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ママの話 友達登録
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「ねえ! これ、点滴、逆流してるみたいで、怖いんですけど! 見て、血! 何なんですか。 いりょーミス、怖いんですけど!」
ひぇー。 怖いのは、あんただよ。 ナースコール連打の女子高生。 顔、怖!
「ごめん、ごめん。 昼間の担当者がさ、ごめんね。 明日、よく言っとく!」
私の得意技、へらへら。 おじいちゃんなんかには、よく効くんだ。
…イライラしている女子高生には、全然通じない。
「ごめんで済む話かよ! めっちゃ怖いし。 血だよ、血。 絶食だしさぁ。 最悪」
絶食は、私の指示じゃないし…。 ドクターが言うんだから、しょうがないじゃん。
「ねえ、芹奈ちゃん」
「は? 気安く呼ぶなし」
「こっわ」
まじで、怖ぇ~。 女子高生。 ほんとにこの子、うちの夕陽と同じ学校? あの、まあまあ進学校の? 怖いよ~。 睨まないで~。
「眠れないならさ、お姉さんと恋バナでもしようよ。 よく眠れちゃうかも」
「やだ。 てか、ふられたばっかだし」
お…おお。 そうだったのか。 この子、めちゃめちゃ、かわいいけど。
長い、きれいな髪で。 誰に見せるでもないのに、色付きリップなんて塗っちゃって。 まつ毛も、バチバチで。
「よしよし」
「よしよしすんなよ! おばさん」
「おば…。 私、若いし。 娘、大学生になるの。 見えないっしょ。 なんちて」
「えっ…。 それは、確かに見えないけど」
まぁ、大学生になる娘はこの若いママの元を去って、はちゃめちゃ麗しい恋人と、同棲してるわけだが…。
「ねぇ、芹奈ちゃんを振るなんて、とんでもない男だね。 こんなに可愛いのにさ。 男子高校生には魅力、分からないのかな」
また、よしよししてあげる。 今度は、手でパシっとされない。 しゅんとして。 かわいいのう。
「お…男じゃないし。 それに、先生だし…」
「おぁ… せ、先生か…」
また、先生。
…女子高で、流行ってんのかな?
まぁ、ちゃんとこの子を振ったのなら、在学中からガッツリ付き合ってた、うちの嫁…織江くんよりも、だいぶんまともな人だといえる。
「先生と、生徒はねぇ…。 歳も、違うしね。 先生、我慢したのかもよ。 芹奈ちゃんが、大人になるまでって」
女子高生はうつむいて、話し出す。
「違う…。 恋人が、いるからって。 だから、無理だって」
「そうなんだ…。 正直に、教えてくれたんだね。 変に期待させるより、誠実じゃん」
「あたし… 知ってるもん。 先生、卒業生と付き合ってるんだよ。 コンビニで、見た。 手なんか、繋いじゃってさ。 全然、あたしの方がかわいいのに。 あんな、猫背でガリガリの、ボロボロのリュックの地味な先輩より、あたしの方がかわいいのに…」
ぜ… 絶対… うちの娘の事やんけ…。 ていうかお前ら、卒業して一週間そこそこで、おんもでお手手を繋ぐなよ! 怖いもん、ないんか?
女子高生、芹奈ちゃんは我慢ができない様子で、わっと泣き出してしまった。 私も、クラッとくる。 泣きたいのはこっちだよ…。
ナースコール連打の夜の、翌々日。 今日は、押される前に来たよ。
「ども~。 お姉さんだよ」
「あ、ヤンママ」
それ、久々に言われた。 今時の子も、言うんだね…。
盲腸の芹奈ちゃん。 今日はご機嫌斜めじゃなさそうだ。
「今日は、元気そうだね」
「まぁね。 一昨日は、眠れないし、点滴へたくそだったし、なんか… 八つ当たりして、ごめんなさい」
「いいよ、いいよ。 入院、不安だよね」
芹奈ちゃんは、素直にこくんと頷く。 私達は仕事だから慣れてるけど、点滴だって、絶食だって、嫌だよね。
「何かあったら、鳴らしてね。 連打はだめだよ。 一回で、聞こえるからね」
「うん。 ありがと」
病室を出る時振り返ると、バイバイしている。 年相応の、女の子だ。
「手術になっちゃったの…」
「あれ。 そうなの。 そっかぁ…。 ま、でも、切れば再発はしないしさ。 大丈夫だよ、大丈夫」
芹奈ちゃんは、目に涙を溜めて、泣きそうになっている。
かわいそうだな。
「手術、したことある?」
首を、ふりふりする。 まあ、ない子の方が多いよね。
「怖いよう…」
「大丈夫、先生、手術、上手だから。 プラモデル作るの、趣味だって言ってたし」
「関係ある? それ。 インドア派の医者」
「手先が器用だよという、例えとして…」
芹奈ちゃんは、ぷふっと吹き出す。
「変な看護師。 お姉さん、おかしい」
「お…お姉さん。 えへへ…。 照れる」
「お姉さんでしょ。 ねえ、お姉さんの娘、かわいい?」
「えっ? かわいいよ。 リュック、ボロボロだけど。 うち、母一人子一人だからさ。 仲良いの」
「ふうん」
「芹奈ちゃん家は? かわいいからさ、ママも美人でしょ」
「うちは… あんま、仲良くないから。 お母さんの顔、じっくり見ない」
「ありゃ。 見てあげて。 ママ、仲良くしたいのかもよ」
「そんなん、ないよ。 ママはあたしより、お姉ちゃんの方がかわいいんだ。 お姉ちゃんは、頭いいから…」
「そうなんだ。 頭いいお姉ちゃんに、かわいい芹奈ちゃんで、最強姉妹じゃん! それに、あの女子高だから、頭いいでしょ。 かわいくて、頭いいから、最強だよ。 しかも、盲腸も切れば治って、なお最強!」
「ふふふ…。 お姉さん、ばっかみたい。 優しいね。 意地悪言って…ごめんね」
いいよ、いいよ。 もう、忘れちゃったよ。
「あーあ。 あたしのママも、お姉さんみたいに楽しい人なら良かったのに」
私をちらっと見ながら、小さい声で言う。 小さい声だけど、聞いて欲しそうに。
「芹奈ちゃん家は、姉妹だからさ。 ママ、子育て、しんどかったり、忙しかったりしたのかもね。 うちは子ども一人だから、まぁ、気楽なもんだよ」
「そういうものかな…」
「そう、そう」
まぁ、色々だよね。 うちは、夕陽ちゃんが、かなり物分かりの良い子で助かったな…ってところは、ある。 父親がいない事も、嫌だっていったり、それで怒ったりした事は、なかったな。
「ねぇ、お姉さん。 手術の時ってさ…」
芹奈ちゃん、もじもじしながら、話しかけてくる。
「うん」
「明後日のね、手術の前とか、終わった後って、出勤? いる日?」
「ええとね。 明後日は、休みかな」
「そっか。 でも、退院するまでには、また仕事の日、あるよね?」
「あるよ。 あるある。 ご飯も運んできてあげる。 超、薄味だけど」
「げー。 薄味、苦手!」
べーっと、舌を出す。 私も、苦手!
今日は、芹奈ちゃんの手術の日。
私はほんとは、休みの日。
病室で、かわいい女の子の、寝顔を見る。
おっ。 起きた。 ぼーっとするよね。 大丈夫、大丈夫。
手術が終わって麻酔が覚めて、ぼんやりしている芹奈ちゃんの手を握る。
「やすみは…?」
「えへへ。 暇だから、来た。 来てもいっかなー、と思って」
ご家族は、誰も来てない。 洗濯物の受け渡しで時々、一瞬お母さんが来るだけで。 お見舞い、って感じじゃない。 両親揃ってて、お姉ちゃんがいても、家族みんながお互い大好きっていうのは、案外難しいのかもしれない。
「ありがと」
「どういたしまして。 大丈夫、すぐによくなるよ。 元気になる」
芹奈ちゃんは、ふっと笑って、また目を瞑った。 来た甲斐あったな、と思った。
そして、今日は仕事だよ。 芹奈ちゃんとのお喋りは、かなり盛り上がるようになった。
「ねえ、手術のあと…。 ありがと」
「うち、娘が出てっちゃって、寂しくてさぁ。 なんかもう、芹奈ちゃん、娘? みたいな… えへへ」
「ふふふ」
「ねえ、お姉さん。 名前、なんて言うの」
「お姉さん? 阿久津さんだよ。 覚えてね。 まぁ、明日、退院だけどね」
「阿久津さん? 下の名前は?」
えっ? 下の名前なんて、とんと、聞かれないよ。 仕事の時は苗字だし、学校関係じゃ、夕陽ちゃんのお母さんって言われてた。
「て、照れるなあ。 朝美ちゃんだよ」
「ふっ。 ちゃん、付けないでしょ、その歳で」
「し、失礼な! 聞かれたから、答えたのに!」
「ごめん、ごめん」
芹奈ちゃんは、年相応の笑顔になる。 ぺろっと、舌を出す。
「ねえ、朝美ちゃん。 友達になろ。 退院しても、お茶とか、しよ」
「えっ。 と、友達?」
「そうだよ。 娘がいなくなって、暇でしょ。 あたしも、暇。 先生にふられたから。 先生なんて、きらーい。 背が高すぎて、脚、長すぎー。 へんなのー」
「お、おう…」
「これさ、あたしのアプリのID。 友達登録、してね。 今日だよ。 仕事終わったら、登録。 絶対よ。 約束ね。 登録してくんなかったら、最初の日に点滴間違えられたって、医者にチクるからね」
な、なんと強引な! これ、友達か? 若者、こわい。
芹奈ちゃんは、悪戯っぽい笑顔で続ける。
「それでね。 朝美ちゃんが暇な日、遊びに行ってあげる」
「い、いや、ありがたいけどさ。 うち、汚いし…」
「一人暮らしでしょ。 きれいにしなよ。 あっ、じゃあ、片付け手伝ってあげる。 娘が帰ってきたら、びっくりするぞ~」
芹奈ちゃんは、にこにこ顔。 私はもう、何が何だか。
「阿久津さん、あの…」
後ろから、後輩に呼ばれる。 私は芹奈ちゃんに、またね、と手を振る。 芹奈ちゃんも、ちっちゃく手を振る。
朝美ちゃん、だって。 何百年振りだよ。
友達登録、だって。 初めてだよ。
私は何だか、うきうきしてる。
娘よりも年下の友達なんて、いる?
みんな、いるわけない。
変なの。 変だけど、楽しそう!
仕事は別に嫌いじゃないけど、今日は何だか、終わるのが待ち遠しい。 登録したら、友達になっちゃう気がするから。 変なの!
ひぇー。 怖いのは、あんただよ。 ナースコール連打の女子高生。 顔、怖!
「ごめん、ごめん。 昼間の担当者がさ、ごめんね。 明日、よく言っとく!」
私の得意技、へらへら。 おじいちゃんなんかには、よく効くんだ。
…イライラしている女子高生には、全然通じない。
「ごめんで済む話かよ! めっちゃ怖いし。 血だよ、血。 絶食だしさぁ。 最悪」
絶食は、私の指示じゃないし…。 ドクターが言うんだから、しょうがないじゃん。
「ねえ、芹奈ちゃん」
「は? 気安く呼ぶなし」
「こっわ」
まじで、怖ぇ~。 女子高生。 ほんとにこの子、うちの夕陽と同じ学校? あの、まあまあ進学校の? 怖いよ~。 睨まないで~。
「眠れないならさ、お姉さんと恋バナでもしようよ。 よく眠れちゃうかも」
「やだ。 てか、ふられたばっかだし」
お…おお。 そうだったのか。 この子、めちゃめちゃ、かわいいけど。
長い、きれいな髪で。 誰に見せるでもないのに、色付きリップなんて塗っちゃって。 まつ毛も、バチバチで。
「よしよし」
「よしよしすんなよ! おばさん」
「おば…。 私、若いし。 娘、大学生になるの。 見えないっしょ。 なんちて」
「えっ…。 それは、確かに見えないけど」
まぁ、大学生になる娘はこの若いママの元を去って、はちゃめちゃ麗しい恋人と、同棲してるわけだが…。
「ねぇ、芹奈ちゃんを振るなんて、とんでもない男だね。 こんなに可愛いのにさ。 男子高校生には魅力、分からないのかな」
また、よしよししてあげる。 今度は、手でパシっとされない。 しゅんとして。 かわいいのう。
「お…男じゃないし。 それに、先生だし…」
「おぁ… せ、先生か…」
また、先生。
…女子高で、流行ってんのかな?
まぁ、ちゃんとこの子を振ったのなら、在学中からガッツリ付き合ってた、うちの嫁…織江くんよりも、だいぶんまともな人だといえる。
「先生と、生徒はねぇ…。 歳も、違うしね。 先生、我慢したのかもよ。 芹奈ちゃんが、大人になるまでって」
女子高生はうつむいて、話し出す。
「違う…。 恋人が、いるからって。 だから、無理だって」
「そうなんだ…。 正直に、教えてくれたんだね。 変に期待させるより、誠実じゃん」
「あたし… 知ってるもん。 先生、卒業生と付き合ってるんだよ。 コンビニで、見た。 手なんか、繋いじゃってさ。 全然、あたしの方がかわいいのに。 あんな、猫背でガリガリの、ボロボロのリュックの地味な先輩より、あたしの方がかわいいのに…」
ぜ… 絶対… うちの娘の事やんけ…。 ていうかお前ら、卒業して一週間そこそこで、おんもでお手手を繋ぐなよ! 怖いもん、ないんか?
女子高生、芹奈ちゃんは我慢ができない様子で、わっと泣き出してしまった。 私も、クラッとくる。 泣きたいのはこっちだよ…。
ナースコール連打の夜の、翌々日。 今日は、押される前に来たよ。
「ども~。 お姉さんだよ」
「あ、ヤンママ」
それ、久々に言われた。 今時の子も、言うんだね…。
盲腸の芹奈ちゃん。 今日はご機嫌斜めじゃなさそうだ。
「今日は、元気そうだね」
「まぁね。 一昨日は、眠れないし、点滴へたくそだったし、なんか… 八つ当たりして、ごめんなさい」
「いいよ、いいよ。 入院、不安だよね」
芹奈ちゃんは、素直にこくんと頷く。 私達は仕事だから慣れてるけど、点滴だって、絶食だって、嫌だよね。
「何かあったら、鳴らしてね。 連打はだめだよ。 一回で、聞こえるからね」
「うん。 ありがと」
病室を出る時振り返ると、バイバイしている。 年相応の、女の子だ。
「手術になっちゃったの…」
「あれ。 そうなの。 そっかぁ…。 ま、でも、切れば再発はしないしさ。 大丈夫だよ、大丈夫」
芹奈ちゃんは、目に涙を溜めて、泣きそうになっている。
かわいそうだな。
「手術、したことある?」
首を、ふりふりする。 まあ、ない子の方が多いよね。
「怖いよう…」
「大丈夫、先生、手術、上手だから。 プラモデル作るの、趣味だって言ってたし」
「関係ある? それ。 インドア派の医者」
「手先が器用だよという、例えとして…」
芹奈ちゃんは、ぷふっと吹き出す。
「変な看護師。 お姉さん、おかしい」
「お…お姉さん。 えへへ…。 照れる」
「お姉さんでしょ。 ねえ、お姉さんの娘、かわいい?」
「えっ? かわいいよ。 リュック、ボロボロだけど。 うち、母一人子一人だからさ。 仲良いの」
「ふうん」
「芹奈ちゃん家は? かわいいからさ、ママも美人でしょ」
「うちは… あんま、仲良くないから。 お母さんの顔、じっくり見ない」
「ありゃ。 見てあげて。 ママ、仲良くしたいのかもよ」
「そんなん、ないよ。 ママはあたしより、お姉ちゃんの方がかわいいんだ。 お姉ちゃんは、頭いいから…」
「そうなんだ。 頭いいお姉ちゃんに、かわいい芹奈ちゃんで、最強姉妹じゃん! それに、あの女子高だから、頭いいでしょ。 かわいくて、頭いいから、最強だよ。 しかも、盲腸も切れば治って、なお最強!」
「ふふふ…。 お姉さん、ばっかみたい。 優しいね。 意地悪言って…ごめんね」
いいよ、いいよ。 もう、忘れちゃったよ。
「あーあ。 あたしのママも、お姉さんみたいに楽しい人なら良かったのに」
私をちらっと見ながら、小さい声で言う。 小さい声だけど、聞いて欲しそうに。
「芹奈ちゃん家は、姉妹だからさ。 ママ、子育て、しんどかったり、忙しかったりしたのかもね。 うちは子ども一人だから、まぁ、気楽なもんだよ」
「そういうものかな…」
「そう、そう」
まぁ、色々だよね。 うちは、夕陽ちゃんが、かなり物分かりの良い子で助かったな…ってところは、ある。 父親がいない事も、嫌だっていったり、それで怒ったりした事は、なかったな。
「ねぇ、お姉さん。 手術の時ってさ…」
芹奈ちゃん、もじもじしながら、話しかけてくる。
「うん」
「明後日のね、手術の前とか、終わった後って、出勤? いる日?」
「ええとね。 明後日は、休みかな」
「そっか。 でも、退院するまでには、また仕事の日、あるよね?」
「あるよ。 あるある。 ご飯も運んできてあげる。 超、薄味だけど」
「げー。 薄味、苦手!」
べーっと、舌を出す。 私も、苦手!
今日は、芹奈ちゃんの手術の日。
私はほんとは、休みの日。
病室で、かわいい女の子の、寝顔を見る。
おっ。 起きた。 ぼーっとするよね。 大丈夫、大丈夫。
手術が終わって麻酔が覚めて、ぼんやりしている芹奈ちゃんの手を握る。
「やすみは…?」
「えへへ。 暇だから、来た。 来てもいっかなー、と思って」
ご家族は、誰も来てない。 洗濯物の受け渡しで時々、一瞬お母さんが来るだけで。 お見舞い、って感じじゃない。 両親揃ってて、お姉ちゃんがいても、家族みんながお互い大好きっていうのは、案外難しいのかもしれない。
「ありがと」
「どういたしまして。 大丈夫、すぐによくなるよ。 元気になる」
芹奈ちゃんは、ふっと笑って、また目を瞑った。 来た甲斐あったな、と思った。
そして、今日は仕事だよ。 芹奈ちゃんとのお喋りは、かなり盛り上がるようになった。
「ねえ、手術のあと…。 ありがと」
「うち、娘が出てっちゃって、寂しくてさぁ。 なんかもう、芹奈ちゃん、娘? みたいな… えへへ」
「ふふふ」
「ねえ、お姉さん。 名前、なんて言うの」
「お姉さん? 阿久津さんだよ。 覚えてね。 まぁ、明日、退院だけどね」
「阿久津さん? 下の名前は?」
えっ? 下の名前なんて、とんと、聞かれないよ。 仕事の時は苗字だし、学校関係じゃ、夕陽ちゃんのお母さんって言われてた。
「て、照れるなあ。 朝美ちゃんだよ」
「ふっ。 ちゃん、付けないでしょ、その歳で」
「し、失礼な! 聞かれたから、答えたのに!」
「ごめん、ごめん」
芹奈ちゃんは、年相応の笑顔になる。 ぺろっと、舌を出す。
「ねえ、朝美ちゃん。 友達になろ。 退院しても、お茶とか、しよ」
「えっ。 と、友達?」
「そうだよ。 娘がいなくなって、暇でしょ。 あたしも、暇。 先生にふられたから。 先生なんて、きらーい。 背が高すぎて、脚、長すぎー。 へんなのー」
「お、おう…」
「これさ、あたしのアプリのID。 友達登録、してね。 今日だよ。 仕事終わったら、登録。 絶対よ。 約束ね。 登録してくんなかったら、最初の日に点滴間違えられたって、医者にチクるからね」
な、なんと強引な! これ、友達か? 若者、こわい。
芹奈ちゃんは、悪戯っぽい笑顔で続ける。
「それでね。 朝美ちゃんが暇な日、遊びに行ってあげる」
「い、いや、ありがたいけどさ。 うち、汚いし…」
「一人暮らしでしょ。 きれいにしなよ。 あっ、じゃあ、片付け手伝ってあげる。 娘が帰ってきたら、びっくりするぞ~」
芹奈ちゃんは、にこにこ顔。 私はもう、何が何だか。
「阿久津さん、あの…」
後ろから、後輩に呼ばれる。 私は芹奈ちゃんに、またね、と手を振る。 芹奈ちゃんも、ちっちゃく手を振る。
朝美ちゃん、だって。 何百年振りだよ。
友達登録、だって。 初めてだよ。
私は何だか、うきうきしてる。
娘よりも年下の友達なんて、いる?
みんな、いるわけない。
変なの。 変だけど、楽しそう!
仕事は別に嫌いじゃないけど、今日は何だか、終わるのが待ち遠しい。 登録したら、友達になっちゃう気がするから。 変なの!
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