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「…ごめん…迷惑だったかな」
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*工藤side*
今日は、12月11日。
何の日かと言えば……
羽柴くんの誕生日の前日だ。
俺が負わせたケガもすっかり良くなって、一安心。
自分の不注意でケガさせてしまった事は本当に申し訳なくて、復帰してからもたまに謝る俺に羽柴くんはいちいち「もう、謝らないで下さいっ」と返してくれる。
正直、こうも何回も謝られたら……俺だったらちょっと鬱陶しくなると思うけど……羽柴くんは律儀にちゃんと返してくれる。
本当に悪い事をしたって思ってるんだよ…。
骨折しなかった事が奇跡だよ。
俺みたいな図体のデカいのが上から圧し掛かってさ……
「はぁ……」
今日、何回目かの溜息だ。
…と言うのも、俺は……羽柴くんを彼の仕事場に送って行った日以来……と言うか、彼と一緒に居る所を見る事になってしまった時以来………
心中穏やかじゃない……。
それは俺が……すっかり羽柴くんをそういう目線で見るようになってしまったからで……もう……ほぼ、ずっと、気付けば羽柴くんの事を考えている始末。
男に目覚めた、とかじゃない。
「羽柴くんに恋をした」のだ。
恋人が居る羽柴くんを好きになってしまった。
……何でこうなるんだよ…。
そんな事思っても無いんだろうな、羽柴くんは。
こんな風に想ってるなんて知ったら、どう思うんだろう。
せっかく打ち解けて来たのに、距離を置かれてしまうんだろうか。
それは……きっと耐えられないな…。
羽柴くんの誕生日は明日。
履歴書代わりに書いて貰った必要事項の中に生年月日も書いてあって、覚えやすい数字だったから頭に残ってた。
でも、こんな複雑な気分になるんだったら、覚えにくい誕生日の方が良かったとか思ってみたり…。
出勤表を見てみると、明日と明後日は休みになってる。
きっと、あの彼とどこか行くんだろうな…。
そう思っただけで虚しい気持ちで一杯になる。
何か渡したいけど、残る物にしたらきっと迷惑だろうし貰っても困るだろう。
羽柴くんは優しいから、きっと嫌がらず受け取ってくれると思う。
でも、それを持って帰ったところで彼に何て言うんだよ……しかも、彼は100%良い気しないだろう…。
俺が彼氏だったら、絶対嫌だわ…。
で、考えた結果、食べ物なら何か重くないし大丈夫かなってとこに行き着いた。
有名ショップのコーヒーと焼き菓子のセットにした。
これなら、本命の人に渡す感じのものには見えないし、今ならケガさせたお詫びって言えるしな…。
って、俺って何なの……ここまで考えてまで何か渡したいとか、だいぶ危ないぞ…。
「あっ、工藤さんっ」
「わっ、」
行き成り背後から声がして思わずビクッとしてしまった。
「あ、すみません…」
俺が驚いたのが予想外だったのか、少し申し訳無さそうな顔で羽柴くんが立ってた。
「あぁ、いや、大丈夫、ちょっとびっくりしただけ」
あはは、と笑って取り繕う。
「すみません、驚かせるつもり無かったんですけど…」
真面目な性格が出てる。
こういうとこが好きなんだ。
気付いたら、先に2人居た従業員はもう休憩室を出て行ってて、俺1人になっていた。
ずっと考え事してたからそんな事にも気付かなかった。
「休憩もう終わりですか?」
「や、あと20分くらい」
羽柴くんが財布を取り出し自販の前に行く。
「あ、良いよ、俺が、」
「いえっ、大丈夫ですっ、いつもいつも買って貰う訳には行きませんっ」
ビシッと断られた。
「だから、今日は俺が奢ります」
「え?」
「たまには」
「…ほんとに?」
「どれでもどうぞ」
ちょっと得意気に言ってるのが、ますます可愛い…。
「あ~…じゃあ、これ」
そう言って微糖コーヒーのボタンを押す。
「ありがとね」
「いえ、全然っ。今まで何個も買って貰ってますから、あっ、ぅわぁっ!」
え…
羽柴くんが、羽柴くんらしからぬ声を上げた。
「どしたのっ」
少しの沈黙の後、
「……間違えました…」
と小さく言った姿に、思わず吹き出してしまった。
「あははっ、ちょっと面白い」
「もぉ~~っ、笑わないで下さいっ」
「や、ごめんごめん」
「カフェオレ買おうと思ったのに…」
「何買ったの?」
羽柴くんが買った缶を取り出して俺に見せる。
「……野菜ジュース……」
マジか…
「あっはははっ!それ辛いね」
「……笑いすぎです」
「いや、だって、カフェオレの気分の時に、野菜ジュースは辛いでしょ、あはははっ」
何か…その押し間違いさえもツボ。
可愛すぎる。
「良いですっ、最近野菜不足だしっ」
「はははっ、面白いね、羽柴くん」
「面白くないです」
何か……良いな、こういう時間とこういう会話…。
「買い直す?」
「いえ、大丈夫です」
「良かったら買うよ?」
「今日はダメですっ」
断固拒否される。
羽柴くんは野菜ジュースの缶を持って、俺座ってるテーブルに来ると向かいの席を指して「ここ良いですか?」と言った。
断る理由なんか無い俺は「どうぞ」と即答する。
二コリと笑って椅子に座り、野菜ジュースを開け一口飲む。
「どう?」
「美味しいですよ?飲みたかった訳じゃないけど」
また吹き出しそうになって、堪えた。
これ以上笑うと怒られそうだ。
「あ、そうだ」
あたかも今思い出したように言ってみる。
もう、渡すのは今しかない。
休憩室のロッカーから紙袋を取り出し、羽柴くんの前に置く。
「え?」
顔の周りに「?」を沢山浮かべて俺を見る。
「羽柴くん、明日誕生日でしょ?」
「え、」
…何で知ってんの?キモ~、とか思われてたら俺泣く。
「あ、ごめんね、急に、前に会社用に書いて貰った紙に誕生日も書いてたから、何となく覚えてたんだ。1212って覚えやすいから」
羽柴くんはまだ「?」の顔をしてる。
「これ、大したもんじゃないけど、誕生日のプレゼント」
「へっ?」
改めて驚いてる。
「物だと迷惑かも知れないって思ったから、コーヒーとお菓子にした」
「えぇ?」
まだ驚きは持続中。
「それに、ケガさせたお詫びも兼て」
「え、それはもう、」
「いや、送ったのはほんと義務だよ。あんなケガさせて自転車漕いで帰す訳には行かないよ、普通」
真面目な羽柴くんは困ったように「でも…」と言って黙ってしまった。
「これは、ほんとに、お詫びの品。……って言っても全然大したもんじゃないんだよ?」
「…何か……気遣わせてしまってごめんなさい…」
「や、そんな事全然ないよっ」
俺は必死だ。
羽柴くんにこんな困った顔させたかった訳じゃない。
「羽柴くん、カフェオレ好きでしょ?だから、そういうのだったら家でも飲めるし良いかなって思ってさ」
「…すみません、ほんとに……ありがとうございます」
少しの間の後、羽柴くんが小さくそう言った。
「…ごめん…迷惑だったかな」
やっぱり渡さない方が良かったのかも……
俺の言葉にバッと顔を上げる。
「いえっ、迷惑だなんてそんな事無いですっ」
凄い勢いでそう言ってくれて、単純な俺は嬉しくなってるし。
「でも……工藤さん…ずっと謝ってくれてるし、何か、こんなプレゼントまで用意して貰って、何か……悪いなぁって思って…」
真面目だよね、ほんと。
二十歳でしょ?……もっと気楽で良いのに…。
「羽柴くんこそ、気にしないでよ。軽い気持ちで受け取ってくれたら良いからさ」
「…すみません、ほんとに。…じゃあ…遠慮なくいただきます」
硬い……。
食べ物でこんなに硬いって……物にしないで良かった……身に着ける物なんかプレゼントした日にゃ、ほんとにすごい勢いで拒否されるかも知れないよ…。
それが、遠慮の塊だったとしても全力で拒否されたら俺はかなり凹むだろう…。
「わ、クッキーも入ってる」
何だよ……可愛いな。
袋の中を覗いて、透明のラッピングから見えた中身にちょっと嬉しそうな顔して呟く。
こんな可愛いのに……
あんな声も出すんだから…。
あの日の………巻き込んで倒れた時の羽柴くんの声が今でも耳に残ってる。
変態ばりにヤバい妄想だって事は俺だって分かってる。
だけど、頭が勝手に想像してしまうんだ……
あの「彼」の前で、この可愛い羽柴くんが一体どんな事してんのか…って。
あー………ヤバいな、俺……
このまま……ヤバい奴になってしまうのかな……
「工藤さんは誕生日いつですか?」
「へっ?」
変な事を考えてたから、羽柴くんの質問に上ずった声が出た。
「あぁ、俺は6月10日。まだまだだよ」
ヤバい事考えてたから、妙に顔が熱い…。
「覚えときますね」
「すんごい先だけどね」
緩く笑ってお互い飲み物を飲む。
静かな休憩室。
改めて見ると……ほんとにキレイな顔をしてて……美人と表現するのか可愛いと表現するのか……とにかく、整い過ぎてて見惚れてしまう。
本当に今まで俺の周りには居なかったタイプ。
むさ苦しい奴らしか居なかったからな…。
「そう言えば、ホワイトボード見た?」
「え、あ、まだです」
「忘年会の出欠出てるよ」
忘年会…。
出来れば…参加して欲しい…。
会社以外で出かけるなんて、こういう機会を利用してじゃないとまず無いだろう。
「今年は羽柴くんたちの歓迎会も兼てるから、是非来て欲しい」
「いつですか?」
「28日。毎年その日が仕事納めなんだ。で、工場も5時には閉めるから忘年会は7時からのスタート」
へぇ~、と言いながら、野菜ジュース片手に俺の説明を聞いてる。
もう…可愛すぎ。
「今年はホテルの忘年会コースかもって言ってたから、けっこう料理も良いかもね。あ、因みに羽柴くんたち新人さんは、歓迎会兼てるからお金要らないからね」
「えっ?」
羽柴くんがすんごく驚いた表情で俺を見る。
「それは…ちょっと……」
真面目な羽柴くんならきっと気にするだろうと思った。
「こういう会の為に、親睦会費を毎月給料から引いてるんだから大丈夫」
「でも……」
「そういうもんなんだよ?その為の親睦会費なの。だから、気にしなくて大丈夫」
「………はい」
「だから、むしろ来てくれた方が良いんだよ。その為に払って来たんだから参加してよ~ってなるじゃん」
「……そう、…ですね…」
腑に落ちたのか落ちないのか分からない感じの返事だけど……とにかく、何でも良いから俺の為に来て欲しいって思う自分が怖い。
「次の出勤の時に書いときますね」
可愛い笑顔でそう言うけど……きっと、彼に参加して良いか聞くんだろうな…。
俺が彼氏だったら、俺みたいな奴が居る飲み会には絶対行かせたくないな…。
まぁ、俺がこんな事考えてるってあの彼は知らないから……軽い気持ちで「行って来たら?」とか言うかもな…。
とにかく、こうやって話してるこの時間にも、俺はずっと、もっと、羽柴くんの事を好きになって行ってる訳で…。
羽柴くんが惜しみなくその可愛さを出して来るから、俺みたいな単純な男はすぐにメーターが振り切っちゃって大変なんだよ…。
今日は、12月11日。
何の日かと言えば……
羽柴くんの誕生日の前日だ。
俺が負わせたケガもすっかり良くなって、一安心。
自分の不注意でケガさせてしまった事は本当に申し訳なくて、復帰してからもたまに謝る俺に羽柴くんはいちいち「もう、謝らないで下さいっ」と返してくれる。
正直、こうも何回も謝られたら……俺だったらちょっと鬱陶しくなると思うけど……羽柴くんは律儀にちゃんと返してくれる。
本当に悪い事をしたって思ってるんだよ…。
骨折しなかった事が奇跡だよ。
俺みたいな図体のデカいのが上から圧し掛かってさ……
「はぁ……」
今日、何回目かの溜息だ。
…と言うのも、俺は……羽柴くんを彼の仕事場に送って行った日以来……と言うか、彼と一緒に居る所を見る事になってしまった時以来………
心中穏やかじゃない……。
それは俺が……すっかり羽柴くんをそういう目線で見るようになってしまったからで……もう……ほぼ、ずっと、気付けば羽柴くんの事を考えている始末。
男に目覚めた、とかじゃない。
「羽柴くんに恋をした」のだ。
恋人が居る羽柴くんを好きになってしまった。
……何でこうなるんだよ…。
そんな事思っても無いんだろうな、羽柴くんは。
こんな風に想ってるなんて知ったら、どう思うんだろう。
せっかく打ち解けて来たのに、距離を置かれてしまうんだろうか。
それは……きっと耐えられないな…。
羽柴くんの誕生日は明日。
履歴書代わりに書いて貰った必要事項の中に生年月日も書いてあって、覚えやすい数字だったから頭に残ってた。
でも、こんな複雑な気分になるんだったら、覚えにくい誕生日の方が良かったとか思ってみたり…。
出勤表を見てみると、明日と明後日は休みになってる。
きっと、あの彼とどこか行くんだろうな…。
そう思っただけで虚しい気持ちで一杯になる。
何か渡したいけど、残る物にしたらきっと迷惑だろうし貰っても困るだろう。
羽柴くんは優しいから、きっと嫌がらず受け取ってくれると思う。
でも、それを持って帰ったところで彼に何て言うんだよ……しかも、彼は100%良い気しないだろう…。
俺が彼氏だったら、絶対嫌だわ…。
で、考えた結果、食べ物なら何か重くないし大丈夫かなってとこに行き着いた。
有名ショップのコーヒーと焼き菓子のセットにした。
これなら、本命の人に渡す感じのものには見えないし、今ならケガさせたお詫びって言えるしな…。
って、俺って何なの……ここまで考えてまで何か渡したいとか、だいぶ危ないぞ…。
「あっ、工藤さんっ」
「わっ、」
行き成り背後から声がして思わずビクッとしてしまった。
「あ、すみません…」
俺が驚いたのが予想外だったのか、少し申し訳無さそうな顔で羽柴くんが立ってた。
「あぁ、いや、大丈夫、ちょっとびっくりしただけ」
あはは、と笑って取り繕う。
「すみません、驚かせるつもり無かったんですけど…」
真面目な性格が出てる。
こういうとこが好きなんだ。
気付いたら、先に2人居た従業員はもう休憩室を出て行ってて、俺1人になっていた。
ずっと考え事してたからそんな事にも気付かなかった。
「休憩もう終わりですか?」
「や、あと20分くらい」
羽柴くんが財布を取り出し自販の前に行く。
「あ、良いよ、俺が、」
「いえっ、大丈夫ですっ、いつもいつも買って貰う訳には行きませんっ」
ビシッと断られた。
「だから、今日は俺が奢ります」
「え?」
「たまには」
「…ほんとに?」
「どれでもどうぞ」
ちょっと得意気に言ってるのが、ますます可愛い…。
「あ~…じゃあ、これ」
そう言って微糖コーヒーのボタンを押す。
「ありがとね」
「いえ、全然っ。今まで何個も買って貰ってますから、あっ、ぅわぁっ!」
え…
羽柴くんが、羽柴くんらしからぬ声を上げた。
「どしたのっ」
少しの沈黙の後、
「……間違えました…」
と小さく言った姿に、思わず吹き出してしまった。
「あははっ、ちょっと面白い」
「もぉ~~っ、笑わないで下さいっ」
「や、ごめんごめん」
「カフェオレ買おうと思ったのに…」
「何買ったの?」
羽柴くんが買った缶を取り出して俺に見せる。
「……野菜ジュース……」
マジか…
「あっはははっ!それ辛いね」
「……笑いすぎです」
「いや、だって、カフェオレの気分の時に、野菜ジュースは辛いでしょ、あはははっ」
何か…その押し間違いさえもツボ。
可愛すぎる。
「良いですっ、最近野菜不足だしっ」
「はははっ、面白いね、羽柴くん」
「面白くないです」
何か……良いな、こういう時間とこういう会話…。
「買い直す?」
「いえ、大丈夫です」
「良かったら買うよ?」
「今日はダメですっ」
断固拒否される。
羽柴くんは野菜ジュースの缶を持って、俺座ってるテーブルに来ると向かいの席を指して「ここ良いですか?」と言った。
断る理由なんか無い俺は「どうぞ」と即答する。
二コリと笑って椅子に座り、野菜ジュースを開け一口飲む。
「どう?」
「美味しいですよ?飲みたかった訳じゃないけど」
また吹き出しそうになって、堪えた。
これ以上笑うと怒られそうだ。
「あ、そうだ」
あたかも今思い出したように言ってみる。
もう、渡すのは今しかない。
休憩室のロッカーから紙袋を取り出し、羽柴くんの前に置く。
「え?」
顔の周りに「?」を沢山浮かべて俺を見る。
「羽柴くん、明日誕生日でしょ?」
「え、」
…何で知ってんの?キモ~、とか思われてたら俺泣く。
「あ、ごめんね、急に、前に会社用に書いて貰った紙に誕生日も書いてたから、何となく覚えてたんだ。1212って覚えやすいから」
羽柴くんはまだ「?」の顔をしてる。
「これ、大したもんじゃないけど、誕生日のプレゼント」
「へっ?」
改めて驚いてる。
「物だと迷惑かも知れないって思ったから、コーヒーとお菓子にした」
「えぇ?」
まだ驚きは持続中。
「それに、ケガさせたお詫びも兼て」
「え、それはもう、」
「いや、送ったのはほんと義務だよ。あんなケガさせて自転車漕いで帰す訳には行かないよ、普通」
真面目な羽柴くんは困ったように「でも…」と言って黙ってしまった。
「これは、ほんとに、お詫びの品。……って言っても全然大したもんじゃないんだよ?」
「…何か……気遣わせてしまってごめんなさい…」
「や、そんな事全然ないよっ」
俺は必死だ。
羽柴くんにこんな困った顔させたかった訳じゃない。
「羽柴くん、カフェオレ好きでしょ?だから、そういうのだったら家でも飲めるし良いかなって思ってさ」
「…すみません、ほんとに……ありがとうございます」
少しの間の後、羽柴くんが小さくそう言った。
「…ごめん…迷惑だったかな」
やっぱり渡さない方が良かったのかも……
俺の言葉にバッと顔を上げる。
「いえっ、迷惑だなんてそんな事無いですっ」
凄い勢いでそう言ってくれて、単純な俺は嬉しくなってるし。
「でも……工藤さん…ずっと謝ってくれてるし、何か、こんなプレゼントまで用意して貰って、何か……悪いなぁって思って…」
真面目だよね、ほんと。
二十歳でしょ?……もっと気楽で良いのに…。
「羽柴くんこそ、気にしないでよ。軽い気持ちで受け取ってくれたら良いからさ」
「…すみません、ほんとに。…じゃあ…遠慮なくいただきます」
硬い……。
食べ物でこんなに硬いって……物にしないで良かった……身に着ける物なんかプレゼントした日にゃ、ほんとにすごい勢いで拒否されるかも知れないよ…。
それが、遠慮の塊だったとしても全力で拒否されたら俺はかなり凹むだろう…。
「わ、クッキーも入ってる」
何だよ……可愛いな。
袋の中を覗いて、透明のラッピングから見えた中身にちょっと嬉しそうな顔して呟く。
こんな可愛いのに……
あんな声も出すんだから…。
あの日の………巻き込んで倒れた時の羽柴くんの声が今でも耳に残ってる。
変態ばりにヤバい妄想だって事は俺だって分かってる。
だけど、頭が勝手に想像してしまうんだ……
あの「彼」の前で、この可愛い羽柴くんが一体どんな事してんのか…って。
あー………ヤバいな、俺……
このまま……ヤバい奴になってしまうのかな……
「工藤さんは誕生日いつですか?」
「へっ?」
変な事を考えてたから、羽柴くんの質問に上ずった声が出た。
「あぁ、俺は6月10日。まだまだだよ」
ヤバい事考えてたから、妙に顔が熱い…。
「覚えときますね」
「すんごい先だけどね」
緩く笑ってお互い飲み物を飲む。
静かな休憩室。
改めて見ると……ほんとにキレイな顔をしてて……美人と表現するのか可愛いと表現するのか……とにかく、整い過ぎてて見惚れてしまう。
本当に今まで俺の周りには居なかったタイプ。
むさ苦しい奴らしか居なかったからな…。
「そう言えば、ホワイトボード見た?」
「え、あ、まだです」
「忘年会の出欠出てるよ」
忘年会…。
出来れば…参加して欲しい…。
会社以外で出かけるなんて、こういう機会を利用してじゃないとまず無いだろう。
「今年は羽柴くんたちの歓迎会も兼てるから、是非来て欲しい」
「いつですか?」
「28日。毎年その日が仕事納めなんだ。で、工場も5時には閉めるから忘年会は7時からのスタート」
へぇ~、と言いながら、野菜ジュース片手に俺の説明を聞いてる。
もう…可愛すぎ。
「今年はホテルの忘年会コースかもって言ってたから、けっこう料理も良いかもね。あ、因みに羽柴くんたち新人さんは、歓迎会兼てるからお金要らないからね」
「えっ?」
羽柴くんがすんごく驚いた表情で俺を見る。
「それは…ちょっと……」
真面目な羽柴くんならきっと気にするだろうと思った。
「こういう会の為に、親睦会費を毎月給料から引いてるんだから大丈夫」
「でも……」
「そういうもんなんだよ?その為の親睦会費なの。だから、気にしなくて大丈夫」
「………はい」
「だから、むしろ来てくれた方が良いんだよ。その為に払って来たんだから参加してよ~ってなるじゃん」
「……そう、…ですね…」
腑に落ちたのか落ちないのか分からない感じの返事だけど……とにかく、何でも良いから俺の為に来て欲しいって思う自分が怖い。
「次の出勤の時に書いときますね」
可愛い笑顔でそう言うけど……きっと、彼に参加して良いか聞くんだろうな…。
俺が彼氏だったら、俺みたいな奴が居る飲み会には絶対行かせたくないな…。
まぁ、俺がこんな事考えてるってあの彼は知らないから……軽い気持ちで「行って来たら?」とか言うかもな…。
とにかく、こうやって話してるこの時間にも、俺はずっと、もっと、羽柴くんの事を好きになって行ってる訳で…。
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