保健室 三年生

下野 みかも

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三年生 ママはお子ちゃま

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「ママ、あのね。 大学、出願のやつ、出したから。 決めたから。 教育学部で」
「おっ。 分かった。 ママは、何したらいい?」
「別に、普通でいいよ。 あの、お金の振込とか…  そういうのだけ、絶対忘れないで」


 今日の夕飯、シチュー。 シチューとご飯と、サラダ。 
 シチューとかカレーってご飯にかけると、ご飯いつもよりたくさん食べられるよねって前に先生に言ったら、シチューを……? ご飯に……? って、混乱してたな(先生のお家は、ご飯にかけないらしい)。


「ねえ。 ブロッコリー、体にいいんだよ。 シチューの中に入ってれば、シチュー味でしょ。 ママ、食べなよ」
「ブロッコリー、なんていうか、その……  頭のところはまだいいんだけど、幹? 幹の部分? そこが無理……」
 ママ、子供。 仕方がないから、私が食べる。 美味しいのに……。


「教育学部って、何の先生にでもなれるの?」
 ママが、私のお皿にシチューの中のブロッコリーを入れながら、聞く。
「文系とか、理系とか、コースが三つくらいあって。 私が受けるのは、家庭科の先生になりたい人のコースなの。 試験は、面接と小論文。 いっぱい書いて、先生達に見てもらうんだよ。 それでいっぱい直してもらって、本番まで繰り返すの」
「へえ。 家庭科の先生かぁ……。 いいね。 夕陽ちゃんが先生になったら、モテモテだよ。 かわいいし、優しいからね」
「かわいくないし……。 別に、モテなくていい」
 モテる必要、ないもん。 
「モテちゃっても、浮気しちゃ、ダメだよ。 恋人が泣いちゃうのは、ダメだからさ」
「おぁ……。 ママ、かっこいい」
 恋人。 私のかわいい、先生。 おりえちゃん。
 私、絶対、浮気しないし。 一生、先生しか好きじゃない。 分かるもん。
 おりえちゃんは、うーん、モテると思う…。 すっごい、きれいだし。 声も、いい。 背が高くて、おしゃれ。 優しくて、えっち。
「あっ、また」
「えへへ……。 ブロッコリー、あげる。 体にいいから」
 ぼーっとしてたら、また私のシチューに、ブロッコリーが増えていた。 ママはほんと、お子様。


「夕陽ちゃんは、なんでまた、学校の先生になりたくなったの?」
 ママは発泡酒を飲みながら、私に聞く。
 なんで?
 先生が、一緒にマンション住んで、一緒に働きましょ、って言ったから。
 夜勤とか、ないから。
 公務員、安定してるから。
「なんでだろ……」
 考えてしまう。 手も、口も、止まる。
「あ、いや、悩まないで。 先生、すごい、いい仕事だよ。 でもさ、夕陽ちゃん、学校すっごい楽しい!ってタイプじゃないと思ってたから」
「それは……そうだね。 学校、別に楽しくなかった」
 小さい頃は、ずっと学童保育だったし。 ママのお迎え、遅くて、いやだったな。 
 中学校も、部活、やらなかった。 高校も。 部活は、親も大変だって聞いてたから。 
「あ……でもね。 今は友達できたから、結構楽しいよ。 勉強も、頑張ったら、成績良くなって、うれしい。 そういうの……  あの、私みたいに、あの……」
 これ……言ったら、嫌がるかな。 ママを見る。 お酒飲んで、ニコニコで、ご機嫌だ。 言っちゃおうかな……。
「あの、私みたいに、片親の子でも……。 勉強がんばれるように、応援したいのかも……」
 ママの顔、ちらっと見る。 眉毛が、ハの字になっている。
「夕陽ちゃん」
「なに……」
 恥ずかしくて、唇を尖らせたまま、答える。 
「いい子だね」
「べ……別に。 ふつうだし」
 普通より、めちゃめちゃいい子だよ。 ママはそんな風に言った。 そして、
「カレシに感謝だな……。 夕陽ちゃんをますますやる気にさせる、ありがたすぎる、人間」
 と言って、色んな方角に向かって、ありがとうカレシ、ありがとうと言いながら、謎のお祈りみたいな事をした。 ママはほんと、お子様っていうか、ヘンな大人。
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