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傍若無人な奴って……
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私や、ヴァレリナの通うクリュザンテーメ学園は、国一、いやいや大陸1の教育機関。卒業生には多くの有名人や、名のある学者が多い歴史名高い名門校である。
生徒の大半は国内外の王族貴族、大商家の子女が中心であり、学園のどの施設も金がかかっている。とはいえ、この学園、すべての生徒が上流階級の人間というわけでもなく、一般市民出身の生徒も珍しくなく存在する。基本的に、クリュザンテーメ学園は、名家の子女を中心とした教育機関。故に、その学費は、庶民には手が出せないレベルである。しかし、そのバカ高い学費を払わなくても学園への入学を許される制度が存在する。「特待制度」それは、貴族たちの寄付金や国の援助から、成り立つ制度であり、ある一定の成績を収めれば、授業料免除、特別報奨金と言った措置を受けることができるのだ。
大陸1の名門校の卒業生ともあれば、国内はもちろん他国からも引く手数多。たとえ平民であろうが、将来は約束されたようなもの。故に、能力のある庶民は、この学園を夢見て、入学してくるのである。
だが、しかし彼らが居るとは言え、ここに名門名家の子女が多いことは、覆せない事実。人というものは愚かにも、自分よりも目下の者を虐げたくなる生き物だ。
学園内のヒエラルキーは社会のヒエラルキーそのもの。従って、貴族達はふんぞり返り、名もない庶民は彼らに怯えて生活を送っている。
そして、ここにも数人。貴族という立場を利用して、馬鹿なことをやっている奴らがいた。
「っは!!庶民にはお似合いの格好だな」
「まるで濡れ鼠。……ほら、願えよ。助けて下さいって、なんでもしますからって」
授業も終わり、放課後。中庭へと赴いてみれば、なんとも呆れた光景を目にする。
何人かの男子生徒が、ひとりの女子生徒を取り囲んでは、にさにさと笑い、女子生徒をバカにする。水か何かをかけられたのか、女子生徒の髪やら制服は濡れ、ぽたり、ぽたりと水が滴り落ちているのが、遠目からでも確認できた。
「なんだの、その目。俺たちの金で庶民はこの学園に通うことが許されるんだぜ!?」
「貴族様に逆らわない方がいいぜ」
「………っ!!」
グッと彼女の胸元を掴む男子生徒。紳士とは程遠い行動。奴らは、本当に貴族の教育を受けた人間なのだろうか。
あぁ、なんて嘆かわしい。下品、野蛮、下劣な行為。
話を聞くに、女子生徒は庶民で、彼らは貴族らしいが、私とあんな下品な奴らが同じ身分だと思われるのは癪に触る。
まぁ、同じ貴族といっても、末端の席に座る存在なのだろう。なんせ、社交界でも顔を見かけたこともない奴ら。加えて、上流階級の貴族になればなるほど、余裕が生まれる。庶民を虐げる貴族は、上位貴族よりも、末端に属する者たちのほうが多いのだ。
あぁ、そう考えると、ますます癪に触る。そんな末端の奴らと同じと思われては、腹わたが煮えくりかえりそうだ。
たまたま、腹の居所も悪かった。だから、この行動ははっきり言って気まぐれだったと思う。
「何をしているんですか?」
微笑みを浮かべ、男子生徒に近づく。こちらに気が付いた彼らは反抗的な目を向けてきた。おぉ、怖い怖い。
「あ!?なんだ、お前」
リーダー格と思わしき男が、ギロリと私を睨みつける。あぁ、なんて反抗的な目をしているのだろうか。
ついでに、彼らのネクタイに目を向けらば、色から下級生、今年高等部に進級した新入生であることが分かった。あぁ、なるほど、そういうことか。と思わず納得する。
基本的に特待制度というものは、高等部から開始する。そして、馬鹿で下劣な奴らは、自分の力を見せつけたいと思い、特待生を虐げるのだ。陰湿さは、学年が上がるにつれて酷くなるが、数自体は今の時期が最も多い。
まぁ、それにしてもだ。彼らの態度は、身分は抜きにしても、年長者に向ける態度ではないな。せめて敬語を使え、敬語を。
「質問を質問で返さないでください。」
「あ!?なんだよ、お前!この俺を誰だと思ってるんだ!?」
うーん、こうしてギャンギャンと吠えるこの男子生徒を見ていると、いつぞやの誰かを思い出すな。懐かしい。誰とは言わないけど、誰とは。
それにしても、なんで、こうも人間って自分が偉いと錯覚する事が出来るのだろうか。
「いいか、俺はあのモーント家の親戚筋にあたる家柄なんだぞ!!」
…………………………………もしかして、この野坊主、傍若無人な性格はモーント家の宿命だったりするのか?いやいや、本家本元であるモーント侯爵や夫人はとてもいい人だ。と言うか、たまたま見知った人物にこう言う性格の人間が多いと言うだけで、そう決めつけてしまうのも如何なものかと思う。と言うか、モーント家からしたらいい迷惑だよな。
ごめんなさい、謝ります。
にしても、彼はモーント家の血筋のものか。…………うーん、でもなぁ、モーント家主催の夜会には何度か言ったことがあるが、全く見かけたことないんだよね、此奴のこと。記憶力は悪くないんだけどな。本当に、親戚筋か?
いやいや、でも、関係のない輩が、勝手に他家の名前を出すほうが、違和感。
「っは!驚いたか!どこの家の人間か知らないが、この俺様に逆らうなんて、馬鹿な奴だな」
そのセリフ聞くのは生まれてから、2回目。なかなか聞かないから新鮮だな、そのセリフ。というか、此奴私のことを知らないのか。一応、何度か社交界にも出てるのに、顔は知れ渡っていると思ったんだけれどな。あ、もしかして、基本的にヴァレリナと一緒にいるから目立たなかったとか?それなら納得だ。うん、うん。
「モーント家に逆らうとどうなるか教えてやるよ!!」
いや、いや、ちょっと、待て、お前。仮にモーント家の親戚だとしても、モーント家の人間ではないだろう。幼いころのヴィレリナよりも、それは酷いぞ。
まぁ、兎に角だ。君は、モーント家の名を勝手に使ったらどうなるか知ったほうがいいと思うよ。あと、いくら私が、目立たなかったとしても、一応いいところの貴族の娘なんだから、顔を押さえておくことを学んだほうがいいと思う。よし、優しい私が、そのことについて教えてあげよう。
「……申し訳ございません。モーント家のご親戚と知らず無礼を働いてしまって」
「なんだ?今更後悔しても遅いぞ。お前にもそれ相当の責任を……」
本当に後悔するべきは、どちらなのだろう。あぁ、それは、もちろん私ではなく、君だ。
「えぇ、そうですね、責任を取ります。実は、今度、モーント侯爵とお会いするのですよ。その時にしっかりと、謝罪したいと思うので、お名前を伺ってもよろしいですか?」
「は!?何お前、言っているんだよ。なんで、そこでモーント侯爵の名前が。俺だって、会ったこともないのに」
………おいおい、嘘だろ。まさか、会ったこともないのに、勝手に名前を出してたなんて。これは、本当に親戚筋かも怪しい。というか、こんな輩が嘘でも一族の末端に存在するなんて、モーント侯爵並びに、モーント家の方々一堂に心の底から同情する。………いや他人事でもないか。うちにいないとも限らない。今度ちゃんと調べておこう。
とりあえず、彼らがどんな反応に出るからニコニコと眺めていれば、
「なぁ、待てよ。もしかして、彼女………」
瞬間、リーダー格の隣に立っていた青年が、何か気がついたのか、ハッとした顔をする。というか、やっと気が付いたのか。
こんなに時間がかかるなんて思わなかった。私って、もしかしてそんなに目立たない。いやいや、そんなことはないよな。ヴァレリナが目立つだけ、あいつがめっちゃ目立つだけなんだ。
「も、もしやあなた様はフォーゲル侯爵家のご令嬢、マリーヌ様でしょうか」
顔を真っ青にさせてそんな事を訪ねてくる青年。大正解です、その通り。このまま気がつかないと思ったよ。
「えぇ、そうですが。それが何か?」
さっきほどよりも、さらに笑顔で答えてやれば、目の前の男子生徒達は面白いくらいに顔を青くさせていく。
「っひ!……も、申し訳ありません。」
さっきまでの威勢はどこに言ったのだろうか。腰を抜かし、その場に座り込む青年達。特にさっきまで私に対して威勢を放っていた奴なんて、生気がもはやないくらいだ。
「申し訳ない?あなた達、何かしましたっけ?」
「あ……いや、その………」
「あぁ、そうそう。まだ名前を聞いてなかったですね。それで?名前は?」
ニコニコと彼らと距離を詰め寄る。
「モーント侯爵に報告したいの。名前、教えてくれる?」
さぁ、さっさと吐け。と奴らを見下ろせば、虫の息で帰ってきた返事。
そしてそれは案の定、頭の片隅にも入ってない、聞いたこともない家名であった。
「ありがとうございます、では、皆さん。もう言っていいですよ。今度改めて、お礼をしますね?」
さっさとあっちに言ってくれ。と手を振ればその場から一目散に逃げていく青年達。逃げ足の速いこと、速いこと。あー、馬鹿馬鹿しいたっらありゃしない。最初から、こんなことしなければ、こんな目にも合わずに済んだのに。
さてと、こっちの様子はどうかな?
そう思い先程まで彼らに虐げられていた彼女に目をやれば、少し怯えた様子でこちらを見ている。
「大丈夫ですか?」
声をかければ、びくりと身体がはねる少女。大丈夫、怖くないよー、いいひとだよー。
それにしても。よくよく見れば、この子かわいいな。栗色の波打つ髪の毛、大きくて丸い瞳、ぷっくりとした唇。子供のころに買ってもらった人形のよう。
失礼ながらも、そんな風にじーっと見ていれば
「あ、ありがとうございます」
と消えそうな、弱弱しい声で、返事が返ってくる。心なしか、顔色も悪く気分も悪そうである。全身がびしょりと濡れているし、きっと、このまま放っておけば、風邪を引いてしまうだろう。助けた手前、このまま放置しておくのも気が引ける。
「そのままだと風邪をひきかねます。ひとまずこれを」
とりあえず、着ていた制服のブレザーを差し出す。
あれだ、あれ。このままでは寒いだろう。それに、その、制服が透けて下着が見えかけているんだよね。女の子なのに、それは可哀想だよ。
「え、あ、あの。でも、よ、汚れて………」
「汚れたら、洗えばいいですよ。むしろ、このまま風邪でも引かれたら困ります。だから、受け取ってください。ね?」
そう言って、半ば無理やりグッとそのままブレザーを押しつければ、どこか申し訳なさそうに受け取る少女。
「………あ、ありがとうございます」
若干困惑の表情だが、どこか嬉しそうに礼を述べる姿は、なんとも可愛らしいものであった。ふむ…これは、やっぱりヴァレリナといい勝負。まぁ、ヴァレリナは綺麗系の顔だちで、この子は可愛い系だから、ジャンルが違うのだけれど。
と、そうそうヴァレリナで思い出した。私は彼女と約束をしていたのだった。時間を確かめるため、中庭に設置してある時計を見れば、時刻は彼女との待ち合わせの時間をすでに過ぎている。
うーん、遅れるとすごくうるさいから、急がなくてはいけないが、濡れた彼女をこのままにしてもおけない。濡れた姿で、校内をうろつけばまたしても格好のいじめの餌食となるだろう。
となれば、取るべき手段は1つ。………それに、確かあそこには、色々と設備があったはず。訳を話せば、ヴァレリナも納得してくれるだろう。
「立てますか?」
「え、あ、はい」
「じゃあ、ちょっと、ついて来てください」
そう言って私は少しふらつく彼女の手を引き、元々の目的地であったサロンへと私は足を進めた。
学園の中庭の奥に設置されたサロンは、知る人ぞ知る場所。実際に使用しているもの、私とヴァレリナ、それからあと数人ほどと数少ない。
加えてここは、温室や応接室など、お茶や会話を楽しむ施設はもちろん、なぜか、人1人くらいなら暮らせるのではという設備が整って、非常に過ごしやすい場所でもあるのだ。
ガチャリと扉を開け、少女と共に中に入れば、案の定既にヴァレリナは、そこにいた。
「あ、マリーヌどうしたの?遅かったね。心配した………………ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
私が来たのを確認し、こちらに駆け寄って来たヴァレリナだがら少女を見た瞬間、なぜか叫び出す始末。うるさい、近所迷惑だ。第一名家の令嬢が、そんな雄叫びをあげるものじゃない。あ、もう手遅れか。
「な、な、な、な、なんでヒロインが!?」
……見知った人物の前だけならまだしも、初対面の子の前で変なことを言うんじゃない。怯えているじゃないか。やめないか。というか、いきなりどうした。
「な、なんで彼女がここに。どう言う経緯で!?てか、知り合いだったの!?ねぇ、なんで?え?待って?どう言うこと!?物語通りなら、私と会うのは1ヶ月後のはず。心の準備できてないのに!!!なんで!?」
ものすごく荒ぶるヴァレリナ。だから、何をそんなに慌てているのだ。ほら、この女子生徒だって、ヴァレリナを見て驚いているじゃないか。落ち着きたまえ、さぁ、落ち着け。
「一体、全体、どうしてなの、マリーヌ!!」
ぐっと、私の方に身を乗り出して、問いただすヴァレリナ。近い、近い、少し離れて。
「ねぇ!!なんで、彼女と一緒にいるのよ!!!!」
えぇい、うるさい。耳元で叫ぶんじゃない。鼓膜が破れる。
生徒の大半は国内外の王族貴族、大商家の子女が中心であり、学園のどの施設も金がかかっている。とはいえ、この学園、すべての生徒が上流階級の人間というわけでもなく、一般市民出身の生徒も珍しくなく存在する。基本的に、クリュザンテーメ学園は、名家の子女を中心とした教育機関。故に、その学費は、庶民には手が出せないレベルである。しかし、そのバカ高い学費を払わなくても学園への入学を許される制度が存在する。「特待制度」それは、貴族たちの寄付金や国の援助から、成り立つ制度であり、ある一定の成績を収めれば、授業料免除、特別報奨金と言った措置を受けることができるのだ。
大陸1の名門校の卒業生ともあれば、国内はもちろん他国からも引く手数多。たとえ平民であろうが、将来は約束されたようなもの。故に、能力のある庶民は、この学園を夢見て、入学してくるのである。
だが、しかし彼らが居るとは言え、ここに名門名家の子女が多いことは、覆せない事実。人というものは愚かにも、自分よりも目下の者を虐げたくなる生き物だ。
学園内のヒエラルキーは社会のヒエラルキーそのもの。従って、貴族達はふんぞり返り、名もない庶民は彼らに怯えて生活を送っている。
そして、ここにも数人。貴族という立場を利用して、馬鹿なことをやっている奴らがいた。
「っは!!庶民にはお似合いの格好だな」
「まるで濡れ鼠。……ほら、願えよ。助けて下さいって、なんでもしますからって」
授業も終わり、放課後。中庭へと赴いてみれば、なんとも呆れた光景を目にする。
何人かの男子生徒が、ひとりの女子生徒を取り囲んでは、にさにさと笑い、女子生徒をバカにする。水か何かをかけられたのか、女子生徒の髪やら制服は濡れ、ぽたり、ぽたりと水が滴り落ちているのが、遠目からでも確認できた。
「なんだの、その目。俺たちの金で庶民はこの学園に通うことが許されるんだぜ!?」
「貴族様に逆らわない方がいいぜ」
「………っ!!」
グッと彼女の胸元を掴む男子生徒。紳士とは程遠い行動。奴らは、本当に貴族の教育を受けた人間なのだろうか。
あぁ、なんて嘆かわしい。下品、野蛮、下劣な行為。
話を聞くに、女子生徒は庶民で、彼らは貴族らしいが、私とあんな下品な奴らが同じ身分だと思われるのは癪に触る。
まぁ、同じ貴族といっても、末端の席に座る存在なのだろう。なんせ、社交界でも顔を見かけたこともない奴ら。加えて、上流階級の貴族になればなるほど、余裕が生まれる。庶民を虐げる貴族は、上位貴族よりも、末端に属する者たちのほうが多いのだ。
あぁ、そう考えると、ますます癪に触る。そんな末端の奴らと同じと思われては、腹わたが煮えくりかえりそうだ。
たまたま、腹の居所も悪かった。だから、この行動ははっきり言って気まぐれだったと思う。
「何をしているんですか?」
微笑みを浮かべ、男子生徒に近づく。こちらに気が付いた彼らは反抗的な目を向けてきた。おぉ、怖い怖い。
「あ!?なんだ、お前」
リーダー格と思わしき男が、ギロリと私を睨みつける。あぁ、なんて反抗的な目をしているのだろうか。
ついでに、彼らのネクタイに目を向けらば、色から下級生、今年高等部に進級した新入生であることが分かった。あぁ、なるほど、そういうことか。と思わず納得する。
基本的に特待制度というものは、高等部から開始する。そして、馬鹿で下劣な奴らは、自分の力を見せつけたいと思い、特待生を虐げるのだ。陰湿さは、学年が上がるにつれて酷くなるが、数自体は今の時期が最も多い。
まぁ、それにしてもだ。彼らの態度は、身分は抜きにしても、年長者に向ける態度ではないな。せめて敬語を使え、敬語を。
「質問を質問で返さないでください。」
「あ!?なんだよ、お前!この俺を誰だと思ってるんだ!?」
うーん、こうしてギャンギャンと吠えるこの男子生徒を見ていると、いつぞやの誰かを思い出すな。懐かしい。誰とは言わないけど、誰とは。
それにしても、なんで、こうも人間って自分が偉いと錯覚する事が出来るのだろうか。
「いいか、俺はあのモーント家の親戚筋にあたる家柄なんだぞ!!」
…………………………………もしかして、この野坊主、傍若無人な性格はモーント家の宿命だったりするのか?いやいや、本家本元であるモーント侯爵や夫人はとてもいい人だ。と言うか、たまたま見知った人物にこう言う性格の人間が多いと言うだけで、そう決めつけてしまうのも如何なものかと思う。と言うか、モーント家からしたらいい迷惑だよな。
ごめんなさい、謝ります。
にしても、彼はモーント家の血筋のものか。…………うーん、でもなぁ、モーント家主催の夜会には何度か言ったことがあるが、全く見かけたことないんだよね、此奴のこと。記憶力は悪くないんだけどな。本当に、親戚筋か?
いやいや、でも、関係のない輩が、勝手に他家の名前を出すほうが、違和感。
「っは!驚いたか!どこの家の人間か知らないが、この俺様に逆らうなんて、馬鹿な奴だな」
そのセリフ聞くのは生まれてから、2回目。なかなか聞かないから新鮮だな、そのセリフ。というか、此奴私のことを知らないのか。一応、何度か社交界にも出てるのに、顔は知れ渡っていると思ったんだけれどな。あ、もしかして、基本的にヴァレリナと一緒にいるから目立たなかったとか?それなら納得だ。うん、うん。
「モーント家に逆らうとどうなるか教えてやるよ!!」
いや、いや、ちょっと、待て、お前。仮にモーント家の親戚だとしても、モーント家の人間ではないだろう。幼いころのヴィレリナよりも、それは酷いぞ。
まぁ、兎に角だ。君は、モーント家の名を勝手に使ったらどうなるか知ったほうがいいと思うよ。あと、いくら私が、目立たなかったとしても、一応いいところの貴族の娘なんだから、顔を押さえておくことを学んだほうがいいと思う。よし、優しい私が、そのことについて教えてあげよう。
「……申し訳ございません。モーント家のご親戚と知らず無礼を働いてしまって」
「なんだ?今更後悔しても遅いぞ。お前にもそれ相当の責任を……」
本当に後悔するべきは、どちらなのだろう。あぁ、それは、もちろん私ではなく、君だ。
「えぇ、そうですね、責任を取ります。実は、今度、モーント侯爵とお会いするのですよ。その時にしっかりと、謝罪したいと思うので、お名前を伺ってもよろしいですか?」
「は!?何お前、言っているんだよ。なんで、そこでモーント侯爵の名前が。俺だって、会ったこともないのに」
………おいおい、嘘だろ。まさか、会ったこともないのに、勝手に名前を出してたなんて。これは、本当に親戚筋かも怪しい。というか、こんな輩が嘘でも一族の末端に存在するなんて、モーント侯爵並びに、モーント家の方々一堂に心の底から同情する。………いや他人事でもないか。うちにいないとも限らない。今度ちゃんと調べておこう。
とりあえず、彼らがどんな反応に出るからニコニコと眺めていれば、
「なぁ、待てよ。もしかして、彼女………」
瞬間、リーダー格の隣に立っていた青年が、何か気がついたのか、ハッとした顔をする。というか、やっと気が付いたのか。
こんなに時間がかかるなんて思わなかった。私って、もしかしてそんなに目立たない。いやいや、そんなことはないよな。ヴァレリナが目立つだけ、あいつがめっちゃ目立つだけなんだ。
「も、もしやあなた様はフォーゲル侯爵家のご令嬢、マリーヌ様でしょうか」
顔を真っ青にさせてそんな事を訪ねてくる青年。大正解です、その通り。このまま気がつかないと思ったよ。
「えぇ、そうですが。それが何か?」
さっきほどよりも、さらに笑顔で答えてやれば、目の前の男子生徒達は面白いくらいに顔を青くさせていく。
「っひ!……も、申し訳ありません。」
さっきまでの威勢はどこに言ったのだろうか。腰を抜かし、その場に座り込む青年達。特にさっきまで私に対して威勢を放っていた奴なんて、生気がもはやないくらいだ。
「申し訳ない?あなた達、何かしましたっけ?」
「あ……いや、その………」
「あぁ、そうそう。まだ名前を聞いてなかったですね。それで?名前は?」
ニコニコと彼らと距離を詰め寄る。
「モーント侯爵に報告したいの。名前、教えてくれる?」
さぁ、さっさと吐け。と奴らを見下ろせば、虫の息で帰ってきた返事。
そしてそれは案の定、頭の片隅にも入ってない、聞いたこともない家名であった。
「ありがとうございます、では、皆さん。もう言っていいですよ。今度改めて、お礼をしますね?」
さっさとあっちに言ってくれ。と手を振ればその場から一目散に逃げていく青年達。逃げ足の速いこと、速いこと。あー、馬鹿馬鹿しいたっらありゃしない。最初から、こんなことしなければ、こんな目にも合わずに済んだのに。
さてと、こっちの様子はどうかな?
そう思い先程まで彼らに虐げられていた彼女に目をやれば、少し怯えた様子でこちらを見ている。
「大丈夫ですか?」
声をかければ、びくりと身体がはねる少女。大丈夫、怖くないよー、いいひとだよー。
それにしても。よくよく見れば、この子かわいいな。栗色の波打つ髪の毛、大きくて丸い瞳、ぷっくりとした唇。子供のころに買ってもらった人形のよう。
失礼ながらも、そんな風にじーっと見ていれば
「あ、ありがとうございます」
と消えそうな、弱弱しい声で、返事が返ってくる。心なしか、顔色も悪く気分も悪そうである。全身がびしょりと濡れているし、きっと、このまま放っておけば、風邪を引いてしまうだろう。助けた手前、このまま放置しておくのも気が引ける。
「そのままだと風邪をひきかねます。ひとまずこれを」
とりあえず、着ていた制服のブレザーを差し出す。
あれだ、あれ。このままでは寒いだろう。それに、その、制服が透けて下着が見えかけているんだよね。女の子なのに、それは可哀想だよ。
「え、あ、あの。でも、よ、汚れて………」
「汚れたら、洗えばいいですよ。むしろ、このまま風邪でも引かれたら困ります。だから、受け取ってください。ね?」
そう言って、半ば無理やりグッとそのままブレザーを押しつければ、どこか申し訳なさそうに受け取る少女。
「………あ、ありがとうございます」
若干困惑の表情だが、どこか嬉しそうに礼を述べる姿は、なんとも可愛らしいものであった。ふむ…これは、やっぱりヴァレリナといい勝負。まぁ、ヴァレリナは綺麗系の顔だちで、この子は可愛い系だから、ジャンルが違うのだけれど。
と、そうそうヴァレリナで思い出した。私は彼女と約束をしていたのだった。時間を確かめるため、中庭に設置してある時計を見れば、時刻は彼女との待ち合わせの時間をすでに過ぎている。
うーん、遅れるとすごくうるさいから、急がなくてはいけないが、濡れた彼女をこのままにしてもおけない。濡れた姿で、校内をうろつけばまたしても格好のいじめの餌食となるだろう。
となれば、取るべき手段は1つ。………それに、確かあそこには、色々と設備があったはず。訳を話せば、ヴァレリナも納得してくれるだろう。
「立てますか?」
「え、あ、はい」
「じゃあ、ちょっと、ついて来てください」
そう言って私は少しふらつく彼女の手を引き、元々の目的地であったサロンへと私は足を進めた。
学園の中庭の奥に設置されたサロンは、知る人ぞ知る場所。実際に使用しているもの、私とヴァレリナ、それからあと数人ほどと数少ない。
加えてここは、温室や応接室など、お茶や会話を楽しむ施設はもちろん、なぜか、人1人くらいなら暮らせるのではという設備が整って、非常に過ごしやすい場所でもあるのだ。
ガチャリと扉を開け、少女と共に中に入れば、案の定既にヴァレリナは、そこにいた。
「あ、マリーヌどうしたの?遅かったね。心配した………………ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
私が来たのを確認し、こちらに駆け寄って来たヴァレリナだがら少女を見た瞬間、なぜか叫び出す始末。うるさい、近所迷惑だ。第一名家の令嬢が、そんな雄叫びをあげるものじゃない。あ、もう手遅れか。
「な、な、な、な、なんでヒロインが!?」
……見知った人物の前だけならまだしも、初対面の子の前で変なことを言うんじゃない。怯えているじゃないか。やめないか。というか、いきなりどうした。
「な、なんで彼女がここに。どう言う経緯で!?てか、知り合いだったの!?ねぇ、なんで?え?待って?どう言うこと!?物語通りなら、私と会うのは1ヶ月後のはず。心の準備できてないのに!!!なんで!?」
ものすごく荒ぶるヴァレリナ。だから、何をそんなに慌てているのだ。ほら、この女子生徒だって、ヴァレリナを見て驚いているじゃないか。落ち着きたまえ、さぁ、落ち着け。
「一体、全体、どうしてなの、マリーヌ!!」
ぐっと、私の方に身を乗り出して、問いただすヴァレリナ。近い、近い、少し離れて。
「ねぇ!!なんで、彼女と一緒にいるのよ!!!!」
えぇい、うるさい。耳元で叫ぶんじゃない。鼓膜が破れる。
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ひたすら寝て過ごすためなら努力も惜しまない!まずは寝るけど!おやすみなさい!
10/25 続きました。3はライオール視点、4はエルミーヌ視点です。
これで完結となります。ありがとうございました!
完 あの、なんのことでしょうか。
水鳥楓椛
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よって、三大公爵家唯一の息女でありながら、王太子の婚約者から外されていた。
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