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第4話 何故に僕はテニサーに入らんと志したのか

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 大学に入学してからの一年間、つまり僕が少なくともまだ京都大学という場所に淡い夢と希望を持ち、勉学に励んでいた一回生の間。僕はサークルなどと言う浮かれた物には所属していなかった。

 大学生の本分は勉強である。にもかかわらず、その時間を削ってスポーツや趣味に打ち込むとは何事か。極悪の極みじゃないか。けしからん。爆発しろ。
 そんな凝り固まった価値観故に僕は入学当初、一回生を獲得すべくビラ撒きに邁進する数多くのサークルの勧誘を悉く突っぱねた。
 入学したての一回生共を、まるでライオンが獲物を狩るかの如くに鋭い眼光で睨み付け、取り囲み勧誘する京都大学名物ビラロード。そこを通るにあたっても、目を閉じ耳を塞ぎ、完璧なる外界遮断によって、僕を悪の道に連れ去ろうと目論む悪魔達のささやきを突っぱねた。

 しかし入学から一年と半年が経ち、極悪への道を絶賛爆進中の僕は今、そのサークルに新たに加入しようと試みている。それも、スポーツを仲間達と楽しみたいというような健全な理由からではなく、女生徒とお近づきになり、あわよくば性的行為に及びたいという、果てしなく不健全な理由で。
 もし入学当初の、まだ勤勉だった頃の僕が、1年半後の僕のこの変わり様を知ったとしたら、きっと泡を吹いて卒倒していただろう。
 さて、そんなクズ人間バーゲンセール絶賛開催中の僕であるけれど、サークルに入るにあたってのさしあたりの問題は『どのサークルに加入するか?』ということだった。
 ”サークル”とは一言で言っても、その種類と数は膨大。一般的なテニスサークルを始め、漫研、落研、なかには口笛同好会なんて酔狂なモノまである。そんな数多あるサークルの中から手探りで入りたいサークルを見極めるのは、凄まじく困難と言うほか無い。
 が、しかし。僕には一つ、入りたいサークルに心当たりがあった。

 京都大学のサークルの多くは、会員の殆どが京大生によって構成されている。しかし中には、京大生のみではなく他の大学――そう例えば、京大の近くにある同志社大学の学生なども所属する、カレッジグローバルなサークルもいくつかある。そしてその典型例と言えば、やはりテニスサークルだろう。

 京大のテニスコートで華やかに青春を謳歌している者達。彼らの殆どが京大生ではなく、同志社大生である事は、京大近辺では有名な話である。
 悲しいことにも“京大生” 目 “リア充” 科の分類に属する動物は絶滅危惧種。京都大学のテニスコートは、外来種である同志社大学のリア充共に占拠されてしまっているのだ。在来種たる京大生は、コートの隅っこに追いやられている。
ザ・すみっコぐらし。

 まあつまりどういうことかというと、京大にはリア充が少なく、同志社にはリア充が多いという話である。京大生は学業の成績では勝っていても、人生の充実度と顔面偏差値の二つにおいて、同志社大生に大きく遅れを取っているのだ。なんと忌々しい。

 さて、そんな同志社のリア充達が多く生息し覇権を握っているテニスサークルであるけれど、とくに規模が大きく有名なのが、テニスサークル『Frends』だ。約半分が同志社の大学生で構成され、4割程度が京大生で、残り1割は他の大学の学生で構成されているらしい。

 僕は何度か、テニスコートの横を通りかかった際にFrendsの練習風景を見たことがあるのだけれど、彼らの姿は青春嫌いだった僕の目にでさえキラキラと輝いて見えた。
 まさしく青春。若々しさとは斯くたるやという姿を、彼らは自身のその華やかな生き様で以て示していた。その一見健全な姿は、当時勤勉を貫いていた僕にさえ、一種の憧れのような思いを抱かせた程だ。時には『アイツらと自分は本当に同じ種族なのか?』と疑問に思ったほどである。まあその結果、僕は『京大生チンパンジー説』を提唱するに至ったわけだが。

 もっとも、そんな彼らもどうせ裏では“あんな事”や“こんな事”にうつつを抜かし、快楽に溺れているのだろう。きっと夜な夜な、乱交パーティーなんかを開催しているに違いない。まったくもって憎々しい。
 いやまあ、彼らが裏でそんな”ふしだらなマネ”をしているという確固たる証拠は皆目無いのだが、しかしきっとそうに決まっている。男と女が集まって青春すれば、その裏にはドロドロとした愛憎劇が潜んでいるに違いない。きっとそうだ。そうでなければおかしい。昼ドラで勉強したから間違いない。

 テニスコートでボールを打ち合っている彼ら彼女らはきっと夜は夜で、ベットの上で男の股にぶら下がる別のボールを打ち合っているのに違いない。なんて不健全極まりない。あぁ羨ましい。僕のボールも使ってはくれまいか。今ならお安くしときますよ?

 しかして彼らの行っている活動のなんと不健全なことか。人類史でもまれに見るふしだらである。奴らの貞操観念はもしや縄文人並か? 完全に”性”のパンデミックが起きてしまっているじゃないか。バイオハザード待ったなしだ。

 だがしかし。その不健全、望むところだ。

 僕は現在進行形で極悪への道を全速力で駆け抜けている。然らば、これからは僕も彼らに混ざって、夜の新体操に没頭せねばならない。無為な腰振りピストン運動に励まねばならないのである。
 レッツゴーベット。ビバ青春。オゥ、イェス。不健全だろうが、ふしだらだろうが、そんなことはノープロブレム。むしろウェルカムだ。
 いやはや、これから僕を待ち受ける爛れた青春を想像すると、気色の悪い笑いが漏れそうになりますなぁ。「ぐへへへへ」なんて具合に。

 こういう次第で僕は、このテニスサークル『Frends』に、テニスなど生まれてこの方やったこともないのに、入会することを決めたのである。
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