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三年生 大晦日
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何日か前まで、クリスマスにうちに泊まりに来てくれたときのこと思い出して、ニヤニヤしてたのに。
年末年始は、先生と一緒に過ごせない。
ママは最初、「年越し、彼氏の家? やるじゃん。 二日からは、受験勉強再開だよ。 それならいいんじゃない」って言った。
先生は最初、「年越し? 実家? 帰らないわよ。 うちに来てくれたら、最高だわ」って言ってた。
それぞれに、「オッケーだって」って伝えたら、なんか急に、考え始めちゃって。
ママは、「やっぱり、彼氏も実家に帰ったりとかさ。 夕陽ちゃんが行くって言うから、気ぃ使って、帰らないって言ってんのかも。 高校最後だし、ママと歌合戦見よ」なんて言い出した。
先生も、「やっぱり、年越しはお母様と一緒がいいんじゃないかしら。 先生とは、また来年過ごしましょ」なんて言い出した。
何だよう。 最初は、いいって言ったじゃん。
私、年越しできると思ったから、お蕎麦に乗っける天ぷら、揚げる練習したのに。 おせちのかまぼこ、うさぎの形に切れるし、伊達巻だって作れるのに……。
「夕陽ちゃんは、紅組と白組、どっちが勝つと思う?」
「別に、どっちでもいい」
ママと並んで、テレビを見ながらお蕎麦を食べる。
さく、と音を立てて、ママがおいもの天ぷらを食べる。
「超うまい。 ママ、天ぷらなんて揚げた事ないよ。 夕陽ちゃんは天才だ……」
「知ってる。 揚げたてって、うまいでしょ」
スーパーで買ってきた、安くなった天ぷらを卵でとじて、天丼!っていうのしか、家で天ぷら食べた記憶はない。 練習して、うまく出来るようになった天ぷら。 先生にも、食べて欲しかった……。
「でもさぁ。 歌合戦、赤とか白とか、ちょっと、古いよね。 別に、みんなでピンク組とかで、いいじゃんねえ」
ママが、意外なことを言う。 そういうこと、言うタイプじゃなかったのに。
「ママ、今時だね。 かっこいい」
「まあね。 よく言われる」
「夕陽ちゃん。 初詣、行くの? 行くなら、早めにお風呂入っちゃったら」
お蕎麦を食べ終わって、みかんを剥いて、お茶を飲みながら、ママが聞く。 初詣? 行った事ない。
「行かないでしょ。 歌合戦、どっちが勝ったか見たら、寝るよ」
「行きなよ。 初詣、行ってきな。 ママ、大晦日、堪能したから。 夕陽ちゃんが天ぷら揚げてくれた、最高の年越し」
どういうこと? そんなに、天ぷら嬉しかったのかな。
「カレシと、行ってきたら。 ママ、今日は夕陽ちゃんといっぱい過ごせたからさ。 連絡してみなよ」
ママはテレビを見ながら、こっちを見ずに続ける。 怒ってる声じゃない。 ご機嫌な時の、声。
「ほら、早く連絡しないと、寝ちゃうかもよ。 年上のカレシ。 って、そんな年寄りじゃないか」
きれいに剥いたみかんを、私にくれる。 私は「食べてからにする」って答えて、みかんを三つも食べてから、先生にメールをした。
「おりえちゃん」
水色のフランス車が見える。 手を振ると、運転席から、手を振り返してくれる。
「外で、待ってたの? ごめんなさい。 寒かったわね」
迎えに来てくれた、先生。
私は自分のマンションの前で、ベージュの大きいボアフリースの上着のポケットに手を突っ込んで、待っていた。
「全然、待ってないし。 寒くない」
助手席に乗り込みながら、言う。
「嘘ばっかり。 お鼻が赤いし、頬っぺた、冷たいわ」
鍵を閉めて、私のほっぺに手の甲を当てる。 待ってたの、ばれてしまった。
「えへ……。 ほんとは、待ってた。 早く来ないかなって。 先生、来てくれて、ありがとう」
「どういたしまして。 初詣なんて、何年振りかしら。 素敵」
クリスマス振り、六日振りの、先生。 黒いコート、かっこいい。 横顔、きれい。
「見つめられると、照れちゃうわ」
じーっと先生を見る私の、膝に置いた手の上に、先生は左手を重ねる。 それだけで、なんだか嬉しくなる。 どきどきする。
「先生」
「なあに?」
「好き……」
「知ってるわ。 私もよ」
手を、ぽんぽん、としてくれる。 先生。 大好き。 初詣、行きたいけど、ずーっと着かなくてもいい……。
「えっちしたい……」
つい、口から出てしまった。 先生は、ふふっと笑う。
「こないだ、いっぱいしたでしょ。 クリスマスに。 したがりやさんね」
「だって」
私の右手の上に重なった先生の手に、私はさらに左手を重ねる。
「したいもん……」
「今日は、しないのよ。 初詣が終わったら、お家に帰って、ゆっくりなさい。 でないと、もう、お許し出ないわよ。 夜のお出かけの」
う……。 それは、そうかもしれない。 でも、くっ付きたいよ……。
「ちゅーだけ。 ちゅーだけなら?」
「もう。 それなら、駐車場は、神社からかなり遠くにしましょうね。 人があんまり、来ないところに」
年末年始は、先生と一緒に過ごせない。
ママは最初、「年越し、彼氏の家? やるじゃん。 二日からは、受験勉強再開だよ。 それならいいんじゃない」って言った。
先生は最初、「年越し? 実家? 帰らないわよ。 うちに来てくれたら、最高だわ」って言ってた。
それぞれに、「オッケーだって」って伝えたら、なんか急に、考え始めちゃって。
ママは、「やっぱり、彼氏も実家に帰ったりとかさ。 夕陽ちゃんが行くって言うから、気ぃ使って、帰らないって言ってんのかも。 高校最後だし、ママと歌合戦見よ」なんて言い出した。
先生も、「やっぱり、年越しはお母様と一緒がいいんじゃないかしら。 先生とは、また来年過ごしましょ」なんて言い出した。
何だよう。 最初は、いいって言ったじゃん。
私、年越しできると思ったから、お蕎麦に乗っける天ぷら、揚げる練習したのに。 おせちのかまぼこ、うさぎの形に切れるし、伊達巻だって作れるのに……。
「夕陽ちゃんは、紅組と白組、どっちが勝つと思う?」
「別に、どっちでもいい」
ママと並んで、テレビを見ながらお蕎麦を食べる。
さく、と音を立てて、ママがおいもの天ぷらを食べる。
「超うまい。 ママ、天ぷらなんて揚げた事ないよ。 夕陽ちゃんは天才だ……」
「知ってる。 揚げたてって、うまいでしょ」
スーパーで買ってきた、安くなった天ぷらを卵でとじて、天丼!っていうのしか、家で天ぷら食べた記憶はない。 練習して、うまく出来るようになった天ぷら。 先生にも、食べて欲しかった……。
「でもさぁ。 歌合戦、赤とか白とか、ちょっと、古いよね。 別に、みんなでピンク組とかで、いいじゃんねえ」
ママが、意外なことを言う。 そういうこと、言うタイプじゃなかったのに。
「ママ、今時だね。 かっこいい」
「まあね。 よく言われる」
「夕陽ちゃん。 初詣、行くの? 行くなら、早めにお風呂入っちゃったら」
お蕎麦を食べ終わって、みかんを剥いて、お茶を飲みながら、ママが聞く。 初詣? 行った事ない。
「行かないでしょ。 歌合戦、どっちが勝ったか見たら、寝るよ」
「行きなよ。 初詣、行ってきな。 ママ、大晦日、堪能したから。 夕陽ちゃんが天ぷら揚げてくれた、最高の年越し」
どういうこと? そんなに、天ぷら嬉しかったのかな。
「カレシと、行ってきたら。 ママ、今日は夕陽ちゃんといっぱい過ごせたからさ。 連絡してみなよ」
ママはテレビを見ながら、こっちを見ずに続ける。 怒ってる声じゃない。 ご機嫌な時の、声。
「ほら、早く連絡しないと、寝ちゃうかもよ。 年上のカレシ。 って、そんな年寄りじゃないか」
きれいに剥いたみかんを、私にくれる。 私は「食べてからにする」って答えて、みかんを三つも食べてから、先生にメールをした。
「おりえちゃん」
水色のフランス車が見える。 手を振ると、運転席から、手を振り返してくれる。
「外で、待ってたの? ごめんなさい。 寒かったわね」
迎えに来てくれた、先生。
私は自分のマンションの前で、ベージュの大きいボアフリースの上着のポケットに手を突っ込んで、待っていた。
「全然、待ってないし。 寒くない」
助手席に乗り込みながら、言う。
「嘘ばっかり。 お鼻が赤いし、頬っぺた、冷たいわ」
鍵を閉めて、私のほっぺに手の甲を当てる。 待ってたの、ばれてしまった。
「えへ……。 ほんとは、待ってた。 早く来ないかなって。 先生、来てくれて、ありがとう」
「どういたしまして。 初詣なんて、何年振りかしら。 素敵」
クリスマス振り、六日振りの、先生。 黒いコート、かっこいい。 横顔、きれい。
「見つめられると、照れちゃうわ」
じーっと先生を見る私の、膝に置いた手の上に、先生は左手を重ねる。 それだけで、なんだか嬉しくなる。 どきどきする。
「先生」
「なあに?」
「好き……」
「知ってるわ。 私もよ」
手を、ぽんぽん、としてくれる。 先生。 大好き。 初詣、行きたいけど、ずーっと着かなくてもいい……。
「えっちしたい……」
つい、口から出てしまった。 先生は、ふふっと笑う。
「こないだ、いっぱいしたでしょ。 クリスマスに。 したがりやさんね」
「だって」
私の右手の上に重なった先生の手に、私はさらに左手を重ねる。
「したいもん……」
「今日は、しないのよ。 初詣が終わったら、お家に帰って、ゆっくりなさい。 でないと、もう、お許し出ないわよ。 夜のお出かけの」
う……。 それは、そうかもしれない。 でも、くっ付きたいよ……。
「ちゅーだけ。 ちゅーだけなら?」
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