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20 退治てくれよう

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 近頃世界のあちこちで干乾びた死体が発見されている。
 発見時刻は大抵が朝。市場が動き出す早朝だったり、商店が開く時間だったり、人の往来が始まる場所と時間帯によって発見時刻が多少前後している。

 問題なのは、世界のあちこちで起こっている点。
 ある地域で一回発生したら次は別の国で発生する、という事が繰り返されているので、「不思議な事もあるもんだ」で終わっている地域もあるのだ。
 事件として捜査している地域もあるが、そこでは一回きりの事件の為手掛かりはほとんどない。だから未解決で捜査は終了。

 ま、私は知っているんだけどね。神だから。

 禍々しい気を持ったヤツが世界中を飛び回っているんだ。
 そいつはこの世界の人間が持つ魔力を吸収して自分のモノにしている。魔力がない人間なら生命力を奪っている。襲ったあとに飛んで隣国に移動している。一晩飛べばかなり遠くまで行ける。昼間は寝て夜に活動している。
 飛距離で自分の魔力を量っている面もあるのか?
 小賢しい事に獣人国とか魔族国には行っていないんだよ。彼らの身体能力や魔力量は人間と比べ物にならない。襲っても反撃される可能性が高いからだろうね。
 
 最初は少しずつ他人から頂戴する程度だったようだ。その程度なら奪われた方は「今日はちょっと疲れたな」で済んでいたし、私も気がつかなかった。その当時は本人も気がついてなかったのかもしれない。
 ところが突然命を奪うまでになった。そしてあっという間にバケモノになった。
 今はまだ一回につき犠牲者一人だけど、そのうち一回で地域住民全滅になりかねないので今のうちに退治する事にした。

 
 壁に私お手製世界地図を投影し、ヤツの現在位置を特定する。うふふ、特撮とかロボットアニメの指令室みたい。
 地図を拡大して現在位置を絞り込んでいく。小さい村が近くにある山の中だ。次のターゲットをこの村の中で探すのか、あるいは村人全員を狙っているのか。
 どちらにしても活動前に退治してしまうよ。

 事前準備として世界中の都、街、村など、人間だけでなく人型生物の住む場所全てにヤツ専用の障壁を張る。要するにバリアーだ。透明で半球にしたから内側の人間には気づかれない。人里離れた所に一軒だけという場所にもだ。
 それから山の周りを囲んで目に見えない網を張る。ヤツしか掛からない網。空から地面まで繋がっているから逃げ場は宇宙しかない。網は獲物が掛かると見えるようになる仕組みにした。でないと私が困りそうだから。
 あとはヤツが動くのを待つだけ。
 出かける前にベイビーのご飯を終わらせておこう。
 

《何これ!》

 現地時間で日が暮れた頃、奴が網に引っかかった。さて、行くか。


「外れろ!外れろ!」
 網に正面衝突したヤツがいた。見た目は普通の人間の女だったが纏っている気の禍々しさがヤツだと語っている。
 それがなくても空中なのにこの網に引っかかっている点で本人確定だろう。

 その網、蜘蛛の糸仕様にしてるから、くっついたら離れないんだよね。口を動かせる程度の弾力もつけてある。だから唇にくっついても話すことはできる。そうでないと私がつまらない。

「外れないよ」
 ふふ、誰もいないはずの空中で、突然正面に人が現れて声かけられてびっくりしてやんの。
 なるほど、夜目が利くタイプだったからどんな場所でも夜間襲撃が可能だったんだ。そういえば街灯ってないんだもんね。
 因みに今日の私は人間の姿で出てきた。こいつの自惚れを潰すために。

「なん、なんでよ?」
「何がなんでなのかな?」
「こんなもの、あたしが魔力を奪えば消えちまうはずよ。なのになんで」
「“奪えば消える”なら奪えていないってことなんでしょ」
 白けたように言ってやる。さあ、怒りなさい。喋りなさい。

「くそっ。だったらこうしてやる!」
 あら、意外に素直なところがあるんだ。魔術を展開し始めたわ。

 自分の周りに風の渦を作り始めた。かなり高速回転している渦だね。その渦の端を網にぶつけるが、渦はほどけるように消えて網は切れなかった。
 ああ、かまいたちみたいに切ろうとしてたのか。

 次に大小とりどりの岩を出してぶつけて網をちぎろうとしたようだ。
 でも岩は全部網にくっついてしまった。

 そして今度は炎を出した。網を燃やそうというのだね。
 燃えないで火は消えてしまったけど。

 氷が出てきた。刃物のようにして切るつもりか。
 でもやっぱり網に触れた途端消えちゃった。

 水で何かするかなと思って見てたけどウォータージェットは出てこなかった。

 非常に悔しそうな顔をして女が叫んだ。
「なんで!今のあたしは世界一魔力を持ってるのよ。魔法だって!」
 そう言って私を見た。え?私の反応?
 ならばと小馬鹿にしたようにニヤニヤ顔をしてやったら、女の顔が真っ赤になった。
 
「世界中の人間から魔力を奪ってきた!もっともっと奪ってやる!生命力も奪って不老不死になって、神になるのよ!みんながあたしに跪くの!そうならなきゃいけないの!!」
 それが目的と動機か……動機か?そこに至った原因はなんだろう。でも訊ねてやる気はない。勝手に喋る分には聞いてやるけど。

 ニヤニヤ顔を継続してたら勝手に喋ってくれた。
「そしたらきっとあの人はあたしの所に戻ってくる。あんな女なんかにあたしが負けるなんて!あんな身分しか取り柄のない女に!」
 痴情のもつれかよ。身分の高い女に彼氏を取られたか?勘違い女か?どっちでもいいか。

 大事な疑問をぶつけてみた。
「今かみはどうするつもりだった?」
 すでに過去形。お前は負けだよという意味が通じるかな。
「殺して成り代わってやる」通じてなかった。
「あははははは」
 いかん、思わず笑っちまったい。まだ将来さきがあると思ってるんだ。
「この程度の罠も抜け出せないくせに殺すとはねえ」 

 少し手を動かして山の周りに張っていた網を小さくする。くっついてた岩は消してやって、この女をくるむ程度までにした。動かなくても出来たけど私がやったと知らしめる必要がある。
 自分が何をやってもどうにもならなかった網が変化したから驚いてるね。

 「あんたがこれを仕掛けたの?」
 だから出てきたんだよ、やっと気がついたのかい。と思ったら神になりたい女から触手のようなものが出てきた。これで接触して魔力を奪うつもりかな。
 でも触手は私に触れることなく散って消えた。バリアー張ってたんだもんね。

「ずるい」
 何がずるいと言うのか。
「手の内分かっているのに対処もしないなんてあり得ない事なんだよ」
 そう言ったら今度は触手が出てきて四方八方に伸ばし始めた。やっぱりね。
 何らかの方法で無差別に魔力奪取をやる可能性は考えていたよ。だから世界中にバリアーを張ったんだ――力の差を見せつけるために。
 その場でこの女を結界で囲う方法も考えはしたけど、私の反射神経の問題があってその方法はやめにした。
 触手が先端から女の方へ、各地のバリアーに触れた順に散っていった。
 その様子を見て女の顔色が悪くなる。

「攻撃を通さなかった網が触手を通したのは何故か解るかな?」
 答えを期待せずに網の機能を変化させ、この女が他人から奪った魔力と生命力を吸収させる。おっと、本人分も吸収させないと。
「なっ、えっ?」
 自分が何をされているのか分かってきたらしく、表情に絶望感が出てきた。

 因みに答えは、何やっても無駄とダメ押しするため。

「やめて……たすけて」
 さっきまでずっとニヤニヤ顔をしていたが今度は無表情で女を見てやった。こっちの方が恐怖心を煽るはずと思ったらやっぱり更に顔色が悪くなった。

 女が段々萎びてきた。世界一と豪語しただけあって全部吸収するまで時間がかかる模様。その分この女に恐怖と絶望を味わわせられるってもんよ。
 内心ではニヤニヤして、でもそんな感情はおくびにも出さず女を眺めていた。

「悪かっ……ごめん」
 ごめんは謝罪の言葉にならないんだよ。誰に謝ってるつもりか知らんけど。
「死にたくない……」
「……嫌だ……」
「たす……」


 すっかり干乾びて完全に死んだのを確認し、世界中のバリアーを解除した。
 網を外して、女の死体は宙に浮かせたまま灰も残らないほど燃やし尽くした。網は魔力部分と生命力部分に分ける。生命力は世界中の大地に、魔力は空気中に、散布する。元の持ち主死んじゃってるから返せないし。

 女の絶望顔は見れたけど、思っていたほど力の差を分からせてやれなかった気がして落ち込んで帰った。
 

 翌日、魔王くんから「祝・圧勝」のメッセージがついた花輪が届いた。
 精霊王からは蜂蜜が届いた。お遣いの精霊が「我が王が、神のお疲れが回復するようにと祈りを込めました」と言っていた。
 私、全然疲れてないんだ。その気になればこの世界を破壊するだけの力をもらってるの。あの程度はなんてことないの。
 それでも嬉しくなって、落ち込んでいた気持ちが浮上した。同時に一部始終を見られて恥ずかしいという気持ちも湧いた。
 この恥ずかしさ、どう処理したらよいのやら。
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