42 / 105
三年生 普通の恋
しおりを挟む今日は、たくさん勉強したな。 時々、くっ付いて。 涼しい部屋、きれいな先生の部屋で、いっぽい勉強させてもらった。
カーテンの隙間から、西陽が眩しい。 もう夕方になっちゃった。
「先生、今日も、お泊まりしたい」
えへへ。 明日は日曜日。 先生も、お休みのはず。 実はこっそり、ママに許可、取ってある。
「私は、いいけど。 お母様、心配なさるんじゃなくて」
「ママから、メール来てた。 いいって」
「まあ。 手が早いこと」
ママからの、メールを見せる。 そこにはハートの絵文字がたくさんで、「わかるよね~?」って。
「どういう意味かしら」
「ママ、彼氏と泊まってもいいけど、受験生だから避妊しなっていつも言う。 そのこと」
すごい事言うでしょ、って、言ってみる。 恥ずかしいというか、何というか。
先生は笑って、ぱちぱちと手を叩く。
「実践的指導ね。 仰る通りだわ」
「変なママでしょ」
変なママなの。 うちのママ。
「心配なのよ。 いいお母様」
「今日も、お風呂……一緒に入ってくれる? 先生」
「もちろんよ。 洗ってあげる。 髪も、身体も」
「えへへ。 えっちだなぁ」
お夕食、出前をとってもらっちゃった。 なんと、うなぎ。 しかも、四角いお重に入ってるやつ。 こんなの、法事とか?で食べるやつだよ。 先生、ぜいたく!(私に、ぜいたくさせてくれたんだと思うけど)
お夕食を終えて、猫脚のソファで、ぴったりくっ付いて座る。 先生の肩に、もたれ掛かる。
「あのね、変なこと……聞いてもいい?」
先生、指を絡めてくれる。
「何でも」
結構、気になってたこと。
「先生って……男の人とも、した事あるの?」
「気になる?」
「な、なるよ、そりゃ。 だって…」
唇が、とんがってしまう。
「だって?」
先生の顔の方を見る。 先生も、私を見てくれている。
「先生、きれいだから。 私と結婚する前に、男の人と結婚しちゃうかも」
先生は、絡めた指を、ふわふわ動かす。
「ふふ。 した事、ありますけど。 ちっともよくなかったわよ。 あなたにしてあげる方が、ずっといいわ」
「や、やだあ。 えっち」
つい、下を向いてしまう。 私とする方が、いいんだ……。
頬っぺたに、ちゅ、としてくれる。
「あなたこそ、そんな事聞いて。 興味あるの?」
「先生とキスする前は、男の人が好きだと思ってた。 芸能人とか。 でも今は、全然興味ない。 先生のことしか、好きじゃない」
言いながら、照れちゃって。 足、所在なくて、ぶらぶらさせる。
先生は空いてる方の手で、頭を撫でてくれる。
「かわいい、かわいい。 そうよ、あなたは一生、男となんて、しなくていいわ。 ずうっと、先生がしてあげるんだから」
なんか、顔、上げられないな。 先生は、私が欲しいこと、全部言ってくれる。
「えっち……。 先生は、私のこと、好き?」
「当たり前でしょ。 今更よ」
「浮気、しない? 私だけ? 絶対?」
「やきもち焼きね。 あなただけって、昨夜も言ったでしょ」
そう、昨夜、言ってくれたけど。 耳の穴のすぐそば、吐息が頭に響くくらい、近くで。
でも、でも、不安なの。 絡めてる指、ぎゅっと力を入れて、先生の目を見る。
「だって、先生、きれいで素敵だから。 心配だよう。 一人で、お出掛けしちゃだめ。 飲みに行くのも、禁止。 男の人も女の人も、みんな先生のこと狙っちゃうから」
真剣に言ってるのに、くすくす笑う。 先生は。
「まあ、私、そんなに素敵? かわいいあなたに言われて、嬉しいわ」
「私……かわいくないもん。 先生とちっとも、釣り合わない」
指を外して、ぎゅっと抱きしめてくれる。 頭を撫でながら、先生は言う。
「そんな事! ほんとに、ばかね。 こんなにかわいいのに。 何が不安なの」
「先生が……。 先生が、きれいだから。 声も、素敵だし。 遠くから見ても、分かる。 顔が小さくて、かっこいいもん。 おしゃれだし。 いい匂い。 私、今だって、信じられない。 私だけ、先生を独り占めしてるのが」
涙が、ぽろっと落ちた。 恥ずかしい。
「泣かないの」
「だって、先生が。 先生が、不安にさせるから」
もっと力を入れて、抱いてくれる。 私も、先生をぎゅっとする。
「こうやって、抱き合ってるのに、不安なの?」
「不安だよ。 先生、ときどき、どっかに行っちゃいそうな気がするんだもん」
先生はそれを聞いてから、私に、頬ずりをする。
「私がいなくなったら、寂しい?」
体を離して、私は先生に抗議する。
「当たり前じゃん! 怒るよ」
「嬉しいわ。 怒ってね」
先生、笑ってる。 だけど、いつもと違う。 寂しそう。 消えそうな、笑顔。
「ねえ、そういうの、だめだよ。 冗談でも、だめだからね」
私は先生に向き合って、両手を握る。
「そうね。 ごめんなさい。……先生もね。 不安なの。 いつかあなたが、男の人や、私と違う、若いお友達の事好きになって、置いていかれてしまうんじゃないかって」
「そんな事。 あるわけない」
首、ぶんぶん振る。
あるわけないじゃん。 さっき、男となんかしなくていい、ずうっと先生がしてくれるって、言ったじゃん。
あるわけないこと、言わないでほしい。
でも、先生は続ける。 自分の胸に、白い手を当てて。 噛んで含めるように。
「聞いて。 先生、あなたの事、もう本当に本当に、大好きで。 大好きになってしまったから。 学校でも家でも、一人の時、ずうっと考えてるのよ。 ……ばかみたいでしょ。 どうしたら、喜んでくれるかしらって」
「先生」
胸に当ててる先生の手の上に、私の手を、重ねる。
「でも、分かってるの。 かわいくたって、私のこと好きだって言ってくれるからって、今自分がしていること、ほんとうは……良い訳ないって、分かってるのよ」
先生。
見た事ない顔してる。 長い睫毛が、濡れてる。
「やだ。 そんな事、言わないでよ」
「あなたのママ、あなたの事、とっても大切になさってるわ。 まだまだ子供だって知っている。 私は、私のこと……頭、おかしいと思うわ。 自分を心から、軽蔑してる」
そんなこと。 そんな悲しいこと、言わないで。 私は先生の顔を見たくなくて、胸に頭をぐりぐりなすりつける。 先生の声は、震えてる。
「先生。 私、早く大人になるから。 だから、教えて。 大人になる方法。 いっぱい勉強するし、お家のこと、掃除とか、ご飯作ったりとか、一緒に住んでも、全部できるようにする。 先生がしてほしいこと、全部するから。 だから」
泣かないで。 そんなふうに顔を覆って、肩を震わせて、泣かないで。
先生の背中に腕を回して、さする。
こんな風に、大人が泣くなんて。 先生が、泣いてしまうなんて。
「ごめんね……夕陽、ごめんなさい」
「謝らないでよぅ。 先生、悪くないのに、なんで謝るの」
「悪いのよ。 いけないの。 こんな風に、女どうしでセックスして、女しか好きになれなくなったら。 きっと、あなたの人生、めちゃくちゃになる」
「ならないよ。 幸せだよ。 先生と、ずっと一緒にいるもん。 何がめちゃくちゃなの」
「普通の人生、選べなくなるわ」
「そんなの、いらない。 先生のこと大好きなのが、普通だよ。 私の、普通だよ」
先生は、私の顔を見る。 涙でぐしゃぐしゃのひどい顔で、泣いてる。
そして、私に抱き付く。 背中に腕を回して、強く強くぎゅっとして、ごめんね、大好きよ、と繰り返す。 私も同じようにぎゅっとして、私も大好きだよ、一緒だよ、と繰り返した。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[不定期更新中]
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる