親友は、曰く悪役令嬢らしい

オウラ

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やる気のないこの時間

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 激しく響く金属音、あちらこちらで繰り広げられる剣と剣の鍔迫り合いは、見るものを思わずあっと言わしめるほど。美しく、そして鋭く剣が舞うその様に、誰もが目を引きつけられる事だろう。しかも、その剣を振るっている人物が、美丈夫であればなおさら………

 競技場のあちらこちらで、剣を振るうイケメン達。そんな彼らイケメン達を取り囲む女子生徒達から発せられる黄色い悲鳴……………………………………………………………………………………………………を聞いて、私のただでさえないやる気が、今にも底を突こうとしていた。






 クリュザンテーメ学園では、生徒の個性や能力を伸ばすため、芸術、武術などのいくつかの授業が選択制となっている。そして(嫌々ながらも)私が現在受けているこの「剣技」も選択制の授業の一つ。毎回授業前に配られる各個人の能力にあった課題をクリアし、最終的には今よりもより高度な剣術の技能を身につけ事を目標とした科目だ。

 男子生徒ならば、秋にある武術大会や、将来の為に、ほぼ全員がこの授業を選択するのだが、女生徒の受講者は、男子生徒に比べると圧倒的に少ない。そりゃそうだ、非力な女子が剣なんて金属の塊を振り回すのは、とてもじゃないが難しい。加えて、貴族の令嬢たちが好き好んでやることではないだろう。選択するだけ無駄。
 故にこの授業を選択する女子生徒は、総じて変わり者…………もしくは、間近で男子達イケメンが剣を振るう姿を見たい者だけだ。
 え?私?私の場合は、珍しくそのどちらにも分類されることはない受講者。変わり者ヴァレリナに無理やり付き合わされた可哀想な生徒その1である。




「いざという時の為、剣技を習った方がいいと思うのよ!!」

 今から2年前。授業選択の履修届を提出する際、ヴァレリナが私に言い放ったその言葉を今でも覚えている。

「だから、マリーヌ。私と!一緒に!剣を!交えましょう!!」
「え………嫌だ」

 自信満々、意気揚々と私にそんな事を言ってくるヴァレリナ。しかし、何故、そんな授業を受けなくてはならないのか、絶対に受けたくないと思い、珍しく彼女の誘いを断った。断ったというのに。

「だが、断る!!」

 と無理やり、力尽くで紙を奪われ、提出されたあの屈辱。
 流石にそれは無いだろう、やり直しを要求すると、教師陣に直談判しに行ったのに

「…………君がが居ない彼女ブレーキのない自動車を受け持つ我々の身にもなってくれ」

 と言われ、見事に願いは聞き入れてもらえなかった時の悲しさ。私は、絶対に忘れない。忘れてなるものか。

 あぁ、本当になんで、何故毎週、毎週、重たい金属音の物体を振り回しては、筋肉痛にならなくていけないのか。二の腕が、と言うか、全身が痛くなるから、本当にこの授業は嫌いだ。
 せめて、ヴァレリナが隣にいてくれれば少しは楽しいかも知れないけど、彼女に与えられた課題は、私とは違うため、一緒にやることも出来ない。あぁ、本当に何が楽しくて剣技なんて受講しなくてはならないのか。剣は重い、身体はだるしい、しかも手は痛いし………楽しくない、全然楽しくない!!


「あぁ、レギュルス殿下、なんてお美しい。」
「カルトル様!!!!!抱いて!!」
「やはり、デネボラ様よ。流石の剣技の腕前」
「あぁ、皆さま。やっぱり素敵よね」

 しかも、許せないのは受講者の女性との殆どは、課題もこなさずサボってただただ観戦に回っていると言う事。そもそも受講した理由が理由だろうから、観戦するのは構わない。良いよ、別に。でもさ、せめて与えられた課題くらいはこなそうよ。いくら女子の課題が、男子より緩くて簡単で、緩すぎるからといって、課題をこなさずに、見学してるのはどうなんだ。あぁ、どうなんだ。
 真面目に課題をこなした私が、馬鹿馬鹿しいではないか。ただでさえやる気が無いのに、これ以上やる気をすり減らしてどうする。せめてここにいる人間がやる気のある人だったら良いけど、やる気のある人間は、もっと上のレベルの課題をこなしている。つまりこんな競技場の隅なんかで、ただひたすら素振りをしているのは、私だけ。
 ………あぁ、いつまで、こんな重たい剣を振るっていなくては、ならないのだろうか。そろそろ腕も限界。一応やるべき課題ももう終わったんだ。もう、剣を振り続ける意味なんか無いんじゃないか?そうだ、休もう!!休憩は各自自由にとって良い。だからもう休もう!!決してサボるんじゃない。疲れたから休むんだ………授業が終わるまで






「今日という今日こそは、決着をつけましょう!デネボラ」
「ふっ!言うな!ヴァレリナ殿よ!ならば、俺の華麗なる剣技を貴方に披露してやろう!」

 競技場の中心から聞こえてくる叫び声。聞き覚えのある声だと、声のする方に目を向ければ、案の定その声の主はヴァレリナ。どうやら彼女はデネボラ・ヴィンドに決闘を申し込んでいる最中らしい。
 あぁ、そう言えば、ヴァレリナの本日の課題は勝負に一勝することだったな。しかし、なんだ。デネボラに決闘を申し込むなんて、相変わらずヴァレリナは、無茶苦茶ではないか。

デネボラ・ヴィンドと言えば、隣国との国境近くに広大な領地を持つヴィンド辺境伯家の跡取り息子。主に国の防衛を任されているヴィンド家は代々武術の才が長けており、デネボラ自身も去年の武術大会で準優勝を納めていた。特に剣技の腕前は、その中でも秀でていて、学園において彼の右に出るものはいないとされる。
 もっと、弱そうな相手に決闘を申し込めば良いのに。なぜ、そんな強敵に決闘を申し込んだ。もっと後先考えて行動しろ。いや、確かに向上心…ひたすら前に突進していく姿は、彼女らしいと言えば、彼女らしいけど。怪我でもしたらどうするんだろう。


 まぁ、そこのところは、デネボラ自身わかっているだろうし、多少なりとも手加減はしてくれるだろう。なんてたって、相手は大貴族の令嬢、そんでもって思い人。だから、多少の手加減はすると思う、思うよ?
 でも、万が一の事態もあるじゃないか。仮にヴァレリナが、怪我をして一生物の傷を負ってしまったらどうするんだ。責任は取れるのか、彼女はこの国の王妃に最も近い存在だぞ。

 あー、心配だ、心配。止めたいが、止められるだけの実力も、そもそも気力もない。と言うか、ヴァレリナ達がいるあそこに行くまでに、他の生徒達の巻き添えを食らう気がしてならない。たどり着ける気がしない。ヴァレリナは、心配だが、やっぱ自分の身は大切。あいつの事だ、きっと大丈夫だろう。女の子の筈なのに、剣を軽々振り回し、ハンデがあったといえど去年の武術大会で4位入賞を決めていたヴァレリナなら、心配も無用だな。………1ヶ月授業に出てなかったけど、なんとかなるだろう、多分。




「でも、ただ勝負してもつまらないわね!!そうだわ、デネボラ、この勝負、何か賭けない?」
「な、なに!?」
「何?デネボラ、私に勝つ自信がないの?」
「そんなことはないぞ、ヴァレリナ殿!!その勝負乗った!!」
「良い返事ね。じゃあ、そうね。この勝負に勝った方の言うことを何でも一つ聞くというのはどうかしら」
「何でも!?なんでとは!?」
「なんでもは、何でもよ。」

 遠目から見てもわかる。ヴァレリナが何でも言うことを聞くといった瞬間、デネボラの耳が真っ赤に染まったことが。あいつ……今、めちゃくちゃ煩悩にとらわれている。

「ならば、俺が勝ったら…………ヴァレリナ殿よ。俺と………俺と、デ、デ、デ、」
「デ?」

 勝ったらデートをしてくれとでも言いたいのだろうか。しかし、きっとこの勝負デネボラが勝つことは、もうないだろう。
 なんせ、彼は毎回そんな感じで、ヴァレリナとの勝負に負けていたのだ。
 私には見えるよ。デネボラが、煩悩の所為で負ける未来が………
 ヴァレリナとのデートを妄想しすぎて、こてんぱんに負けるデネボラの姿がはっきりと見えるよ。あぁ、哀れ、デネボラよ。
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