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「男と付き合うってどんな感じ?」

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明日もBIRTHの搬入作業があるから、飲み会は早めに切り上げた。

と、言っても、6時から始めて10時前まで居たから、4時間近くは居たんだけど……


とりあえず慶は、緊張が解けて帰りのタクシーではすんげぇ喋ってた。
その喋りを見せてやれよ、って思うくらい……とにかく、俺が全くの聞き役なんだ。

ま、可愛いから良いけどさ。

慶の携帯には、巴流と大和の番号が追加された。





帰宅して、酒が入ってやっぱり欲情した俺が、慶を襲う形で2回及んだ。

相変わらず慶はキレイで、可愛くてエロくて………3回目をお願いしようとしたけど、さすがにそれは全力で拒否された。

俺もさ……若い男子だしさ…
遊ぶのを止めてからは、はっきりいってそういう事は全くやってない。

自分で処理する事はあれど、誰かの生身の体を使っての処理など一切していない。

…まぁ、反動かな…。
慶としたくて仕方ない、ってのは。

ここだけ聞いたらケダモノみたいだけど、いつでもどこでもやりたいとかじゃ無くて………何て言うか、1回では終われないって事だ。

まぁ、そこは、共感してくれる奴は沢山居るだろう。








翌朝……

一昨日ほどじゃないけど、やっぱり少し変な歩き方で起きて来た慶を残して、俺はBIRTHの作業に来てる。

慶は今日もバイト探しをするって言ってた。
きっと、昨日言ってたように、夕方から夜の仕事に的を絞って探すんだろう。

搬入は今日明日中にほとんど終わらせて、その後数日は新しい店内に慣れる為の時間にするって桐ケ谷さんが言ってた。

それが終わったら、いよいよオープンだから、しばらくは忙しくなるだろう。
少し後には、クリスマスや年末のイベントも控えてるし。

今日もほとんど全員来てるから、今日でだいぶ作業は進むと思う。
桐ケ谷さんに、車の中に何個かある備品が入った段ボール箱を運んで来るよう頼まれた俺は、外へ出た。

今日は、よく晴れてて気温も昨日より高い感じ。
慶は何やってんだろう、とか……ふと、思った。

「あの、こんにちは」

声をかけられて足を止めると、女の人が3人、近付いて来た。

「BIRTHのリニューアルオープン待ってます」

お客さんだ。

「昨日、ここ通ったら作業してるのが見えて」
「もしかしたら、今日もやってるかなぁって思って」

大学生くらいかな…。

「あぁ、もうすぐオープンなんで搬入作業やってます」
「私服なんですね」
「え…あぁ…すんげぇ普段着ですね、あはは」
「制服しか見た事ないから、久我さんの私服見れてラッキーです」

3人で沸いてる。

これ、前に……スーパーで小田切光にも言われた事あるな……
普段着見れてラッキーみたいな。

……そういうもんなのか?
制服着てる方がイケてると思うんだけど…。

「これ、差し入れです」
「え、ありがとうございます、わざわざこれ持って来てくれたんですか?」
「今日、休みだったんで」

重そうに差し出されたのは、飲み物が沢山入った袋が2つ。
受け取ったけど、すんげぇ重い。

「重」

思わず言ったら、笑われた。

「あ、ちょっと待ってて下さいね」

そう言って一旦戻り、桐ケ谷さんに報告。
桐ケ谷さんが出て来て丁寧に挨拶してる。

桐ケ谷さんは、いつもカウンターの中に居て全体を見てる。
基本的にはアルコールを作るんだけど、カウンターに座った人の話し相手をしたりしてる事が多いから、案外、年齢問わずファンが多い。

桐ケ谷さんと同じくらいのお姉様と喋ってると思ったら、ハタチくらいだろうけど友達感覚で話して来る女子とも何か盛り上がってて……そうかと思ったら、趣味はナンパです、みたいなヤロー達が「桐ケ谷さん、聞いて下さいよ~」的な感じで来る事もあって……どうなってんの、って思う事も多々あるけど……それも全て、桐ケ谷さんの人柄なんだろう。

俺だって、憧れてるしさ。

どう見ても女子大生って子たちにも、ちゃんと頭下げて挨拶して……徹底してるよ、すごく。

こんな風に、普段も割と差し入れを貰う事がある。
オープン前や閉店後に外で待ってたり、とか。

そこで、「好き」とか「付き合って」とか言われる事もたまにある。





少し、手の空いたタイミングで携帯をチェックすると、慶からメッセージが入ってた。

『いきなり1時から面接になって、今向かってるとこ~』

面接?
マジでいきなりだな…。

『行ってんの?』

送信して少し待ったら既読になった。

『行ってる』
『今電話できる?』

返事の代わりに電話がかかって来た。
作業を止めて、裏口から外へ出てから通話を押す。

「お」
『侑利くん~』

困った声。

『いきなり面接でさぁ~……緊張する』
「ははっ、毎日緊張してんね、お前」
『笑わないでよぉ~真面目に緊張してんだから』
「真面目に緊張って…」

ふわふわした慶の声が好きだ。
何か、和む。

「どうやって行ってんの?」
『歩いてる』
「どこ?」
『分かんない』

………あのなぁ。

「着けるの?」
『多分……行き方聞いて、その通り行ってる』
「あのさぁ…」
『ん?』
「自転車買うか?」

ちょっと思ってたんだ。
あのスーパーだって、慶が1人で買い物行くんなら自転車が便利だろ。

『え?自転車?』
「うん、何、乗れねぇの?」
『乗れる…と思う。長い事乗った事ないけど』
「じゃ、買おうぜ」
『待ってよ………そんなお金無いよ…』

……気にすんなって言っても無駄か…。

「俺も欲しいと思ってたんだ、自転車。コンビニとかスーパー行くのに便利じゃねぇ?」
『便利だけど……お給料貰うまで買わないっ』

ちゃんとしてるからな、慶は。

「じゃ、バイト決まって給料出たら折半で買おうぜ」
『せっぱん?』
「半々でって事」

折半が分かんねぇとこさえも可愛いわ。

『…それなら…良いけど……』

しぶってんなぁ。

「ところで、何のバイト?」
『あ、あのね、通販商品を入れる箱を造る会社』
「箱?」
『うん』

よく分かんねぇけど…ま、いっか。

「で、何でいきなり面接なの」

普通は後日だし。

『同じ部署で一気に2人辞めちゃって困ってるんだって。それで、面接担当の人が明日以降はしばらく出張で居なくて、今日だったら大丈夫って言うから』
「そっか」
『急だから履歴書も用意しなくて良いって』
「あはは、良かったじゃん」

履歴書って、書くの面倒だしな…。

『あーっ、侑利くんと話してたら、曲がるとこ通り過ぎちゃったぁ!』
「や、知らねぇし」
『もぉ~っ戻るっ』

あははっ、面白ぇ。

「じゃあ、気ぃつけて行けよ?」
『あ、うんっ、また報告するねっ』

きっと走って戻ってるんだろう。
声が揺れてる。

『あっ、侑利くんっ』

切ろうとした寸前、

「ん?」
『声聞けて良かった。頑張れそう』

……そう言う不意打ち止めろよな…。

「おう、頑張れよ?帰ったら可愛がってやる」
『もぉ~~~っ、違う意味でドキドキして来たじゃんっバカッ』

え、怒られたんですけど…。

『……ちゃんと可愛がってよね』
「お、おう、任せとけ」

……煽るの止めろ。
未だ、午後の作業があんだから。

電話切った後もちょっとニヤけてたら……


「侑利のエッチ」

とか、背後で聞こえて心底ビビった。

振り返ったら、巴流が居た。

「ビビった」
「何で」
「気配消してた?」
「や、普通だよ」

全く気付かなかったぞ。

「んー」と緩く言って、手に持ってたお茶の缶を差し出して来る。
さっきの、お客さんの差し入れだな、きっと。

「さんきゅ」

受け取って、壁に凭れてしゃがむと、巴流も隣にしゃがんで来た。
お互いにお茶を開けて一口飲んだ。

「昨日は、ありがとな」
「何が」
「慶ちゃん、紹介してくれて」
「え、お前、どしたの」

巴流がそんな事言うなんて。

「や、急だったしさ、慶ちゃん…あんな子だったからさ…来るの困っただろうなって思ってさ」

極度の緊張しぃだからな。

「確かに、昼に飲み会の連絡した時から緊張してたみたいだったけどな」
「早っ」

突っ込んで、ハハッと笑う。

「侑利がさぁ……誰かと付き合うの初めて見るわ」
「あ…そうだな」

本気で付き合ってた彼女はBIRTHで働くよりも前だから、天馬しか知らないんだった。

「出会った時は、侑利めっちゃ遊んでたじゃん」
「あー…そだね」

やっぱみんな、俺は遊んでたイメージなんだな。
まぁ、遊んでたんだけど……

「……落ち着いたよな、お前」
「そう?」

自分でもそう思うけど、白々しく言ってみる。

初めての彼女は中1の時で、同級生の女の子。
中1なんか可愛いもんで、手ぇ繋いで歩くのも恥ずかしい…みたいな甘酸っぱい感じだった。

その後も、何人か付き合った。
だけどそれは全てBIRTHに入る前の話。

天馬だけが、高校からの俺の恋愛遍歴を全部知ってる。
まぁ、俺も天馬のは全部知ってんだけど。


「男と付き合うってどんな感じ?」


急な質問だ。
巴流が聞きたかったのはここなんだろう。

「あー……それ、俺も思ってた」
「え?」
「男と付き合って、色んな事出来んの?って」

俺の反応に少し驚いてる。

「でも……気付いたら……何か、居んだよ、頭ん中に」

慶はいつの間にか、俺を完全に支配した。


「好きな男の事?」

沖縄で、巴流は好きな女が居るけど、好きな男も居るって言った。
好きな女と付き合わないのは、好きな男が居るからだ、って。

「相手は、巴流が自分の事好きって知ってんの?」
「本気とは思ってねんじゃねぇ?」
「向こうは、巴流の事、好きじゃねぇの?」
「うーーん……分っかんねぇ…」

「好きな女」の方はどんだけ好きかは分かんねぇけど、男の方は…けっこうマジで好きなんじゃん。


「それって…大和?」
「…………」


黙ったし…。
当たったな。

「リアクション無しかよっ」

肘で巴流を突く。

「……唐突過ぎて何も言えなかったわ」
「唐突じゃねぇよ」
「え?」
「…何となくだけど………沖縄の水族館で話したじゃん。あの時、何となく、大和かなって思った」

巴流が黙った。

「…女の子はアイドル並に可愛いんでしょ?」
「…可愛いよ」

それはそれで見てみたいけどさ。

「でも、その子に踏み切れないの?」
「……まぁ」

それってさ……大和の方が比重デカくねぇか?

「天馬が高校ん時言ってた。男か女かは問題じゃなくて、大事なのは好きかどうかだって」
「あいつ、高校生の時からすげぇな、思考が」

天馬は、高校時代、男の恋人が居た時期もある。

「や、何かさ……自分でも気付いてんだよ、きっと。だから、あの子に行けないんだと思う。……だけど、俺は今まで……自分も周りも、女の子としか付き合った事無くて……大和に避けられたらどうしよう、とか…思ってさ」

最後の方は少し小声…。

「分かるよ。そういう風に思うの、別に普通だと思う。……言って関係が崩れるくらいなら、言わないで今のままずっと居たいって、俺が巴流だとしても思うよ」

失いたくない相手であればあるほど、そう思うだろう。
やっぱりどこかに、相手が自分と同じ男だって事が引っかかるんだと思う。

「……俺、普通に女の子好きだし、彼女欲しいとか思ったりするしさ……なのに…………何か、迷ってんの」
「どっちと付き合う、じゃなくて逆だったらどう?」
「え?」

巴流が俺を見る。

「居なくなって辛いのはどっち?」

「…居なくなって辛い……」

巴流が地面に視線を落として、考えてる。

「別に、ここで返事しなくて良いよ」
「や、出てるわ、答え」
「え?」

今度は、俺が巴流を見る。
何か、すっきりした顔してる。

「どっちと付き合うって考えてたら、こんなに答え出せねぇのに、どっちが居なくなったら辛いか考えたら……答えって出んだな」

巴流が先に立ち上がり、手を掴んで引っ張って立たせてくれた。

「足、いてぇ」

しゃがんでたから、2人とも若干足が痺れてる。


「慶と出会ってからだよ、そんな風に思うようになったの。慶の口から「死ぬ」なんて言葉聞いた時……こいつ居なくなるかも知れないんだって思ったら、まだよく知りもしない相手なのに、無性に……居なくならないで欲しい、って思った。……きっと、先に好きになったのは俺だと思う」


初めて会った時から、慶は俺の頭ん中にずっと居た。

「今、慶が居なくなったら俺は……多分、ダメになる」

目が合って、お互いフッと笑う。

「分かるわ。お前、デレデレだもんな」

出てたか、やっぱり。

「隠し切れねぇわ」
「あはは、認めんだ」

そこは、もう、素直に認めるよ。

「慶ちゃんと付き合ってても、侑利はずっと俺のアイドルで居てくれよな」
「はぁ?」

意味分かんねぇ。

「俺って、お前の中でアイドルの位置付けなの?」
「え、そうだよ?」
「そ、そうなの?」
「大和も天馬もそうだと思うけど」
「へぇ~………初耳」

ボソッと言って、痺れが治った足をブンと軽く振る。

「あ~、もう昼じゃん、飯行こうぜ」

強引に話題を変えた。

「侑利、ありがとな。お前に聞いてもらって良かった」

店内へ戻ろうとドアに手をかけた俺に、後ろから巴流が言う。

「巴流が出した答えなら、俺はそれを応援するよ」
「ゆ……侑利~~~っ!!」

飛び付かれてヨロけたと同時に、中からドアが開いた。

ゴンッ

「いって!」
「あ、ごめん、侑利っ、あたった?」

中から大和が顔を覗かせた。

「あたったあたった、思いっきりあたった」

大和は、頭を押さえる俺を苦笑しながら見てる。

「こんなすぐのとこに居ると思わなかったんだよ~、何か2人絡まってたし」
「そうだよ、だいたい巴流が突進して来るから、」
「巴流、また侑利に纏わり付いてたなっ」
「侑利が可愛いんだよぉ~」

いつものゴチャゴチャな感じが始まった。
中で、他のスタッフ達が呆れてるよ……

俺はいつも、巻き込まれてる…。

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