保健室 三年生

下野 みかも

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三年生 名前

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 秋の空。 雲、ない。 もう、そんなに暑くもない。
 放課後の保健室、窓とカーテン、扉を開けて、風が抜ける。 気持ちいい。
「お天気だね」
「そうね」
「お出かけ、したいなぁ」
「いいわね。 天気が良かったら、ドライブでも行く?土曜日」
「行く! ねぇ、お泊まり? いっぱい、えっちする?」
「夕陽! 声! でかいんだってば!」
 ケイ。 ごめ。 いたんだ(いたよね)。


「お友達も、来たら良かったのに」
「来ても、いいけどさ。 そしたら、先生とちゅーとか……できないじゃん」
「それも、そうね」
 水色の、フランス車。 土曜日、お天気、車の中で二人きり。 県北の、別荘地のあるおしゃれなエリアまで、一時間半くらい。
 私、運転してる先生の横顔をずっと見てるのが好き。
「また、見つめて。 照れてしまうわ」
「だって…きれいなんだもん。 先生。 睫毛、長い」
 女優さんの横顔みたい。 睫毛に、マッチが何本も乗りそう。
「マスカラ、付けてるからよ」
「違うよう。 絶対、他の人より、長い」
 先生の頬っぺたに、人差し指の背中を触れさせる。
「運転中は、いけません」
「だって……触りたいんだもん」
 きらきらの、ピンクの頬っぺた。 笑うと、そこに光が反射して、ちらちら光る。
「先生……。 きれい。 キラキラしてる」
「もう。 恥ずかしいわよ。 人が聞いたら、びっくりしてしまうわ。 大人をこんなに、褒めて」
 なんだか、もっとピンクになったみたい。 ほんとに、きれい。
「誰も、びっくりしないよ。 ほんとのことだもん」


「あのね。 私、先生の好きなところ、いっぱいあるよ」
「どうしたの、急に。 先生だって、あなたの好きなところ、たくさんあるわ」
「百個、言えるもん」
「まぁ……かわいいわね。 聞いてもいい?」


「九十八。 着てる服が、おしゃれ。 九十九、ベロが長くて、えっち。 百、寝顔がかわいい」
「本当に、百、言ってくれたのね……。 お疲れ様。 でも、三十二の「ビーフシチューが美味しい』と七十九の『カレーが美味しい』は内容が重複してるから、ちょっとずるいわね」
「えへへ……  ごめんなさい」
「本当に、かわいいこと。 大好きよ」


 休憩しながら、二時間くらい走って。 目的地に着く。
 別荘地の方、森の中の、おしゃれなカフェ。 
「ねぇ。 帽子、被ってしまうの?」
 一応、こないだ、キャップを買った。 紺の、無地の、コーデュロイのやつ。 紺色は、私の肌の色に合ってるって、先生が教えてくれた(プラチナのネックレスにも、合うんだよ)。
 県内のお出かけなんかは知ってる人、いるかも知れないし。 先生とお出かけの時は、被るんだ。
「帽子被ってたら、すぐにキス、できないわ」
「学校じゃなくても、お外ではキス、しないんだよ」
「じゃあ、行く前に」
 帽子をぱっと取って、キスされる。 先生ってば!


「ねぇ、どれにするの。 いくつ頼んだって、よくてよ」
 おしゃれカフェ、食べ物も美味しそう。 スコーン、かぼちゃプリン、シフォンケーキ。
「迷うなぁ。 先生は?」
 先生、人差し指を、私の唇の前に置く。
「あ……ごめんなさい。 えと、でも、なんか、恥ずかしい……」
「名前で呼んで。」
「ん……」
 お出かけだから。 二人きりじゃない、誰が見てるか、分からないから。 だけど、お名前呼ぶの、照れちゃう……。
「お、おりえちゃん」
 頬っぺた、あつい。 絶対、耳も赤い。 
 先生は私の唇の前に置いた人差し指を、そのままむにゅっと唇に触れさせる。
「ふふ。 ちゃん、って付けてもらうの、何十年振りかしら。 かわいい。 嬉しいわ。 ありがとう」


 帰りの車の中でも、先生は私の手を握って、言う。
「ねえ、名前、呼んで」
「やだよう。 恥ずかしいもん」
「どうしてよ。 卒業しても、先生って呼ぶつもり?」
「卒業しても、先生って呼ぶもん。 ずーっと、私の先生でしょ」
「それも、嬉しいけど。 かわいい声で、呼んでほしいわ」
 言われれば言われるほど、恥ずかしいよ。 
「おりえちゃん……」
 握ってくれてる手を一旦外して、指を絡める。
「なあに? 夕陽」
 先生、その指をきゅっと、強くする。
「すき……」
「私も、好き」
 すぐ、答えてくれる。 恥ずかしくて、先生の方をちっとも見られない。 
「先生」は、みんなの先生。 
 だけど、私だけが知っている。 キスする時の長い睫毛や、えっちな時の、意地悪な顔。
「織江ちゃん」のことは、私もまだよく知らないの。 たくさん、たくさん名前を呼んで欲しがってるって事しか。
「おりえちゃん」
「ふふ。 なに?」
「おりえちゃん、きれいな名前……。 あの、また、よろしくね」
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