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朝の夢
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夢だ。
夢。 前にも、見たことある人。
きれいな、女の幽霊。
どこかの学校。 満開の、桜。
前に夢で見た時は、嫌な感じだった。 私のこと、笑ってた。
私は、この人を知ってる。 写真で、見たことがある。
背の高い、ふわふわの髪の、ブレザーのかわいい女の子と、手を繋いでる。
高校生の、おりえちゃんと。
「おりえちゃん」
夢の中のおりえちゃんは、びっくりした顔をする。 セーラー服の、おりえちゃんとは違う女子高の制服の、私を見る。
「おりえちゃん。 夕陽だよ。 迎えに来たの」
夢の中のおりえちゃんは、女の幽霊…… 先生の家庭教師だったひとと、私の顔を、交互に見る。 困った顔で。
「おりえちゃん。 知ってるよ。 先生のこと、大好きなんだよね。 大丈夫。 ずうっと、大好きでいいよ。 でも、私もおりえちゃんのこと、大好きだから。 夕陽は、どこにも行かないから。 置いてかないし、着いてくから。 だから…… ずっと一緒にいよ」
先生の先生は、おりえちゃんの手を離す。 ふっと微笑んで、おりえちゃんの背中をとん、と押して、私の方に歩かせる。
私は、おりえちゃんをぎゅうっと抱きしめる。 高校生のおりえちゃんも、私をぎゅっとする。
しばらくきつく抱き合って、ふと顔を上げると、幽霊はもういなかった。 風が吹いて、よくある映画のワンシーンみたいに、桜の花びらが舞い上がって、夢は終わった。
目を開けると、寝室のカーテンの隙間から、明るい外の光が見える。 太陽が、もう高い。
大きなベッド、隣に先生はいない。 ベッドは私がいる所以外、温かくもない。
リビングの方から、小さな話し声が聞こえる。 私はかまわず、扉を引く。
「おはようございます」
「あ、夕陽。 おはよう」
作業机の上には、写真立て。 高校生の頃の先生と、家庭教師の先生の。
「先生の先生と……お話、してたの?」
「ふふ。 ばれちゃったわ。 そうなの。 先生に、報告してたのよ」
私は、座ったままの先生に抱きつく。 頭をくりくり、擦り付ける。
「先生よりも好きな人ができて、ずっと一緒にいる約束をして、今日からほんとに、一緒なのよって。 先生も夕陽のこと、見守ってあげてねって…… 報告して、お願いしていたの」
先生はそう言って、写真立てを倒す。
私は、倒された写真をまた、立てる。
「夕陽も、お願いしようかな」
先生は、いらっしゃい、と私をお膝に乗せて、後ろから抱く。
「まあ。 どんな事?」
私は写真の中で微笑む先生の先生に、心の中で、話しかける。
あの。
おりえちゃん、かわいかったですよね。
きっと、かわいいな、好きだなって、思ってましたよね。 最後はどう思ってたのか… 私には、分かんないけど。
でも、おりえちゃんを泣かせて、苦しめるのは、だめですよ。
あなたに置いていかれて、おりえちゃんは、十五年も、ずーっとずっと、泣いてたの。
だから、お願い。
おりえちゃんを、早くに、連れてかないで下さい。
長生きして、楽しいことがたくさんあるように、守ってあげて下さい。
長生きすれば、今はまだできないこと、できるようになるかもしれない。
二人で、結婚するでしょ。 結婚式。 新婚旅行。 赤ちゃんも…… もしかしたら。 もしかしたらね。
おりえちゃんはあなたのこと、ずーっと大好きです。 私のことも大好きだけど、あなたのことも、ずーっと。
幽霊なら、何でもできるでしょ。
おりえちゃんのこと、長生きさせて。
絶対、病気とか、ならせないで。 よろしくね。
「お願い、随分長いわね」
先生は、目をつぶって、両手を固く組んでお願いをする私の耳を、やさしく引っ張る。
「いて…… いてててて」
「先生、そんなに沢山お願いされても、きっとお困りになるわ」
ぶー。 お困りになったって、いいもん。 先生の先生は、悪い幽霊。 私の夢に出てきて、怖い思いをさせたでしょ。
「何をそんなにお願いしたの。 夕陽」
先生は、後ろから私を、ぎゅうっとする。 先生の胸のどきどきが伝わって、私も、どきどきする。 急に恥ずかしくなって、目の前、写真立ての二人を見つめたまま、答える。
「おりえちゃんが、長生きしますようにって」
「まあ」
先生は私のうなじに、後ろからちゅっとする。 何度かちゅ、ちゅ、とすると、私をくるりと回転させて、椅子の上で向き合う。
「長生き、するわよ」
「えへ。 そうして。 私も、長生きする。 それで、いっぱい幸せになろ。 まずは、今日、幸せ生活そのいち。 一日中、お家でくっつく!」
「ふふ。 いつも、やってるでしょ」
向かい合った私たちは、また、ぎゅっと抱き合う。 先生の匂いがする。 朝の先生。 いい匂い。 いっぱいいっぱい吸い込むと、変な気持ちになってくる。
「な、なんか……また……」
「ね、どうしましょ。 ふふ。 私もよ」
夢。 前にも、見たことある人。
きれいな、女の幽霊。
どこかの学校。 満開の、桜。
前に夢で見た時は、嫌な感じだった。 私のこと、笑ってた。
私は、この人を知ってる。 写真で、見たことがある。
背の高い、ふわふわの髪の、ブレザーのかわいい女の子と、手を繋いでる。
高校生の、おりえちゃんと。
「おりえちゃん」
夢の中のおりえちゃんは、びっくりした顔をする。 セーラー服の、おりえちゃんとは違う女子高の制服の、私を見る。
「おりえちゃん。 夕陽だよ。 迎えに来たの」
夢の中のおりえちゃんは、女の幽霊…… 先生の家庭教師だったひとと、私の顔を、交互に見る。 困った顔で。
「おりえちゃん。 知ってるよ。 先生のこと、大好きなんだよね。 大丈夫。 ずうっと、大好きでいいよ。 でも、私もおりえちゃんのこと、大好きだから。 夕陽は、どこにも行かないから。 置いてかないし、着いてくから。 だから…… ずっと一緒にいよ」
先生の先生は、おりえちゃんの手を離す。 ふっと微笑んで、おりえちゃんの背中をとん、と押して、私の方に歩かせる。
私は、おりえちゃんをぎゅうっと抱きしめる。 高校生のおりえちゃんも、私をぎゅっとする。
しばらくきつく抱き合って、ふと顔を上げると、幽霊はもういなかった。 風が吹いて、よくある映画のワンシーンみたいに、桜の花びらが舞い上がって、夢は終わった。
目を開けると、寝室のカーテンの隙間から、明るい外の光が見える。 太陽が、もう高い。
大きなベッド、隣に先生はいない。 ベッドは私がいる所以外、温かくもない。
リビングの方から、小さな話し声が聞こえる。 私はかまわず、扉を引く。
「おはようございます」
「あ、夕陽。 おはよう」
作業机の上には、写真立て。 高校生の頃の先生と、家庭教師の先生の。
「先生の先生と……お話、してたの?」
「ふふ。 ばれちゃったわ。 そうなの。 先生に、報告してたのよ」
私は、座ったままの先生に抱きつく。 頭をくりくり、擦り付ける。
「先生よりも好きな人ができて、ずっと一緒にいる約束をして、今日からほんとに、一緒なのよって。 先生も夕陽のこと、見守ってあげてねって…… 報告して、お願いしていたの」
先生はそう言って、写真立てを倒す。
私は、倒された写真をまた、立てる。
「夕陽も、お願いしようかな」
先生は、いらっしゃい、と私をお膝に乗せて、後ろから抱く。
「まあ。 どんな事?」
私は写真の中で微笑む先生の先生に、心の中で、話しかける。
あの。
おりえちゃん、かわいかったですよね。
きっと、かわいいな、好きだなって、思ってましたよね。 最後はどう思ってたのか… 私には、分かんないけど。
でも、おりえちゃんを泣かせて、苦しめるのは、だめですよ。
あなたに置いていかれて、おりえちゃんは、十五年も、ずーっとずっと、泣いてたの。
だから、お願い。
おりえちゃんを、早くに、連れてかないで下さい。
長生きして、楽しいことがたくさんあるように、守ってあげて下さい。
長生きすれば、今はまだできないこと、できるようになるかもしれない。
二人で、結婚するでしょ。 結婚式。 新婚旅行。 赤ちゃんも…… もしかしたら。 もしかしたらね。
おりえちゃんはあなたのこと、ずーっと大好きです。 私のことも大好きだけど、あなたのことも、ずーっと。
幽霊なら、何でもできるでしょ。
おりえちゃんのこと、長生きさせて。
絶対、病気とか、ならせないで。 よろしくね。
「お願い、随分長いわね」
先生は、目をつぶって、両手を固く組んでお願いをする私の耳を、やさしく引っ張る。
「いて…… いてててて」
「先生、そんなに沢山お願いされても、きっとお困りになるわ」
ぶー。 お困りになったって、いいもん。 先生の先生は、悪い幽霊。 私の夢に出てきて、怖い思いをさせたでしょ。
「何をそんなにお願いしたの。 夕陽」
先生は、後ろから私を、ぎゅうっとする。 先生の胸のどきどきが伝わって、私も、どきどきする。 急に恥ずかしくなって、目の前、写真立ての二人を見つめたまま、答える。
「おりえちゃんが、長生きしますようにって」
「まあ」
先生は私のうなじに、後ろからちゅっとする。 何度かちゅ、ちゅ、とすると、私をくるりと回転させて、椅子の上で向き合う。
「長生き、するわよ」
「えへ。 そうして。 私も、長生きする。 それで、いっぱい幸せになろ。 まずは、今日、幸せ生活そのいち。 一日中、お家でくっつく!」
「ふふ。 いつも、やってるでしょ」
向かい合った私たちは、また、ぎゅっと抱き合う。 先生の匂いがする。 朝の先生。 いい匂い。 いっぱいいっぱい吸い込むと、変な気持ちになってくる。
「な、なんか……また……」
「ね、どうしましょ。 ふふ。 私もよ」
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