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第一章「蜘蛛の糸」
第一章「蜘蛛の糸」4
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目を閉じて一分ほど経っただろうか。
一ノ瀬から情報を得ようとしたが、完敗だった。
ゆっくりと全身の関節の状態を見て、どこにも異常がないことを確認する。長距離走をしてきたようなあの疲れは残ってはいるが、痛みはないようだった。
「君、大丈夫かい?」
突然声がして、緊張感が全身に広がる。
声の方向はさっきまで一ノ瀬がいたところだった。
「害意はないよ、ただ心配しているだけだから。こんなところで大の字になっている人間がいたら心配もするよね」
優斗は上半身を起こし、声の主を見る。
「あ、あんたは」
「僕? 通りすがりのものだけど……」
優斗の前にいたのはスーツを着た青年だった。成人は過ぎているだろう。黒縁の眼鏡をしていて、温和な顔でこちらをみている。害意がはないというのは本当のようだった。
「通りすがりがこんなところにいるなんて変だ」
「ここは図書館の中だよ、市民に開かれている」
「地下二階だ」
「それでも、だよ」
声の主は安穏としている。というより、ぼけているような感じすら覚える。
「君が必要なら、司書さんに連絡するけど」
「い、いや、それは大丈夫」
「そう。おっと、図書館がもうすぐ閉まる時間だね。とりあえず外に出た方がいいんじゃないかな」
「それはそうだけど、別にあんたと」
「いや、僕は少し君が興味が出てきたよ。そういう反応をしている」
「反応?」
「こっちの話。複数の残り香がする」
「残り香?」
どうやら自分にはよくわからないことを言っているようだった。先ほどまでの緊張感から一転、それを理解できない自分に苛ついていた。
「まあまあ、とりあえず、ここから出て少し話そうじゃないか」
「ああ」
青年の後に続いて書庫の階段を上がり、図書館から出る。
入ったときは明るかったはずだが、出たときにはもう閉館時間ギリギリだった。
一時間以上はいたような気がしてきた。
とにかく疲れた。
「ああ、あんなところに喫茶店があるね、どうだろう、僕がおごるから少し休んでいったら?」
とにかく怪しいし、不審感がないわけではないが、誘いを断るほどではない。それに、さっきの異常事態について、何か知っているような風でもあった。
「ああ、わかった」
二人は図書館からすぐそこにある、昔ながらの喫茶店に入っていった。
青年はカフェオレを頼んだ。
何でもよいと言われたので、優斗はメロンソーダを頼んだ。とにかく甘い物が飲みたかったのだ。
「さて、と」
青年が切り出す。
「前提として、君がどんな状況に陥ったかは、僕は語るすべを持たない」
「でも何かを知っている」
「そうだね、知っているけど、教えるつもりはない、という解釈をしてもいいよ」
彼が軽く頷いた。
「それは困る、僕は知りたいことを知りたい」
「うーん、まあ、そういう気持ちを否定したくないけど。ああ、そうだ、自己紹介がまだだったね、僕は賀茂《かも》武人《たけひと》、ちょっと所用があってこのあたりをうろうろしていたってところかな」
「そのうろうろは今回のことに関係があるのか?」
「あるともいえるし、ないともいえる。さあ、君の番だよ」
「僕は城山口《しろやまぐち》優斗、中学」
「城山口? 珍しい名前だね、もしかしてお兄さんはユーリと言うのかい?」
「そうだけど」
賀茂と名乗った青年は優斗の兄の名前を出して、目を細めて少し嬉しそうにした。
「ああ、じゃあ僕は君のお兄さん、ユーリの同級生だったんだよ。いやあ懐かしいなあ」
「そうなのか」
「最近は連絡を取っていないけどね、いや、でも結構仲は良かったよ。僕が不審者に見えるならユーリに聞いてみてもいいよ、まあ、ユーリは僕のこと不審者って言うかもしれないけどね」
「そこまではしないけど」
優斗は日本のどこかにはいるだろう兄のことを思い出していた。兄と同じ年齢なら、まだ二十代前半だろう。その通りにも見えるし、もっと年齢を重ねているようにも、もっと若く大学生くらいにも見えた。
「知っていること、教えてほしい」
賀茂が右手を振った。
「だから、特に語ることはないよ。具体的に何か知りたいことがあれば考えてもいいけど。僕が知っているのは君があそこで倒れていたってことだけだよ」
「残り香って言っていた」
ぼそりと賀茂が呟いていたことだ。
「ああ、うん、それは、まあ、忘れてほしい」
賀茂がばつが悪そうに言う。
「そういうわけにもいかない、僕は」
「誰かに会った。そしてたたきのめされたってところかな」
まるで優斗と一ノ瀬のことを見てきたように賀茂が笑顔で言った。
「……そう、だけど。どうして」
「まあ、あんなところで倒れていたのならそれくらいの推測はできるよ」
賀茂は明らかに、実際はそうではない、という雰囲気を出している。
「さっきも言った通り、僕はユーリの同級生だから、このあたりの土地勘もあるんだ。あそこは良くないね、地下は大体空気が悪いけど、特に流れが悪い」
「流れって?」
「いやそのままの意味。淀みだよ、換気がきちんとされていないってこと。僕は古くさい本の匂いは好きだけど、それが溜まっていると息苦しくなるよね」
「そう」
匂わせはするが、肝心なところははぐらかされているのを感じる。
「おまじないが関係しているのか?」
「おまじない?」
賀茂が返したので、簡単な説明をする。
女子生徒が行方不明になったこと、それと同時におまじないが密かに流行りだしていることを言う。
賀茂は相づちも打たず黙って聞いていた。
「おまじないっていうか、コックリさんだよね、それ」
右手に持ったティースプーンをゆらゆらとさせる。
「そう、そう思う」
優斗と同じ感想のようだった。
「つまり、それに『呪われた』から姿を消したんだ、と」
「そう思っている人もいるってだけ」
「君はどう思っている?」
「関係ないと思うけど」
「けど?」
「気になっている?」
「うん」
「もし、そんな『呪い』があったとして。前提として、呪いが存在するとして、だよ」
賀茂が軽く言う。
「二つのケースが考えられる」
ティースプーンを置いて人差し指と中指を立てた。
「『呪い』そのものによって身体の自由を奪われてどこかに移動もしくは隔離されているケース、『呪い』から逃れるために自らの意思で移動もしくは身を隠しているケース」
「そうか」
「あくまで、『呪い』なんてのが本当に存在しているとして、だからね」
「あんたは、信じているのか?」
「信じる? まあ、そうだね、現物を見てみないことはなんとも」
「見ればわかるのか」
そんなものがあるはずはない、と一笑には付さなかった。
優斗は持っていたそのおまじないの紙を賀茂に渡す。
受け取った賀茂は紙を広げてしげしげと文字列を眺めている。『あ』に指を置いて、何の規則に従っているのか、その指を動かしている。
「いやはや、質はともかく……」
「なんだって?」
「いや、これは返しておこう。たいしたものじゃないよ」
紙を折りたたんで優斗に返した。
「ところで、申し訳ないんだけど」
賀茂が切り出す。
「僕の『うろうろ』の話をしてもいいかな」
「うん」
「君のことに関係があるかどうかはわからないんだけど、可能性がわずかでもあるならってレベルだよ。だからこうして君と話しているんだ。ただでメロンソーダを飲ませているわけではないってところかな。まあ、君が話す内容によってはスパゲティくらいは奢ってもいいけど。君はどうやら年の割にはこの辺りに顔が利くように見えるからね」
やたらと前置きが長い。
「それで」
「簡単に言うと『人捜し』をしている」
優斗と同じく、賀茂は『人捜し』をしているらしい。
「どんな」
「うーん、なんて言えばいいのかな。改めて言われると難しいな」
「写真とか」
「ああ、残念ながらそういうのがないんだよね。『彼』はそういうのは残さないタイプだから」
賀茂が指を立てる。
「彼? 男?」
「うん、そうだね、外見は、うん、男性だと思っていい。見た目はそうだな、こういうのもあれなんだけど、雰囲気は『僕』のような感じだ」
その指を賀茂は彼自身に向ける。
失礼な意見かもしれないが、優斗は賀茂が特別な何か雰囲気があるようには思えなかった。どこにでもいる、というのが直感的な判断だ。
「どういう服装をしているのかはわからない。背丈もそうだね、僕と大体同じかな」
「家族?」
その質問に、賀茂は眉をひそめ、それから口を歪めた。
「いや、まあ、違うんだけど、うーん、やっぱり言語化するのは難しいな」
「僕は、あなたみたいな人は知らない」
知っていたとしても記憶には残っていないだろう。
「そうか、うん、まあそうだろうね」
残念そうでもなく、それも当然か、くらいの軽さで賀茂が頷く。
「さあ、もう行こうか」
「ああ、うん」
優斗がメロンソーダを飲み干したのを確認して、賀茂が立ち上がった。
二人が喫茶店を出る。
「僕からの忠告だけど」
前に立っていた賀茂が振り返り、首を少しだけ傾げた。
「あまり深入りはしない方がいいよ」
「な、なにに」
「君が今立ち入っている事案について、さ」
「だから、何を知って」
「それは年の功だよ。ただ、まあ、そういう勘は当たる方だからね、ああ、そうだ」
賀茂がスーツの胸ポケットから手帳を取り出し、ペンで何かを書いて一ページ分破って渡す。
「これは?」
「僕の電話番号。もし君がピンチに陥って、誰にも頼れそうになくなったら、僕に連絡をするといい。元クラスメイトの弟ということで、少しは助けになるかもしれない」
「やっぱり、何か知って」
「それじゃあね、運悪くまた出会わないといいね。まあ、縁はできちゃったから、それもどうなるかわからないけど」
賀茂が何かを含んでいるような口ぶりで手を振って去っていった。
一ノ瀬から情報を得ようとしたが、完敗だった。
ゆっくりと全身の関節の状態を見て、どこにも異常がないことを確認する。長距離走をしてきたようなあの疲れは残ってはいるが、痛みはないようだった。
「君、大丈夫かい?」
突然声がして、緊張感が全身に広がる。
声の方向はさっきまで一ノ瀬がいたところだった。
「害意はないよ、ただ心配しているだけだから。こんなところで大の字になっている人間がいたら心配もするよね」
優斗は上半身を起こし、声の主を見る。
「あ、あんたは」
「僕? 通りすがりのものだけど……」
優斗の前にいたのはスーツを着た青年だった。成人は過ぎているだろう。黒縁の眼鏡をしていて、温和な顔でこちらをみている。害意がはないというのは本当のようだった。
「通りすがりがこんなところにいるなんて変だ」
「ここは図書館の中だよ、市民に開かれている」
「地下二階だ」
「それでも、だよ」
声の主は安穏としている。というより、ぼけているような感じすら覚える。
「君が必要なら、司書さんに連絡するけど」
「い、いや、それは大丈夫」
「そう。おっと、図書館がもうすぐ閉まる時間だね。とりあえず外に出た方がいいんじゃないかな」
「それはそうだけど、別にあんたと」
「いや、僕は少し君が興味が出てきたよ。そういう反応をしている」
「反応?」
「こっちの話。複数の残り香がする」
「残り香?」
どうやら自分にはよくわからないことを言っているようだった。先ほどまでの緊張感から一転、それを理解できない自分に苛ついていた。
「まあまあ、とりあえず、ここから出て少し話そうじゃないか」
「ああ」
青年の後に続いて書庫の階段を上がり、図書館から出る。
入ったときは明るかったはずだが、出たときにはもう閉館時間ギリギリだった。
一時間以上はいたような気がしてきた。
とにかく疲れた。
「ああ、あんなところに喫茶店があるね、どうだろう、僕がおごるから少し休んでいったら?」
とにかく怪しいし、不審感がないわけではないが、誘いを断るほどではない。それに、さっきの異常事態について、何か知っているような風でもあった。
「ああ、わかった」
二人は図書館からすぐそこにある、昔ながらの喫茶店に入っていった。
青年はカフェオレを頼んだ。
何でもよいと言われたので、優斗はメロンソーダを頼んだ。とにかく甘い物が飲みたかったのだ。
「さて、と」
青年が切り出す。
「前提として、君がどんな状況に陥ったかは、僕は語るすべを持たない」
「でも何かを知っている」
「そうだね、知っているけど、教えるつもりはない、という解釈をしてもいいよ」
彼が軽く頷いた。
「それは困る、僕は知りたいことを知りたい」
「うーん、まあ、そういう気持ちを否定したくないけど。ああ、そうだ、自己紹介がまだだったね、僕は賀茂《かも》武人《たけひと》、ちょっと所用があってこのあたりをうろうろしていたってところかな」
「そのうろうろは今回のことに関係があるのか?」
「あるともいえるし、ないともいえる。さあ、君の番だよ」
「僕は城山口《しろやまぐち》優斗、中学」
「城山口? 珍しい名前だね、もしかしてお兄さんはユーリと言うのかい?」
「そうだけど」
賀茂と名乗った青年は優斗の兄の名前を出して、目を細めて少し嬉しそうにした。
「ああ、じゃあ僕は君のお兄さん、ユーリの同級生だったんだよ。いやあ懐かしいなあ」
「そうなのか」
「最近は連絡を取っていないけどね、いや、でも結構仲は良かったよ。僕が不審者に見えるならユーリに聞いてみてもいいよ、まあ、ユーリは僕のこと不審者って言うかもしれないけどね」
「そこまではしないけど」
優斗は日本のどこかにはいるだろう兄のことを思い出していた。兄と同じ年齢なら、まだ二十代前半だろう。その通りにも見えるし、もっと年齢を重ねているようにも、もっと若く大学生くらいにも見えた。
「知っていること、教えてほしい」
賀茂が右手を振った。
「だから、特に語ることはないよ。具体的に何か知りたいことがあれば考えてもいいけど。僕が知っているのは君があそこで倒れていたってことだけだよ」
「残り香って言っていた」
ぼそりと賀茂が呟いていたことだ。
「ああ、うん、それは、まあ、忘れてほしい」
賀茂がばつが悪そうに言う。
「そういうわけにもいかない、僕は」
「誰かに会った。そしてたたきのめされたってところかな」
まるで優斗と一ノ瀬のことを見てきたように賀茂が笑顔で言った。
「……そう、だけど。どうして」
「まあ、あんなところで倒れていたのならそれくらいの推測はできるよ」
賀茂は明らかに、実際はそうではない、という雰囲気を出している。
「さっきも言った通り、僕はユーリの同級生だから、このあたりの土地勘もあるんだ。あそこは良くないね、地下は大体空気が悪いけど、特に流れが悪い」
「流れって?」
「いやそのままの意味。淀みだよ、換気がきちんとされていないってこと。僕は古くさい本の匂いは好きだけど、それが溜まっていると息苦しくなるよね」
「そう」
匂わせはするが、肝心なところははぐらかされているのを感じる。
「おまじないが関係しているのか?」
「おまじない?」
賀茂が返したので、簡単な説明をする。
女子生徒が行方不明になったこと、それと同時におまじないが密かに流行りだしていることを言う。
賀茂は相づちも打たず黙って聞いていた。
「おまじないっていうか、コックリさんだよね、それ」
右手に持ったティースプーンをゆらゆらとさせる。
「そう、そう思う」
優斗と同じ感想のようだった。
「つまり、それに『呪われた』から姿を消したんだ、と」
「そう思っている人もいるってだけ」
「君はどう思っている?」
「関係ないと思うけど」
「けど?」
「気になっている?」
「うん」
「もし、そんな『呪い』があったとして。前提として、呪いが存在するとして、だよ」
賀茂が軽く言う。
「二つのケースが考えられる」
ティースプーンを置いて人差し指と中指を立てた。
「『呪い』そのものによって身体の自由を奪われてどこかに移動もしくは隔離されているケース、『呪い』から逃れるために自らの意思で移動もしくは身を隠しているケース」
「そうか」
「あくまで、『呪い』なんてのが本当に存在しているとして、だからね」
「あんたは、信じているのか?」
「信じる? まあ、そうだね、現物を見てみないことはなんとも」
「見ればわかるのか」
そんなものがあるはずはない、と一笑には付さなかった。
優斗は持っていたそのおまじないの紙を賀茂に渡す。
受け取った賀茂は紙を広げてしげしげと文字列を眺めている。『あ』に指を置いて、何の規則に従っているのか、その指を動かしている。
「いやはや、質はともかく……」
「なんだって?」
「いや、これは返しておこう。たいしたものじゃないよ」
紙を折りたたんで優斗に返した。
「ところで、申し訳ないんだけど」
賀茂が切り出す。
「僕の『うろうろ』の話をしてもいいかな」
「うん」
「君のことに関係があるかどうかはわからないんだけど、可能性がわずかでもあるならってレベルだよ。だからこうして君と話しているんだ。ただでメロンソーダを飲ませているわけではないってところかな。まあ、君が話す内容によってはスパゲティくらいは奢ってもいいけど。君はどうやら年の割にはこの辺りに顔が利くように見えるからね」
やたらと前置きが長い。
「それで」
「簡単に言うと『人捜し』をしている」
優斗と同じく、賀茂は『人捜し』をしているらしい。
「どんな」
「うーん、なんて言えばいいのかな。改めて言われると難しいな」
「写真とか」
「ああ、残念ながらそういうのがないんだよね。『彼』はそういうのは残さないタイプだから」
賀茂が指を立てる。
「彼? 男?」
「うん、そうだね、外見は、うん、男性だと思っていい。見た目はそうだな、こういうのもあれなんだけど、雰囲気は『僕』のような感じだ」
その指を賀茂は彼自身に向ける。
失礼な意見かもしれないが、優斗は賀茂が特別な何か雰囲気があるようには思えなかった。どこにでもいる、というのが直感的な判断だ。
「どういう服装をしているのかはわからない。背丈もそうだね、僕と大体同じかな」
「家族?」
その質問に、賀茂は眉をひそめ、それから口を歪めた。
「いや、まあ、違うんだけど、うーん、やっぱり言語化するのは難しいな」
「僕は、あなたみたいな人は知らない」
知っていたとしても記憶には残っていないだろう。
「そうか、うん、まあそうだろうね」
残念そうでもなく、それも当然か、くらいの軽さで賀茂が頷く。
「さあ、もう行こうか」
「ああ、うん」
優斗がメロンソーダを飲み干したのを確認して、賀茂が立ち上がった。
二人が喫茶店を出る。
「僕からの忠告だけど」
前に立っていた賀茂が振り返り、首を少しだけ傾げた。
「あまり深入りはしない方がいいよ」
「な、なにに」
「君が今立ち入っている事案について、さ」
「だから、何を知って」
「それは年の功だよ。ただ、まあ、そういう勘は当たる方だからね、ああ、そうだ」
賀茂がスーツの胸ポケットから手帳を取り出し、ペンで何かを書いて一ページ分破って渡す。
「これは?」
「僕の電話番号。もし君がピンチに陥って、誰にも頼れそうになくなったら、僕に連絡をするといい。元クラスメイトの弟ということで、少しは助けになるかもしれない」
「やっぱり、何か知って」
「それじゃあね、運悪くまた出会わないといいね。まあ、縁はできちゃったから、それもどうなるかわからないけど」
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