あくまで先生

下野 みかも

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あくまでご褒美

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「失礼します」
 ノックは、四回。
 挨拶して、入室。 
 これで、誰が入ってきたか、分かりますよね。


 こちらを見て、固まる、先生。一瞬固まって、ふにゃっと表情を崩す。
「あ……うふふ。お昼ご飯です」
「ご飯じゃないです。シュークリームは、ご飯じゃないですよ」
 お昼休みの、保健室。机に散らばるごみの袋を見たところ、先生は、二つ目のシュークリームにかぶりついたばかりのようだった。
 私は後ろ手に、かちゃんと鍵を掛ける。


「待ってて。食べちゃいます」
「ごゆっくりで」
 ふが、ふがと言いながら、先生はシュークリームを口に押し込む。ピンクの網目模様のティーカップから、多分、いつも飲んでいる紅茶を流し込む。私は先生の机のそばに立ち、それを見ている。
「げほ、うぇっほ、うぇ」
「おばか」
 むせる先生の背中を、トントンする。先生は咳き込み、ありがと、と言いながら、三つ目のシュークリームに手を伸ばす。私は、その手をぺし、とはたく。
「二つにしときましょう」
「うふっ……だめ?」
 先生は、上目遣いに私を見る。
 ちょっとウェーブ掛かったロングの黒髪に、明るい茶色の瞳。まつ毛はくるっとカールしていて、本当に……チャーミングな人だ。
 白衣の下には、薄い水色のブラウスに、黒のカーディガン。黒のスカート。そのブラウスの下はきっと、私だけが知っている。
「時間、ないのに。お昼休みは、時間、決まってるのに……」
 ちょっと、拗ねてみせる。先生は、慌てる。
「ご、ごめんなさい。そうですよね。で、何でしたっけ」
 口の横、クリーム、付いてるし。何で来たのか、分かってないし。
「中間テスト……約束……」
 私は唇をとがらかせながら、言う。忘れちゃったんですか?
「あ、そう、そう、中間テスト! 中間テストでした。 あれっ? もう? もう、終わったんでしたっけ?」
「とっくに。今日で全科目、戻ってきたので。先生に、見せに来たんです」
 私は、左手に持った小さな順位表を、先生の前に出す。
 同時に、
「あ」
「鳴った」
 チャイムが鳴る。
 私の唇は、クチバシみたいにとんがる。食いしん坊の先生が、シュークリーム食べるから。ばかな先生が、二つも、食べてるから……。じんわり、涙が滲む。
「戻ります。先生なんて、嫌い」
 泣いてる顔、見られたくない。先生だからじゃない、学校の人になんて、誰にも。いいえ、家族にだって見せたくない。私は俯いて、廊下へ向かう。
「わ、うそ、うそ、嫌いじゃないでしょ。待って。えーと、内線」
 先生は、本当に受話器を手に取る。
「あっ、君島先生ですか? 保健室でーす。あのですね、後藤、後藤操ごとうみさおさん、お昼休みにこちらに来まして、ええ、頭痛がひどいようで……あの、預かってますので。大丈夫です。はーい。はーい。 失礼しまぁーす」
 かちゃ、と受話器を置いて、にっこりする。私の涙は、引っ込む。
「頭痛、ひどくないですけど」
「うふっ。ひどくなるかなー、と思って」


 保健室の扉の鍵は、掛かったまま。私は上履きを脱いで、真ん中のベッドに正座する。
 先生に、小さな紙を見せる。一人一人に配られる、エクセルシートを横長に切った、順位表だ。
「一番でした。テスト。全科目、一番です。総合ももちろん、一番」
 先生もベッドに腰掛けて、胸元で小さくぱちぱちをする。
「すごぉい」
「約束……。しましたよね」
 先生は、頭を人差し指でぽりぽり掻く。忘れた振りは、許さない。
「男女合わせて、ちゃんと、一番です。不動の一位、池田内科のとこの池田君、二位でした。順位表を見せっこしたので、間違いないです」
「それはそれは……。見せっこ、仲、いいですね。すてきだ~」
 ごまかし、許さない。
「すてきです。私と池田君、ライバルなので。先生、約束」
 顔をずいっと近付ける。先生はナースサンダルを脱いで、ベッドに上がる。
「おいで」
 私は、先生の胸に飛び込む。


 なで、なで、なで、なで。
 先生は、胸元にすりすりする私の頭を、やさしくやさしく撫でてくれる。
 ああ。いい匂い。蠱惑的こわくてきな、先生。
 約束した。中間テストで一位になったら、させてくれるって。以前、一度だけ、させてくれた。あの時は、何が何だか分からなかった。分からないのに、忘れられなくなってしまった。頭がおかしくなるほど、先生の事、考えている。
 私は頭に先生に擦り付けながら、聞く。
「先生。私、お利口?」
「お利口さん。一生懸命。頑張り屋さん。かわい子ちゃん」
「先生、キス、キスしたい」
「だぁめ。中学生と先生は、キスしません。キスなんて、そんなの、えっちでしょ」
 変なの。すごく、変。キスと、今からする事、どっちの方がえっちなのか、私にはさっぱり分からない。
「じゃあ、あの、ここ、ここは……」
 先生は、うふっと笑う。
「ここはね、あなたが勝手にするだけだから、大丈夫だと思います。校長先生、生徒におっぱい吸わせちゃ駄目だって、仰ってなかったので」
「当たり前でしょ。そんな事、聞く人いません……」
 でも、禁止って言われると、うっとなる。
 校則なんて、破った事ない。サボった事もなかった。こんなに魅惑的な、悪魔の先生と出会うまでは。
 先生のブラウス、ボタンを上から外す。前開きのブラジャーも、ぱちんと外す。大きな胸。ぼろん、と現れる。くすんだピンクの、大きな乳輪と乳首。大人だからそんなに大きくてほわほわ、つんとしてるのか、それとも先生が悪魔だからか、他の人のを見た事はないから、分からない。
「すごい……。えっち……」
「うふ。えっちですか? ぺたんこおっぱいも、すてきですよ」
「何年かしたら、ぺたんこじゃなくなりますもん」
 意地悪め。私は、大きなおっぱいにむしゃぶりつく。
「あん、はぁん、うふっ……」
 先生は、また頭をなでなでしてくれる。大きな乳輪、舌でなぞる。 ぷくっとして、本当に、いやらしい。 こんなの、誰だって吸い付きたくなるに決まっている。
 横目で見ると、先生は、もう片方の乳首を指でこねている。いやらしすぎる。見るんじゃなかった。きゅんきゅんに、ときめいてしまう。
 ちゅ、ちゅう、と音を立てて、吸う。乳首はどんどん起き上がり、固さを増す。先生が指でこねている方も、同様に。
「ふふっ。 おっぱい、合わせたいですか?」
「はい……」
 玉を転がすような声。
 この声が、白くてふわふわの先生の身体の全てが、私をおかしくさせる。
 言われるがままに、ブラウスのボタンを外す。グレーのコットンのブラジャーも、外してベッドに置く。先生は、重そうな乳房を両手で支える。大きな乳首を、私の小さくてぴんぴんに立った乳首に、押しつける。
「あん」
「ああっ……せんせっ……」
 こんな、おっきいくせに、おっぱい、ふわふわで、気持ち良すぎる。キスしたい。先生のお顔、もう、しっとりと汗ばんで上気した肌、いやらしい匂いの先生、キスしたい、唇、舌、入れたい……!
「先生、先生っ、お願いっ、お願いします……!」
 犬みたいに、舌を伸ばす。先生のピンクの唇、つやつやの、剥き出しの粘膜みたいな唇に向かって。
 先生は、下から支えるおっぱいをゆさゆさ、ぐりぐり押し付けながら答える。
「うふ……。お口でキスは、だめです」
「どうしてぇ……」
 泣きたくなる。先生は、こんな事してるくせに、絶対にキスをしてくれない。
「決まりなの。ごめんね」
「うっ、うぇっ、うぅっ……」
 キス、したいよぉ。涙が出てくる。泣きながら、乳首同士を擦り合わせている。私は立派な変態だ。
「ううっ、先生、きす、きすしたいですぅ」
「お口のキスは、もう少しお姉さんになってから。だって、キスは、えっちですもの」
 納得、できないよぉ……!


 そして、先生のあれが、私に悪戯をする。先生のあれ、指と指の間の水かきのような感触の、黒いハート型のひれのような、繊細に、自在に動いて私のショーツの中に侵入する、先生の、尻尾が。
「んっ……! ああっ……」
「うふっ、ぬるぬる。びんびんになってる……。かわいい」
 尻尾の先は、私のおへその下、気持ちいいだけの器官、いやらしい小さな突起を、ぐりぐりと撫で付ける。 おっぱいは、くっ付けたまま。気持ちいい。頭、ばかになる。
「うぁぁ……。はぁん」
「操ちゃん。声、聞こえちゃいますよ。せっかく、一位になったのに」
 意地悪!私は、下唇をぎゅっと噛む。声を上げてばれたりしたら、真に最悪だ。
「うんっ、んっ、んっ」
「うふふ。いっちゃいましょうね。ぬいて、すっきりしちゃいましょ」
 ぬ、抜く? 下品な!
 でも、もう、欲しいです。 
 私の小さなあれに溜まったえっちな心、とろとろの蜜、かたくしこる乳首、全部、全部、先生のいやらしい尻尾とふわふわのおっぱいで、抜いて下さい……!


「うふっ。ご馳走様でした」
 ぐったりする私に膝枕をしながら、頭を撫でてくれる。 先生は私を撫でながら、自分の尻尾の先を舐める。
「美味しいなぁ。操ちゃんのは、一番美味しいです」
 一番、とは……。
 私は、頭を撫でる先生の手の甲を、つねる。
「他の生徒にも、するんですか……」
「えっ? へ、へへ。し、しませんよぉ。やだなぁ」
「してますね?」
「えへ、へへへ。やだなぁ……」
 やだなのは、こっちです。どうして、こんな悪魔、好きになってしまったんだろう。
「先生が、私が覗いてるのを知ってるくせに、保健室で変な事、してるから……」
 先生は、ひとりごちる私のおでこに、ちゅっとする。 うふ、えっちなことしちゃった、と言いながら。
「保健室で、尻尾で変な事、見せるから……」
「好きになっちゃいました?先生が自分の尻尾で、あそこを擦ってたの見て、好きになっちゃいました?」
「す、好きって言うか、頭おかしい人がいる!って、びっくりしただけです」
「うふ……。見せたら、操ちゃん、私に興味持ってくれるかな~って思って。見えるように、尻尾オナニーしてました」
「お、おなにーって! そんな言葉、言わないで下さい」
「へへ。しっぽニー」
「ばか」
 変な悪魔。変な先生。変な気持ち。
「でももう、しっぽニーはしないです。操ちゃんがここに来てくれるから、みさニーしてもらおっと」
「二人でしたら、ニーじゃなくなるんじゃないですか」
「あ……ほんとだ。うふふ。操ちゃん、頭いいですね」
 頭を、くりくりくりっと撫でられる。 
 揶揄からかわれてるのに、嫌じゃない。先生だけは。
 私は、撫でてくれる先生の手を捕まえる。
「先生、キスにー してくださいよ……」
「うふっ。キスは、だめ。えっちだから」
 ……悪魔の、謎理論。 


 なぜ、キスはえっちで、乳首をくっ付け合う事は、してもいいのか。
 なぜ、先生は、悪魔のくせに、先生なのか。
 なぜ、私はこんなに、この悪魔にどきどきするのか。
 謎、解き明かしたい。何しろ私はあの不動の一位、四代続く池田内科の池田君を抑えて学年一位になったのだ。
 ご機嫌にふりふりしているハート型の尻尾を横目に、私は、次の期末テストこそも一位になったら、絶対キスしてもらおうと、心に決めた。 
 悪魔のいう、えっちなやつを。
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