ヒロインは他に任せて

オウラ

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出発前

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 美しい薔薇には棘があるように、優しさには裏があるように、リュミエール王国第3王子、アーサー・リュミエールには秘密がある。普段の彼からは、想像もできない秘密が彼にはあるのだ。










「こんな夜遅くに、出歩いているなんていけない子だなぁ。」

 にこりと笑うアーサー殿下。しかし、その目は笑っていない。
 やってしまった感が半端ない。自分でもどうかと思う。つい昨日決意を決めたばかりなのに、早速死亡フラグを踏みつけてしまうなんて………おっちょこちょい、ドジ、とかそんなんじゃ済まされない!

「さて、どうしてここに居るか、聞いてもいいかな?勇者殿……」
「あははは」

 から笑するしかない、冷や汗が止まらない。
 願わくは今から15分前の自分を殴りたい。というか15分前に戻りたい。








 さて、彼此、今から15分前。私はふと目を覚ました。草木も眠る丑三つ時、そんな誰もが寝静まる中、ぱっちりお目目が覚めてしまったのだ。……明日、というか今日の為、早く寝たのが裏目に出たらしい。

 まぁ、目が覚めた。その一点のみだったならまだよかっただろう。………しかしその時、私は何を思ったのだろうか。なんとなく、この城の中を探究したくなったのである。やめときゃ良いのに、部屋を出て城の中をフラフラ〜と出歩いたのが運の尽き。

 辿り着いたのは、誰も寄りつかなさそうな、とある一室。ふと、なんとなく部屋の扉に手をかけようとすれば、聞こえてきたのは、アーサー殿下の声。

「守備は上々。あぁ、上手くやってる。………誰も気づいてはないさ。それに気づかないだろう、この俺がまさか裏切り者だ、なんてな。………まぁ、その時はその時。わかってる。…こんな国さっさと滅びればいいのに」

 誰かと密談する、普段の優しい声色とはかけ離れた冷たい声。これは、聞いてはいけないことを聞いてしまった。好奇心は猫をも殺す……昔の人は良いこと言ったよ本当に。だいたい、死亡フラグが乱立してる可能性があるってわかっていて、なんでこんな馬鹿な真似をしてしまったんだ、馬鹿か、馬鹿なのか私!

 やっベー、よし、逃げるか!と思っても既に時は遅し。案の定、アーサー殿下に、見つかりビンビンに立つ死亡フラグ。
 そして、冒頭に戻る。


「それで?こんな夜遅くに、勇者殿は何をしていたんだい?」
「お、お散歩……ですかね?」

 彼事、アーサー・リュミエールは誰もが認める王子様。見た目も、その性格も完璧な王子様である。が、それは真実というわけでは無い。アーサー・リュミエールには、秘密がある。それは、彼の本当の性格が実は真っ黒だという事だ。本当は少しも優しく無い。冷たく、冷酷な人間。自分の利益の為ならば、自国すらも切り捨てる。親すら切り捨てる。そんな性格。
 育った環境に問題があるのだろうか。側室、しかも身分の低い側室から産まれた彼。他の兄弟から蔑まされ、誰にも期待されない幼少期。完璧に事をこなしていけば、手のひらを返す大人達に囲まれる青年期。………まさに人格形成に支障をきたしそうな人生を見事、真っ直ぐ、一直線に、歩んできた結果、彼の性格はひん曲がったのである。

 そして、そんな真っ黒な彼が今現在、着手している計画というのが、ネイブール帝国を利用してこの国を滅びしちゃおう!というものだ。


 隣国、ネイブール帝国は世界最大にして、最恐の帝国。絵に描いたように世界征服を狙う、そんな国。故に、なんでも願いを叶えるあの宝玉を彼らもまた狙っている。3つ揃えば、世界征服も夢じゃ無い!リュミエールの勇者よりも、早く宝玉を見つけ出すのだ!といった感じに、私達より先に宝玉を血眼で探している。………が、やっぱりそこはお約束。宝玉は彼らだけでは、手に入れる事は出来ない。……となった時思いつく案は、勇者達から奪い取れば良いというもの。実際、ゲームでも彼らネイブール帝国の人間が何度も、何度も、何度も、何度も、私達旅のご一行を奇襲して、宝玉を奪い取ろうとしていた。そして、そんな彼等に手を貸していたのが、このアーサー・リュミエールであったというわけだ。おかしいと思ってたんだよ。なんで、こいつらいつも先回りして、私達の前に現れるんだ!って。そりゃ、内通者がいれば、先回りも簡単だよなぁ。…………あはははっと笑い事では無い。


 目の前の彼は、大っ嫌いという理由だけで、この国を滅ぼそうとする輩。そして、現在私の置かれた状況は……うっかりそれを知ってしまったぜ!てへぺろ。と言ったところ。選択肢を間違えれば、即死亡。というか既に選択肢を間違えてる気がする。





「そうか、お散歩か。感心しないな、こんな時間に」
「ですかね。……うっかり目が覚めてしまったので」
「…まぁ、明日の緊張もあるのかもしれないね。………ところで聞いたかい?さっきの会話」
「なんの事ですか?……それに会話って事は殿下以外にここに誰かいるのですか?見たところ、誰もいないようですが」

 伝わる殺気、そして恐怖。死がそこまで迫っている。だが、それを出してはいけない。出せば、ばれる。何に恐怖し、何故恐怖しているかと言うことを。

「そうだね。ここには、誰もいない。俺と君以外。……どうやら俺の思い過ごしだったみたいだね。もう言って良いよ。良い夢を、勇者殿」
「はい。殿下も良い夢を……」

 よし、なんとか、ひと安心。さっさとこの場を後にしよう。そう、思って一歩後ろに下がろうとしたその時。ぐっと腕を掴まれ、そして距離が縮まった。ドンっと、壁際に追いやられれば、逃げ場はなくなる。わー、これがリアル壁ドンかぁと言っている場合では無い。油断した。まさにその一言に尽きる。





「なんて逃すとでも思った? 表情にこそは出てないけど、それでも君が俺に恐怖を抱いているのはなんとなくわかるよ。そして、何故恐怖を抱いているのか………と考えれば自ずと答えは出てくる。聞いたんだろ? 馬鹿は嫌いなんだ。正直に話に話したら、許しはしないけど命だけは見逃してはやるよ」

 ぐっと腕を掴む力が強くなる。痛い、痛い、痛い。

「………あぁ、さっきから魔法をかけてるのになかなか効かないと思ったらこんなのを付けているからか。」

 母さんからせっかくもらった首飾りを奪い取られれば、瞬間感じるのは重み、全身を潰されそうな重みだ。身動きが取れない。重い………苦し……い、死ん……じゃう。

「苦しいだろ?そのまま死ぬか?」
「………嫌……だ」

 死にたくない。こんなところで、死ぬのは嫌だ。

「だったら答えは1つ。さっきの会話、君は聞いていたんだよね?」

 こくりと、なんとか頷けば。身動きこそはとらないが、重みからは解放された。し、死ぬかと思った。覚悟こそはしていたけれど、初めて味わう死への恐怖。いや、実際はあんなのはまだ序の口。実際の死への恐怖はもっと恐ろしいんだろう。どっちにしろもう二度と味わいたくないが。いや、このままいくと次に待っているのも死だけれど。

 ……というかなんで私、今死にそうになっているんだろか。そもそもこの展開。殿下が、裏切り者だとわかるこの展開。本来なら、彼の個別ルートに入てから知ることができる事実なのに、序盤も序盤。まだ、旅も始まってないこのタイミングで、知ることになるなんて……最悪としか言いようがない。なに?なんでもっと、物語通りに上手くいかないの?私が物語り通りに動いてないからか?そうなのか?



「やっぱり聞いていたのか。……君が、なんとなく察してる通り、俺はこの国をを滅ぼそうとしている。さっきの会話は、ネイブール帝国と魔法通信機器でのもの。ほら、これを使ったんだ。油断した俺も悪いれど、まさか聞かれるなんて思ってなかったからね」

 随分とあっさり話される真実。そして、それを知ったものに訪れる運命は死。

「………本来ならこの事を知った君を殺したいところだけど、勇者である君を殺したら元も子もないからね。………あぁ、いや、これはむしろ良い展開かも。うん、君を活かしておいてやるよ。ただし、それは俺の駒としてだけれど。取り敢えず、これは保険かな」

 ただでさえ近い距離がゼロとなる。唇に感じるのは生暖かい温度。瞬間ぐっと心臓が締め付けられ、脈拍が速くなる。これは、この反応は、恋に落ちたとか、そんな柔いものじゃない。これは、これは、そうこれは呪いだ

「それは、呪い。一種の禁呪。もし、お前のその口から俺の正体がばれたらお前は死ぬ。俺が死んだら、お前は死ぬ。もちろん、その逆は無いけれどね」

 一方的にかけられた魂の呪い。術者以外、解くことの出来ない、絶対的な呪い。

「改めて宜しく、勇者殿。いや、ルーナ」

 にこりと笑うその笑みは酷く冷たく、ひどく美しかった。
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