犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ

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 ごうごうと強い風が吹いてて横殴りの雨で雷も鳴っているというのに、小高い丘の上で男が叫んでいる。
 周りに木が生えてないから見晴らしがよくて、晴れた日にはさぞかし楽しいピクニックができそうな丘だ。
 男は全身ずぶ濡れで、髪の毛は風に吹かれて乱れまくっている。
 それでもめげずに両腕を空に向かってあげている。

 なんでこんなのに気が付いちゃったかなあ、私。

「神よ!我が願いを叶え給え!」

「神よ!我に神の英知を授け給え!」

 やだよ。誰だよお前、何だよお前。なんで、何の義理があってお前なんぞにくれてやらなきゃならんのだ。

 男の前には牛っぽい動物がいる。牛でいいや。こういうシチュエーションでその牛は生贄って事か?そんなでっかいのもらっても困る。小さくても要らないから困るが。

 必要ならちゃんと買うしさ。お肉になった状態のものを。

 それよりこの天気、明日の昼まで続くぞ。このままなら絶対風邪をひくし、熱出して寝込むか、下手すりゃ高熱で死ぬ。医療がそんなに進んでいないんだから。

「神よ!生贄にこの動物を捧げます!我が願いを叶え給え!」

 いちいち「神よ!」と叫んでいるのが鬱陶しいし、生贄で私が何とかなると思われてるって事かと思うと不愉快にもなる。古代の神かよ。


 男は思い切りよく牛の首を刎ねた。頭から返り血浴びてるけど雨で落ちると思ってるのか?落ちるだろうけど全部は落ちないと思うぞ。首を伝って下着にまで染みこんでるだろ。

 牛の首の断面からは血が垂れている。男に付いた返り血は上着ですらまだ残っている上に、地面に流れた血が靴の裏に染みている。

 ふと、雨雲と雷雲を掃って雨と雷を止めたらどうなるんだろうと思った。


 地面に流れた血は雨水と混ざり薄まるが広がっていく。風が血の匂いを四方八方に広げる。遮蔽物のない見晴らしのいい丘だから血の匂いはすぐに遠くまで運ばれていくだろう。
 血の匂いに惹かれて肉食獣が近づいて来る。返り血の落ちてない男が逃げたとしても足の速さは敵わない。すぐに追いつかれて餌食になるだろう。


 それでもいいかな、いや、人道的には良くないか。もう私はヒトじゃないけどさ。
 
 牛の命の分があるし、この男が食われる寸前にこんな儀式やっても無駄だと教えてやろうかと思ったが、それの所為で私に贄は有効だと一瞬でも思われたら嫌だ。この儀式に気づいていたと知られたくもない。

 ここは無視一択と決めた。風邪をひいて寝込むだけで終わるか、高熱の果てに死んでしまうかは、この男の運次第という事で。
 死ななければ自分の行動が無駄だったと身をもって知るだろう。その方がいいね。
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