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三年生 これから春になる、まだ寒い日
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「試験、おつかれ」
「えへへ。 ありがと」
私たち、今日はおしゃれカフェで乾杯する。 私は、ホットのカフェラテ。 ケイは桜の香りの、もうそれはコーヒー関係ない気がする、ホイップもりもりの、甘い飲み物。
「つらい期間、長かったよね。 国立受験組はさ」
「うん。 でも、もう終わったし。 結果だけ、あとは」
ケイはもう、東京で一人暮らしが決まっている。 都内の女子大。 住む所も決まっていて、お父さんが持ってるマンションなんだって。
「東京、遊び来て。 一人暮らし、寂しいから……」
寂しそうだけど、ほんのちょっと、嬉しそうな気もする。 だけど英梨さんとは、遠距離になっちゃう。 それはきっと、すごく寂しい。
「行く。 行って、ご飯たくさん作ってあげる。 冷凍にして、ちょっとずつ、食べて」
ケイの、あったかくてぷくぷくの、かわいい手を握る。 ぎゅっと握り返される。
「てか、浮気しちゃったら、どうしよう、自分が。 女子大、合コンとか、多そうだし……。 あたし、遠距離、耐えられないかも……」
「大丈夫だよ! 今だって、毎日会ってるわけじゃないんだし。 毎日、ビデオ通話すればいいよ」
「でも、それじゃ、ぎゅーできないじゃん……。 夕陽のせいで、ぎゅーの気持ちよさ、知っちゃったんだから……」
ケイは目を閉じて、自分をぎゅーっと抱き締める。 半分はふざけてるけど、きっと、残りの半分は、本気。
だって私たち、恋する乙女だから。 ほんとに本気で、こんな事を話し合ってる。 先生に言ったら、かわいいわね、って笑うかもしれないけど。
「笑わないわよ。 会えないのは、さみしいことよ」
放課後、保健室。 先生は自分のカップで、白湯を飲む。 私も、コバルトブルーのカップでミルクティーを飲む。
「私、ほんとに卒業したら先生の家に行っちゃうつもりだけど」
キャスター付き、背もたれ付きの椅子で、ふらふら動きながら、言う。 先生を、上目遣いに見る。
「ほんとに、来てもらうつもりよ」
先生も、真っ直ぐ私を見る。 目が合うと、どきどきする。 何回でも、どきどきする……。 なんだか照れて、目を逸らす。
「えへ……。 約束。 じゃ、部屋の片付け、ほんとに始めちゃお」
「どうぞ。 もう、少しずつ運んだっていいわ。 お洋服とか、そういうものだけでしょうしね」
そりゃ、モノは、そうだけど。 ママに言ったりとかさ…… あるじゃん。 どうやって、報告しよう。 実は結構、悩んでる。
「そういえばさ、卒業式って、先生、何着るの?」
「ふふ。 聞かれちゃったわ。 内緒にしようと思ったんだけど」
去年は着任式の時と同じ、すてきな白っぽいパンツスーツだった。 脚がかっこよく長く見えて、すごく似合うやつ。
「今年は、一生に一度だから。 大好きなあなたの、卒業式だから。 色無地と、袴にしようかなって」
袴! 絶対、すてき!
「えっ、すごい、楽しみ、いつ決めたの? やだぁ、皆、先生と写真撮りたくて、行列になっちゃうなぁ…」
どうしよ、どうしよ。 すっごく楽しみ。 私はキャスター付きの椅子で、くるくる回る。
「あっ、でも、卒業式って一、二年生も出るでしょ。 あー、だめだめ、ファンがますます増えちゃうよう! 私、卒業するから、来年の先生が学校で悪さしないか、見張れないし!」
回りながら、頭を掻きむしる。 先生は、唇をとがらかす。
「何よ。 悪さなんて、しませんよ」
椅子に座ったまま、先生の方にしゅーっと移動する。
「入学式で目が合って、きらきらのかわいい子がいたら、保健室に連れてきちゃうかもしれないし。 私みたいに」
「そうね。 あなたみたいに、のこのこ、ここに現れたらね。 そしたら、味見くらいはしてあげようかな」
先生は、意地悪な笑顔を作る。 二人の顔が近付いて、ちゅっとする。 同時に、ふふっと笑う。
「袴、楽しみだなぁ。 今年だけ?」
「だって、今年だけでしょ。 あなたの卒業式は。 特別よ」
向かい合って、髪を撫でてくれる。 手も、握ってくれる。
「制服のかわいい姿も、もうすぐ見納めね」
「べつに……。 かわいくないし。 ふつうだし」
「かわいいでしょ。 一番、かわいいわ」
「えへへ……。 先生は、一番きれい。 一番、大好きだよ」
こうやって、ここでいちゃいちゃできるのも、あと何日もない。 それはとっても寂しいけど、きっと、もっと楽しい毎日が待ってる。
「さあ、そろそろお帰りなさい。 お母様、待っているんじゃなくて?」
「うん。 先生も、あんまり遅くならないでね。 疲れちゃうからね」
ハイタッチして、バイバイする。
だいぶ、日が伸びてきた。 真っ暗になる前に、学校を出る。 今日も先生と、たくさん喋った。 毎日会っても、まだ会いたい。 この校舎で、セーラー服でお喋りできるの、あとちょっとでおしまいだから。
「えへへ。 ありがと」
私たち、今日はおしゃれカフェで乾杯する。 私は、ホットのカフェラテ。 ケイは桜の香りの、もうそれはコーヒー関係ない気がする、ホイップもりもりの、甘い飲み物。
「つらい期間、長かったよね。 国立受験組はさ」
「うん。 でも、もう終わったし。 結果だけ、あとは」
ケイはもう、東京で一人暮らしが決まっている。 都内の女子大。 住む所も決まっていて、お父さんが持ってるマンションなんだって。
「東京、遊び来て。 一人暮らし、寂しいから……」
寂しそうだけど、ほんのちょっと、嬉しそうな気もする。 だけど英梨さんとは、遠距離になっちゃう。 それはきっと、すごく寂しい。
「行く。 行って、ご飯たくさん作ってあげる。 冷凍にして、ちょっとずつ、食べて」
ケイの、あったかくてぷくぷくの、かわいい手を握る。 ぎゅっと握り返される。
「てか、浮気しちゃったら、どうしよう、自分が。 女子大、合コンとか、多そうだし……。 あたし、遠距離、耐えられないかも……」
「大丈夫だよ! 今だって、毎日会ってるわけじゃないんだし。 毎日、ビデオ通話すればいいよ」
「でも、それじゃ、ぎゅーできないじゃん……。 夕陽のせいで、ぎゅーの気持ちよさ、知っちゃったんだから……」
ケイは目を閉じて、自分をぎゅーっと抱き締める。 半分はふざけてるけど、きっと、残りの半分は、本気。
だって私たち、恋する乙女だから。 ほんとに本気で、こんな事を話し合ってる。 先生に言ったら、かわいいわね、って笑うかもしれないけど。
「笑わないわよ。 会えないのは、さみしいことよ」
放課後、保健室。 先生は自分のカップで、白湯を飲む。 私も、コバルトブルーのカップでミルクティーを飲む。
「私、ほんとに卒業したら先生の家に行っちゃうつもりだけど」
キャスター付き、背もたれ付きの椅子で、ふらふら動きながら、言う。 先生を、上目遣いに見る。
「ほんとに、来てもらうつもりよ」
先生も、真っ直ぐ私を見る。 目が合うと、どきどきする。 何回でも、どきどきする……。 なんだか照れて、目を逸らす。
「えへ……。 約束。 じゃ、部屋の片付け、ほんとに始めちゃお」
「どうぞ。 もう、少しずつ運んだっていいわ。 お洋服とか、そういうものだけでしょうしね」
そりゃ、モノは、そうだけど。 ママに言ったりとかさ…… あるじゃん。 どうやって、報告しよう。 実は結構、悩んでる。
「そういえばさ、卒業式って、先生、何着るの?」
「ふふ。 聞かれちゃったわ。 内緒にしようと思ったんだけど」
去年は着任式の時と同じ、すてきな白っぽいパンツスーツだった。 脚がかっこよく長く見えて、すごく似合うやつ。
「今年は、一生に一度だから。 大好きなあなたの、卒業式だから。 色無地と、袴にしようかなって」
袴! 絶対、すてき!
「えっ、すごい、楽しみ、いつ決めたの? やだぁ、皆、先生と写真撮りたくて、行列になっちゃうなぁ…」
どうしよ、どうしよ。 すっごく楽しみ。 私はキャスター付きの椅子で、くるくる回る。
「あっ、でも、卒業式って一、二年生も出るでしょ。 あー、だめだめ、ファンがますます増えちゃうよう! 私、卒業するから、来年の先生が学校で悪さしないか、見張れないし!」
回りながら、頭を掻きむしる。 先生は、唇をとがらかす。
「何よ。 悪さなんて、しませんよ」
椅子に座ったまま、先生の方にしゅーっと移動する。
「入学式で目が合って、きらきらのかわいい子がいたら、保健室に連れてきちゃうかもしれないし。 私みたいに」
「そうね。 あなたみたいに、のこのこ、ここに現れたらね。 そしたら、味見くらいはしてあげようかな」
先生は、意地悪な笑顔を作る。 二人の顔が近付いて、ちゅっとする。 同時に、ふふっと笑う。
「袴、楽しみだなぁ。 今年だけ?」
「だって、今年だけでしょ。 あなたの卒業式は。 特別よ」
向かい合って、髪を撫でてくれる。 手も、握ってくれる。
「制服のかわいい姿も、もうすぐ見納めね」
「べつに……。 かわいくないし。 ふつうだし」
「かわいいでしょ。 一番、かわいいわ」
「えへへ……。 先生は、一番きれい。 一番、大好きだよ」
こうやって、ここでいちゃいちゃできるのも、あと何日もない。 それはとっても寂しいけど、きっと、もっと楽しい毎日が待ってる。
「さあ、そろそろお帰りなさい。 お母様、待っているんじゃなくて?」
「うん。 先生も、あんまり遅くならないでね。 疲れちゃうからね」
ハイタッチして、バイバイする。
だいぶ、日が伸びてきた。 真っ暗になる前に、学校を出る。 今日も先生と、たくさん喋った。 毎日会っても、まだ会いたい。 この校舎で、セーラー服でお喋りできるの、あとちょっとでおしまいだから。
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