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彼女が変わったあの日の話2
しおりを挟むそう、あれは、王宮主催のお茶会での出来事。その日、名のある家出身である6,7歳の女児が、何人か集められていた。表向きは、大人の真似事というか、マナー講座のようなもの。しかし、その実態は将来の王妃候補の選定だったのだろう。
大人以外、女児しかいない空間で、上座にちょこんと座るのは、この国の第一王子レギュルス・ソルゾール様。将来、国を統べる彼の妻になるということは、この国の国母になるということでもある。そして、幼くも、貴族出身の私たちは、そのことを理解していたし、なんでこの場が設けられたのかも、なんとなくわかっていた。
因みにこのレギュルス王子は、幼き頃から眉目秀麗という言葉がまさしく当てはまるような人物で、才能も有りあふれる超優良物件。彼を好きにならない女の子は、いないというほど彼は、完璧な王子であった。
故に、この場にいる女児たちは、少しでも彼に近づきたい、あわよくばとなんて考えていたわけだが、そうは問屋が卸さない。
「殿下、レギュルス殿下」
まるで私のものだといわんばかりに、周りを牽制し、べったりとレギュルス殿下にくっつくヴァレリナ。顔が引きつる殿下のことなどお構いなく、押して、押して、押していくスタイル。
少しでも、ほかの子が殿下に話しかけようものなら、鬼のような視線で睨みつけ、レギュルス殿下が逃げようとすれば、蛇のように巻き付いて離すまいと、抱き着く。そこは、女の戦いと、レギュルス殿下の苦労が混ざり合う空間だった。
因みに、私といえば。そんな彼らから一番離れたところで、あぁ、すでに争奪戦ってはじめっているんだなぁ。と、のんきにお茶を飲みながら彼らを眺めていた。あぁ、別に、彼に興味がないというわけでもない。むしろ好きだった。なんせ、物語の王子様そのもの。あぁ、かっこいいな、素敵だなと心の底から思っていたさ。ただ、彼の取り合いに加わらなかったのは、私はどちらかというと眺めるほうが好きだったし、彼に向ける感情は恋というよりは憧れに近かった。他の達は本気で彼のことを狙っていて、加えて今日は、婚約者候補の選定も兼ねている。憧れというだけの自分は、まぁ遠目から眺めているだけが妥当な選択かなと思い立って、ぼーっと彼を、彼らを眺めていたのである。
しかし、いささか眺めすぎたのが問題だった。
ぼーと眺めていれば、何故か不意に噛み合う視線と視線。助けを求めてくる殿下の視線が、私を貫いたのである。
いやいや、そんな無理を言わないでくださいな。
そこを何とか頼みます。
あなたも無理をおっしゃいますね。
果たしてそんな会話をしたかどうか、定かではない。しかし、そんな感じに視線を合わせていれば、どうやらそれが、ヴァレリナにもバレてしまったようで、案の定鬼のような形相で睨まれる。
「なに、レギュルスさまを見てるのよ!!彼は私のものなのよ!」
敵意を剥き出してくるヴァレリナ。そして、彼はあなたのものでは無いですよ。
「あんなみたいな子に、見つめられて殿下が、可哀想よ。見ないでくれる!!」
それは、ブーメランなのでは
「私から見たら、あなたにべったりとくっつかれる方が、嫌みたいですよ」
うっかり、思っていたことがぽろりと口からこぼれる。瞬間、周りの空気が凍り付くとともに、真っ赤に染まるヴァレリナの顔が視界に移った。
「わ、私にそんな態度をとっていいと思っているの。この私を誰だと思っているの!!」
あぁ、面倒な相手に喧嘩を売ってしまった。しかし、謝るにしてももう手遅れ。
「知ってますよ。ヴァレリナさまですよね?あなたの父上と私の父はお仕事仲間。ですので、よく存じてますよ」
「すました態度、ムカつく!!私を馬鹿にしたらどうなるか思い知らせてあげるから!!」
顔を真っ赤にさせ、怒り狂った彼女が席を立ち、真っすぐ私の元へと足を進めようとしたその時だった。
「っきゃ!!」
王子に会うため、フリルをふんだんにあしらった丈の長いドレス。文字通り、身の丈にあってなかったのか、思い切り裾を踏みつけ、盛大に彼女は転ぶ。
しかも、転んだ先が、悪かった。硬い机の角に頭をぶつけ、ごつんと鈍い音が辺りに響き渡る。
動かなくなった彼女、騒ぎ出し青ざめる周りの子供達。流石にやばいと思ったのか周りの大人達も焦り出す。
そして、私も内心びっくりして、焦った。転んだのは自業自得とはいえ、私が焚きつけたから彼女は転んでしまったのだ。
あまり好ましくない相手という事も忘れ、心配になって彼女に駆け寄が、それは、叶わず最後に見たのは大人に抱き抱えられ、急いでどこかへ運ばれる彼女。意識はなく、頭から血が流れるそんな彼女であった。
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