laugh~笑っていて欲しいんだ、ずっと~

seaco

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「それって……好きだと思います」

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沖縄に着いてホテルにチェックインした。

部屋は、人数の都合で2名1室と3名1室があって、俺は最初の予約の段階では天馬と同じ部屋にしてたけど……奏太と付き合い出した今、天馬と2人部屋は無いだろうって事で、大和と巴流と俺で1室に変更した。

そりゃ……天馬と奏太はカップルな訳だし……
まぁ、色々とそういうのがあるだろうから。

「侑利が一緒となると……話が違って来るわ」
「何が」
「や……俺、どっち選んだら良いかって…」
「は?」

巴流はバカだ。
イケメンだけど……多分……いやきっとバカだ。

「ちょっと待てよ。お前ら最初は2人部屋だったんだろ?」
「そうだよ」
「それで、俺が来てさぁ…どっち選んだら良いかって…お前、俺が来てなかったら既に大和を選んでたって事だろ?」
「…そうだね」
「そもそも選ぶって何だよ」

そうだ、まず、そこを聞きたい。

「まぁ、何て言うか……天馬に触発されたって言うか…」
「え?巴流と大和付き合うの?」
「や~、それは侑利が来たから、今は分かんねぇけどぉ~」
「………俺、部屋変わるわ」

そっと立ち上がる。

「待ってよ待ってよ、侑利~」
「俺、邪魔したくねぇし」
「邪魔なんかじゃないって~」
「襲われんのもヤダし」
「襲わねぇよ、多分」

多分って何だよ。
怖ぇわ。

俺だけ、今からシングルとろうかな……




コンコン、と部屋のドアがノックされ大和が開けると、天馬と奏太が立っていた。

「とりあえず、近く見て回ろうって言ってんぞ~」

後輩で、そういうのを仕切るのが好きな奴らが居るから、旅行内容はそいつらに任せてる。
巴流と大和は企画するだけで、俺と天馬は乗っかるだけ…っていう、良い感じにバランスが取れてる。

まとわりついて来る巴流を引っぺがしながら外へ出た。


慶は……どうしてるだろうか……。

こっちに着いてる事をLINEしたのに……返事が来ないどころか、既読にさえなってない。



何やってんだよ、あいつ…。



近くに居ないって………こんなに落ち着かないもんなんだな…。



「おーい、侑利~、遅ぇぞ~!」


既読にならない画面を消して携帯をポケットに突っ込み、呼ばれた方へ小走りで急ぐ。



……頭ん中にはずっと……慶が居る。










「ぉ、わーーーーっ!!」
「コケるコケる」
「ちょっ、誰だよ、引っ張ってんのっ」

散策しながら、軽く昼飯がてら通り沿いの店で海を見ながらみんなで食べて…結構歩いて回った。

少し日が傾いて来て暑さも和らいで来た辺りで、誰からともなく海へ来て……そして今は、後輩たちが波と戯れてる。
巴流や大和たち何人かも波打ち際で砂遊びしたりしてて……満喫中。

俺は、夕日バックのこの海がキレイだから、写真でも撮って慶に送ってやろうと携帯のカメラに収めたとこ。


波の音と騒ぐ声を聞きながら、砂浜に流れ着いたであろう大きな流木に腰を下ろす。

携帯を見ると……慶からメッセージが来てた。
少し、急ぎ気味に開く。


『無事着いたみたいで良かった。何してるの?』


何してるの、はこっちのセリフだよ。


『今は皆で海に来てる。やっぱこっちの海すげぇキレイだから、慶にも送る』という文と、さっき撮った海の画像を送信した。


今度は、直ぐに既読になった。

慶は今…家だろうか…。
何をして、今まで過ごしてたんだろう…。
昼飯、ちゃんと食ったかな…
晩飯は何食うんだろう…


……聞きたい事は次々に浮かんで来る。


『ほんとだね。すごくキレイ』


当たり障りのない返事。
どんな顔して、コレを打ってんだ…。


『明日はバイト?』
『うん。明日とあさってはバイト』
『そっか。慶、何してたの?』


……既読にはなったけど………

しばらく返事が来なかった。


その時間が……俺に色々と良からぬ想像をさせた。



『さんぽに出かけたり、スーパーに買い物行ったりした』



……何とでも言える。
確かめる術は無い。


例え、泣いてたとしたって………バラエティ番組見て笑ってた、って言える。


疑う訳じゃ無い…信じない訳じゃ無いけど………強がってんじゃないか、って……勘繰ってしまう。




「侑利」

隣に、天馬が腰を下ろして来た。

『晩飯ちゃんと食えよ。夜に電話する』と、送信して意識を天馬に向ける。

「あ、悪い、大丈夫?」

携帯をしまった俺を見て、天馬が少し心配そうに言う。

「あぁ、大丈夫」
「慶ちゃん?」
「あ、あぁ、そう」

慶の存在を知ってるのは天馬だけだ。
まぁ、奏太は天馬から聞いて知ってるかも知れないけど…。
ここにいるBIRTHのスタッフ連中や、それ以外の俺個人の友達にも、誰にも言ってない。

「どうしてた?」
「…散歩してスーパー買い物行ったって」

そのまんま答える。

「気になってんの?」

興味津々な顔だ。
きっと天馬は、俺と慶をどうにかしたくて仕方無いんだ。

天馬は意外と世話焼きなとこもある。
俺なんかよりは特に。

「…まぁ、そりゃあ……あいつ、家事とか全く向いてねぇし」
「そりゃ、気になるね」

あはは、と笑う。

「迷ってたんだ、俺」
「何を?」
「この旅行」

慶と出会ってただけだったら迷わなかったけど……

「昔、何があったか知らないけど……マジで辛そうな顔するからさ…」
「…相当、こたえてんだな」

天馬は、俺の感情を把握するのも早くて、俺がちゃんと聞いて欲しい時を分かってる。


「旅行が終わったら……慶に聞いてみようと思ってる」
「…そっか」

「興味本位で慶の過去が知りたいんじゃないんだ……慶が…どんな辛い人生を送って来たのか……聞いて同情したい訳でもない。……ただ…俺に話す事で……慶に重くのしかかってる物が、少し軽くなればそれで良い」




しばらく、2人で黙ってた。

波打ち際ではしゃいでた巴流達は、だいぶ暗くなって来たから引き上げる感じ。
皆が、こっちへ向かって歩いて来てる。

「それで良いと思うよ」
「え、」

天馬が立ち上がり、パンツをはたいて砂を落とす。


「侑利が慶ちゃんの辛い部分を聞いてあげるのは、意味があると思う。…でも、受け止められないんだったら、慶ちゃんが可哀そうなだけだよ」


どんな過去であっても……
聞いて……引いてしまったら、慶は二度と立ち直れないだろうから……


「お前なら出来るよ」


まだ腰かけたままの俺の頭を、天馬が上からグリグリと揺らした。
そのせいで少しグラつく視界にちょっと苦戦しながら俺も立ち上がる。


「天馬、ありがとな」


天馬に真面目に「ありがとう」を言うのはいつぶりだろう。
返事の代わりに、その男前な口元を緩く上げて笑う。



「腹減ったわぁ~~、飯行こうぜ~」

海で遊んでた奴らが、すんげぇ濡れてやって来た。

「ぅ、わ、お前らビチョ濡れじゃんっ」
「海、超気持ち良かったし」
「だからって、これで帰んのホテルも迷惑だわ」

天馬はもう、そっちの話に入ってる。

何度も言うけど、俺は、この、天馬という奴が好きだ。
もちろん、これは親友として、って意味で。


「久我さん」

隣に奏太が来た。

巴流達の団体に混ざって、砂で汚れたまま纏わりついて来る後輩達を、鬱陶しそうに押し退けて笑ってる天馬を眺めながら奏太が言う。

「天馬さん、久我さんの事、いつも心配してます」
「え?」

奏太の言葉に少し驚いた。

「あいつが判断に迷ったら、俺が手助けしてやらないといけないって思ってる、って言ってました。……俺の判断が正しいとは限らないけど、後押しする事は出来ると思うから、って」

よく、そんな恥ずかしい事、恋人の前で言えんな…って思うような言葉だった。
だけど……親友だと思ってる奴が、知らないところでそうやって言ってくれる事は、素直に嬉しい気がした。


「久我さん……好きな人、居るんですか?」

「えっ、」


突然の質問に激しく動揺してしまった。

「天馬に聞いたの?」
「あ、いえ、僕の勝手な想像です…」


…聞いたんじゃないのか…


墓穴掘った感あるわぁ……
やっぱ、コイツ、何気に罠しかけて来んなぁ……


「好きな人って言うか…………………大事にしたい…って思ってる…みたいな奴……かな」」


ちょっとした表現の違い。


「それって……好きだと思います」


墓穴、再び、だよ。
…もう、いいわ、何でも。


俺だって、この自分の慶に対する感情が一体何なのか分からなくて困ってんだし。


「久我さんにそんな風に思わせる人って……すごいですね」
「何ですごいの」
「え、だって、BIRTHのトップだし」
「そこ?」
「あはは、そこです」

奏太は可笑しそうに笑う。

「今まで色んな人が告白してるの見てますけど、久我さん、誰とも付き合わなかったし…」

何処で見てんだよ、お前は…。

「また、会わせて下さいね。久我さんが選んだ人がどんな人か気になります」

2人して、同じような事言いやがって。

「そんな日が来たらな」

にっこりと笑って嬉しそうに頷く奏太に「行くぞ」と合図して、先に歩いてる煩い団体について俺らも歩き出した。





~~~~~~~~


『侑利くんっ』

勢いよく出た。

晩飯も終わり、皆それぞれ部屋に戻り好きな事してる。
部屋では巴流と大和が後輩が持って来てた観光雑誌を借りて来て、明日はここだとかあーだこーだ言ってた。

2人に一応断って、部屋を出た。

ホテルの通路の途中に、夜景が見えるように造られてるフリースペースがあった。
少し薄暗くて、天井から下ろされた赤みがかった照明がこのスペースを大人な雰囲気に染めている。

落ち着ける感じがして、そこの夜景の見える窓際の席に座り慶に電話をかけた。

「お前…出るのすんげぇ早ぇわ」

1コール目で出た慶に、突っ込んでやった。

『えー、だって、近くにあったから』

ふんわりした慶の声。
家を出たのは今朝なのに……なんだか懐かしいような気さえして来る。

『何してるの?』
「電話だよ」
『そうじゃなくてっ』
「はは…あー、後寝るだけだから、みんな部屋で好きな事してる。お前は?何してんの?」
『…電話』
「お前なぁ、」
『あはは』

あはは、じゃねぇよ。

「晩飯食ったか?」
『食べたよ、昨日の肉じゃが』
「昼に食うって言ってたじゃん」
『あー…お昼は、あんまりお腹空かなかったし…』
「昼飯食ってねぇだろっ」
『だから晩ご飯で食べたんだってば』

油断するとすぐ……食べるの止めるんだろ、きっと。

『侑利くんは何食べたの?』
「みんなで居酒屋行って、何か色々食ったわ、沖縄って感じのやつ」
『へぇ~~、良いじゃん』

電話で聞く慶の声は……一緒に居る時みたいに明るくて……俺が居なければ居ないなりに、好きにやってんのかな、って思えた。

それなら、それで良い。
泣いてないなら、それで。


話は色々。

散歩の途中で見つけた雑貨屋とカフェの事とか、スーパーのタイムセールが凄かった事とか、雨が降りそうな空になったから急いで帰って来た事とか、ほんと些細な話。

だけど、そんな話でも慶の声を聞いていると安心出来た。
今、同じ時間を共有してんだな、とか思ったり。

「明日と明後日、続けてバイトだろ?」
『うん』
「じゃあ、もう寝るか?」
『うん…』

慶の声が、少しだけ沈んだ気がした。

「どした?」
『…明日も電話してくれる?』

素直な奴。

「分かったよ」
『…ありがと』
「慶」
『ん?』
「もし、眠れなかったら……電話して来いよ。何時でも良いから」
『…うん………ありがと………』

今、慶はどんな顔してんだろう…。
声だけじゃ……分かんねぇよ。

「おやすみ」と言われ、「おやすみ」と返す。
名残惜しい感じがしたが、最後は俺が「切るぞ」と言って、電話を終えた。


もう何も聞こえなくなった携帯を眺める。


「明日も電話してくれる?」なんて言うもんだから……寂しいの?とか、俺の声が聞きてぇの?とか、調子良い事ばっか考えてしまう。

そもそも、そんな事考えてる自分に正直ちょっと引くわ、俺。


立ち上がって1つ伸びをして……また部屋への通路を引き返した。






~~~~~~~~


起きたのは9時半。

正確には、巴流と大和に起こされた。
すんげぇ、体に圧迫感。

「………重…」

確認してないけど、大体分かる。
多分、巴流が上に乗ってる。

「侑利、早く起きないと巴流に襲われるぞ~」

顔をタオルで拭きながら、すっきりした感じで洗面から出て来た大和が、まだ覚醒し切れて無い俺に向かって忠告した。

「侑利、朝弱いの?」

巴流の声がかなり近くで聞こえた事から推測するに、かなり密着してんな…。
この布団を退けるのが怖ぇよ…。

「……重い、」

質問の返事では無いけど、とにかく重いわ。

巴流はやたら俺に絡んで来るとこがある。
本気なんじゃなくて、何て言うか……俺で遊んでる。
俺は別にいじられキャラでも無いんだけど………まぁ、多分、気に入ってんだろうな、俺の事。


部屋のチャイムが鳴ってる。
開いたドアから、天馬と奏太が入って来たのが声で分かる。

「わっ、宮永さんが久我さん襲ってる!!」

奏太が叫んだ。
やっぱ、俺、襲われてたんだ。

「おい、巴流、お前、侑利は俺のもんだぞ」

天馬だ。
バカが1人加わった。

「お前は奏太が居るだろ~」
「侑利は別」
「わ、お前、奏太の前でよくそんな事言えんなーっ」
「俺は侑利がまだクソガキの時から知ってんだよ」
「高校で出会っただけだろ」
「とにかくそこ退いて」
「じゃ~奏太貰うわ」
「それ、もっとダメ」
「じゃあ侑利は俺のね」

いやいや、お前の中で俺がどんな位置付けで、どういうキャラなのか分かんねぇけど、お前とどうこうなる事はきっと無いから…

旅行で変なテンションになってんじゃねーよ。
とにかく重いから、早く退いてくれ。

無理矢理起き上がったら、巴流がベッドから転がり落ちた。
すんげぇ痛がってるけど、無視。

「侑利、俺に対して酷くねぇ?」
「よしよし」

大和が面倒見てる。

大和と似合ってるよ、お前は。
付き合うなら、大和をすすめるわ。

文句言ってる巴流は放置で、俺はトイレと洗顔へ。
そんな事よりも、俺は気になってる事があるんだよ。



それは他でも無い、慶の事。


……ちゃんと眠れたかどうか……



冷たい水で顔を数回洗うと、ボーッとしてた頭が一気に覚醒する。
タオルで顔を拭きながら、鏡を見る。


……天馬に言わせたら……



「慶の事が気になって仕方ない顔」なんだろうな…。




部屋に戻って枕元で充電してた携帯を引っ掴み、ベランダに出る。

1枚ガラスを挟んだだけで、別世界のように外は静か。
遠くで街の音が穏やかな風と一緒に微かに聞こえる。

携帯を見ると……今から30分くらい前に、慶からメッセージが入ってた。


『おはよう。今からバイト行って来ます』


1文だけ。
これだけでは……何も分からない。


今ならまだ…つかまるか?


『今起きた。寝れた?』


送信して、しばらく眺めてみるも…………既読にはならない。
もう、仕事に入ってるのかも知れないし、ただ気付いてないだけかも知れない。

これで仮に、寝れなかった、って返事が来たってどうすんだ、って思うけど、それでも眠れたかどうかが知りたくて仕方ない。


……車の中で見た、アイツの怯えた顔が……こんなに尾を引くとは思って無かった。





~~~~~~~~


今日は、有名な水族館に来た。
ここを観光から外す訳が無いだろう。

俺も、興味があった。


涼しい館内。



一歩踏み入れただけで分かる。
幻想的で神秘的。

信じられないくらい大きな水槽の中でゆっくりと泳ぐ魚を見てると………日常の少しの事なんかほんとどうでも良くなって来る。

魚に詳しい事もないし、すごく興味がある訳でもないけど、このまま1時間くらいじっと見てられるな、って思うくらい、心を惹き付けるものが水族館にはある。

きっと、普段目にしない世界だからかな……




慶は、真っ暗の水の中で怖い、って言ってた。
もがいてんだろうな、きっと。

バタつかないで、もっとゆっくり動かせば……ちゃんと泳げるのに。


泳ぎ方を知らないんだ、きっと。

沈んでく気がして…バタバタしてしまうんだ。



俺が引っ張り上げてやれたら…




「キレイな顔してんね」


急に横から声がして、ハッとした。
急いで隣を見ると巴流が居た。

「ボーッとしてたわ」

ははっ、と巴流が笑う。

「何考えてたの?」

俺は……ここで動かず、けっこう長い時間水槽を見てたんだと思う。

「別に、ボーッとしてただけ」

魚を目で追いながら適当に答えた。
慶の事を考えてたから。

「そう?……何かさ…泣くのかな、って思った」
「え?」

その言葉が意外すぎて、思わず巴流を見た。

「何か、そんな顔に見えた」

さっきまでのバカやってた巴流とは違って……滅多に見れない真面目な顔してる。

「…泣かねぇよ」
「泣いたら抱きしめてやるよ?」
「要らねぇ」
「やっぱお前俺に酷ぇわ」

2人でプッと笑う。

巴流と、こんな風に話すのはほんとに久しぶりだ。

BIRTHで働き始めた頃に、巴流は、ちょっとした事で客と揉めて店に迷惑をかけてしまった責任を取って辞める、と言った事があった。

その時、天馬と大和と俺で巴流を引き止めた。
まだ始動したばかりで、何となくこの仕事に向いてるなって思ってた巴流が、こんな事で去ってしまうのは勿体無いって思ったのと、単純に俺ら3人が巴流を好きだったって理由。

俺ら4人は、オープン前に桐ケ谷さんに呼ばれ「お前ら4人で看板張って行け」と言われた。

当時、ライバル心は無かった訳じゃないけど、それぞれが認め合ってたって言うか…二十歳そこそこの若者達にしては珍しく、変な妬み嫉み無くやってた。


今もそれは同じ。


「巴流はさぁ、」

今度は俺が聞いてみる。

「好きな子居ねぇの?」

こんな話、今までした事ない。

「えっ、それは?女?男?」

焦ってるけど、そこ、迷うとこか?
こいつにこんな質問した俺がバカだったのか、とも思ったけど…。

「どっちでも良いけどさ…」

……お前は俺ら4人の中じゃ一番軽そうだもんな…
断トツでバカだし。

「好きな女の子居るよ」
「え、そうなの?」

意外。

「でも、好きな男も居る」

…もっと意外。


「……あー…そう」

どう返事したら良いんだよ。
質問したのは俺だけど……返しに困るわ、その答え。


「女の子は、高校時代から知ってる子。可愛いんだよ、アイドル並」
「へぇ~、じゃ、ライバル多そうじゃん」
「まぁ、俺だからね~…」
「どんだけ自信あんだよ」
「好きだって言われてる。ちょこちょこ会うけど、何回か言われた」
「何で付き合わねぇの?」
「好きな男が居るから」


……サラッと、大胆な事言ったよな、今。



「もし俺だったらごめん、無しで」
「え、俺、今、振られた感じ?」

言われて無いけど、先に軽く振っておいた。

「マジ辛ぇわ。言ってもねぇし」

あはは、凹んでんじゃん。

「侑利は俺の中で構いたい男子№1よ」
「何だよ、そんなランキングあんの」
「侑利がマジで付き合ってって言うなら、俺この場でオッケー出すけど」
「いやいや、さっき振ったから」
「…マジ辛ぇ」
「それに、俺がお前と付き合ってもどうすんの?俺、お前に抱かれんのとかイヤですけど」
「え、俺は抱く側よ」
「じゃあ、そもそも無理じゃん」
「心底辛ぇ」

面白い奴…
遊べるわ~…

「じゃ、他に居んの?」

もう少し遊べたけど、一先ず話を戻す。

「…あぁ、まぁ、な」

……案外、マジなのかも。
アイドル並に可愛い子と天秤にかけて、迷ってんだから。

「どうすんの、2人も好きな子居てさ」
「いや、さぁ…子供の時とかさ、あの子も好きだけどこの子も好き~みたいな事あったでしょ?決められねぇ~みたいな」
「……あぁ、まぁ、そんな事もあったな」
「それだよ、まさに」

いや、それ、子供時代でしょ。

「女の子は良いとして、男の方はさぁ……俺と同じ体してる訳じゃん。女の子みたいに柔らかく無いし、小っちゃく無いし。……なのに、好きって思うって……実は、女の子の方より好き度勝ってんじゃねぇ?って思うんだよ」

……確かに…それは分かるよ。

「男相手にさ、女の子にするみたいに、あーしてやりたいこーしてやりたいってさ……それってもう本能の部分だと思わねぇ?」

……何だよ、巴流のクセにもっともらしい事言ってさ。

「好きだって思うのってさ、もう仕方ねぇよ。誰がどう言ったって好きなもんは好きなんだからさ。理由なんて無いんだよ、きっと。理由つける必要も無い」


………巴流、お前どした……
……お前の言葉に感動してる俺が居てビビるわ。

「天馬と奏太見てて……そう思えた。2人がもし俺らに隠れて付き合ってたら、俺、多分今頃アイドルの彼氏やってると思う」

こんな巴流はもう見れないかも知れない、ってぐらい真面目で……カッコいいと思ってしまった。

「あ、侑利、今俺に惚れそうになっただろ」

すぐ調子に乗るけど。

「抱きしめてやろうか?」
「要らねぇ」

広げた両腕を無視して先に歩き出すと、後ろから巴流が文句言いながら付いて来る。


みんな、案外色々考えてんだな…。



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