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5 召喚聖女の帰還 聖女視点

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 夢を見た。
 夢の中でスーツを着たお姉さんがにこやかに私に話しかけてきた。膝丈のタイトスカートだ。うん、こっちの世界の人ではない。でも誰だろう。

「私、あなたと同じ世界から来たの。結婚式の日にあなたを元の世界に戻すから、それまで頑張って待っててね」
 唐突な話に挨拶も忘れて訊いた。
「え?戻せるの?出来るの?」

 出来ないって、もう戻れないって神殿の人達は言っていたから。こんな世界で独りで、お金もないし、分からない事だらけで、諦めるしかなくて、あんな連中の言いなりになるしかなかった。

「うん。私ね、神になったの。神官程度じゃ召喚しかできなくても、神なら送り返せるからね」
「神ってどうして?」
「向こうからこっちの魔法陣までの途中で、連れてた犬に引っ張られてコースアウトしちゃったのよ。で、コースアウトした先にこっちのカミサマが居てね、なんだかんだで後任にされちゃった。犬に曳かれて異世界参りだよ。あはははは」
 身振り手振りで教えてくれたけど、訳がわからない。笑い事じゃないと思う。

「それでね、私もこっちに来たばっかりで、あなたを戻す準備にもうちょっと時間がかかるのね。だから加護ってやつをあなたに掛けておくね。殴られても痛くないやつ。それと、あのバカ小僧はもう夜になっても来ないから」

 知られてるんだ…。ちょっと浮上していた気分が急降下する。涙も浮かんできた。
「嫌な事言ってこめんね。向こうの世界に戻るときに元の綺麗な体にして戻すからね。がっつり仕返しして帰ろうね」
 お姉さんは私の背中をゆっくり擦ってくれた。夢なのに体温を感じる。

 泣き止むまでお姉さんは背中を擦ってくれてた。落ち着いたので訊いてみる。
「仕返し……?」
「そう。その辺は私に任せてほしいんだけど、もしかして自分でやりたいかな?」
「どうだろう……。やりたい気持ちもあるけど、今やる事いっぱいで時間がないし。お姉さんはどんな仕返しをするつもりなんですか?」
「先ず、あなたが受けた痛みそのものを、暴力をふるった奴に、そのまま返す」
 憎々しげに噛みしめるように言った。私の為に怒ってくれてるんだ。

「それからもう一つ、これはこの世界の連中全員対象だけど、性犯罪者の股間を腐らせる、罪が多ければ全身が腐るまである」
 ものすごい事を聞いた気がする。でもそれならあの男も…。
「あの馬鹿は全身が腐るね。未来の画像、見たい?」
 さすがにそれは目が覚めそうなので首を横に振った。絶対グロいよね。
 結局仕返しはお姉さんにお任せすることにした。

 その後、決行は結婚式当日だから、それまでは殴られたら痛がるふりをすること、とにかく私達がこうしてこっそり計画を立ててることを誰にも知られないように、気を付けて行動することをお姉さんと打ち合わせたところで目が覚めた。
 
 
 それから結婚式までの間、お姉さんの言った通りあの男は夜になっても私の部屋に来ることはなかった。日中顔を合わせたら殴られる事もあったけど痛がるふりをしてやり過ごした。

 最初の夢のあとも何回か夢の中でお姉さんと打ち合わせをした。お姉さんが言うには本人も周りも今まで通りしているつもりになっているとか。
「奴の所業を知っていながら放置していた連中も共犯になるからねー」と、楽しそうに言っていた。

 あと、お姉さんって呼んでいたら「お姉さんじゃないのよ、本当はおばちゃんなの、あなたのお母さんより年上だと思うよ」と衝撃告白された。
 先代の神様に外側と体力と関節と視力を二十代に戻してもらったんだって。
 関節?って訊いたら「そのうち分かるよ」って言われた。でも今更だからそのままお姉さんと呼んでいた。

 
 そして当日。

 宙に浮いているのに、ここに来た時の制服姿になったらスカートの中が下から見えるんじゃないかと気になったけど、見えないようになってるって言われて安心して下の騒ぎを眺める。

 神官達、招待客、親族、近衛、衛兵、その他大勢の前で、痛みで泣き喚いて転げまわるあの男を見て、溜飲が下がるとはこういう事なんだと思った。それに、私にしてきた暴力も返る。
 あの男の仲間も、皆同じタイミングで痛そうにし出していたからざまあみろだ。

 お姉さんにこっそり耳打ちされた。「まだ腐り始めで原形ほとんど残ってるから爪先に鉄入ってるブーツで局部蹴っ飛ばしてみる?ピンヒールで踏むのでもいいよ?ピンヒールはケツにぶっ刺すのもありよ?」
 にっこり笑ってサムズアップされましても……。靴越しでもあんなもの触りたくなかったのでお断りしました。

 
 そのまま連中の事は放っておいて神域という所に移った。
 お姉さんが、捨てられたはずの私のカバンを出してくれた。中身を確認してと言われて、確認したら全部揃っていた。
 そしてとうとうあの男の未来の姿を見せてもらう事になった。「すっきりして帰りたいでしょー?」って。そうかな、そうかも。どうだろう。

 空中に画像が浮かぶ。やっぱり結構グロい。本当に全身腐っちゃうんだ。
「一年後の姿だね。この後三か月かけて最期の仕上げになるけど、それは見ない方がいいね。虫に食わせるつもりなんだ。
 腐りつつも、あなたへふるった暴力も返るんだな。痛みで気が狂いそうだけど狂えない。そういう仕様。うふふ」
 見せるつもりはないくせにさらっと言っちゃってるよ。想像しないでおこう。

「こっちに引っ張られた直後の時間に戻してあげるつもりだけど、もしかしたら少し後ろに時間がずれるかもしれない。
 その時は悪い夢を見たと思って、ここであったことは全部忘れてしまいなさい」

 一年三か月勉強できなかったから、転移直後に戻れるのは助かる。遅れを取り戻すのはすごく大変だし浪人も覚悟していた。行方不明になった上に浪人なんてどれだけ親に迷惑をかけるんだろうって不安だった。
 それに忘れられるんだろうか。忘れたいな。


 私の周りにキラキラ光る粒が飛んでいる。それは段々増えてきて薄い壁のようになっていった。
「もう召喚なんかできなくなってるからね。こっちに呼び戻される事もないし、安心して帰りなさい。元気でね」
「ありがとう!」やっとそれだけ言えた。そして上に引っ張られるような感覚がしたと思ったら気が遠くなっていった。


 
 アラームが鳴ってる。もう朝なのかあ。眠い。
 めっちゃ変な夢を見た気がする。知らない人ばっかり出てきてた非現実的な夢。ドレスとか着た人たちが出てたなあと思いながら窓のカーテンを開けて外を見たら雲一つない快晴だった。
 青空を見てるうちに変な夢という印象だけが残った。

 制服に着替えて部屋を出て、階段を下りてリビングルームのドアを開ける。変な夢の事はもう忘れてた。
 「おはよう、お母さん」いつもの光景に何故か安心しながら声をかけた。
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