犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ

文字の大きさ
上 下
5 / 40

5 召喚聖女の帰還 聖女視点

しおりを挟む
 夢を見た。
 夢の中でスーツを着たお姉さんがにこやかに私に話しかけてきた。膝丈のタイトスカートだ。うん、こっちの世界の人ではない。でも誰だろう。

「私、あなたと同じ世界から来たの。結婚式の日にあなたを元の世界に戻すから、それまで頑張って待っててね」
 唐突な話に挨拶も忘れて訊いた。
「え?戻せるの?出来るの?」

 出来ないって、もう戻れないって神殿の人達は言っていたから。こんな世界で独りで、お金もないし、分からない事だらけで、諦めるしかなくて、あんな連中の言いなりになるしかなかった。

「うん。私ね、神になったの。神官程度じゃ召喚しかできなくても、神なら送り返せるからね」
「神ってどうして?」
「向こうからこっちの魔法陣までの途中で、連れてた犬に引っ張られてコースアウトしちゃったのよ。で、コースアウトした先にこっちのカミサマが居てね、なんだかんだで後任にされちゃった。犬に曳かれて異世界参りだよ。あはははは」
 身振り手振りで教えてくれたけど、訳がわからない。笑い事じゃないと思う。

「それでね、私もこっちに来たばっかりで、あなたを戻す準備にもうちょっと時間がかかるのね。だから加護ってやつをあなたに掛けておくね。殴られても痛くないやつ。それと、あのバカ小僧はもう夜になっても来ないから」

 知られてるんだ…。ちょっと浮上していた気分が急降下する。涙も浮かんできた。
「嫌な事言ってこめんね。向こうの世界に戻るときに元の綺麗な体にして戻すからね。がっつり仕返しして帰ろうね」
 お姉さんは私の背中をゆっくり擦ってくれた。夢なのに体温を感じる。

 泣き止むまでお姉さんは背中を擦ってくれてた。落ち着いたので訊いてみる。
「仕返し……?」
「そう。その辺は私に任せてほしいんだけど、もしかして自分でやりたいかな?」
「どうだろう……。やりたい気持ちもあるけど、今やる事いっぱいで時間がないし。お姉さんはどんな仕返しをするつもりなんですか?」
「先ず、あなたが受けた痛みそのものを、暴力をふるった奴に、そのまま返す」
 憎々しげに噛みしめるように言った。私の為に怒ってくれてるんだ。

「それからもう一つ、これはこの世界の連中全員対象だけど、性犯罪者の股間を腐らせる、罪が多ければ全身が腐るまである」
 ものすごい事を聞いた気がする。でもそれならあの男も…。
「あの馬鹿は全身が腐るね。未来の画像、見たい?」
 さすがにそれは目が覚めそうなので首を横に振った。絶対グロいよね。
 結局仕返しはお姉さんにお任せすることにした。

 その後、決行は結婚式当日だから、それまでは殴られたら痛がるふりをすること、とにかく私達がこうしてこっそり計画を立ててることを誰にも知られないように、気を付けて行動することをお姉さんと打ち合わせたところで目が覚めた。
 
 
 それから結婚式までの間、お姉さんの言った通りあの男は夜になっても私の部屋に来ることはなかった。日中顔を合わせたら殴られる事もあったけど痛がるふりをしてやり過ごした。

 最初の夢のあとも何回か夢の中でお姉さんと打ち合わせをした。お姉さんが言うには本人も周りも今まで通りしているつもりになっているとか。
「奴の所業を知っていながら放置していた連中も共犯になるからねー」と、楽しそうに言っていた。

 あと、お姉さんって呼んでいたら「お姉さんじゃないのよ、本当はおばちゃんなの、あなたのお母さんより年上だと思うよ」と衝撃告白された。
 先代の神様に外側と体力と関節と視力を二十代に戻してもらったんだって。
 関節?って訊いたら「そのうち分かるよ」って言われた。でも今更だからそのままお姉さんと呼んでいた。

 
 そして当日。

 宙に浮いているのに、ここに来た時の制服姿になったらスカートの中が下から見えるんじゃないかと気になったけど、見えないようになってるって言われて安心して下の騒ぎを眺める。

 神官達、招待客、親族、近衛、衛兵、その他大勢の前で、痛みで泣き喚いて転げまわるあの男を見て、溜飲が下がるとはこういう事なんだと思った。それに、私にしてきた暴力も返る。
 あの男の仲間も、皆同じタイミングで痛そうにし出していたからざまあみろだ。

 お姉さんにこっそり耳打ちされた。「まだ腐り始めで原形ほとんど残ってるから爪先に鉄入ってるブーツで局部蹴っ飛ばしてみる?ピンヒールで踏むのでもいいよ?ピンヒールはケツにぶっ刺すのもありよ?」
 にっこり笑ってサムズアップされましても……。靴越しでもあんなもの触りたくなかったのでお断りしました。

 
 そのまま連中の事は放っておいて神域という所に移った。
 お姉さんが、捨てられたはずの私のカバンを出してくれた。中身を確認してと言われて、確認したら全部揃っていた。
 そしてとうとうあの男の未来の姿を見せてもらう事になった。「すっきりして帰りたいでしょー?」って。そうかな、そうかも。どうだろう。

 空中に画像が浮かぶ。やっぱり結構グロい。本当に全身腐っちゃうんだ。
「一年後の姿だね。この後三か月かけて最期の仕上げになるけど、それは見ない方がいいね。虫に食わせるつもりなんだ。
 腐りつつも、あなたへふるった暴力も返るんだな。痛みで気が狂いそうだけど狂えない。そういう仕様。うふふ」
 見せるつもりはないくせにさらっと言っちゃってるよ。想像しないでおこう。

「こっちに引っ張られた直後の時間に戻してあげるつもりだけど、もしかしたら少し後ろに時間がずれるかもしれない。
 その時は悪い夢を見たと思って、ここであったことは全部忘れてしまいなさい」

 一年三か月勉強できなかったから、転移直後に戻れるのは助かる。遅れを取り戻すのはすごく大変だし浪人も覚悟していた。行方不明になった上に浪人なんてどれだけ親に迷惑をかけるんだろうって不安だった。
 それに忘れられるんだろうか。忘れたいな。


 私の周りにキラキラ光る粒が飛んでいる。それは段々増えてきて薄い壁のようになっていった。
「もう召喚なんかできなくなってるからね。こっちに呼び戻される事もないし、安心して帰りなさい。元気でね」
「ありがとう!」やっとそれだけ言えた。そして上に引っ張られるような感覚がしたと思ったら気が遠くなっていった。


 
 アラームが鳴ってる。もう朝なのかあ。眠い。
 めっちゃ変な夢を見た気がする。知らない人ばっかり出てきてた非現実的な夢。ドレスとか着た人たちが出てたなあと思いながら窓のカーテンを開けて外を見たら雲一つない快晴だった。
 青空を見てるうちに変な夢という印象だけが残った。

 制服に着替えて部屋を出て、階段を下りてリビングルームのドアを開ける。変な夢の事はもう忘れてた。
 「おはよう、お母さん」いつもの光景に何故か安心しながら声をかけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

犬だけど世界守ることになった

青木ウミネコ
大衆娯楽
青木家の飼い犬・柴太郎の前に、白い装束を身にまとった老人が突如現れる。 老人は自らを神と名乗り、「人類存亡の危機が迫っている」と告げた。 人類存亡の危機とはなんなのか、青木家の未来はどうなるのか、神と名乗る老人の目的とは――。 小さな背中に大きな使命を背負い、柴犬の柴太郎が今立ち上がる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...