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「好きなのは分かってるよ」
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今日は休みだから、慶と外出中。
ケーキを選びに来た。
「誕生日にケーキ買ってやる」って言ったら遠慮しまくるかと思ったけど、すんげぇ嬉しい顔をされたから、ちょっと俺もテンションが上がった。
ケーキ屋の情報は俺の中に全く無くて、これは女子力の高い奏太なら何かしら持ってるだろうと踏んで聞いてみると……
出るわ出るわ…。
ケーキ屋について、めっちゃLINE来た………正直、情報量多すぎだよ。
厳選して、って頼んで、3軒に絞って貰った。
どれも、雑誌やテレビで何回も紹介されてる店らしい。
ショップのサイトを見るとケーキの画像があって、慶にその3軒に順位をつけさせた。
「え~、決めれない~」「迷う~」と、だいぶ長い事悩んでたけど、出かける前には何とか順番を決めた。
1軒目はデパートの地下で、すごく広い面積を占めてる人気店。
慶はここが第一候補だから、車を停めてここへ歩いて来るまでの間もご機嫌だった。
いつも以上にフワフワしてる感じ。
まぁ、それも可愛いんですけど。
「一緒に食べるから、侑利くんも好きなやつにしないとね~」
とか言って、歩いてる俺の顔を覗き込んで来る。
すごくデカい店だから、迷う事は無く着いた。
慶はもう、ショーケースのケーキに釘付けだし。
「う~ん……」
ケーキをガン見。
前に水族館でイルカ見た時と同じ目だよ、お前…。
「……困った…」
「何」
「悩んでる」
「どれ」
慶が指さしたのは、チョコレートでコーティングされた、色んなフルーツがこれでもかと乗っかってる小さなホールケーキと、いちごを巻いたロールケーキで、こっちは上にクリームが乗っててその上に更にいちごがぎっしり並んでる。
「この2つ」
「あ~」
「侑利くんはどれが良い?」
俺は正直……どれでもいいんだけど……
興味がないって意味じゃ無くて……特に特化して好きなケーキが無いっていう……どれ選んでも美味しく食べれるよ、ってやつだ。
でも、1つは慶のと被ってた。
「俺もこのチョコのやつは良いかなって思った」
慶が初めに指差したホールケーキ。
「よしっ、じゃあコレにするっ」
「え、決めんの?」
「うんっ」
早っ!!
「え、もう決めるの?」
「うんっ」
「他の2軒は?」
「もう、これしか考えられない」
あっさり決定したぞ。
あんなに悩んで順番決めたのに、1軒目でサクッと決めんのかよっ。
でも、もう揺るがなさそうな慶の様子を見て、店員を呼んで予約した。
11日の昼頃に取りに来る、って事で。
何故、11日かと言うと……慶の誕生日当日の12日とその翌日13日は、慶が選んだ温泉一泊旅行に行く事に決めたからだ。
割と急に決めたからどうかな、って思ったけど……
年末はすげぇ混むのが毎年恒例みたいだけど、行くのはまだ中旬だし両方平日って事で、旅館は空きがあったらしく難なく予約出来た。
前日はお互い仕事で、俺が帰宅した時にはもう12日になってるから、俺が帰ってからケーキ食べたいって慶が言い出して。
そんな時間にケーキ食う奴居ねえと思うけど…。
まぁ、良いか。
ケーキの予約を済ませて慶を見ると、今度はショーケースのショートケーキをガン見してる。
獲物を狙う獣の目になってんぞ。
「ねぇねぇ、侑利くん」
「ん?」
ニコニコしながら近付いて来る。
だいたい分かるわ、言おうとしてる事。
「お茶して行こうよ~」
ほらね。
そうだと思ったわ。
店は奥がカフェになってて、店頭で選んだケーキとドリンクのセットが人気らしい。
レジのとこに思いっきり書いてあった。
半ば強引にケーキを決めさせられ、カフェの方に移動。
まぁ、ここでも慶は注目を浴びてますけどね。
で、ついでに言うと、そういう時いつも慶は「皆、侑利くんの事見てるよ」って言う。
今もやっぱりそう言った。
でも…多分、それ、俺じゃなくてお前を見てんだよ。
お前自分じゃ全く思ってねぇだろうけど、すんげぇ目立ってるからね。
「ケーキ、早く決まって良かったな」
「うんっ、楽しみっ、早く誕生日来ないかなぁ~」
嬉しそうに慶はそう言ったけど………その後に続く言葉は無く、だんだん……何か、堪えてる感じになって来てる。
「びっくり」
「何が」
「…誕生日早く来ないかなぁなんて……思えるなんて」
ちょっと声が震えてる気がした。
慶の感情は忙しく切り替わる。
それだけ、不安定なんだ。
充実してるようでも、そうじゃない。
少し気を抜くと、過去の辛い出来事が割り込んで来ようとするんだ。
今でもたまに、寝てても飛び起きる事がある。
2~3回深呼吸して、もう一回寝るけど……それですんなり寝れる時と、そうじゃない時があって……そうじゃない時はいつも、朝まで辛くて苦しそうにしてる。
俺は、そんな慶を見てるから……こうやって素直に誕生日を楽しみに思ってる姿を見るのは、すごく嬉しい気分になる。
「俺も、お前の誕生日早く来ねぇかなって思ってるよ」
「え?」
慶がちょっと俯いてた顔を上げる。
「お前が生まれた日を祝いたい、一緒に」
今度は、嬉しそうな表情へと切り替わる。
慶の後ろから店員がケーキセットを運んで来てる。
方向と時間的にも俺らの注文のセットだろう。
感動屋の慶は、ちょっと赤くなった目で俺を見てる。
「侑利くん、大好きっ」
「お待たせいたしました」
……………。
店員さん、思いっ切り「え?」って顔になってるしっ。
慶は、あからさまに「ハッ」とした顔をして店員を見てから、恥ずかしそうに俺を見る。
俺も、慶が言った瞬間の「え?」の顔の店員と目が合って、何とも言えない微妙な空気。
店員がケーキセットを置き切るまでの時間が異常に長く感じたわ。
誰も何も喋んねぇし…。
「ごゆっくりどうぞ」の声に、俺と慶と何故かその店員も一緒に顔を見合わせ、一応軽く礼。
この店員、裏に返ったら俺らの事めっちゃ言うんだろうな……
「お前っ、恥ずいわっ」
店員が去るなり言ってやった。
「だって、後ろから来てるなんて知らなかったんだもんっ」
「だもん、じゃねぇし」
「店員さん来てるって言ってよねっ」
「こっちはお前があんな事言うと思ってねぇし」
「だって、その前に侑利くんがあんな事言うから、好きだなって思っちゃったんじゃんっ」
「好きなのは分かってるよ」
「言いたくなったんだよっ」
何だコレ。
どんな言い合いだよ。
ってか、どっちでもいいわ。
「ふふっ、」
慶が小さく笑った。
「…何か面白いね」
「…お前のせいだぞ」
「店員さんの顔が」
「はぁ?みたいになってた」
「あははっ、おもしろ~」
他人事か。
慶は、クスクス笑いながら、ケーキのフィルムを外してる。
俺も同じように外しながら、楽しそうな慶の顔を見て、やっぱり笑ってるのが良いなって思ったり。
11日に取りに来るのも、ちょっと恥ずいけどな…。
店を出て、ちょっと店内をぶらぶら。
広い雑貨屋があるフロアに来た。
入って見てたら、ポケットの携帯が震えた。
取り出すと……巴流からの着信。
ちょっと、これ、待ってたやつだっ。
「慶、ちょっと見てて。俺、そこのソファで電話」
携帯を見せて慶に言う。
オッケー、と指で示したのを確認して店先のソファに向かいながら電話に出る。
「はいはいはいはい、どうなった?」
『いやいや、出方っ、変だからっ』
俺も変だと思ったよ。
でも「おー」とか「どうも」とかそんな前置き要らねぇ。
どうなったか聞かせてくれっ。
「そんなんどうでも良い、どうなった?」
もう一度聞く。
『こんなグイグイ来んだな、侑利』
「気になってんだよ」
正直に言う。
『うーん……作戦通り』
「ん?」
『先手必勝』
「おおぉ~~っ」
『大和は………最初は嫌がってたけど』
最初は、って事は…。
『嫌がってたって言うか…何か…置かれてる状況を受け入れられない、みたいな』
「…攻める気だったら、余計そうだろうな」
ちょっと大和が気の毒な感じもして来たけど…。
『でも……その…まぁ……やってみたら……案外、いけんだな、……みたいな……その……思ったより良かった……みたいな』
「………生々しいわ」
『想像してんなよっ』
「や、俺、自分の想像力の豊かさが今憎い」
『想像すんなーっ』
「待って、今打ち消してるとこ」
『ははっ、バーカ』
お前にバカって突っ込まれたくねぇけどさ。
「え、じゃあ、決定したの?」
どっち側か。
『それが…今んとこ大和が何も言わねぇんだよ』
「ん?」
『今度は俺が攻めたいとか』
「……決定じゃん」
『いや、分かんねぇけどさ』
「いやぁ……まぁ…とにかく、おめでとう」
『お~、ありがとうありがとう』
……ま、決定じゃないかも知れねぇけど……とにかく、進展したって事で。
「今、家?」
『うん』
「大和は?」
『風呂入ってる、あ、出て来た。代わる?』
「俺に話してる事、大和知ってんの?」
『今朝言った』
「あー。じゃ、代わる」
『お、ちょっと待って』
巴流が大和に電話を渡してる声が小さく聞こえる。
『もしもし侑利?』
「おー」
『おーじゃないからっ、何俺の知らないとこで巴流の事応援してんのっ!』
……怒られた。
『襲われたじゃんっ』
そこっ!?
それで怒られる俺って……
「…それ、俺に言われても…」
『まぁ…そうだな』
あ、冷静になった。
「巴流、バカだけど良いの?」
『あっははは、ほんとだね』
笑ってるし。
『今度、俺が襲ってやる』
え……巴流、作戦失敗してんぞ。
思いっきり言ってるぞ?
「え、襲うの?」
『うん』
「巴流を?」
『うん』
「大和が?」
『ダメ?』
「……襲いたいの?」
『……そう、改めて言われると……』
「まぁ、まだ…始まったばっかだもんな」
『うん』
大和も、そりゃ混乱するわな…。
しかも、巴流に襲われたんだから。
俺だったらしばらく飯食えねぇわ。
「襲いたくなったらやったら良いよ」
『ならなかったら?』
「…黙って、襲われる」
『ううぅ~~~』
大和が変になってるぞ。
いつもはクールな大和が、何かすげぇ動揺してる感じが新鮮だわ。
「大和」
『うぅ』
「今度教えて」
『何を?』
「どんなだったか」
『ヤダヤダヤダヤダ絶対ヤダッ』
めっちゃ断って来るじゃん。
「あははっ、すげぇ嫌がってる」
『嫌だよ、そんなの、絶対言わないっ』
「じゃ、巴流に聞く」
『ダメダメダメダメ』
「あっはは、おもしれぇ」
『ちょっと侑利っ、遊んでんなっ!』
「お前らいつも俺で遊ぶだろ」
『だからってここで弄んなよっ』
「ははっ、おもしれぇわ」
『面白くないよっ』
あー、大和、おもしれぇ。
もうちょっと弄ってやろうかと思ったけど、そろそろ本気で怒られそうだから止めておいた。
「まぁ、でも、良かったじゃん」
『…まぁ…うん、そう、かな』
「何だよ、キレ悪いなぁ」
『襲われたとこだけが納得いかないけど……まぁ、それ以外は良かった』
……すんげぇ引っ掛かってるじゃん。
『巴流がうるさいから代わる。ありがとね、侑利』
俺は何もしてねぇよ。
巴流の応援はしたけど…。
『っていう訳でさ』
「あー、よく分かったわ」
『また、休み合ったら飯でも行こうぜ』
「そうだな」
その時までには、どっち側か決定するかな。
まぁ、何にしろ、上手く行きそうだから良かった……俺も、弄り甲斐あるわ。
巴流との電話を終わり、雑貨屋の中の慶を見る。
目立つから直ぐ分かる。
近付いて行ってみると、真剣な顔で何かを見てる。
真剣すぎて俺が後ろに立ってんの気付いて無いし。
肩越しに覗き込むと、流石に気付いた慶が振り返って「うわぁっ」とか声出すもんだから、ちょっと周りの人がこっち見てるし…。
「もぉっ、気配消さないでっ」
「悪ぃ、」
別に気配消してた訳じゃねぇのに…。
「それ欲しいの?」
「え?」
手にしていたものを見る。
「携帯のケースでしょ?」
「あぁ、うん。こういうのしてたらやっぱ傷とか付きにくい?」
この前、落として割れたしな。
慶が手に持ってるのは、よくある手帳型のもの。
シンプルなベージュの革で、下の方だけ型押しの模様が入ってる。
「あぁ、そりゃだいぶ違うんじゃねぇ?」
「そっか…ふ~ん」
手に持ってるケースを開けたり閉じたりひっくり返して見たりしてる。
……欲しいんだったら買ってやろうか?
「欲しいの?」
「う~ん、考え中」
「買ってやるけど?」
「ダメダメ、それはいい」
出たよ、真面目な性格。
まぁ、そう言うと思ってたけどさ。
「俺も今つけてるやつだいぶ汚れてるからなぁ…」
「色違いでお揃いにする?」
ふんわりした笑顔で俺を見る。
俺の好きな表情だ。
「あー、良いよ」
抱き締めてやりたくなるのを堪えて、平静を装って言う。
「あっ、じゃあさ、今度ケーキ取りに来た時に買いに来ない?」
「ん?何で?」
「ケーキ11日でしょ?俺、お給料10日に入るから、それで買う」
……ちゃんとしてんな、やっぱり。
初給料なんだから、別に大事に持ってりゃ良いのに。
「他にも買いたい物あるんだ~、それも11日に侑利くんに選んで欲しい」
「え、何?」
「あのね、これよりもっとあったかい上着」
あ……それ、絶対要るだろ。
「これ、薄いもんなぁ」
慶が着てる薄手のアウターの腰の辺りを摘まんで揺らす。
「だいぶ寒くなって来た」
「11まで待たなくたってさ、今日、見たら?」
「え、今日は無理だよ~お金無いし~」
そりゃ、給料入ってねぇからな。
「今日は俺が出しといて、給料入ったら返してくれたら良いじゃん」
「……う~ん…」
すんげぇ悩んでる。
そんなに真剣に悩まなくても…。
「…じゃあ……良いのあったらそうしようかな」
「良いよ。でもそれならさぁ…」
「ん?」
慶が「?」を浮かべて俺を見る。
「それも買っといたら?」
慶がずっと持ってる携帯ケース。
「えっ、いや、これはいいよっ、今度にしよ?」
「でも、一緒の事じゃん、後で返してくれるんだったらさ」
「……そうだけど…」
凄く申し訳無さそうな表情だ。
「今度来たら売れて無くなってるかも知んねぇよ?」
「え、…………」
黙った。
「俺も買うわ。お揃いにすんだろ?」
「う、うん」
「俺のも選んでよ」
「え?」
驚いたように俺を見たけど、直ぐに嬉しそうにフニャッと笑った。
ちょっと……その顔が可愛すぎて、慶の頭をグリグリしてやった。
もう~、とか言ってるけど、そこはスルー。
「俺はね、これにするって決めてんの。侑利くんはぁ……これか、これなんだよなぁ」
う~ん、とか何とか言ってるけど、携帯ケース1つでも真剣に俺の事を考えてくれんだね。
慶が俺に選んだのは、キャメルっぽい色のケース。
慶曰く「俺っぽい」らしい。
俺も、好きな色ではある。
慶はずっと手に持ってたベージュのやつ。
会計を済ませた俺に「ありがとう」と礼を言う。
これぐらいお前の分も買ってやったって良いんだけどさ……どうしてもそういうのを許さない奴だからなぁ…。
「お揃いだね」などと言いながら、嬉しそうに袋の中の2つのケースを眺めながら歩いてる。
それに集中しすぎてちょっと躓いてるしな…。
とにかく、俺は慶とのこういう、何でもない緩い時間が前から好きで……マジで、あの日、俺の前に現れてくれてありがとう、って思うんだよ。
「これ、…うーん、それかこっちかな」
今度は俺が悩んでる。
アウターを選んでと言われ、今2つに絞ったところ。
どっちも似合いそうだけど…。
「ちょっと着てみ?」
「うん」
素直に頷くと、今着てる薄いアウターを脱いで俺に渡して来る。
俺はそれを受け取りながら、改めて慶を見る。
「やっぱお前、ほんと、ほっそいね」
「何だよぉ~、今更」
「はは、まぁそうだけどさ、改めて見たら。……脱いだらそんなにガリガリ感ねぇのにな、」
そこまで言った所で軽く脛を蹴られる。
「いった、何だよ」
「そういう事はもっと小さい声で言ってよ」
小さい声なら言って良いのかよ。
慶は、誰かに聞こえてないか少しキョロキョロしながら、1つ目のアウターを着る。
「どう?」
いつも着てるアウターより丈が短めの黒のダウン。
少し細身のデザインだけど、慶が細いから普通に着れてる。
今までのアウターが太腿くらいまでの丈で、それしか見て無かったから今試着してる丈のデザインはすごく新鮮だし、長い足が全部見えるからスタイルの良さが強調されてて良い。
「似合うよ」
「ほんと?」
嬉しそうな顔して、鏡で色んな角度からチェックしてる。
「じゃ、今度そっち」
一度脱いで、もう1つを着る。
こっちは、裏地がモコモコしてる感じのカーキのモッズコート。
丈はいつも着てるアウターと似てるから、すんなり似合ってる。
「どっちも似合ってるよ。慶はどっちが良いの?」
「う~~ん……こっちも好きだけど、温かかったのは1こ目かなぁ…」
もう一度最初のを着てみる。
「うん、こっちのが軽くて温かい」
「そっか。俺は、軽いの結構重視する派だわ」
ダウンはマジで温かいからな。
「…あ、ちょっと待って…」と言って、値札確認してる。
両方とも確認して給料と相談してるとこが、何かツボなんですけど。
ダウンは16,800円。
モッズコートは18,900円。
でも、クリスマスセールでどちらもそこから3割引き。
「侑利くんは、どっちが似合ってると思う?」
「俺は、こっち」
結構即答でダウンを指差した。
こっちの方が、何か好きだ。
「……じゃあ、これにする」
ダウンを俺に差し出す。
「慶はこっちで良いの?」
「うん、こっちのが軽くて温かかった。それに、」
「それに?」
「侑利くんがこっちが似合うって言ってくれたし~」
業とらしく語尾を伸ばして言う。
それにしても、慶は意外と何でも決めるのが早い方だ。
どうしよう~とかずっと言ってそうだけどな…。
「外寒いし、値札切ってもらって着れば?」
「あ、うん、そうする~」
俺はほんとに、慶には何でもしてやりたくなるぐらい構いたくて、正直、買ってやりたい物も山ほどある。
だいたい、ほとんど私物が無いからな、慶は。
レジに持って行き、値札を外してもらったダウンを慶に渡す。
「ありがとう~」と言いながら、早速着てる。
代わりに薄い方のアウターを袋に入れて貰った。
釣りを財布に仕舞おうとしてた俺の手から慶がレシートを抜き取る。
「これ、貰っとくね」
「ちゃんとしてんなぁ、お前」
「え、普通だよ~」
とか言いながら、レシートを無くさないように自分の財布に仕舞ってる。
1の位まできっちり返して来そうだな……。
「やっぱり温かいね~、これにして良かった」
嬉しそうに俺に笑顔を投げかけて来る。
旅行には温かい服装で行かないとって思ってたから、買えて良かった。
もう12月だし、そりゃ普通に寒いよ…。
アウターだけじゃなくて、その中に着る服だってパンツだって今持ってる数じゃほんとに冬越せねぇぞ、ってぐらい少ないからさ…。
俺がどんどん買ってったら、きっと慶にすんげぇ怒られるだろうけど……それ承知で勝手に買ってやろうと思ってる。
とにかく、物欲が人より格段に少ないからな、慶は…。
細くて薄いから寒そうだし。
誕生日の後に控えてる、クリスマスプレゼントって事にすりゃ何とかなるかな…。
ケーキを選びに来た。
「誕生日にケーキ買ってやる」って言ったら遠慮しまくるかと思ったけど、すんげぇ嬉しい顔をされたから、ちょっと俺もテンションが上がった。
ケーキ屋の情報は俺の中に全く無くて、これは女子力の高い奏太なら何かしら持ってるだろうと踏んで聞いてみると……
出るわ出るわ…。
ケーキ屋について、めっちゃLINE来た………正直、情報量多すぎだよ。
厳選して、って頼んで、3軒に絞って貰った。
どれも、雑誌やテレビで何回も紹介されてる店らしい。
ショップのサイトを見るとケーキの画像があって、慶にその3軒に順位をつけさせた。
「え~、決めれない~」「迷う~」と、だいぶ長い事悩んでたけど、出かける前には何とか順番を決めた。
1軒目はデパートの地下で、すごく広い面積を占めてる人気店。
慶はここが第一候補だから、車を停めてここへ歩いて来るまでの間もご機嫌だった。
いつも以上にフワフワしてる感じ。
まぁ、それも可愛いんですけど。
「一緒に食べるから、侑利くんも好きなやつにしないとね~」
とか言って、歩いてる俺の顔を覗き込んで来る。
すごくデカい店だから、迷う事は無く着いた。
慶はもう、ショーケースのケーキに釘付けだし。
「う~ん……」
ケーキをガン見。
前に水族館でイルカ見た時と同じ目だよ、お前…。
「……困った…」
「何」
「悩んでる」
「どれ」
慶が指さしたのは、チョコレートでコーティングされた、色んなフルーツがこれでもかと乗っかってる小さなホールケーキと、いちごを巻いたロールケーキで、こっちは上にクリームが乗っててその上に更にいちごがぎっしり並んでる。
「この2つ」
「あ~」
「侑利くんはどれが良い?」
俺は正直……どれでもいいんだけど……
興味がないって意味じゃ無くて……特に特化して好きなケーキが無いっていう……どれ選んでも美味しく食べれるよ、ってやつだ。
でも、1つは慶のと被ってた。
「俺もこのチョコのやつは良いかなって思った」
慶が初めに指差したホールケーキ。
「よしっ、じゃあコレにするっ」
「え、決めんの?」
「うんっ」
早っ!!
「え、もう決めるの?」
「うんっ」
「他の2軒は?」
「もう、これしか考えられない」
あっさり決定したぞ。
あんなに悩んで順番決めたのに、1軒目でサクッと決めんのかよっ。
でも、もう揺るがなさそうな慶の様子を見て、店員を呼んで予約した。
11日の昼頃に取りに来る、って事で。
何故、11日かと言うと……慶の誕生日当日の12日とその翌日13日は、慶が選んだ温泉一泊旅行に行く事に決めたからだ。
割と急に決めたからどうかな、って思ったけど……
年末はすげぇ混むのが毎年恒例みたいだけど、行くのはまだ中旬だし両方平日って事で、旅館は空きがあったらしく難なく予約出来た。
前日はお互い仕事で、俺が帰宅した時にはもう12日になってるから、俺が帰ってからケーキ食べたいって慶が言い出して。
そんな時間にケーキ食う奴居ねえと思うけど…。
まぁ、良いか。
ケーキの予約を済ませて慶を見ると、今度はショーケースのショートケーキをガン見してる。
獲物を狙う獣の目になってんぞ。
「ねぇねぇ、侑利くん」
「ん?」
ニコニコしながら近付いて来る。
だいたい分かるわ、言おうとしてる事。
「お茶して行こうよ~」
ほらね。
そうだと思ったわ。
店は奥がカフェになってて、店頭で選んだケーキとドリンクのセットが人気らしい。
レジのとこに思いっきり書いてあった。
半ば強引にケーキを決めさせられ、カフェの方に移動。
まぁ、ここでも慶は注目を浴びてますけどね。
で、ついでに言うと、そういう時いつも慶は「皆、侑利くんの事見てるよ」って言う。
今もやっぱりそう言った。
でも…多分、それ、俺じゃなくてお前を見てんだよ。
お前自分じゃ全く思ってねぇだろうけど、すんげぇ目立ってるからね。
「ケーキ、早く決まって良かったな」
「うんっ、楽しみっ、早く誕生日来ないかなぁ~」
嬉しそうに慶はそう言ったけど………その後に続く言葉は無く、だんだん……何か、堪えてる感じになって来てる。
「びっくり」
「何が」
「…誕生日早く来ないかなぁなんて……思えるなんて」
ちょっと声が震えてる気がした。
慶の感情は忙しく切り替わる。
それだけ、不安定なんだ。
充実してるようでも、そうじゃない。
少し気を抜くと、過去の辛い出来事が割り込んで来ようとするんだ。
今でもたまに、寝てても飛び起きる事がある。
2~3回深呼吸して、もう一回寝るけど……それですんなり寝れる時と、そうじゃない時があって……そうじゃない時はいつも、朝まで辛くて苦しそうにしてる。
俺は、そんな慶を見てるから……こうやって素直に誕生日を楽しみに思ってる姿を見るのは、すごく嬉しい気分になる。
「俺も、お前の誕生日早く来ねぇかなって思ってるよ」
「え?」
慶がちょっと俯いてた顔を上げる。
「お前が生まれた日を祝いたい、一緒に」
今度は、嬉しそうな表情へと切り替わる。
慶の後ろから店員がケーキセットを運んで来てる。
方向と時間的にも俺らの注文のセットだろう。
感動屋の慶は、ちょっと赤くなった目で俺を見てる。
「侑利くん、大好きっ」
「お待たせいたしました」
……………。
店員さん、思いっ切り「え?」って顔になってるしっ。
慶は、あからさまに「ハッ」とした顔をして店員を見てから、恥ずかしそうに俺を見る。
俺も、慶が言った瞬間の「え?」の顔の店員と目が合って、何とも言えない微妙な空気。
店員がケーキセットを置き切るまでの時間が異常に長く感じたわ。
誰も何も喋んねぇし…。
「ごゆっくりどうぞ」の声に、俺と慶と何故かその店員も一緒に顔を見合わせ、一応軽く礼。
この店員、裏に返ったら俺らの事めっちゃ言うんだろうな……
「お前っ、恥ずいわっ」
店員が去るなり言ってやった。
「だって、後ろから来てるなんて知らなかったんだもんっ」
「だもん、じゃねぇし」
「店員さん来てるって言ってよねっ」
「こっちはお前があんな事言うと思ってねぇし」
「だって、その前に侑利くんがあんな事言うから、好きだなって思っちゃったんじゃんっ」
「好きなのは分かってるよ」
「言いたくなったんだよっ」
何だコレ。
どんな言い合いだよ。
ってか、どっちでもいいわ。
「ふふっ、」
慶が小さく笑った。
「…何か面白いね」
「…お前のせいだぞ」
「店員さんの顔が」
「はぁ?みたいになってた」
「あははっ、おもしろ~」
他人事か。
慶は、クスクス笑いながら、ケーキのフィルムを外してる。
俺も同じように外しながら、楽しそうな慶の顔を見て、やっぱり笑ってるのが良いなって思ったり。
11日に取りに来るのも、ちょっと恥ずいけどな…。
店を出て、ちょっと店内をぶらぶら。
広い雑貨屋があるフロアに来た。
入って見てたら、ポケットの携帯が震えた。
取り出すと……巴流からの着信。
ちょっと、これ、待ってたやつだっ。
「慶、ちょっと見てて。俺、そこのソファで電話」
携帯を見せて慶に言う。
オッケー、と指で示したのを確認して店先のソファに向かいながら電話に出る。
「はいはいはいはい、どうなった?」
『いやいや、出方っ、変だからっ』
俺も変だと思ったよ。
でも「おー」とか「どうも」とかそんな前置き要らねぇ。
どうなったか聞かせてくれっ。
「そんなんどうでも良い、どうなった?」
もう一度聞く。
『こんなグイグイ来んだな、侑利』
「気になってんだよ」
正直に言う。
『うーん……作戦通り』
「ん?」
『先手必勝』
「おおぉ~~っ」
『大和は………最初は嫌がってたけど』
最初は、って事は…。
『嫌がってたって言うか…何か…置かれてる状況を受け入れられない、みたいな』
「…攻める気だったら、余計そうだろうな」
ちょっと大和が気の毒な感じもして来たけど…。
『でも……その…まぁ……やってみたら……案外、いけんだな、……みたいな……その……思ったより良かった……みたいな』
「………生々しいわ」
『想像してんなよっ』
「や、俺、自分の想像力の豊かさが今憎い」
『想像すんなーっ』
「待って、今打ち消してるとこ」
『ははっ、バーカ』
お前にバカって突っ込まれたくねぇけどさ。
「え、じゃあ、決定したの?」
どっち側か。
『それが…今んとこ大和が何も言わねぇんだよ』
「ん?」
『今度は俺が攻めたいとか』
「……決定じゃん」
『いや、分かんねぇけどさ』
「いやぁ……まぁ…とにかく、おめでとう」
『お~、ありがとうありがとう』
……ま、決定じゃないかも知れねぇけど……とにかく、進展したって事で。
「今、家?」
『うん』
「大和は?」
『風呂入ってる、あ、出て来た。代わる?』
「俺に話してる事、大和知ってんの?」
『今朝言った』
「あー。じゃ、代わる」
『お、ちょっと待って』
巴流が大和に電話を渡してる声が小さく聞こえる。
『もしもし侑利?』
「おー」
『おーじゃないからっ、何俺の知らないとこで巴流の事応援してんのっ!』
……怒られた。
『襲われたじゃんっ』
そこっ!?
それで怒られる俺って……
「…それ、俺に言われても…」
『まぁ…そうだな』
あ、冷静になった。
「巴流、バカだけど良いの?」
『あっははは、ほんとだね』
笑ってるし。
『今度、俺が襲ってやる』
え……巴流、作戦失敗してんぞ。
思いっきり言ってるぞ?
「え、襲うの?」
『うん』
「巴流を?」
『うん』
「大和が?」
『ダメ?』
「……襲いたいの?」
『……そう、改めて言われると……』
「まぁ、まだ…始まったばっかだもんな」
『うん』
大和も、そりゃ混乱するわな…。
しかも、巴流に襲われたんだから。
俺だったらしばらく飯食えねぇわ。
「襲いたくなったらやったら良いよ」
『ならなかったら?』
「…黙って、襲われる」
『ううぅ~~~』
大和が変になってるぞ。
いつもはクールな大和が、何かすげぇ動揺してる感じが新鮮だわ。
「大和」
『うぅ』
「今度教えて」
『何を?』
「どんなだったか」
『ヤダヤダヤダヤダ絶対ヤダッ』
めっちゃ断って来るじゃん。
「あははっ、すげぇ嫌がってる」
『嫌だよ、そんなの、絶対言わないっ』
「じゃ、巴流に聞く」
『ダメダメダメダメ』
「あっはは、おもしれぇ」
『ちょっと侑利っ、遊んでんなっ!』
「お前らいつも俺で遊ぶだろ」
『だからってここで弄んなよっ』
「ははっ、おもしれぇわ」
『面白くないよっ』
あー、大和、おもしれぇ。
もうちょっと弄ってやろうかと思ったけど、そろそろ本気で怒られそうだから止めておいた。
「まぁ、でも、良かったじゃん」
『…まぁ…うん、そう、かな』
「何だよ、キレ悪いなぁ」
『襲われたとこだけが納得いかないけど……まぁ、それ以外は良かった』
……すんげぇ引っ掛かってるじゃん。
『巴流がうるさいから代わる。ありがとね、侑利』
俺は何もしてねぇよ。
巴流の応援はしたけど…。
『っていう訳でさ』
「あー、よく分かったわ」
『また、休み合ったら飯でも行こうぜ』
「そうだな」
その時までには、どっち側か決定するかな。
まぁ、何にしろ、上手く行きそうだから良かった……俺も、弄り甲斐あるわ。
巴流との電話を終わり、雑貨屋の中の慶を見る。
目立つから直ぐ分かる。
近付いて行ってみると、真剣な顔で何かを見てる。
真剣すぎて俺が後ろに立ってんの気付いて無いし。
肩越しに覗き込むと、流石に気付いた慶が振り返って「うわぁっ」とか声出すもんだから、ちょっと周りの人がこっち見てるし…。
「もぉっ、気配消さないでっ」
「悪ぃ、」
別に気配消してた訳じゃねぇのに…。
「それ欲しいの?」
「え?」
手にしていたものを見る。
「携帯のケースでしょ?」
「あぁ、うん。こういうのしてたらやっぱ傷とか付きにくい?」
この前、落として割れたしな。
慶が手に持ってるのは、よくある手帳型のもの。
シンプルなベージュの革で、下の方だけ型押しの模様が入ってる。
「あぁ、そりゃだいぶ違うんじゃねぇ?」
「そっか…ふ~ん」
手に持ってるケースを開けたり閉じたりひっくり返して見たりしてる。
……欲しいんだったら買ってやろうか?
「欲しいの?」
「う~ん、考え中」
「買ってやるけど?」
「ダメダメ、それはいい」
出たよ、真面目な性格。
まぁ、そう言うと思ってたけどさ。
「俺も今つけてるやつだいぶ汚れてるからなぁ…」
「色違いでお揃いにする?」
ふんわりした笑顔で俺を見る。
俺の好きな表情だ。
「あー、良いよ」
抱き締めてやりたくなるのを堪えて、平静を装って言う。
「あっ、じゃあさ、今度ケーキ取りに来た時に買いに来ない?」
「ん?何で?」
「ケーキ11日でしょ?俺、お給料10日に入るから、それで買う」
……ちゃんとしてんな、やっぱり。
初給料なんだから、別に大事に持ってりゃ良いのに。
「他にも買いたい物あるんだ~、それも11日に侑利くんに選んで欲しい」
「え、何?」
「あのね、これよりもっとあったかい上着」
あ……それ、絶対要るだろ。
「これ、薄いもんなぁ」
慶が着てる薄手のアウターの腰の辺りを摘まんで揺らす。
「だいぶ寒くなって来た」
「11まで待たなくたってさ、今日、見たら?」
「え、今日は無理だよ~お金無いし~」
そりゃ、給料入ってねぇからな。
「今日は俺が出しといて、給料入ったら返してくれたら良いじゃん」
「……う~ん…」
すんげぇ悩んでる。
そんなに真剣に悩まなくても…。
「…じゃあ……良いのあったらそうしようかな」
「良いよ。でもそれならさぁ…」
「ん?」
慶が「?」を浮かべて俺を見る。
「それも買っといたら?」
慶がずっと持ってる携帯ケース。
「えっ、いや、これはいいよっ、今度にしよ?」
「でも、一緒の事じゃん、後で返してくれるんだったらさ」
「……そうだけど…」
凄く申し訳無さそうな表情だ。
「今度来たら売れて無くなってるかも知んねぇよ?」
「え、…………」
黙った。
「俺も買うわ。お揃いにすんだろ?」
「う、うん」
「俺のも選んでよ」
「え?」
驚いたように俺を見たけど、直ぐに嬉しそうにフニャッと笑った。
ちょっと……その顔が可愛すぎて、慶の頭をグリグリしてやった。
もう~、とか言ってるけど、そこはスルー。
「俺はね、これにするって決めてんの。侑利くんはぁ……これか、これなんだよなぁ」
う~ん、とか何とか言ってるけど、携帯ケース1つでも真剣に俺の事を考えてくれんだね。
慶が俺に選んだのは、キャメルっぽい色のケース。
慶曰く「俺っぽい」らしい。
俺も、好きな色ではある。
慶はずっと手に持ってたベージュのやつ。
会計を済ませた俺に「ありがとう」と礼を言う。
これぐらいお前の分も買ってやったって良いんだけどさ……どうしてもそういうのを許さない奴だからなぁ…。
「お揃いだね」などと言いながら、嬉しそうに袋の中の2つのケースを眺めながら歩いてる。
それに集中しすぎてちょっと躓いてるしな…。
とにかく、俺は慶とのこういう、何でもない緩い時間が前から好きで……マジで、あの日、俺の前に現れてくれてありがとう、って思うんだよ。
「これ、…うーん、それかこっちかな」
今度は俺が悩んでる。
アウターを選んでと言われ、今2つに絞ったところ。
どっちも似合いそうだけど…。
「ちょっと着てみ?」
「うん」
素直に頷くと、今着てる薄いアウターを脱いで俺に渡して来る。
俺はそれを受け取りながら、改めて慶を見る。
「やっぱお前、ほんと、ほっそいね」
「何だよぉ~、今更」
「はは、まぁそうだけどさ、改めて見たら。……脱いだらそんなにガリガリ感ねぇのにな、」
そこまで言った所で軽く脛を蹴られる。
「いった、何だよ」
「そういう事はもっと小さい声で言ってよ」
小さい声なら言って良いのかよ。
慶は、誰かに聞こえてないか少しキョロキョロしながら、1つ目のアウターを着る。
「どう?」
いつも着てるアウターより丈が短めの黒のダウン。
少し細身のデザインだけど、慶が細いから普通に着れてる。
今までのアウターが太腿くらいまでの丈で、それしか見て無かったから今試着してる丈のデザインはすごく新鮮だし、長い足が全部見えるからスタイルの良さが強調されてて良い。
「似合うよ」
「ほんと?」
嬉しそうな顔して、鏡で色んな角度からチェックしてる。
「じゃ、今度そっち」
一度脱いで、もう1つを着る。
こっちは、裏地がモコモコしてる感じのカーキのモッズコート。
丈はいつも着てるアウターと似てるから、すんなり似合ってる。
「どっちも似合ってるよ。慶はどっちが良いの?」
「う~~ん……こっちも好きだけど、温かかったのは1こ目かなぁ…」
もう一度最初のを着てみる。
「うん、こっちのが軽くて温かい」
「そっか。俺は、軽いの結構重視する派だわ」
ダウンはマジで温かいからな。
「…あ、ちょっと待って…」と言って、値札確認してる。
両方とも確認して給料と相談してるとこが、何かツボなんですけど。
ダウンは16,800円。
モッズコートは18,900円。
でも、クリスマスセールでどちらもそこから3割引き。
「侑利くんは、どっちが似合ってると思う?」
「俺は、こっち」
結構即答でダウンを指差した。
こっちの方が、何か好きだ。
「……じゃあ、これにする」
ダウンを俺に差し出す。
「慶はこっちで良いの?」
「うん、こっちのが軽くて温かかった。それに、」
「それに?」
「侑利くんがこっちが似合うって言ってくれたし~」
業とらしく語尾を伸ばして言う。
それにしても、慶は意外と何でも決めるのが早い方だ。
どうしよう~とかずっと言ってそうだけどな…。
「外寒いし、値札切ってもらって着れば?」
「あ、うん、そうする~」
俺はほんとに、慶には何でもしてやりたくなるぐらい構いたくて、正直、買ってやりたい物も山ほどある。
だいたい、ほとんど私物が無いからな、慶は。
レジに持って行き、値札を外してもらったダウンを慶に渡す。
「ありがとう~」と言いながら、早速着てる。
代わりに薄い方のアウターを袋に入れて貰った。
釣りを財布に仕舞おうとしてた俺の手から慶がレシートを抜き取る。
「これ、貰っとくね」
「ちゃんとしてんなぁ、お前」
「え、普通だよ~」
とか言いながら、レシートを無くさないように自分の財布に仕舞ってる。
1の位まできっちり返して来そうだな……。
「やっぱり温かいね~、これにして良かった」
嬉しそうに俺に笑顔を投げかけて来る。
旅行には温かい服装で行かないとって思ってたから、買えて良かった。
もう12月だし、そりゃ普通に寒いよ…。
アウターだけじゃなくて、その中に着る服だってパンツだって今持ってる数じゃほんとに冬越せねぇぞ、ってぐらい少ないからさ…。
俺がどんどん買ってったら、きっと慶にすんげぇ怒られるだろうけど……それ承知で勝手に買ってやろうと思ってる。
とにかく、物欲が人より格段に少ないからな、慶は…。
細くて薄いから寒そうだし。
誕生日の後に控えてる、クリスマスプレゼントって事にすりゃ何とかなるかな…。
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