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「侑利、お前、完全にやられてんだな」

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月曜。

今日は夕方6時からBIRTHがリニューアルオープンだ。

いつもオープンは6時だから4時に家を出て準備とかするんだけど、今日は花輪が届いたり、最終の店内チェックなどもあり、で2時に全員出勤する事になってる。

そして、慶も今日から新しいバイトが始まる。
俺的には、そっちの方が心配な訳だ。

何か、工場で箱作るとか言ってたな…。
同じ作業の繰り返しっぽいけど、そういうの大丈夫か?……って今更それ言っても仕方ねぇけど……。

とにかく慶は、自分でちゃんと働いて給料を貰いたいんだろう。
俺に渡す分とか、自転車の分とか……それに、色々買いたい物もあるだろう。

服だって、俺と買いに行っただけで他は何にも買って無い。
あの時は誕生日プレゼントって事にしたけど……


って…

誕生日…。


12月って言ってたな…。
来月じゃん。

「慶」
「んー?」

洗濯物をベランダに干しながら、部屋から呼びかけた俺に向かって返事する。
奥さん感出てるわぁ…。

「まだ聞けてなかったけど……お前、誕生日いつ?」

唐突な質問に、洗濯を干す手が止まる。

「何なに、急に~」
「いや、前に聞いたけど、12月ってだけしか知らねぇから」
「12日。1212だよ、覚えやすいでしょ?」

覚えとけよ、って事か?
まぁ……忘れねぇけど。

「あ、でも、プレゼントはもう良いからね」
「え?」
「服、買ってもらったし。あれ、誕生日プレゼントだよ?」

あの時は、納得させるためにそう言っただけだったけど……ちゃんと覚えてんだな…。

「あぁ…まぁ、そうだけどさ、」
「だから要らないよ」

欲がねぇな、お前はいつも…。
俺の周りに居た女は、誕生日やイベントの時はギラギラしてたけどな…。

「侑利くんの誕生日も聞いてないよ」

あー、そーだな。

「俺はとっくに終わってるよ、7月1日」
「夏なんだ」
「そ」

洗濯物を干し終えて、部屋に入って来て「寒い~」とか言いながら窓を閉める。

「21になんだな」
「そうだよ~」

軽く言ったけど……不意に真面目な顔になって、俺の前に立つ。

「侑利くんと出会うまでは……自分が21になるなんて思ってなかったな…」

その目が少し……揺らいだ気がした……それと同時に慶が俺にゆっくりと抱き付いて来る。
とん、と俺の肩口に慶の頭が乗る。

条件反射的にその薄い体を抱きしめた。

「侑利くんと出会って無かったら……俺はハタチのままで…きっと死んでた」
「もういいよ、その話は」

慶の背中を摩ってやる。
泣くかも知れないって思ったから。

「でも、」

言いたい事がまだあるんだな…。

「侑利くんが……俺の人生を変えてくれたんだ。……死ななくて良かった……侑利くんに会えないで死んでたら………ほんとに…生まれた意味が無くなるとこだった」

素直な言葉に…胸の奥がツンとした。

「俺はそんな良いもんじゃねぇよ」

少し照れ隠しにそんな風に言ってみる。


「俺を好きになってくれてありがとう」


何度も聞いた言葉だ。
慶は、いつも言う。

それこそ、行為の途中でも……

この言葉を聞くと……いつも、泣きながら自分の過去を話してくれた時の慶を思い出す。
辛かったんだ、って……思い知らされる。


「俺はきっと……もっとお前を好きになるよ」


多分、泣き出した。
肩が少し震えてる。

俺が支えるって決めた。
無理してるんじゃなくて……そうしたいって思うから。





~~~~~~~~


BIRTHに行くと、既に花輪が沢山立っててリニューアルオープン感がすげぇ。

昨日、フロア、厨房共に新しい服も支給された。
基本的には、前BIRTHからずっとフロアスタッフはベストスーツなんだけど、店内が黒と赤になったからそれに合わせてスーツの色も変えたらしい。

ベストは光沢のある濃いグレーで、パンツが黒。
ネクタイは無くて、シャツが白、黒、紺の3色でどれを着ても良い。
ベルトと靴まで支給してくれるあたりが、桐ケ谷さんの太っ腹な部分かも。

新しい服は、落ち着いてて、好きな感じ。

俺を含めた厨房に入る事もある数人は、厨房の白い服とエプロンも貰った。
フロアと厨房を行き来する時は、がっつり料理する訳じゃないからエプロンだけ着ければ良い。

エプロンは、桐ケ谷さんが気に入って独断で決めたって言ってたデニム素材のもので、少々の事では破れたりしなさそうだし、何より見た目がオシャレだよ、全く。

とにかく、全てが新しくて着慣れないけど、まぁ、直ぐ馴染むだろう。



集合して早々に、桐ケ谷さんからリニューアルオープンに向けての話があった。

内容は、色々。
この1週間は平日でもそこそこ忙しくなるだろうし、週末はドリンクやフードを時間で区切って無料提供するらしく、とにかくかなりの客数になるだろう、って予想。
週末辺りは、俺も厨房かも知れねぇな…。

全員、気合いを入れ直す。
とにかくしばらくは休めないだろうから、体調管理をしっかりするよう念を押された。

ただでさえイベント事の多い時期だし……集客率は桐ケ谷さんじゃなくても気になる所だ。






オープン1時間前。

…慶はもう、行ってる頃だ…。
5時から10時って言ってた。

何と言っても移動は徒歩だし、初日だから少し早めに行くって言ってたから4時前には家を出ただろう…。

場所を聞いたら、けっこう距離があった。
スーパーへ行くよりも遠いぐらい……多分、40分くらいかかるんじゃねぇか?

アイツはどこまでも歩いて行くけど、正直俺にしてみたら、心配でしかない。
特に、夜。

あんなのが1人歩いてたら、変な奴が変な気起こして、何かされたり………マジで有り得そうで考え出したら落ち着かない。

…まぁ、それは無かったとしてもだ…………仕事を終えて40分かけて歩いて帰って来ようとは、俺は絶対思わねぇ。
だからこそ俺は、自転車を早く買いたいんだ。

10時に終わって、直ぐに職場を出れたとしても…そこから40分だ…。
知らねぇけど…日報書いたりとか、タイムカード押したり、そんな事してたら10分や20分すぐに経ってしまう。

だから、帰宅すんのは……どこにも寄り道しないで、11時だろうと踏んでいる。

まぁ……俺みたいに深夜じゃねぇからまだマシだけど……
マジで防犯ベル持たせてやろうかと思うぐらい、心配でならない。

俺って……面白れぇくらい慶にハマってんだな……



オープン10分前……一度携帯をチェックする。
慶が何か……やらかしてないかのチェックも兼て。

『緊張するけど行って来るね!侑利くんもがんばってね!』

普通だけど、何事も無いよう願っててやろうって思うのは、俺が慶に完全にやられてしまってるからだろうな…。






18時ジャスト。

桐ケ谷さんが、入り口の黒い扉を開けると、オープンを待ってくれていたお客さん達が、拍手で祝ってくれた。

何組も待ってくれてて、ほんと嬉しい限りだ。
お客さん達を前に、桐ケ谷さんが短めにお礼の挨拶をした。

一組ずつ店内へ通すけど、入り口の両脇に奏太と、奏太の同期の蓮(樋口 蓮:ひぐち れん)が立って、お客さん全員にちょっとしたギフトを渡す。

顔の広い桐ケ谷さんが、知り合いのアーティストの方に頼んで造ってもらったコースターらしい。

とにかく、桐ケ谷さんはBIRTHを溺愛してるからな。
まぁ、自分の店なんだから当たり前か…。

でも、そんな桐ケ谷さんだから、この店を大事に使わないといけないって思う。
愛社精神だな、まさに。




オープンして1時間も経つと、フロアは平日にも関わらずけっこうなお客さんの数になった。

時間も晩飯時で、BARだけどけっこうフードメニューが充実してるから、がっつり食べたい男性客も割と多く来てくれる。
フードメニューはBIRTHを気に入って来てくれる人達のリピート理由の、割と上位を占めている。

だから、コンパに使われたりする事は多いし、結婚式の二次会会場として貸し切りになった事も何度もある。
桐ケ谷さんが昔バンドやってたから、音楽イベントを開催する時もあって、割といろんなジャンルのお客さんが来てくれるのも、BIRTHの特徴。

「久我さんっ」

呼ばれて振り返る。

「あぁ、どうも」

光だ。
いつもの3人で来てくれてる。

「リニューアルオープンおめでとうございますっ」
「ありがとうございます」

光のお辞儀につられて俺も頭を下げる。

「すっごい変わりましたね、めっちゃオシャレでびっくりしましたっ」

店内の音楽に負けないように、少し前のめりで言う。

「店長のセンスです」
「すごいおしゃれ~」
「店長に言ってあげて下さい」

あはは、とお互い笑う。

「侑利、指名入ってるよ」

天馬がやって来た。

「あ、いつも来てくれてる…」
「あ、はいっ、今日も来ましたっ。あっ、」

と言って、隣に居た光よりも小柄な草食系男子の背中を押して前へ突き出す。

「黒瀬さんの大ファンです」

と、慶ばりに緊張した表情の友達の代わりに光が言う。

「えっ、そうなの?ありがとう」

軽いな、お前の返事…。
チャラさが出てんぞ。

「指名しないの?」

光が聞くけど、どうやら友達は固まってるらしい。
もう1人の友達が横から何か言って、勝手に天馬を指名した。

「あはは、硬ぇ」

硬直状態の光の友達を見て、天馬がウケてる。

「あ、じゃあ、ゆっくりしてって下さい」

指名が入ったって事だからそっちに行こうと光に声をかける。

「…久我さん、もう指名されちゃったんですよね」
「2組までなら被っても大丈夫ですよ」

俯きかけてた光がバッと顔を上げる。

「えっ、ほんとですかっ?……じゃあ…指名します」
「はは、ありがとうございます」

恥ずかしがってる割には、しっかり指名して来る辺りがちょっとウケる。

「じゃあ、これ」

指名してくれたお客さんを見失わない様に、リストバンドを巻いて貰うようにしてる。
これは、BIRTHがオープンして、スタッフが指名される事が多くなって来た頃からずっとやってる。

店内が暗めだから、よく目立つように、蛍光色に光るやつ。
よく、祭りの屋台で売ってるようなアレだ。

巻いててくれるとよく目立つから、探すのが楽。
光にリストバンドを渡して、その場を去った。


リニューアルオープンに合わせて、常連さん達も沢山来てくれてるのが分かる。
指名の人の事を聞きに一旦戻ると、カウンターには常連さん達からと思われる花や差し入れが沢山置かれてて、素直にありがたいなって思う。

「侑利、これ、指名のお客さんのだから一緒に持ってって」

ちょうど注文のフードが出来たとこだったから、お客さんのとこまで持って行く。

ちょっと年上のお姉さん達って感じかな…。
初指名だ。

俺が運んで行ってるのが分かって、めっちゃアピールされてる…。
テンション高そうだな…

「来た来た、ほんとに来た~~」

いや、来るでしょ、指名してんだから…って突っ込んでみようかとも思ったけど、その前に……

「「カッコいい~~~~~っ」」

と言われた。
お姉さん達のテンションが高くて声がデカいから、周りのお客さんにめっちゃ見られてる俺…。

「あ、パスタです。トマトクリームとカルボナーラ」

とりあえず、パスタをそれぞれの前に置く。

「わぁ~、美味しそう~~」

もう、パスタの撮影始まってるし…

「めっちゃ美味いですよ」
「久我くんはどっちがおすすめ?」

フレンドリーだ。

「俺は、こっちです」

トマトクリームを指差す。

「ほらー、やっぱりこっちだよぉ~」
「え~、でも私はとにかくカルボナーラが好きだからこれで良いのっ」
「こっちも美味いっすけどね」

確かに、どっちも美味いんだけど。

「久我くんって何歳?」
「24です」
「あー、うちの弟と一緒だ」
「お姉さんは、何歳ですか?」
「お姉さんって……」
「「可愛い~~~~~」」

今度は、可愛い、だ。
…年上の人には大抵言われるワードだから慣れては居る。

「お姉さんは28」
「私も。高校の同級生なんだ~」
「仲良いんですね」
「偶然アパートも近くになっちゃって、平日でも夜出かけたり出来るようになったから、初めてだけどここ工事してて気になってたから来てみたんだぁ」
「あぁ、けっこう大がかりな工事で1ヶ月休んでたんですよ」
「えー、何やってたの?その間」
「最初と最後は撤去作業とか搬入作業してたんですけど、それ以外は休みでした。旅行とか行ったり」
「え~良いなぁ、どこ行ったの?」
「沖縄です」
「「良いなぁ~~~~」」

揃ってる。

「彼女と行ったの?」
「や、ここのスタッフ半分くらい」
「そうなのっ?」
「男ばっかです」
「あははは、それも良いね」
「男前ばっかだし、私も一緒に行きたかったよ」
「ほんとだね~、久我くん、ほんとにカッコ良いよぉ」
「……コメントし辛いですけど…」
「「可愛い~~~」」

いやいや。

「あ、パスタ、冷めないうちに食べて下さいね。指名いただいてるんでまた来ます」
「えっ、また来てくれるの?」
「指名なんで。帰るまで」
「そうなの?」
「めっちゃ来ますよ」
「あはは、めっちゃ来るんだね」
「ウザくなったら指名切って下さい」
「切らない切らない」
「はははっ、じゃあ、また来ますね」
「はぁ~い」

お姉さん2人に手を振られる。
軽くお辞儀をしてカウンターに戻った。

指名と言っても、隣にべったりくっ付くんじゃなくて、その人が店に居る間は優先的に話しに行くって感じ。

今日は、久々の営業ってのもあって、俺ら4人だけでなく他のスタッフもほぼ全員指名が入ってるようだ。
1ヶ月も休んでたから、まぁ、そうなるか…。

熱狂的なファンみたいなお客さんもたまに居る。
とにかくお目当てのスタッフに会うためだけにやって来る…みたいな…。

天馬は昔、そういう類の女の人にストーカーばりにつき纏われて、だいぶ悩んでた時があった。
結局最後は「付き合って」とか言われて、相手を刺激しないよう丁寧に断った。
まだ分別のある人だったからか、事態は悪化せずそのまま静まったけど……逆上型の人だったらそれこそ何か事件にでもなったかも知れない。

まぁ、こんだけ沢山の人が入れ替わり来るんだから、中には変な人が居たっておかしくない。

光たちからのオーダーが入ってたから、それを持って再度そっちのテーブルへ。

「はい、弱めのカシスオレンジ」

光の手に直接渡す。

「こっちは普通のカシスオレンジと、モスコミュール」

天馬ファンの友達と、もう1人の前にそれぞれ飲み物を置いて、俺は光の隣の空席に勝手に座る。
天馬ももう一組指名が入ってるみたいだから、今はそっちに行ってて居なかった。

「え…座っちゃって大丈夫なんですか?」

驚いたように光が言った。

「え、ダメですか?」
「い、やっ、全然ダメじゃないですっ、何ならずっと座ってて欲しいくらいですっ」

……………それも…コメントし辛いって…。

「あ、す、すみませんっ」
「いや…あはは」

仕方なく笑っといた。

「指名…女の人ですか?」
「え、あぁ、そう」
「間からチラッと見えました。美人なお姉さんですよね」
「テンション高めですけど」
「そうなんですか?」

可愛い~とか言われたし。

「でも、久我さんが来たら盛り上がるの分かります」
「え?」
「俺も、密かにテンション上がってます」
「密かに上げなくても…」
「こいつ、久我さんが来るまですごい落ち着きなかったんですよ~、間から見えたとか言ってたけど、めっちゃガン見してたし」
「ちょっとぉー!」

友達の暴露に光が焦ってる。

「ストーカータイプ?」
「違いますっ、違います違いますっ」

全力で否定して来た。

「つい見ちゃっただけですっ」
「無意識っ」

更に友達に突っ込まれて、もぉーっ、とか言ってる。

俺はけっこう…年下の男に人気がある。
今まで俺に告白して来た男は、何故か全部年下だ。

どういう要素なのか……何が魅力なのか分かんねぇけど……
大体こういう、光みたいな元気で可愛いタイプだ。

思ってみれば高校時代も、俺の周りには後輩が沢山居た。
好きとかそういうんじゃないけど、何故か懐いて来るのは年下だった。

「お、侑利」

天馬が来た……途端に、天馬ファンの子がグイッとモスコミュールを飲んだ。
アルコールでどうにか緊張を飛ばそうとしてんな…。

「大丈夫かな…」

友達2人と天馬で話してるのを見ながら光が小さく呟いた。

「あんまり飲めない子?」
「うーん…俺よりは少し飲めるんですけど…黒瀬さん居るから変になってます」

はは、と苦笑い。
でも、その辺は天馬もとうに気が付いてるし、悪酔いするほど飲ませないと思うから、大丈夫だろう。

「光くんは?」
「えっっ!?」
「え?」

丸い目を更に丸くして俺を見る。

「えっ、今、何て言ったんですかっ??」
「え…光、ですよね?名前」

光が明らかに動揺しだす。

「えっ、はい、そうです、けど……急に、そんな、光くんなんて呼ばれたら、ちょっと、破壊力が凄いです…」

両手を頬にあてて顔を覆ってる。
女子かよっ。

「いや、前に名前聞いたから、勝手に呼んでみたんですけど」
「あー、全然大丈夫ですっ、むしろ呼んで下さいっ」

心の中では「光」って呼んでるけどな、って思ったけど、それ言うと倒れるかも知れねぇな、って思って言わないでおいた。

「お酒、何杯目ですか?」
「これ、2杯目です。同じやつ2杯目」

あはは、と笑う。
明るい性格だ。

「同じやつ?違うの作りましょうか?」
「だ、大丈夫です、違うの飲んだら変に酔っ払いそうだから…」

手で顔をパタパタと仰ぎながら言う。
弱いんだな、ほんとに。

「この間は……スーパーで、すみませんでした」
「え?」
「…何か……後で考えたら……すごい事言っちゃったな、って思って…」

確かに……突然、告白されたみたいになったけど……

「あぁ…いえ、」

店の照明で分かり難いけど、多分真っ赤な顔をして俯いてる。

「…あの、いつも一緒に居るキレイな人…」

急に慶の事を言われて、ドキッとした。

「…恋人ですか?」

核心をついて来た。

「あぁ……まぁ、」

光は、俺の返事に少し動揺してる感じ…。


「……あれぐらいキレイな人だと…久我さんに好きになって貰えるんですね…」


…………そう言われて、俺は何てコメントすれば良いんだって…。
返答に困るわ…。

「…や…俺、別に普通ですよ?」
「いえっ、普通じゃないですっ!久我さんは、めっちゃイケメンですっ!!大学で俺の周りどこ探しても久我さんみたいなイケメンいませんっ!!」

すんげぇ力説された。
力説しすぎて声デカいから、天馬たちもこっちを振り返る。

「すっ、すみませんっ」
「い…いや、良いですよ、別に。まぁ…すげぇ褒められた感あるし…」

光は、振り返った天馬たちをチラッと見て、また恥ずかしそうに俯いた。

「……迷惑かけません…だから……好きで居て良いですか?」
「……良いけど…それで良いんですか?」

だって、それって、しんどいだけじゃねぇの?

「今…久我さんの事、無理矢理あきらめる方が辛いです」

……当事者だけに、マジでコメント出来ねぇわ…。

「鬱陶しいですか?」
「いや、そんな事は無いです、全然」
「良かった…」

少しだけホッとしたような表情を浮かべる。

「嫌いなタイプとか…苦手なタイプとかじゃないですか?俺」
「…ははっ」

ホッとした表情から一変、心配そうに聞いて来た内容にちょっと可笑しくなって笑ってしまった。

「面白いな、とは思ってますけどね」
「えっ?」

丸い目をパチパチさせてるし。

「けっこうストレートで大胆ですよね」

また、両頬を手で押さえて俯いた。

「褒めてるつもりですけど」

はい、と恥ずかしそうに言った後、半分くらい残ってた2杯目のカクテルを一気に飲み干した。

「大丈夫ですか?…ノンアルコール作って来ましょうか?」
「…お願いします」

3杯目行ったら多分ダメだろうな…弱そうだし…。
俺は立ち上がりカウンターへ向かった。







その後は、お姉さん達と光のテーブルを行き来しながら、合間でフロア業務をやってた。

とにかく、リニューアルオープン初日は1ヵ月休んでたってのもあってか、忙しくてすごく疲れて終了した。
桐ケ谷さんが言うには、客足的には思ってたよりも伸びたようで、売り上げは目標額を超えてるみたいだった。

閉め作業に入る前に、チラッとだけ携帯をチェックする。

『きんちょうしたよ~。侑利くんもおつかれさま~。今から帰るね』

ふわふわした内容のメッセージが10時半頃に入ってる。
やっぱ、終わるのそれぐらいになるんじゃん…。

そっから40分かけて歩いて帰って来てたら……11時すぎるじゃねぇか。

……とにかく、あんまり遅い時間に慶を1人で歩かせたくないんだ、俺は。
過保護と言われようが構わない。

『お疲れ。もう寝た?』

短い文を送ってみた。
起きてたら嬉しい……でも、寝ててもそれはそれで構わない。
疲れたのなら、休んでて欲しい。

『起きてる~。待ってるよ』

直ぐに返事が返って来た。
……ダメだ……俺には可愛すぎる。

『今から閉め作業。帰るの1時半くらいになるから、眠くなったら先寝てな』

ほんとは起きて待ってて欲しいって思ってるけど……明日の朝起きたら話出来るんだし…慶だって今日は新しいとこ初日で色々気疲れもしただろうし…。

『帰って来てもし俺が寝てたら起こしてね』

………だぁ、くそーーっ。
可愛すぎて悶絶しそうだわ。

「侑利、顔がヤバいぞ」
「えっ」

天馬が突っ込んで来た。

「どしたの、慶ちゃんが可愛かった?」
「……まぁ、そんなとこだな」
「ははっ、素直じゃん」
「どうも」

携帯を仕舞って、閉め作業に入る。

「仕事始まったら、慶ちゃん家で1人?」
「や、今日からアイツも新しいバイト行ってる」
「え、そうなの?夜?」
「5時10時」
「へぇ~、何やってんの」
「工場で何か箱作るってさ」
「…イメージ沸かねぇ…」
「はは、俺も」

やっぱりな……
そもそも、箱作るってのがイメージ沸かねぇのに、それを慶がやってるのを想像するのなんて無理だ。

「…働いて金稼ぎたいんだと思う」
「…真面目だもんね、そういうとこ。近く?」
「それがさぁ…」

時間と移動手段を言うと、天馬が苦笑した。

「…遠っ」
「…だろ」

ほら見ろ。
慶は何てこと無さそうに言うけど…徒歩で40分ってけっこう遠いぞ…。

「自転車買えって」
「それ提案してんだけどさ……自分も半分出したいから給料貰うまで待ってって言って聞かねぇ」
「あははっ、慶ちゃんっぽいわ、その発言」
「もう、俺が欲しい事にして勝手に買ってやろうと思ったんだけどさ…何か…慶がそう言うから買い辛くてさ…」
「侑利、お前、完全にやられてんだな」

天馬が可笑しそうに笑う。
……確かに、完全にやられてるから何も返せない。

「慶ちゃんと付き合ってたら、新しい侑利が見れて楽しいわ、俺」
「遊んでんな、俺で」

俺だって、自分の知らなかった感情や行動、発言、全てが意外だって思ってんだよ…。
俺、こんな奴だったかなぁ、ってさ。

「何かさぁ……女の子じゃねぇのに……1人で遅くに歩かせてて大丈夫かなぁ、って思うんだけど、それって俺がやられてるから?」
「いや分かる。俺も、奏太が歩きだったら心配んなるわ」

まぁ、慶も奏太も男だし…そこそこ力もあるだろうから、心配する事は無いんだろうけど……世の中には変な奴も多数居る訳だし…。

「見えねえから…すげぇ気になる」
「そうだな、それに、お前が慶ちゃんにハマってるから余計にだよ」

まぁ、そうだな。
それは、俺も分かってるよ。

「でもさぁ………見えすぎんのもどうかと思うわ」
「え?」

天馬の目線の先に、カウンターをキレイに拭いてる奏太が居た。

「やっぱほら、奏太指名の客とかも居るから」
「あぁ、気になった?」
「気にならない瞬間がねぇ」
「あっはは、疲れる~」

それもそれだな…。
天馬も……何だかんだやられてんだろうな…。

「お前とは、話が合いそうだわ」
「俺もそう思ってた」

2人でフッと笑う。
まぁでも……相手が男でも……こんな感情沸くんだな、って…改めて思う。

ほんとに…性別って関係ねんだな…。

女の子が嫌いな訳じゃない。
男が好きなんでもない。


ただ、慶の事が好きすぎるんだ。
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