺がどうこう言う事じゃねぇし……

「俺が言うのも変だし…俺に言われたくないかも知れないけど、幸せになって欲しい。光くんにも…新堂くんにも」

俺をジッと見ていた翔真の表情が少し和らいだ気がした。
ほんの少しだけど。


「あーっ、やっぱりっ」

突然入って来た明るめの声。

「光っ、」
「なかなか帰って来ないから見に来たら…、ちょっと、翔真っ、久我さんに何か変な事言ったんじゃないだろうなぁーっ」
「何も言ってねぇよっ」
「じゃあ何話してたんだよぉっ」
「それは、…まぁ、」

光に詰め寄られて翔真は口籠ってる。

多分………バカ正直な奴なんだろう。
ホントに、案外真面目だな…。

「俺が呼び止めたんだよ」

そう言うと、また、ものすごく驚いた顔をして俺を見る。
…何か……面白ぇ奴。

「ね?」
「え、…あぁ…そ、そう」

しどろもどろじゃねぇかっ。

光は半信半疑な顔で「ほんとに~?」などと言いながら翔真を疑惑の目で見てる……光に主導権握られてそうなのがちょっと笑えるけど……

翔真が光をすげぇ好きなのはよく分かったよ。
光だって翔真が好きだから、付き合うって決めたんだろうしさ。










「おかえりっ」

やっぱり、慶は起きてて……俺を玄関で出迎えたら、飛び付いてキスして来る。
まぁ、俺もそれを待ってんだけど…。

これ、いつかされなくなったら、俺かなり凹むかも……。



「あのさぁ…明日…クリスマスイブじゃん」
「あぁ、そうだね」

明日っていうか、もう今日だけどさ…。

「…昼間、どっか行きたいとこある?」
「え?」

慶のおかげでクセになった帰宅時の手洗いうがいを済ませて聞いてみた。

「なになに、急にどしたの?」

慶がフワフワした笑顔で俺に纏わりついて来る。

「や…どっか行ったりしたいのかな、と思ってさ」
「え~…そんなの急に言われても~~」

考えてねぇって事は……特に行きたいとこ無いって事だろ?

「そりゃ、侑利くんと行きたいとこだったら色々あるけどさぁ~」
「え、あんの?」
「あるよ~。遊園地も行きたいし、動物園も行きたいし、水族館だってまた行きたいし、映画も行きたいし、」

けっこうあんだな……
っていうか、遊園地、動物園、水族館…って……ガキか。

「でも…明日はのんびりしたいかな。2人とも仕事だしさ。バタバタするより夕方まで家でゆっくりしてたい……イチャイチャ出来るしぃ~~~」

纏わり付きながら、俺の顔を指先でツンツン突いて来る。

あーーー……何だ、コイツ……。
可愛さが…いつも、少しだけ俺の想像の上を行ってる。

「イチャイチャしたいの?」
「えぇ~~…まぁ、そりゃぁ~~」

間延びした喋りでまだツンツンしてる。
はっきり言って邪魔だけど、結局可愛いから許してしまう。

歩き辛いままソファまで行き腰掛けると、慶もすぐ隣に座って来る。

「ケーキ無いじゃん」
「良いよ、誕生日にケーキ食べたし」
「要らねぇの?」
「コンビニのスイーツ買いに行こうよ」
「安上がりだな、お前」

えへへ、と笑う。

可愛いだけだから、それも。


「じゃあ、仕事まではのんびりするか」
「うん、そうしたい」

よっしゃ、と掛け声をかけて立ち上がる。

「風呂入って来るわ。眠たかったら先布団入ってろよ」
「ん~、大丈夫、待ってる」

ソファから見上げて来るのが可愛くて、その髪をグシャッと混ぜるように撫でる。
も~、とか言ってるのを聞きながら、風呂に向かった。











………そんで俺は今、すんげぇびっくりしてる。

風呂から上がった訳だけど……体を拭いてスウェットも着終わり、さて髪を乾かそうとドライヤーがある洗面台の扉を開けたら……

ドライヤーと一緒に紙袋が置かれてた。

何かと思って取り出して中を覗くと、まず目に入ったのが小さなメッセージカードに書かれた『侑利くんへ メリークリスマス』という慶の文字。

何か……体が一気に熱い。
風呂上りだって事を差し引いても、だ。

メッセージカードの下には、小さな四角い箱。
取り出して開けてみる。


………………


ちょー、マジかぁ……

こういう攻め方もすんだな、アイツ…。



箱の中には、シンプルなシルバーのピアス。
黒のラインが入ってるとこ辺りが俺っぽいって自分でも思う。



ちょっとマジでさぁ……



俺、感動するわ、これ…



髪を乾かすのも忘れて、リビングへと急ぐ。


「慶、」

リビングに入ると、ソファからこちらへ体を向けて……俺の反応を伺うような、少し恥ずかしそうな顔で見てる。
俺がプレゼントを見たって事も、分かってる顔だし。

「…ど、どうかな」

小さな声で言った。

あー、ヤバいヤバい。

俺は、ツカツカとソファまで歩き、座るなり慶を抱きしめる。
すんげぇ力で。

「ちょっと、侑利くん…痛いってば、」
「うるせぇ」

一言で、静かになった。

「侑利くんに何かお返ししたくて……」

肩口で篭った声がする。

「お返し?何の」

俺はそんな見返り求めてねーよ。
全部勝手にやってる事だっていつも言ってるじゃん。


「誕生日を好きにさせてくれたお礼。……ほんとに、ありがとう…すごく嬉しかった」
「………お前、何なんだよ………俺、ちょっと泣きそうだわ…」


フフと笑う声がした。

「気に入って貰えるかドキドキしてたんだぁ~…どうやって渡そうとか考えてた………プレゼントあげたのなんて、じいちゃん以来だよ~、あはは」

笑って見せるけど……その言葉の端に慶の過去が少し見えて……胸の奥の方がチクと痛む。

慶が大好きだったじいちゃんな……
だけどやっぱりそこにも両親との思い出はなくて………そんな慶の気持ちを考えたら、誕生日やクリスマスをただ1人で過ごさせた両親への怒りが沸々と沸いて来るけど……

彼らはもうこの世に居なくて……
慶はその過去から逃れたくて仕方ないんだ…。

そんな慶が……俺と居る事で誕生日が好きになった、と言ってくれる。
俺には過去を忘れさせる事はきっと出来ないけど……蓋をしてやる事は出来るかも知れない。


「慶……マジで嬉しい。ありがとな。…こんなの、して貰えると思って無かった。……大事にする、ピアスも……お前も」


少し時間があって……小さな声で、うん、と聞こえた。


「俺さぁ……特別な事とか無くて良いんだ。お前が…俺の傍で居てくれたらそれで良い。…そんでさぁ……俺のために笑っといてよ」


うん、と頷いた慶が、泣き出したのが分かった。


「笑っとけって言ったのに」
「…………バカ」


……そのまま、なだれ込むように始まる行為。
……結局いつも、俺の欲が決壊してしまって最後には慶に怒られるんだけど…。







俺からプレゼントを渡したのは翌日、10時頃に起き出してから。

「誕生日にケーキやプレゼント貰ったし、旅行も連れてって貰ったから、クリスマスプレゼントなんていいのに…」と、俺の予想通りのセリフを言った。

でも、ちょっと嬉しそうな顔してる辺りも好きだよ、マジで。
俺って、案外貢ぎ癖あるのかも…。


「侑利くん、乗って乗って」

慶が自転車の後ろを叩いて言う。

「さみー」
「え、大丈夫だよ」
「車にしねぇ?」
「そこのコンビニまでだよ?」

コンビニにスイーツを買いに行く、と慶が張り切ってる。

「早く乗らないと、イチャイチャしないよっ」

何だよ、その交換条件。
などと思いつつ、急いで後ろに座る。

「あははっ、乗るの早っ」

すげぇ笑われたけど…。
俺は自分の気持ちに正直な男だって事で。


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