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18 私の武器
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「暇なら一緒に運動しない?」
遊びに来てベイビーと一緒にかけっこして、一息ついた魔王くんがベイビーを撫でながら私に向かって言った。ベイビー、すっかり懐いちゃってまあ。
『私運動嫌いなのよ。インドア派なの』
なのに散歩必須の犬をお迎えしたのは、可愛さに負けたから。猫をお迎えすると言う夢もあった。いずれベイビーの弟か妹に猫をお迎えしようと思っていたんだ。
「運動と言うかね、はっきり言うと魔物退治なんだよね」
『そういう事なら最初からはっきり言って』
魔族の国の国境沿いの森に小さい魔物が大量発生したので退治したいとか。その森の反対側は普通の人間の国だから、インネンつけられないうちに綺麗にしてしまいたいのだそう。インネンつけるのつけられるのって久しぶりに聞いたわ。
人間国側には結界を張ってるから魔物は向こうに出ないのだそうな。
『ばーっと浄化の光出して一気に片づけちゃう?』
「それじゃあ運動にならないでしょ」
大量と聞いて面倒くさいと思ったのよね。
『どのくらいの大きさのが何体出たの?』
「向こうのカラスくらいの大きさから大型犬くらいの大きさまで。二百体くらいかな」
分かりやすい例えだけど大型犬と聞いて微妙な気分になる。犬そのものでないのは解ってるけどね。
『何人で何日かけて退治するの?』
「二人で一日」
『二人ってあなたと私?』
「そう。君と僕の二人」
『一日って翌日同時刻まで?休憩時間含む9時間?』
「日の出から日の入りまで。余裕でしょ?」
今の時期って昼間の方が長いのに。
『休憩がないと無理』
「休憩は取れたら取ろう」
『何それ』
いよいよ面倒になったら浄化で一気に片づけちまおうと思った。
森は結構広かった。ここに二百体か。探す方が大変そう。
「魔物密度低いよね」
「だから人間の姿でおびき寄せるのさ」
人間の姿で来るよう指定してきた理由は聞いていたけどさ。
ずっと発光した姿で会ってたから、今更だけど人間の姿はすっぴん見せてるみたいで恥ずかしい。
「懐かしい服装だなあ。前世以来だなあ」
ああ、ほぼ犬の散歩の時の格好だからね。違うのはブーツ履いて来た事か。動きやすく、かつ隙間の少ない格好だ。
「一日で終わるほどおびき寄せられるかな」
「騒ぎになればそこに引き寄せられる奴らもいるからね」
「それって大混戦になるって事だよね」
大丈夫か私。出来るか私。嫌って訳じゃないんだよ。
ただ己の運動神経も考えずに、ファンタジー世界に来たなら一度はやってみたいかなって、あの時思った自分が憎い。
「来たね」
なんか黒っぽいのが飛んで来たので当初の打ち合わせ通り私が最初に相手をする。失敗したら魔王くんがフォローしてくれるって。
一撃で魔物が塵になるよう、昨日作っておいた神通力を込めた武器を掌に出し構える。当てればいいだけなんだけど当たるかな。攻撃されても結界があるから大丈夫と自分に言い聞かせる。
魔物は私の方にまっすぐ飛んでくる。高さは私の頭の位置くらいか。
ぼこっ
当たった。魔物は一瞬で塵と化して消えた。よかった、上手くいった。
「おめでとう!じゃあ、もう少し奥の方へ行こうか」
「わかった」
よくわからない祝福をされて嬉しいのか何なのか複雑な気分のまま、魔王くんの指示に従う。立場からすれば間違ってるのかもしれないけど魔物退治とかは彼の方が経験値が上だしね。
ザッ
「あのね、今のベビママさんならこの程度の魔物退治は余裕だと思うよ?」
ザッ ザッ
歩きながら魔王くんが言った。しかもノールックで向かってきた魔物を滅してる。かっこいい剣だなあ。
「……」
ぼこっ
「私、高校時代に体育の授業でやったソフトボールで、バットに球当てられなかったんですけど?運動神経ないんですけど?」
買いかぶりすぎじゃないですかね。私は喋りながらもノールックも無理だし。
「ソフトボールより的は大きいでしょ」
ザッ
「それに神通力で腕力や脚力や動体視力なんかは底上げしてるでしょ?」
ザッ ザッ
「大丈夫だって、私を信じなさい」
ザッ
「わかった。信じるよ」
ぼこっ
見た目若いけど三百歳くらいだっけか。私が自分に施した能力底上げを見破るとは。見栄張って内緒にしてたのに。
「見破ったんじゃなくて、予測だよ。出来る力があるなら使うでしょ?」
ザッ
ぼこっ
「まあそうだけど」
フレンドリーで、本当の姿以外は魔王感を感じさせない魔王くんだけどさすが魔王だわ。涼しい顔して次々と魔物を滅していく。
私はと言えば、若い頃の体力になったと言っても元々の体力がないもんだからお昼前にしてもう疲れてしまったし、お腹も空いてきた。
でも!回復の技を使えば元気になる!
あっ、回復の技ってお腹空いたのも気にならなくなる。これはいいぞ。
森の奥に進むにつれて私達に引き寄せられる魔物はどんどん増えてきた。
回復の技で調子に乗った私は、もう一本武器を出して二刀流で対応する事にした。昨日予備も作っておいたんだよね。そんな私を見て魔王くんは何か言いたげな顔をしていたけど気づいていないふりをした。
魔物は夕暮れ時に殲滅完了。
気を放ち探査して生き残りはないと判断する。
お互いにお疲れさまと労い、さて帰るかと思っていたら魔王くんが言い出した。
「ベビママさんの武器さあ、もしかして」
「そう、ラップの芯!」
昨日武器になるものを探してて、これにしたのだ。
「包丁振り回すのは危ないからね。初心者だから」
刃物振り回すなんて慣れない事して魔王くんに怪我させるとか、自分が怪我したら魔物退治どころじゃなくなるからね。
ラップの芯はなんとなく捨てられなくて、何本かしまっていた。そうしたら今回丁度いい武器になってくれた。人生何が役に立つか分からないもんだねえ。
「自分用の聖剣でも作ればよかったのに……」
なんだかすごく残念そうな顔をして私を見ている。ええ?ダメだった?
「これが一番振り回しやすかったのよねえ」
「まさかの振り回しやすさ基準。てか色々振り回したんだ」
「そうだよ?初心者だから。もしかしてこれじゃ駄目だった?」
もう終わっちゃったけど。
「いや、自分が使いやすいと思った道具が一番だと思うよ」
にっこり笑いながら言ってくれたので、安心した。言葉の裏とか顔色とか窺わないからね、私。面倒だから。
「新聞紙丸めて作った棒でなくてよかったと言うべきか……」
魔王くんがなんか言ったけどよく聞こえなかった。
遊びに来てベイビーと一緒にかけっこして、一息ついた魔王くんがベイビーを撫でながら私に向かって言った。ベイビー、すっかり懐いちゃってまあ。
『私運動嫌いなのよ。インドア派なの』
なのに散歩必須の犬をお迎えしたのは、可愛さに負けたから。猫をお迎えすると言う夢もあった。いずれベイビーの弟か妹に猫をお迎えしようと思っていたんだ。
「運動と言うかね、はっきり言うと魔物退治なんだよね」
『そういう事なら最初からはっきり言って』
魔族の国の国境沿いの森に小さい魔物が大量発生したので退治したいとか。その森の反対側は普通の人間の国だから、インネンつけられないうちに綺麗にしてしまいたいのだそう。インネンつけるのつけられるのって久しぶりに聞いたわ。
人間国側には結界を張ってるから魔物は向こうに出ないのだそうな。
『ばーっと浄化の光出して一気に片づけちゃう?』
「それじゃあ運動にならないでしょ」
大量と聞いて面倒くさいと思ったのよね。
『どのくらいの大きさのが何体出たの?』
「向こうのカラスくらいの大きさから大型犬くらいの大きさまで。二百体くらいかな」
分かりやすい例えだけど大型犬と聞いて微妙な気分になる。犬そのものでないのは解ってるけどね。
『何人で何日かけて退治するの?』
「二人で一日」
『二人ってあなたと私?』
「そう。君と僕の二人」
『一日って翌日同時刻まで?休憩時間含む9時間?』
「日の出から日の入りまで。余裕でしょ?」
今の時期って昼間の方が長いのに。
『休憩がないと無理』
「休憩は取れたら取ろう」
『何それ』
いよいよ面倒になったら浄化で一気に片づけちまおうと思った。
森は結構広かった。ここに二百体か。探す方が大変そう。
「魔物密度低いよね」
「だから人間の姿でおびき寄せるのさ」
人間の姿で来るよう指定してきた理由は聞いていたけどさ。
ずっと発光した姿で会ってたから、今更だけど人間の姿はすっぴん見せてるみたいで恥ずかしい。
「懐かしい服装だなあ。前世以来だなあ」
ああ、ほぼ犬の散歩の時の格好だからね。違うのはブーツ履いて来た事か。動きやすく、かつ隙間の少ない格好だ。
「一日で終わるほどおびき寄せられるかな」
「騒ぎになればそこに引き寄せられる奴らもいるからね」
「それって大混戦になるって事だよね」
大丈夫か私。出来るか私。嫌って訳じゃないんだよ。
ただ己の運動神経も考えずに、ファンタジー世界に来たなら一度はやってみたいかなって、あの時思った自分が憎い。
「来たね」
なんか黒っぽいのが飛んで来たので当初の打ち合わせ通り私が最初に相手をする。失敗したら魔王くんがフォローしてくれるって。
一撃で魔物が塵になるよう、昨日作っておいた神通力を込めた武器を掌に出し構える。当てればいいだけなんだけど当たるかな。攻撃されても結界があるから大丈夫と自分に言い聞かせる。
魔物は私の方にまっすぐ飛んでくる。高さは私の頭の位置くらいか。
ぼこっ
当たった。魔物は一瞬で塵と化して消えた。よかった、上手くいった。
「おめでとう!じゃあ、もう少し奥の方へ行こうか」
「わかった」
よくわからない祝福をされて嬉しいのか何なのか複雑な気分のまま、魔王くんの指示に従う。立場からすれば間違ってるのかもしれないけど魔物退治とかは彼の方が経験値が上だしね。
ザッ
「あのね、今のベビママさんならこの程度の魔物退治は余裕だと思うよ?」
ザッ ザッ
歩きながら魔王くんが言った。しかもノールックで向かってきた魔物を滅してる。かっこいい剣だなあ。
「……」
ぼこっ
「私、高校時代に体育の授業でやったソフトボールで、バットに球当てられなかったんですけど?運動神経ないんですけど?」
買いかぶりすぎじゃないですかね。私は喋りながらもノールックも無理だし。
「ソフトボールより的は大きいでしょ」
ザッ
「それに神通力で腕力や脚力や動体視力なんかは底上げしてるでしょ?」
ザッ ザッ
「大丈夫だって、私を信じなさい」
ザッ
「わかった。信じるよ」
ぼこっ
見た目若いけど三百歳くらいだっけか。私が自分に施した能力底上げを見破るとは。見栄張って内緒にしてたのに。
「見破ったんじゃなくて、予測だよ。出来る力があるなら使うでしょ?」
ザッ
ぼこっ
「まあそうだけど」
フレンドリーで、本当の姿以外は魔王感を感じさせない魔王くんだけどさすが魔王だわ。涼しい顔して次々と魔物を滅していく。
私はと言えば、若い頃の体力になったと言っても元々の体力がないもんだからお昼前にしてもう疲れてしまったし、お腹も空いてきた。
でも!回復の技を使えば元気になる!
あっ、回復の技ってお腹空いたのも気にならなくなる。これはいいぞ。
森の奥に進むにつれて私達に引き寄せられる魔物はどんどん増えてきた。
回復の技で調子に乗った私は、もう一本武器を出して二刀流で対応する事にした。昨日予備も作っておいたんだよね。そんな私を見て魔王くんは何か言いたげな顔をしていたけど気づいていないふりをした。
魔物は夕暮れ時に殲滅完了。
気を放ち探査して生き残りはないと判断する。
お互いにお疲れさまと労い、さて帰るかと思っていたら魔王くんが言い出した。
「ベビママさんの武器さあ、もしかして」
「そう、ラップの芯!」
昨日武器になるものを探してて、これにしたのだ。
「包丁振り回すのは危ないからね。初心者だから」
刃物振り回すなんて慣れない事して魔王くんに怪我させるとか、自分が怪我したら魔物退治どころじゃなくなるからね。
ラップの芯はなんとなく捨てられなくて、何本かしまっていた。そうしたら今回丁度いい武器になってくれた。人生何が役に立つか分からないもんだねえ。
「自分用の聖剣でも作ればよかったのに……」
なんだかすごく残念そうな顔をして私を見ている。ええ?ダメだった?
「これが一番振り回しやすかったのよねえ」
「まさかの振り回しやすさ基準。てか色々振り回したんだ」
「そうだよ?初心者だから。もしかしてこれじゃ駄目だった?」
もう終わっちゃったけど。
「いや、自分が使いやすいと思った道具が一番だと思うよ」
にっこり笑いながら言ってくれたので、安心した。言葉の裏とか顔色とか窺わないからね、私。面倒だから。
「新聞紙丸めて作った棒でなくてよかったと言うべきか……」
魔王くんがなんか言ったけどよく聞こえなかった。
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