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エスト公国にて
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あー、土砂降りにならないといいなぁと、アネルに引っ張られながら思っていたが、残念、見事、あの後大雨が降ってきて、全身びしょ濡れ状態。衣服がベッタリと肌について気持ち悪い。
季節的にはまだ暖かい方だが、それでも雨が降れば気温が多少なりとも下がり……少し肌寒くなる。
せめて、何処かで雨宿りしたいんだけど、ズンズンと目の前を突き進むアネルのその気は無さそうで、一行に止まる気配はない。まぁ、ここまで濡れてしまったなら、今更何処かで雨宿りなんかしても意味ないか。多少寒くても、なんとかならだろうし、それに彼の心情を考えれば……このままの方がいいかもれしない。
自分を捨てた母親にあったのだ。心境が、複雑じゃない訳がない。怒り、悲しみは勿論だが、もしかしたら、心の奥では…………他の感情もあるのかもしれない。
「…………ルーナ、ねぇ、ばかルーナ」
誰もいない道の真ん中、歩くのをやめ、急に此方を向くアネル。泣いているのかどうかは、雨のせいでわからないが……声は少し震えている。
「…………何?アネル」
「寒いんだ、とっても。心も、身体も……」
「うん」
「さっきの事、お前に忘れろって言ったけど……そもそも俺が忘れる事が出来ない。忘れたいのに、無理なんだ。可笑しいだろ?嫌いなのに………大っ嫌いなはずなのに…………」
それでも、忘れる事が出来ないのは、きっとそれは、何があろうとも彼女がアネルの母親だからだろう。………多分、なんだかんだ言って、アネルはお母さんが好きなのだ。
あの事件が起きるまで、アネルの家族は、絵に描いたような幸せな一家だった。優しく綺麗な母親、働き者の父親、そして彼らに愛される息子。今でこそ……だが、一時はとても大切で、大好きで、かけがえのない存在だったのだ。殺したいほど憎んでも、嫌いでも、好きだったという事には変わりない。
「……ねぇ、ルーナ。僕は、僕は、どうしたらいいの?」
いつもは強がっている姿からは想像が出来ないほど、弱々しい姿。触れれば壊れてしまいそう。こんな姿を見るのは、2回
「この気持ちを、永遠に捨てられないの?僕は、ずっと苦しめられるの?」
ぐいっと胸を掴み、苦しそうにするアネルが痛々しい。
「……アネル、多分、私にはどうにもできない。だから、きっと、君はずっと苦しめられるかもしれない」
「……………」
「でもさ」
そっと、アネルの顔に手を伸ばし優しく触れる。
小さい頃も、こんな事があったけ、あの頃よりも幾分に伸び、成長しているはずなのに……
「でもさ、約束しただろ?私は、君の帰る場所になるって。どんな事があっても、ちゃんと君が戻ってくるのを待っている。……嫌かもしれないが、辛い事があったら、こうしてちゃんと甘えていいから、側にいるから。気持ちをわかってあげることはできないかもしれないけれど、側にいるから。いくらでも、肩は貸すから。ね?」
雨で冷え切った手に、じんわりとアネルの体温が感じる。
「お前、本当に馬鹿だよね。そんなん言葉で、僕の気持ちがどうにかなると思ってんの?」
「あぁ、気に障ったならごめん。」
自分は良かれと思っても、相手にとっては気に触ることってあるよね。こればかりは仕方ないだろう。
「別に……触ってない。触ってないから……慰めてよ」
瞬間、ぽすんと、肩に重みと、首元に濡れた髪の毛の感覚を感じる。よしよしと撫でてやれば、すすり泣く声が聞こえてきた。
……少し重たいが、しばらくはこのままのかな。
「……あぁ、やっぱりお前は、毒だよ。ルーナ」
ボソリと、何か言ったような気がしたが、何を言ったのかまでは聞こえてこなかった。
季節的にはまだ暖かい方だが、それでも雨が降れば気温が多少なりとも下がり……少し肌寒くなる。
せめて、何処かで雨宿りしたいんだけど、ズンズンと目の前を突き進むアネルのその気は無さそうで、一行に止まる気配はない。まぁ、ここまで濡れてしまったなら、今更何処かで雨宿りなんかしても意味ないか。多少寒くても、なんとかならだろうし、それに彼の心情を考えれば……このままの方がいいかもれしない。
自分を捨てた母親にあったのだ。心境が、複雑じゃない訳がない。怒り、悲しみは勿論だが、もしかしたら、心の奥では…………他の感情もあるのかもしれない。
「…………ルーナ、ねぇ、ばかルーナ」
誰もいない道の真ん中、歩くのをやめ、急に此方を向くアネル。泣いているのかどうかは、雨のせいでわからないが……声は少し震えている。
「…………何?アネル」
「寒いんだ、とっても。心も、身体も……」
「うん」
「さっきの事、お前に忘れろって言ったけど……そもそも俺が忘れる事が出来ない。忘れたいのに、無理なんだ。可笑しいだろ?嫌いなのに………大っ嫌いなはずなのに…………」
それでも、忘れる事が出来ないのは、きっとそれは、何があろうとも彼女がアネルの母親だからだろう。………多分、なんだかんだ言って、アネルはお母さんが好きなのだ。
あの事件が起きるまで、アネルの家族は、絵に描いたような幸せな一家だった。優しく綺麗な母親、働き者の父親、そして彼らに愛される息子。今でこそ……だが、一時はとても大切で、大好きで、かけがえのない存在だったのだ。殺したいほど憎んでも、嫌いでも、好きだったという事には変わりない。
「……ねぇ、ルーナ。僕は、僕は、どうしたらいいの?」
いつもは強がっている姿からは想像が出来ないほど、弱々しい姿。触れれば壊れてしまいそう。こんな姿を見るのは、2回
「この気持ちを、永遠に捨てられないの?僕は、ずっと苦しめられるの?」
ぐいっと胸を掴み、苦しそうにするアネルが痛々しい。
「……アネル、多分、私にはどうにもできない。だから、きっと、君はずっと苦しめられるかもしれない」
「……………」
「でもさ」
そっと、アネルの顔に手を伸ばし優しく触れる。
小さい頃も、こんな事があったけ、あの頃よりも幾分に伸び、成長しているはずなのに……
「でもさ、約束しただろ?私は、君の帰る場所になるって。どんな事があっても、ちゃんと君が戻ってくるのを待っている。……嫌かもしれないが、辛い事があったら、こうしてちゃんと甘えていいから、側にいるから。気持ちをわかってあげることはできないかもしれないけれど、側にいるから。いくらでも、肩は貸すから。ね?」
雨で冷え切った手に、じんわりとアネルの体温が感じる。
「お前、本当に馬鹿だよね。そんなん言葉で、僕の気持ちがどうにかなると思ってんの?」
「あぁ、気に障ったならごめん。」
自分は良かれと思っても、相手にとっては気に触ることってあるよね。こればかりは仕方ないだろう。
「別に……触ってない。触ってないから……慰めてよ」
瞬間、ぽすんと、肩に重みと、首元に濡れた髪の毛の感覚を感じる。よしよしと撫でてやれば、すすり泣く声が聞こえてきた。
……少し重たいが、しばらくはこのままのかな。
「……あぁ、やっぱりお前は、毒だよ。ルーナ」
ボソリと、何か言ったような気がしたが、何を言ったのかまでは聞こえてこなかった。
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