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11 魔王と精霊王

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「前の神と今の神の間に何があったか聞いてないか?」
 精霊王が問う。
「いいや、何も聞いてない。こちらから訊いてないし、向こうも話さない」
 魔王が答える。

 お互いに自室で、相手の顔が映っている鏡に向かって話している。

「私は訊いたんだがな、話していいと言われてないからという理由で教えてもらえなかった」
 不満そうに精霊王が言う。
「ああ、そりゃあ、ベ…女神ちゃんの元居た世界の常識だからだよ。多分その習慣のせいで話さないんだ」
 したり顔で魔王が言う。彼は転生前の記憶があるからその辺の事は理解できる。「守秘義務ってのがあってな。仕事の役目の上で知り得た物事の事情を勝手に明らかにしてはいけないって義務だ」

 精霊王は益々不満が募る。自分だけが蚊帳の外みたいだからだ。それが表情に出ていたらしい。
「私は彼女と同じ世界の同じ国から転生したから。向こうで死んだ年も彼女がこちらに来た年と近いんだ」
 魔王は宥めるように説明した。それがまた精霊王には気に食わない。
「少しの間に随分と親しくなったようだな」

 魔王が口にした“女神ちゃん”といい、“彼女”といい、最初に会ったのは精霊王だし二回も会っているのに、自分より親し気じゃないかと思った。あの神と親しくなりたい訳ではないが、第三者から見ると魔王に遅れを取ったように見えるのではないか。神と懇意であるというのは対外的に優位に立てるというのに。
 
 面倒くさい男だと魔王は思った。長年精霊族の王として君臨していたのだから仕方のない事かもしれないが。
 羨ましいか?と訊いてみたい気持ちを抑える。そんなことを訊いた日にはプライドの高いこの男の事だから手をつけられなくなるだろう。もしかしたら魔族と精霊族で戦になるかもしれない。

 きっと自分が何を言っても不満なんだろうと思い、魔王は沈黙する事にした。
争う気はないが仲良くする気もない、元々そんな関係だ。気を使ってやる必要もないだろうと、魔王は面倒な気分になっていた。

 しばらくたって精霊王が沈黙を破った。
「話はそれだけだ。失礼する」

 自分の顔が映るようになった鏡の前から離れ、魔王はため息をついた。
「危なかった。危うくベビママと言うところだった」


 精霊王は知らない。自分が今の神から愛犬の友達としか認識されていないことを。初回にアポなし訪問したせいで、かなり失礼な奴と認定されたことを。そして魔王の前世の職種が営業だったことを。

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