あいと

西似居ハイロ

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愛斗

会いたくなかった

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(まじか。
生活圏被ってないと思ったんだけど…)
いや恐らく被ってはない。偶然だろう。

「な~にぃー?さくの知り合い~?」
アイツ…元カレ咲夜の後ろに隠れてたらしい女がひょこっと顔を出した。

「あ!あっれ~!弟くんじゃーん」
「ん?そっちも知り合い?」
「うん。同級生の弟くーん」

まずい。コイツ、綾人を知っている。
…よく見れば数回家に来たヤツに似てやしないか?
あの時…確か俺は…

「そーそー綾人の家行った時確か弟くん、綾人あやとたちにまわされてたよね~」
「は?まじかよ」
はっ!っとバカにしたように笑われる。
俺の反応を見たからかはわからないが、「1緒にいる時コイツがさ~」などと俺についての悪口のようなものが永遠と続く。

目の前が暗くなる。耳鳴りまでし出した。
これ以上聞きたくなくて急いで逃げ出す。


気がついたら神野の家にいたが
どうやって戻ってきたのか覚えてない。

ふと気がつくと無意識でスパイスカレーを仕込んでいていた。
火を止めバルコニーに出る。

少し強くなってきた風に髪が靡く。
途端、嫌な記憶がフラッシュバックし思わずしゃがみこんだ。
息が荒くなる。

(苦しい。たすけて。だれか…)

脳裏にほぼ唯1の友人の顔と神野の顔が浮かんだ。
が、2人に俺のことなんかで仕事の手を止めさせてはいけない…

息がうまく吸えない。
(苦しい…)
そしていつの間にか気を失っていた。

■■■



…何時間そんな状態でいたのだろう。

バタバタと足音がしてガラッと掃き出し窓が開いた。
音に飛び起き、振り返ると神野に抱きしめられる。
その力は痛いくらいに強かった。

「なにしてるんですか!!!こんな時間に!こんなとこで!!また死ぬ気か!?!?」

「え」

「泣いてるし、手ぇ震えてる…顔も青い…」

「え、あ…」

「…取り敢えず中はいろ」

抱えられ中に連れ込まれた。

「何があったんですか?」
俺をソファーに置いた神野が顔を覗き込んでくる。

「え。」
「なんか嫌なことでもあったんでしょ?俺で良ければ聞くんで溜め込まないで」

「…」
「愛斗さん…!」

肩を痛いくらい強く掴まれて俺はとうとう観念した。

「さっき元カレにあった」
「うん」

「そいつの今の彼女…俺の兄の悪友で─」

俺はポツリポツリと自分の過去のことを話しだした。



■■■■■■■■■

俺には兄と弟が1人ずついる。
兄は俺の3個上、弟は2個下。
兄も弟も俺より確実に優秀だった。

俺が小学校高学年に上がる頃には差は歴然としていた。
兄は某超有名私立中学への入学が決まっていたし、弟もこのままいけば同じところに「9割9分合格」という感じだった。

俺だけが合格可能性60%どれだけあがいても、だ。
親も俺ももう諦めていた。

父親は単身赴任だか別居中なんだかほぼ顔を見たことがない。だからかは分からないが母親はめちゃくちゃ働いていた。
だから子ども3人で放課後を過ごすのが常だったのだが、こんな状況で俺の扱いが、特に兄からの扱いがいいものであるはずがなかった。


「お前、今日夕飯作れよ。ハンバーグな」

「え。兄ちゃんが用意する日じゃ…」

ウチでは兄弟が順番でコンビニなり店なりで夕飯を調達したり時には作ったりする決まりだった。

「お前、昨日俺と颯人はやとのリクエスト聞かなかったじゃねーか」

「え。でも結局あの後買いに行ったじゃん…」

昨日、俺は冷凍のハンバーグを駆使してロコモコを作った。ただ綾人颯人もロコモコが気に入らなかったらしく

「おい。す○家のうな重セット今すぐ買ってこい」
「俺もうな重~」

と騒ぎ始めた。
言う事を聞かなかったら聞かなかったで後が怖い。そんなわけで俺は家から10分のところにあるす○家まで走らさせたのである。

捨てる訳にはいかないので俺だけがロコモコを1.5人前食べる事になった。(当然腹はヤバかった)
残りの1.5人前は母さんに残し冷蔵庫に入れておいた。

こういうことが多々あった。

そして結局逆らいきれず俺は兄のリクエストであるハンバーグをせっせとつくった。

その日は珍しく母が早く帰ってきた。
元々母の分もハンバーグをつくる予定だったのでそこは問題なかった。

「え?コレ愛斗が作ったの?」
「うん…不味かった?」
「いや…おいしいよ!ね?」
「うん!兄ちゃん料理上手なんだよー!」

母さんの問いかけに口の端にソースをつけた颯人がニコニコと答える。
綾人はイイコト思いついたとばかりに俺に目線をよこしイイ笑顔で母さんに言った

「愛斗は俺等が勉強大変だからって美味しいモノを作ってくれるんだ。俺と颯人が担当のときはデリバリーが殆どになっちゃうんだけど…愛斗のときは出来立てでほっこりするような手料理が食べれるから…楽しみなんだ。それに…他の家事も積極的にやってくれるから感謝しかない…」

「俺も!愛斗兄ちゃんの手料理大好き!」

なんとなく綾人の企みがわかった。
(コイツ…俺に家事全般やらせようとしてんのか?)

「まあ…そうなの…!」
母さんがびっくりしてる。けどちょっとうれしそう…

「ねぇ…愛斗?もしあなたが嫌じゃなければ家事…いや夕飯だけでも毎日作ってくれない?」

綾人に目で圧をかけられる。
「…分かった。がんばってみるよ…」
そう返事せざるを得なかった。

ここからが地獄の始まりだった。


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