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第四話「願いは現実の拒絶なのか?」
第四話「願いは現実の拒絶なのか?」6
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「なあ、僕たち結構良いコンビだったろ」
ヘッドフォンを耳から外した紗希が左手を上げる。
彩花がそれに右手を合わせた。
満更でもない顔で彩花も返す。
「そう、かも」
「さて、と」
電撃を受けて伸びて倒れているこなたとかなたを二人で見る。
「とりあえず、一条のことからか」
こなたが先に身体を起こす。
かなたはまだ倒れていた。
「ああ、そうだったね。祈は……」
「あれ?」
彩花が異変に気づく。
「裁定者が、消えていない……」
いつもなら勝負が終わったらすぐに消えていた白いワンピースの少女が、今はまだ立ち尽くして眼帯越しにこちらを見ているようだった。存在しない視線の先を追うと、そこにいたのはかなただ。
「なんだって! まさか……」
その状況に焦ったのは、こなただった。
「どうしたの?」
彩花がこなたに聞くが、こなたは倒れているかなたに向かって叫ぶ。
「かなた! 早く起きるんだ!」
かなたは呼びかけに応じず、電撃のショックが抜けていないのか、動こうとしない。
「裁定者、待ってくれ!」
裁定者は反応しない。
いつの間にか、少女の日傘は折りたたまれていた。
その日傘を指示棒のようにして、地面に倒れたままのかなたを指した。
『レベル4の融解を認識しました』
それだけを言って、霧のように姿を消してしまった。
「かなた、早く……」
「う、うううううううう」
こなたが言いかけたのを遮って、かなたが声を漏らす。
電気ショックが強すぎて過剰に反応したのかと最初は思ったが、こなたの慌てようといい、どうやら状況が違うらしい。
かなたの身体は小刻みに震えて、両膝をつき、右手は地面を掴もうとしている。
その様子は明らかに常軌を逸していて異常だった。
そう思ったのは彩花だけでなく、対戦経験が豊富な紗希やこなたも同じようだった。
「おいおい、どうなってるんだ?」
「かなた!」
二人が声をかける。
「こなちゃん、こなちゃん」
かなたは自分を見失っているのか震えながら手を左右に振り、うわごとを言いこなたを探している。メガネは地面に落ちていた。
「かなた! しっかりしろ! どうしたんだ」
「頭が、痛くて、前が見えないの」
かなたが訴える。かろうじて周りの声は聞こえているようだ。
「気持ち悪い、なんだか、あの夢みたいで」
夢、とかなたが言った。
「助けなきゃ、病院……。きゅ、救急車」
彩花はレンズから、緊急番号を検索して呼び出しをしようとする。
そのときだった。
ジリリリリリリリ
アラームが鳴り響く。
イヤフォンからではない。
彩花の頭の中から直接聞こえているようだ。
「あ、う……」
電撃と同じように耐えきれなくなり、その場に膝を落とす。
視界が壊れて、涙がにじむ。
激しい頭痛と、吐き気がした。
彩花のぼやけた目で見えたのは、同じようにうずくまる紗希とこなただ。
二人にもアラーム音が鳴っているようだ。
おかしい。
今まではイヤフォンから音が鳴っていた。紗希はヘッドフォンを外しているから、そこから鳴ったとしても大した音にはならないはずだ。
それが骨伝導でもしているかのように頭蓋骨が揺れて、けたたましい音が聞こえる。
あまりにも音が大きくて確認できないが、紗希とこなたのアラーム音は聞こえない。それぞれ個人にだけ聞こえているのだ。
それでもこなたは、ずりずりと進み、懸命にかなたを抱きかかえる。
「大丈夫か、かなた」
「ああ、こなちゃん、こなちゃん。私、もう、あの夢が見えて」
再度、夢、とかなたが言う。
「いいからしっかりしろ」
「もうだめなの、右手、が、ぐにゃぐにゃして、ああ、なくなって」
「かなた」
「祈ちゃんが、祈ちゃんが」
今度は祈、と一条の名前を呼んだ。
「待っているから」
こなたがかなたを揺する。
このアラーム音が響く頭痛の中で動ける精神力は相当なものだ。
彩花の横にいた紗希が頭を押さえながら言う。
「レンズが、起動しない」
アラームの隙間を縫って、どうにか会話をする。
「起動しろ!」
紗希が虚空に向かって叫んだ。
「私も」
アラームが鳴る前は確か起動していて、それで緊急番号を呼び出そうとしていたんだった。それが今はレンズは沈黙している。
「どうして、こんなときに」
「なんで、かなたは『まだ』のはずだろう」
こなたが『まだ』と言う。
アラームと重なるように遠くからエンジン音が聞こえてきた。
電気式ではない、今ではあまり見なくなった旧式の自動車の音だ。
なんとか意識を保ち、彩花はそちらの方を見る。
急ブレーキのような甲高い音を立てて、広場の道路脇で車が止まった。
運転席から誰かが出てきたようだ。
助かった、と彩花は思った。
とりあえず、かなたを病院に連れていってもらわないといけない。
自分を含む他の三人はアラームさえ鳴りやんでくれれば、それで大丈夫だろう。
黒いスーツを着た彼女、彩花には女性に見えた。
その姿を見て彩花は息を呑む。
彩花はこの女性に見覚えがある。
指輪を彩花に渡した張本人だ。
彼女はこの四人の姿を見て動揺するどころか声も出さず、一直線にこちらに向かってくる。
彼女は夜に集まっている女子高校生を不審に思っているようでもない。
そもそも、こんな時間にここを自動車が通るのがおかしい。
この先は、なにもない、山頂にはただ街を見下ろす展望台があるだけだ。カップルならともかく、一人で行くようなところではない。
ようやくその異常さに彩花が気が付く。
とすれば。
ここが目的地なのではないか。
次第に彼女の姿がはっきりしてくる。
ふわふわのウェーブした金髪を揺らし、青い瞳で三人を一人ずつ見た。
金髪や碧眼はリアルでいくらでも装飾することができるが、そのはっきりした目鼻立ちを見て、彩花は彼女が日本人ではないように見えた。
彩花よりもかなり高い身長で、運転するには不似合いなヒールを土に突き立てながら歩いている。
「……まだ大丈夫なんだろ? まだ」
こなたが彼女に話しかける。
彼女はそれにはなにも言わず、三人の横を通り過ぎて、倒れているかなたを右肩に担いだ。かなたは標準よりは軽そうに見えるが、それでも簡単に持ち上げられるものではない。かなたのおさげが揺れる。
「被験者を確保しました」
彼女は左手を耳に当てて、流暢な日本語でどこかに連絡を取っているようだ。
「はい、ステージは4です。搬送します」
「待って、くれ」
脳内に鳴り響くアラーム音に逆らいながら、こなたは立ち上がり、かなたを担ぐ女性に向かっていこうとする。
「ううっ」
彩花の脳内で鳴っていたアラーム音が増大して、目眩どころではなく、目の前が真っ暗になる。
それでも、気丈にこなたは彼女にすがろうとしているようだ。
「かなたを、連れていかないでくれ」
「彼女を『助けます』」
それだけを言って、触れようとしたこなたを払いのける。
「助けるって……。嘘をつかないでくれ、私が代わりになるから」
彼女はかなたを自動車の後部座席に押し込み、自身も運転席に入る。
「かなたを返せ!」
こなたの叫びも空しく響くだけで、かなたを乗せた自動車はそのまま、走り去ってしまった。
それから少しして、次第に彩花のアラーム音が収まり始める。
「レンズが起動した」
横で紗希が言った。
目の前にプログレスバーが現れ、レンズが再起動されている。
二人のレンズも同じようだった。
しかし、かなたがいない今、緊急通報をする意味はないだろう。
それぞれが頭を振ったり押さえたりして立ち上がり、一箇所に集まる。
「どうなってんだよ」
口を開いたのは紗希だった。
「たかがゲームだろ、ゲームなんだろ」
紗希の呟きは自分自身に言っているようだ。
「……そうでもない」
それに反論する形でこなたが言った。
「なにか、知っているんだ」
「ああ、君たちよりは、ね」
ヘッドフォンを耳から外した紗希が左手を上げる。
彩花がそれに右手を合わせた。
満更でもない顔で彩花も返す。
「そう、かも」
「さて、と」
電撃を受けて伸びて倒れているこなたとかなたを二人で見る。
「とりあえず、一条のことからか」
こなたが先に身体を起こす。
かなたはまだ倒れていた。
「ああ、そうだったね。祈は……」
「あれ?」
彩花が異変に気づく。
「裁定者が、消えていない……」
いつもなら勝負が終わったらすぐに消えていた白いワンピースの少女が、今はまだ立ち尽くして眼帯越しにこちらを見ているようだった。存在しない視線の先を追うと、そこにいたのはかなただ。
「なんだって! まさか……」
その状況に焦ったのは、こなただった。
「どうしたの?」
彩花がこなたに聞くが、こなたは倒れているかなたに向かって叫ぶ。
「かなた! 早く起きるんだ!」
かなたは呼びかけに応じず、電撃のショックが抜けていないのか、動こうとしない。
「裁定者、待ってくれ!」
裁定者は反応しない。
いつの間にか、少女の日傘は折りたたまれていた。
その日傘を指示棒のようにして、地面に倒れたままのかなたを指した。
『レベル4の融解を認識しました』
それだけを言って、霧のように姿を消してしまった。
「かなた、早く……」
「う、うううううううう」
こなたが言いかけたのを遮って、かなたが声を漏らす。
電気ショックが強すぎて過剰に反応したのかと最初は思ったが、こなたの慌てようといい、どうやら状況が違うらしい。
かなたの身体は小刻みに震えて、両膝をつき、右手は地面を掴もうとしている。
その様子は明らかに常軌を逸していて異常だった。
そう思ったのは彩花だけでなく、対戦経験が豊富な紗希やこなたも同じようだった。
「おいおい、どうなってるんだ?」
「かなた!」
二人が声をかける。
「こなちゃん、こなちゃん」
かなたは自分を見失っているのか震えながら手を左右に振り、うわごとを言いこなたを探している。メガネは地面に落ちていた。
「かなた! しっかりしろ! どうしたんだ」
「頭が、痛くて、前が見えないの」
かなたが訴える。かろうじて周りの声は聞こえているようだ。
「気持ち悪い、なんだか、あの夢みたいで」
夢、とかなたが言った。
「助けなきゃ、病院……。きゅ、救急車」
彩花はレンズから、緊急番号を検索して呼び出しをしようとする。
そのときだった。
ジリリリリリリリ
アラームが鳴り響く。
イヤフォンからではない。
彩花の頭の中から直接聞こえているようだ。
「あ、う……」
電撃と同じように耐えきれなくなり、その場に膝を落とす。
視界が壊れて、涙がにじむ。
激しい頭痛と、吐き気がした。
彩花のぼやけた目で見えたのは、同じようにうずくまる紗希とこなただ。
二人にもアラーム音が鳴っているようだ。
おかしい。
今まではイヤフォンから音が鳴っていた。紗希はヘッドフォンを外しているから、そこから鳴ったとしても大した音にはならないはずだ。
それが骨伝導でもしているかのように頭蓋骨が揺れて、けたたましい音が聞こえる。
あまりにも音が大きくて確認できないが、紗希とこなたのアラーム音は聞こえない。それぞれ個人にだけ聞こえているのだ。
それでもこなたは、ずりずりと進み、懸命にかなたを抱きかかえる。
「大丈夫か、かなた」
「ああ、こなちゃん、こなちゃん。私、もう、あの夢が見えて」
再度、夢、とかなたが言う。
「いいからしっかりしろ」
「もうだめなの、右手、が、ぐにゃぐにゃして、ああ、なくなって」
「かなた」
「祈ちゃんが、祈ちゃんが」
今度は祈、と一条の名前を呼んだ。
「待っているから」
こなたがかなたを揺する。
このアラーム音が響く頭痛の中で動ける精神力は相当なものだ。
彩花の横にいた紗希が頭を押さえながら言う。
「レンズが、起動しない」
アラームの隙間を縫って、どうにか会話をする。
「起動しろ!」
紗希が虚空に向かって叫んだ。
「私も」
アラームが鳴る前は確か起動していて、それで緊急番号を呼び出そうとしていたんだった。それが今はレンズは沈黙している。
「どうして、こんなときに」
「なんで、かなたは『まだ』のはずだろう」
こなたが『まだ』と言う。
アラームと重なるように遠くからエンジン音が聞こえてきた。
電気式ではない、今ではあまり見なくなった旧式の自動車の音だ。
なんとか意識を保ち、彩花はそちらの方を見る。
急ブレーキのような甲高い音を立てて、広場の道路脇で車が止まった。
運転席から誰かが出てきたようだ。
助かった、と彩花は思った。
とりあえず、かなたを病院に連れていってもらわないといけない。
自分を含む他の三人はアラームさえ鳴りやんでくれれば、それで大丈夫だろう。
黒いスーツを着た彼女、彩花には女性に見えた。
その姿を見て彩花は息を呑む。
彩花はこの女性に見覚えがある。
指輪を彩花に渡した張本人だ。
彼女はこの四人の姿を見て動揺するどころか声も出さず、一直線にこちらに向かってくる。
彼女は夜に集まっている女子高校生を不審に思っているようでもない。
そもそも、こんな時間にここを自動車が通るのがおかしい。
この先は、なにもない、山頂にはただ街を見下ろす展望台があるだけだ。カップルならともかく、一人で行くようなところではない。
ようやくその異常さに彩花が気が付く。
とすれば。
ここが目的地なのではないか。
次第に彼女の姿がはっきりしてくる。
ふわふわのウェーブした金髪を揺らし、青い瞳で三人を一人ずつ見た。
金髪や碧眼はリアルでいくらでも装飾することができるが、そのはっきりした目鼻立ちを見て、彩花は彼女が日本人ではないように見えた。
彩花よりもかなり高い身長で、運転するには不似合いなヒールを土に突き立てながら歩いている。
「……まだ大丈夫なんだろ? まだ」
こなたが彼女に話しかける。
彼女はそれにはなにも言わず、三人の横を通り過ぎて、倒れているかなたを右肩に担いだ。かなたは標準よりは軽そうに見えるが、それでも簡単に持ち上げられるものではない。かなたのおさげが揺れる。
「被験者を確保しました」
彼女は左手を耳に当てて、流暢な日本語でどこかに連絡を取っているようだ。
「はい、ステージは4です。搬送します」
「待って、くれ」
脳内に鳴り響くアラーム音に逆らいながら、こなたは立ち上がり、かなたを担ぐ女性に向かっていこうとする。
「ううっ」
彩花の脳内で鳴っていたアラーム音が増大して、目眩どころではなく、目の前が真っ暗になる。
それでも、気丈にこなたは彼女にすがろうとしているようだ。
「かなたを、連れていかないでくれ」
「彼女を『助けます』」
それだけを言って、触れようとしたこなたを払いのける。
「助けるって……。嘘をつかないでくれ、私が代わりになるから」
彼女はかなたを自動車の後部座席に押し込み、自身も運転席に入る。
「かなたを返せ!」
こなたの叫びも空しく響くだけで、かなたを乗せた自動車はそのまま、走り去ってしまった。
それから少しして、次第に彩花のアラーム音が収まり始める。
「レンズが起動した」
横で紗希が言った。
目の前にプログレスバーが現れ、レンズが再起動されている。
二人のレンズも同じようだった。
しかし、かなたがいない今、緊急通報をする意味はないだろう。
それぞれが頭を振ったり押さえたりして立ち上がり、一箇所に集まる。
「どうなってんだよ」
口を開いたのは紗希だった。
「たかがゲームだろ、ゲームなんだろ」
紗希の呟きは自分自身に言っているようだ。
「……そうでもない」
それに反論する形でこなたが言った。
「なにか、知っているんだ」
「ああ、君たちよりは、ね」
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