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愛斗
どこにも行かないで
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体が重い。熱い…怠い………………
(風引いたか?…やらかしたぁ…………)
ゆっくりまぶたを開けると神野がこちらを覗き込んでいた。
「愛斗さん…!よかった目ぇ覚めたんですね」
「…おれ…倒れた?」
「はい。昨日帰ってきてからバタっと…疲れたんですね今日は土曜なんでゆっくりしてください…お水とおじや持ってきますね」
「…ありがと」
ぱたんと音がして扉が閉められる。
(また…迷惑かけてしまったな…申し訳なさすぎる)
はあ…とため息を付いた。
「情けないな………おれ。早く出てかなきゃなのに…」
「おまたせしました~…食べれそうですか?」
「ごめん…ありがと…」
何か不満だったらしく神野の眉毛がギュッと寄った。
「愛斗さん……まあいいや。はい、あーん」
「え、自分で食べれるって…」
「いいから。はいあーん。」
「…」
スプーンを差し出されパクっと口に入れる。
持ってきてくれたおじやは卵とネギが入っていて、白だしが効いた甘じょっぱい優しい味だった。
なんだか、泣きたくなるような…
1口だけ神野から食べさせてもらって、あとは「自分で食べれるから」とトレーを受け取り、ゆっくりながらもなんとか完食した。
「ごちそうさま。美味しかったよ」
「よかった…お粗末様です…」
急にぐらっと目の前が揺れる感じがした。
全体的にすごい倦怠感があり、座っているのも辛くなってしまった。
「ごめ…ちょっと辛いから横になる…」
「え!まじか。ゆっくりしててください…」
俺を気遣ってか神野は「洗い物してきます」とへやを出ていった。
ドアのしまる音を聞いたあと、俺の意識は段々と落ちていった。
■■■
…あれ?
家族が俺を見下ろしてる。
視点の感じからして俺は床にぺたんと座り込んでるようだ。
くすくすと母、兄、弟の3人が笑う。
「お前、まだ生きてたんだ?出来損ないのくせにw」
綾人が笑いながらバカにしたように言った。
「ウチの恥晒しくんw」
母も続いて言う。
「愛斗さん」
急に背後から名前を呼ばれて振り返る。
そこには昨日神野宅に押しかけてきた女と腕を組む神野の姿があった。
「じん…の…?」
「ねぇ~すみやぁ~…この人だぁれ?」
女がこっちを見ながら言う。
「ただの居候だよ。ねえ愛斗さん?家、見つかりました?そろそろ彼女と暮らしたいんで早くしてくださいね?」
と冷たい目線を投げかけてきた。
くるっと踵を返し女と腕を組んで去っていく神野。
「待って!!!!」
そう必死に叫ぶのに一切振り向いてくれない。
絶望している俺を見て、心底楽しそうに高く笑う母親にと兄。
彼女らの声が暗闇にうるさく響いた───
■■■■
はっと目を覚ます。
見ていた夢のせいか、汗だくだし息も荒い。
しかも明らかに寝る前より体が怠い。
(ヤバイ…悪化した…カモ…)
「うぅう…からだいたい…」
身を少し捩るとずるりと濡れたタオルが額からずり落ちた。
「あ。水もスポドリもないじゃん…」
目線だけで周りを見ると神野はココに居ないようだ。
怠い身体にムチを打ってベッドから起き上がりフラフラとキッチンに向かう。
…おかしい
電気がついてない
「じんの~…?」
風呂場に続く脱衣所を覗く… …いない
神野の部屋をそーっと覗く… …いない
トイレ…は電気ついて …ない
玄関の靴… …ない
もっかいリビングに戻ってみる… …いない
ぽすん、とソファーに座る。
「どこ…いったんだろ…」
チッ…チッ…チッ…
時計の音だけが部屋に響く…。
段々座ってるのも辛くなってきてズルズルとソファーに横になった。
さっき見た夢を思い出す…─
(─…神野…出てっちゃったのか…?俺に愛想つかした…?俺がいつまでも出ていかないから…あの女のトコに泊まりに行ったのか?)
「…ごめんなさい…家…ごめんなさい…」
うずくまりながら「ごめんなさい」と小さく呟き続けた…。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
熱に浮かされあんまり動いてない脳でぐるぐると考える。
何かで押しつぶされそうだ。
熱のせいなのかなんなのか息まで上がってきた。
寒い寒い寒い寒い寒い寒い。
あの優しいぬくもりがほしい。
あの優しい手がほしい。
「じんのぉ…………」
じわぁと視界が歪む。
「ぅぐ…」
噛んでた唇がわなわなと震え、本格的に泣きそうになった瞬間─
ガチャ
鍵の開く音がした。
「…?…!? !?愛斗さん!?」
焦った声に続いて廊下をバタバタと走る足音が聞こえる。
あちこちでドアの開閉音がしたあとリビングと廊下を隔てているドアがバン!と大きく開いた。
「っ!愛斗さん!!あ、いた!いやいやこんなとこで何してんですか!?ってあっつ!」
ソファーに横たわっている俺を発見した神野は俺をひょいと抱き上げた。
「じんのぉ…」
掠れた声で小さく呼ぶ。
「はい」
「どこ…行ってたんだよぉ…」
「薬と食料買いに行ってました。解熱剤、どれが良いのかわからなくて相談したりしてたら思ったより遅くなっちゃいました…」
「…」
「で?愛斗さんは何でソファーにいたんですか?」
あれ?なんか目が笑ってないぞ…
「ねえ。熱上がってるのに何でソファーにいたんですか?」
魔王のようなオーラが見える…怖い…
「夢見悪くて起きちゃってさ…そしたら神野がいなくて…」
ポロっと涙があふれる。
「おれ…」
「っごめんなさい…!置き書きでもしとくべきでした…不安にさせてごめんなさい…」
いつの間にか寝室についていて俺はベットにそっと寝かされた。掛け布団と毛布までかけてくれた神野…
至れり尽くせり…
「じんのぉ…」
「はい」
ベットの横にしゃがんだ神野は微笑んで俺の頭を撫でる。
あったかい。
「もう…どこにもいかないで…」
神野の手の温度に微睡みながらぽつりと俺は言った。
(風引いたか?…やらかしたぁ…………)
ゆっくりまぶたを開けると神野がこちらを覗き込んでいた。
「愛斗さん…!よかった目ぇ覚めたんですね」
「…おれ…倒れた?」
「はい。昨日帰ってきてからバタっと…疲れたんですね今日は土曜なんでゆっくりしてください…お水とおじや持ってきますね」
「…ありがと」
ぱたんと音がして扉が閉められる。
(また…迷惑かけてしまったな…申し訳なさすぎる)
はあ…とため息を付いた。
「情けないな………おれ。早く出てかなきゃなのに…」
「おまたせしました~…食べれそうですか?」
「ごめん…ありがと…」
何か不満だったらしく神野の眉毛がギュッと寄った。
「愛斗さん……まあいいや。はい、あーん」
「え、自分で食べれるって…」
「いいから。はいあーん。」
「…」
スプーンを差し出されパクっと口に入れる。
持ってきてくれたおじやは卵とネギが入っていて、白だしが効いた甘じょっぱい優しい味だった。
なんだか、泣きたくなるような…
1口だけ神野から食べさせてもらって、あとは「自分で食べれるから」とトレーを受け取り、ゆっくりながらもなんとか完食した。
「ごちそうさま。美味しかったよ」
「よかった…お粗末様です…」
急にぐらっと目の前が揺れる感じがした。
全体的にすごい倦怠感があり、座っているのも辛くなってしまった。
「ごめ…ちょっと辛いから横になる…」
「え!まじか。ゆっくりしててください…」
俺を気遣ってか神野は「洗い物してきます」とへやを出ていった。
ドアのしまる音を聞いたあと、俺の意識は段々と落ちていった。
■■■
…あれ?
家族が俺を見下ろしてる。
視点の感じからして俺は床にぺたんと座り込んでるようだ。
くすくすと母、兄、弟の3人が笑う。
「お前、まだ生きてたんだ?出来損ないのくせにw」
綾人が笑いながらバカにしたように言った。
「ウチの恥晒しくんw」
母も続いて言う。
「愛斗さん」
急に背後から名前を呼ばれて振り返る。
そこには昨日神野宅に押しかけてきた女と腕を組む神野の姿があった。
「じん…の…?」
「ねぇ~すみやぁ~…この人だぁれ?」
女がこっちを見ながら言う。
「ただの居候だよ。ねえ愛斗さん?家、見つかりました?そろそろ彼女と暮らしたいんで早くしてくださいね?」
と冷たい目線を投げかけてきた。
くるっと踵を返し女と腕を組んで去っていく神野。
「待って!!!!」
そう必死に叫ぶのに一切振り向いてくれない。
絶望している俺を見て、心底楽しそうに高く笑う母親にと兄。
彼女らの声が暗闇にうるさく響いた───
■■■■
はっと目を覚ます。
見ていた夢のせいか、汗だくだし息も荒い。
しかも明らかに寝る前より体が怠い。
(ヤバイ…悪化した…カモ…)
「うぅう…からだいたい…」
身を少し捩るとずるりと濡れたタオルが額からずり落ちた。
「あ。水もスポドリもないじゃん…」
目線だけで周りを見ると神野はココに居ないようだ。
怠い身体にムチを打ってベッドから起き上がりフラフラとキッチンに向かう。
…おかしい
電気がついてない
「じんの~…?」
風呂場に続く脱衣所を覗く… …いない
神野の部屋をそーっと覗く… …いない
トイレ…は電気ついて …ない
玄関の靴… …ない
もっかいリビングに戻ってみる… …いない
ぽすん、とソファーに座る。
「どこ…いったんだろ…」
チッ…チッ…チッ…
時計の音だけが部屋に響く…。
段々座ってるのも辛くなってきてズルズルとソファーに横になった。
さっき見た夢を思い出す…─
(─…神野…出てっちゃったのか…?俺に愛想つかした…?俺がいつまでも出ていかないから…あの女のトコに泊まりに行ったのか?)
「…ごめんなさい…家…ごめんなさい…」
うずくまりながら「ごめんなさい」と小さく呟き続けた…。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
熱に浮かされあんまり動いてない脳でぐるぐると考える。
何かで押しつぶされそうだ。
熱のせいなのかなんなのか息まで上がってきた。
寒い寒い寒い寒い寒い寒い。
あの優しいぬくもりがほしい。
あの優しい手がほしい。
「じんのぉ…………」
じわぁと視界が歪む。
「ぅぐ…」
噛んでた唇がわなわなと震え、本格的に泣きそうになった瞬間─
ガチャ
鍵の開く音がした。
「…?…!? !?愛斗さん!?」
焦った声に続いて廊下をバタバタと走る足音が聞こえる。
あちこちでドアの開閉音がしたあとリビングと廊下を隔てているドアがバン!と大きく開いた。
「っ!愛斗さん!!あ、いた!いやいやこんなとこで何してんですか!?ってあっつ!」
ソファーに横たわっている俺を発見した神野は俺をひょいと抱き上げた。
「じんのぉ…」
掠れた声で小さく呼ぶ。
「はい」
「どこ…行ってたんだよぉ…」
「薬と食料買いに行ってました。解熱剤、どれが良いのかわからなくて相談したりしてたら思ったより遅くなっちゃいました…」
「…」
「で?愛斗さんは何でソファーにいたんですか?」
あれ?なんか目が笑ってないぞ…
「ねえ。熱上がってるのに何でソファーにいたんですか?」
魔王のようなオーラが見える…怖い…
「夢見悪くて起きちゃってさ…そしたら神野がいなくて…」
ポロっと涙があふれる。
「おれ…」
「っごめんなさい…!置き書きでもしとくべきでした…不安にさせてごめんなさい…」
いつの間にか寝室についていて俺はベットにそっと寝かされた。掛け布団と毛布までかけてくれた神野…
至れり尽くせり…
「じんのぉ…」
「はい」
ベットの横にしゃがんだ神野は微笑んで俺の頭を撫でる。
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