保健室 三年生

下野 みかも

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三年生 夏休みの前

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「もうすぐ、夏休みだね」
 放課後の、保健室。 ここは涼しくて、快適。
 先生の机に一番近いベッドで、ごろごろする。
「そうね」
 先生は、書き仕事。 書類に目を落としたまま、答えてくれる。
「先生も、夏休み?」
「仕事よ」
 生徒も少ないのに、何するんだろ。 昔から、謎でした。
「じゃあ私も、毎日学校来ようかな」
「部活で、開いてる日はいいでしょうけど。 毎日は、どうかしらね」
「だって、予備校とかも行かないし。 家で勉強なら、ここがいいよ」
「さすがに、毎日は。 怒られてしまうわ」
 ぶー。
「うちで、勉強してもいいですよ。 マンションで」
「えっ。 いいの?」
 と、思ったけど。
「大丈夫。 図書館行く」
「あら。 遠慮してるの?」
「エアコン代」
「いいのに。 気にしてくれるの? やさしいのね」
 あとは……多分、勉強の合間合間に先生のベッドで、ひとりでしちゃいそうだから、やめとく。


「期末テスト、どうだったの」
「えへへ。 まぁ、結構、良かったよ。 先生のおかげだね」
 ほんと、先生のおかげ。 先生がいるから、頑張れる(ただ、成績が下がったのも絶対、先生のせいだけど)。
「あなたが、頑張ったからですよ」
 頭、撫でてくれる。 うれしい。
 私はペンケースから、キャップ付きの赤いシャープペンを取り出す。
「これ……。 シャープペン、先生が交換してくれたから。 先生パワー」
「まあ。 かわいいこと」
 シャープペン。 先生が持ってる、キャップ付きのやつが欲しくて、同じのを買ったんだ。 それで、元々先生が使ってたやつと交換して!ってお願いした。 
 子どもがする、おまじないみたいだけど。 どうしても、先生がいつも使ってるやつ、欲しかったから……。
「宝物」
「ふふ。 宝物、たくさんね」
「そうだよ。 先生が触ったもの、ぜーんぶ宝物だもん」
「まるで、ミダス王ね」
 そうなの? 知らなーい。


「夏休みは泊まりのお出掛け、しないんですか。 お母様と」
「うーん。 今年は、多分行かないかな。 受験生だから」
 毎年一回は、ママと泊まりでお出かけしてたけど。
 今年は受験生だし、先生ともたくさん会いたいから、ママには勉強がんばるふりをしてる。
「お母様がいない日は、うちにいらっしゃいよ」
「い……いいの? えへへ。 ママに夜勤、いっぱいやってもらお。 先生、寝不足になっちゃうよ…なんちて」
「まあ。 えっちね。 楽しみだわ」


「ねぇ、先生。 私、夏休み、いやだな」
「どうして?」
「こうやって、放課後いちゃいちゃできないもん…」
 先生も、ベッドに来てる。 膝枕をしてくれる。
「去年は、夏休みがいやだなんて、思わなかった。 先生と会えなくなるの、寂しいなってぐらいで」
 先生のそこ、おへその下のあたりに、顔を埋める。 えっちで、ごめん。
「何が変わったのかしら」
 髪を、撫でてくれる。 大好き。 気持ちいい。
「今年の四月に、先生のおうち、泊まらせてもらってから。 もっともっと、好きになっちゃった」
「あの時は、車で意地悪して、ごめんなさいね」
 覚えててくれてるの? 先生。
「意地悪したら、私の事……嫌いになるかな、と思って。 試すようなこと。 ごめんなさい」
 ふふっ。 私、つい、笑ってしまう。
「おかしかった?」
「おかしいよ。 先生、私、それくらいじゃ、嫌いになんてならないもん」
 先生も、微笑んでくれる。 そして、おでこにそっと、キスしてくれる。
 私はとっても嬉しくて、起き上がって、先生と唇をくっ付ける。 少しだけ、舌も入れて。
「嫌いになんて……ならないから。 心配、しないでね」
 先生は力を入れて、私をぎゅっとしてくれる。
「そうよね。 そうね。 ありがとう。 大好きよ。 かわいいかわいい、あなた」
 私も、ぎゅっとする。 大好き。 先生、大好き。


 外はもう、濃い紺色になっている。 今日は遅くまで残っていく先生を置いて、ひとりで歩く。 たくさんぎゅうっとしてもらった事を、思い出しながら。
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