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第14話 空っぽの自分が嫌になる
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僕はその日、家を飛び出した。居たたまれなかったからだ。あそこに……アイツと同じ空間に居ることに、堪えられなかったから。
自慢できる兄貴? 冗談じゃない。僕は……天野川星矢という男は、そんな高尚な人間じゃない。自分の事しか考えない、人の気持ちも推し量れない、見下げ果てたクズ野郎。それが僕だ。
綾奈の……自分が泣きたいのも我慢して、僕なんかに『おめでとう』なんて言ってくれるアイツの足下にも及ばない、クソ野郎なんだ。
なにが兄貴だ。なにが愛されたいだ。誇りに思われたいだ。身勝手も良いところじゃないか。僕はなにも誇れるようなことなんてしていない。ただ勝手に妹のことを嫌って、妬んで、傷つけて……酷いことしかしてない、最低な兄貴じゃないか。
なのに何でお前は……綾奈はあんなこと……! 僕を兄貴なんて呼べるんだ……!
僕はお前に“お兄ちゃん”なんて呼ばれる資格なんてない、呼ばれちゃいけない、ただのクズなのに……! お前に『居てくれて良かった』なんて言われて良い兄貴じゃないのに……お前は何で……!
……自己嫌悪だ。僕は紛れもなく自分の事が嫌いになっていた。
相手の気持ちも推し量れない自分。下らないことで妹を嫌っている自分。なにより、あんな事を言われてもなお、それでも綾奈のことが好きになれない自分自身。 僕はその全てに対して激しい嫌悪感を抱いていた。
もう、ここには居られない。アイツに……綾奈に会いたくない。自分の事が嫌いになってしまうから。アイツのことが……嫌いになってしまうから。
それに僕はもう……堪えられそうもない。
こうして僕は、大学入学と同時に家を出た。そしてそのまま、実家との連絡を一切絶ってしまったのだ。
実家との連絡を絶ち、それまでのありとあらゆる人間関係を断ち切った僕に残されていたのは“勤勉さ”という、かつて親から愛されるために用いていた、しかし今となっては何の意味も持たない”手段”だけだった。
今思えばなんと情けなく、哀れな話だろうか。愛されたいが為に勤勉に生き、しかし結局それは叶わず、最後はその勤勉に生きるという“手段”だけが、唯一のよりどころになる。虚しいことこの上ない。
しかしそれでも、当時の僕には必要だった。より所が。
けれど、もうすでに何度も言ってきたように、僕はその“勤勉さ”というより所すらも失ってしまった。大学で現実を突きつけられ、絶望した結果として。
なんの取り柄もない人間。なんのより所もない、空っぽの人間。それが今の僕だ。いつ死んでもおかしくない、そして、死んだとしてもきっと誰も悲しまない男。それが、今の僕なんだ。
……いや”誰も悲しまない”は間違いか。父さんと母さんはわからないが、少なくとも綾奈だけは……こんな僕でも、死んだら悲しんでくれるだろう。そのことがより一層、僕を苦しめるとも知らずに。
本当に自分の事が嫌になる。なんで僕は、こんなどうしようもないヤツになってしまったのだろうか。救いがたい人間に育ってしまったのだろうか。綾奈さえ家に来なければ、こんな事にはならなかったのか?
……いや、ダメだな。ここに至ってもまだ僕は、自分の醜悪さを綾奈の所為にして押しつけたいらしい
遅かれ早かれ僕は……どうしようもなく中身が空っぽの僕は、今のように何もかもを失っていたに違いないだろう。救いがたきその悪逆な精神のために、世界から孤立してしまっていたに違いない。
ただ生きているだけ。そんなどうしようもない人間になっていたのだろう。
しかもその上、他人の不幸は大好きと来た。とんでもない極悪人だ。地獄行き間違いなし。もしくは来世はカメムシで決まりだ。
いや、なんならカメムシすらもおこがましいかも知れない。
僕は今、自分の胃袋から吐き出した汚い液体の中でぶっ倒れている。上野琴音と、その彼氏に憐れまれながら。
あーあ、本当に酷い人生だった。このまま死ぬのか、僕は。こんなにも下らなくどうしようもない人生だったけれど、いざ死ぬ直前になると、生きたくなってしまうから不思議だ。
しっかし、来世はカメムシか……はは、まあある意味それで良かったのかも知れない。今の僕なんかより、カメムシの方がよほど有意義な人生を送れるだろうしな。
こうして僕は悔しさと申し訳なさに蝕まれながら、人間としての短い一生を終え、カメムシとしての新たな人生、いや虫生を歩み始めたのだった……
自慢できる兄貴? 冗談じゃない。僕は……天野川星矢という男は、そんな高尚な人間じゃない。自分の事しか考えない、人の気持ちも推し量れない、見下げ果てたクズ野郎。それが僕だ。
綾奈の……自分が泣きたいのも我慢して、僕なんかに『おめでとう』なんて言ってくれるアイツの足下にも及ばない、クソ野郎なんだ。
なにが兄貴だ。なにが愛されたいだ。誇りに思われたいだ。身勝手も良いところじゃないか。僕はなにも誇れるようなことなんてしていない。ただ勝手に妹のことを嫌って、妬んで、傷つけて……酷いことしかしてない、最低な兄貴じゃないか。
なのに何でお前は……綾奈はあんなこと……! 僕を兄貴なんて呼べるんだ……!
僕はお前に“お兄ちゃん”なんて呼ばれる資格なんてない、呼ばれちゃいけない、ただのクズなのに……! お前に『居てくれて良かった』なんて言われて良い兄貴じゃないのに……お前は何で……!
……自己嫌悪だ。僕は紛れもなく自分の事が嫌いになっていた。
相手の気持ちも推し量れない自分。下らないことで妹を嫌っている自分。なにより、あんな事を言われてもなお、それでも綾奈のことが好きになれない自分自身。 僕はその全てに対して激しい嫌悪感を抱いていた。
もう、ここには居られない。アイツに……綾奈に会いたくない。自分の事が嫌いになってしまうから。アイツのことが……嫌いになってしまうから。
それに僕はもう……堪えられそうもない。
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しかしそれでも、当時の僕には必要だった。より所が。
けれど、もうすでに何度も言ってきたように、僕はその“勤勉さ”というより所すらも失ってしまった。大学で現実を突きつけられ、絶望した結果として。
なんの取り柄もない人間。なんのより所もない、空っぽの人間。それが今の僕だ。いつ死んでもおかしくない、そして、死んだとしてもきっと誰も悲しまない男。それが、今の僕なんだ。
……いや”誰も悲しまない”は間違いか。父さんと母さんはわからないが、少なくとも綾奈だけは……こんな僕でも、死んだら悲しんでくれるだろう。そのことがより一層、僕を苦しめるとも知らずに。
本当に自分の事が嫌になる。なんで僕は、こんなどうしようもないヤツになってしまったのだろうか。救いがたい人間に育ってしまったのだろうか。綾奈さえ家に来なければ、こんな事にはならなかったのか?
……いや、ダメだな。ここに至ってもまだ僕は、自分の醜悪さを綾奈の所為にして押しつけたいらしい
遅かれ早かれ僕は……どうしようもなく中身が空っぽの僕は、今のように何もかもを失っていたに違いないだろう。救いがたきその悪逆な精神のために、世界から孤立してしまっていたに違いない。
ただ生きているだけ。そんなどうしようもない人間になっていたのだろう。
しかもその上、他人の不幸は大好きと来た。とんでもない極悪人だ。地獄行き間違いなし。もしくは来世はカメムシで決まりだ。
いや、なんならカメムシすらもおこがましいかも知れない。
僕は今、自分の胃袋から吐き出した汚い液体の中でぶっ倒れている。上野琴音と、その彼氏に憐れまれながら。
あーあ、本当に酷い人生だった。このまま死ぬのか、僕は。こんなにも下らなくどうしようもない人生だったけれど、いざ死ぬ直前になると、生きたくなってしまうから不思議だ。
しっかし、来世はカメムシか……はは、まあある意味それで良かったのかも知れない。今の僕なんかより、カメムシの方がよほど有意義な人生を送れるだろうしな。
こうして僕は悔しさと申し訳なさに蝕まれながら、人間としての短い一生を終え、カメムシとしての新たな人生、いや虫生を歩み始めたのだった……
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