犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ

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1 毛玉を抱いた神、爆誕

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「降臨されたぞ!」
 中高年くらいの男性の声がした。
 キラキラと輝いて私の周りを囲んでいた光が徐々に消えていき、自分の立っている場所が明らかになってきた。

 大理石のような床に、目の前には似たような服を着た老若男女がいる。
 ここに来る途中でカミサマに聞いてなければバチカンに来たかと思ったかも。

 …………。
 なんだか微妙な空気になっているぞ。ああ、折角召喚した異世界人がおばちゃんだったからねえ。若い女の子が来ると思ってた?ざーんねーんでしたーと思ったけど、そういえば今の私はこの世界の人間にはぼんやり光って見えてて容姿は分からないようになってるんだった。
 その前にカミサマに二十代の外見にしてもらってたっけ。体力と関節と視力もだ。

「あの、その抱えている動物は……?」
『うちの子』
 ああ、この子が気になっていたのね。

 私の腕の中にはポメラニアンのベイビー(三歳♀)がいる。人間限定で私が光って見えるようにしたのはこの子のため。間近に光源があるのは犬のお目目に悪いからね。

 ベイビーは興味津々の体で向かいに跪く神官たちを見ている。ちょっとうずうずしてないかい?人間大好きだもんね。今床に降ろしたら絶対撫でを要求しに行くだろうね。残念だけど我慢して抱っこされててね。

「神託により御身様が新しい神と伺っております。わが神殿にてお迎えできたこと、まことに光栄にございます」
 着てる服からして一番偉そうだけど私より若いかもしれないおっさんが言った。召喚術を使ったのがここだったから来たってだけなんだけど。要するに出口だったから。


 この世界の一年前にこの神殿がある国の隣国で異世界人つまり私と同じ世界の人間を召喚して十六歳の女の子がこの世界に来たって、カミサマが言っていた。それが悔しくて、この国の神官達も同じことをしたんだって。

 その子は今は聖女様と呼ばれて隣国王太子の婚約者とか。
 異世界からの召喚なんてするくらいだから、この世界は剣と魔法の世界ってやつ。

 魔法なんて物語の中にしか存在しない世界の人間が、どうしてこの世界に召喚されたのか。それは、この世界の人間なら肉体に充満している魔力が、私たちの場合空っぽだからだって。
 空っぽ故にあちらからこちらに来た時にこの世界を構成している魔力が私たちの肉体に大量に充填されるとかなんとか。

 だから去年召喚された聖女ちゃんも魔力は大量にあるから、この先治癒魔法とか結界魔法とか色々、とても強力なのを使えるように今修業中なんだそうな。
 花嫁修業、じゃないかお妃教育か、そっちもあるんだとさ。

 私はと言うとベイビーのお陰で聖女どころか神になっちまった。
 

『先に神託が下りたとおり、今後は私がこの世界の神になるんだわ』
 こんな口調でいいのか自分。でも改まってそれっぽくしても恥ずかしいからこのままでいこう。
『聖女が欲しくて召喚術とやらを行使したのにあてが外れて悪いね』
 とりあえず神らしくないけど嫌味を言ってみた。

『ここに召喚されたからと言ってこの国を特別扱いとかしないから』
『この世界全体に今後神の加護はないからね』
 神官達が驚いたような顔してる。んでやったのに何故だとも言いたげだね。

『向こうの世界の、私の人生ぶっ潰したお前たちの為に、私が、何かしてやる訳ないでしょ』
 あら、皆の顔色が悪くなってきた。私が怒っているって気がついたみたい。

 そう、この連中は私が『魔法使えて嬉しい!招んでくれてありがとう!』なんて喜ぶと思っていたのだ。馬鹿か。

 魔法なんかがなくても科学が進んで便利な暮らしをしていたのに、魔法があるだけで文化や文明が数百年前レベルの世界に来たって嬉しくはない。引き換えにするものが大きすぎる。半世紀ちょっと生きてきたから預貯金とか人間関係とか仕事関係とかそれなりにあったんだよ。

 あとベイビーの病院!動物病院なんてないだろ!ワクチンとか!フィラリア防止と
か!虫よけとか!血液検査とか尿検査便検査!どうしてくれるんだ。

 聖女ちゃんだってあっちの世界で将来のために勉強を頑張っていたのだ。就きたい職業があったんだって。
 なんで知ってるかって?神様になったから。全知全能ってやつだね。便利。
 

 神官達はぽかんとしたまま言葉を出せないでいる。顔色は悪いまま。
 どうやって私の機嫌を取ろうか考えてるのかね。無駄なのに。

 私の機嫌の良し悪しとは関係なく、カミサマはこの世界を私の好きにしていいと言っていた。
 なんなら壊してしまってもいい、飽きたから、だって。

 魔法に頼って文明やら技術やらが発展しないし、技術革新があったと思ったら転生者が絡んでたというオチで呆れてしまったらしい。
 そう悩んでるところに一年前の聖女ちゃんと今日の私の召喚だ。とうとう見捨てる気になったんだって。

 待て、そんな世界を私に押し付けるのかいと思ったさ。
  
 だから私はとりあえずこの世界を結界で囲った。もう召喚術なんか使えないように。 
 自分達で何とかしようとしないで安易に別世界から人を攫って間に合わせるとか、甘えてるんじゃねーよと思った。

 転生は大昔にカミサマがなんかやったかららしい。昔すぎて忘れたってさ。
 だから魂ももうこの世界に入ってこれないようにしてやった。

 ええ、話聞いて力もらった瞬間に遠慮なく術を施しましたよ。

 どうしても他所から召喚したいと泣いて頼んできたら、ヤバい世界に繋いでやろうと思う。


 さて、姿を見せてやったし、釘刺してやったからもうここには用はない。

 神域に戻って一休みしようか。聖女ちゃん救出作戦も考えなきゃ。
 彼女には今のうちに加護を掛けておこう。同じ世界から召喚したのにこっちは神になって来たとか言ったら、あっちの聖女ちゃんが危険だわ。

 新しい神の誕生については先にカミサマが世界中に託宣おしらせしている。次は十中八九この神殿から世界中の神殿に私の降臨を報せるだろう。会談失敗の対策も協議するだろうし。為政者達に情報が回るのはその後だろう。


 戻ったら最初にベイビーのご飯の準備だ。
 カミサマがお散歩用バッグを四次元ポケットみたいにしてくれたんだよね。だから向こうの世界で置き去りになるところだった私の物はゴミにならずに済んだ。
 

 あとは消耗品を無限湧きにしなくちゃ。ベイビーのカリカリとかおやつとかペットシーツとか消臭袋とかウェットティッシュとか色々。

 この後にする事を考えながら、何も言わずに消えてやった。
 待ってとかお名前をとか喚いている声が聞こえた気がしたけど無視した。

 そんな事よりベイビーも一緒でよかったと思っていた。
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