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15 悪霊令嬢にヒアリングする

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 今、私の目の前にあるのは古城。十年前から使われていないという。人の手の入っていない住まいはすぐに荒れるとか言うけど本当だね。蔦が蔓延って元の壁が見えなくなってるし、見えてる壁も欠けたり剥がれたりしている。中もきっとすごい事になっているんだろうなあ。昼間に来たかったなあ。

 夜にこんな古城に来たのは肝試しじゃなくて、お祓いのため。
 十年ちょっと前、婚約者がいながら浮気した馬鹿な王子が「真実の愛」(ぷっ)なんて言い出して、婚約者に冤罪被せてその場で処刑という名の惨殺をしたんだって。その時殺された娘さんが怨霊になってここに残っていると。
 最初は夜勤の警備兵から、次に残業の文官から噂が回り始め、天気の悪い日の昼間でも見たと女官が騒ぎだして退職者が続出。退職理由は幽霊だけじゃないんだけどね。

 今は、当時離宮だった城を使っているからここには誰もいないし、何もない。

 そんな情報を思い出しながら歩いていたら到着した大宴会ホール場。ここに居るんだ、悪霊の塊が。
 残っているだけならいいんだけど、本当は良くないけど、恨みの強さから怨霊になって、昔からいた幽霊達を取り込んで大きくなっていったんだ。
 昔からいたってのがポイント。たくさん居たの。築数百年とも言われている城だから、ここで死んだ人間も数知れず。そういった元人間達を仲間にしたのね。

 そういう訳で今、目の前にいるよ。どーんと悪霊の塊が。センターの女の子が惨殺された子だね。一体ずつ引っぺがしていくには時間がかかるなあ、これ。取り込まれた方はもう自我がなくなってセンターのお嬢さんと同調してるわ。

“…く……し……”
“くる……い……が……な……”
 苦しいのか。
“い……が……でき……い”
「言葉を話せるって事は呼吸ができてるんじゃないかな?」
“!”
 あ、通じた。びっくりした顔してる。
「ゆっくり息を吸ってごらん?」
 幽霊に呼吸も何もないんだけど、まあ本人が出来ると思ってくれればいいから。
“……息できる……”
「よかったね、苦しくないね」
 顔つきが少し、ほんの少し良くなった感じがする。

“うっ……うう……”
 あら、泣き出したわ。理由は予想がつくけど。
「どうしたの?何かあったんでしょ?話してごらん」
 とにかく吐き出させないと。始まらないと言うか終わらないと言うか。
「おばちゃんが全部聴いてあげるから」
 折りたたみ椅子を出して座る。これで何時間かかっても大丈夫。


 悪霊の塊でセンターしてた女の子は、やっぱり浮気王子に惨殺されたお嬢さんだった。

 大宴会場ホールでの夜会の最中に、数々の冤罪をかけられて、弁明も許されず、収監もされずに縛り上げられ、その場で生きたまま焼き殺された。
 使われたのはアルコール度数の高い酒。コップ一杯なんて生易しい量ではなくバケツ一杯はあったらしい。かけられた水が強い酒だと思った瞬間に火を付けられたそうだ。苦しい筈だよね。

 その日は王も王妃も居なくて、王族代表として浮気王子が出席していた。それでこんな暴挙に出た訳だ。

 そんな殺され方したもんだから、とにかく苦しいやら悔しいやらで、誰かにこの苦しさと悔しさを伝えたくても、皆自分を見て逃げて行くから誰にも伝えられなくて、そのうち誰も居なくなって……現在に至る。

 
 室内で燃やすって、馬鹿の所業だ。非情とか鬼畜とか以前に頭が足りない奴だ。引火して延焼とかよく起きなかったもんだ。魔法のお陰か。
 この場でいちばんえらいのはおれさま!って鼻の穴膨らましてた様子が目に浮かぶわ。


 センターのお嬢さんは落ち着いてきたようだ。さっきとは随分顔つきが変わった。さっきは絵に描いたような悪霊みたいな顔してたけど、今は泣き顔なだけ。

 さて。
「お嬢さんが非業の死を遂げた後の事なんだけど」
 この子、落ち着いて聞いていられるかな?
「まず、皆がお嬢さんを見て逃げたのは、お嬢さんが恐ろしい顔をして取り巻きをたくさん引き連れていたから、皆怖くて逃げたのね」
“あらいやだ”
 このリアクションなら大丈夫かな。

「浮気王子と浮気相手とその取り巻きはあの場に居た高位貴族とその護衛に殺人で緊急捕縛された。目撃者多数だったからね、どこからも抗議は無かったとさ、当たり前だよね」

 お嬢さんの遺体は水魔法の使い手がすぐに水をかけたんだけど、アルコール火災だから簡単に消えなくて、結局料理人が空気を遮断するように言ってやっと消化できた。だからかなり悲惨な状態だった。
 お貴族様ばかりだったから火は水をかけて消すとしか知らなかった。空気を遮断して消す場合もあるなんて、この世界では現業職しか知らないんだと。

 王と王妃は連絡を受けてすぐに戻って来たが、事態の鎮静化はことごとく失敗。騒ぎは平民の間にも広がっていった。

 お嬢さんの両親は挙兵して当時の王家を潰した。浮気王子以外の王族は全員毒杯を与えられた。浮気王子と浮気相手と取り巻きは火あぶりの上、死体を北側の塀に吊るされた。

 お嬢さんの両親が興した新しい王家は離宮を新しい居城と決めた。すごい短期間でこれやったご両親有能。

“まあ、わたくしがこの城に留まっていた間にそんな大変な事が起きてましたの”

 そうなの。お嬢さんが怖いって辞めてく人は多かったけど、政情不安で辞めてく人も多かったの。その上王朝交代もあったの。

“大変な事が起きてたと言うのにわたくしったら自分の話を聞いてほしいなんて自分の事しか考えてなくて……”
 
 怨霊化してたからそれはしょうがないね。
 
 怨霊化したお嬢さんの取り巻きと化していた古い幽霊達は、お嬢さんが落ち着きを取り戻すと共に離れて消えていった。多少、強引に引っぺがして消滅させた奴も居たけど。だから今はお嬢さん一人。
 
「さて、このままあの世とやらへ行くも良し。ご両親の所へ寄ってからあの世へ行くも良し。どうしたい?」
“両親の所へ寄っても寝顔を見るだけでしょうから、まっすぐ天国?に行きますわ。行けますわよね?”
 怨霊になって何したかと言えば、他人が勝手に驚いていただけだし?行った先を天国と言っていいのか知らないけど、少なくとも地獄には落ちないね。
 うんうんと頷きながら「じゃあ、サービスしてあげよう」と言ってあの世までの道を作ってあげた。

“さーびす?”と首を傾げながらお嬢さんは道に乗って消えていった。

 よかった。ずっと気になってたんだ、黒いもやっとしたシミのような場所が。放っておいたらもっと広がるところだった。お嬢さんが色々取り込んじゃって、すでに人間達の力では浄化できそうにない程度には恨みの力が強くなっていたから。下手に近づいたら命が危なくなるほどに。
 お嬢さんの話に相槌を打ちながら少しづつ浄化をかけていったんだ。失敗したら一気に消滅させちゃえと思ってたんだ。

 お嬢さんがいた床を見ると焼け焦げた跡があった。

 後日、彼女の両親がここに来るだろう。娘が昇天したと確信して、忌まわしいこの城は取り壊されるんだろうな。

 向こうの世界にいた時はできなかった事ができて、私はいい気分だ。
 いつの間にか朝になってた。帰って寝よう。
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