保健室 三年生

下野 みかも

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二年生の頃 一週間後

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「頭、痛い…」
 寝不足の、二時間目。
 なぜ寝不足かって。 毎日、勉強もろくに手につかず、保健室の先生にされた事ばかり考えてるから。 考えて、思い出して…ひとりで、してるから。
「ねぇ、顔、青いよ。 大丈夫?」
 隣の席の子が、小さく、声を掛けてくれる。 コミュ障の私は、「だ…だいじょぶす」と、小さい声で答える。
「先生! 具合、悪いみたいなので。 保健室へ、連れて行きます!」
 えっ。 ねえ、頼んでない。 やめてよ。 保健室行っても、治らないよ。 眠くて眠くて、頭がガンガンしてるだけ。 ていうか、行きたくないよ。 行っちゃだめなの。 ねえ!


「あの、先生! 彼女、具合が悪そうなので。 連れてきました!」
 隣の席の彼女は、私に肩を貸して、「大丈夫だよ!」「元気出してこ!」と言いながら、保健室へ連れてきてくれた。 良い人なんだろうな。 お節介すぎるけど。
「あらあら。 では、こちらで預かりますね。 どうもありがとう」
 あぁ、預かられてしまった。
 先生は、扉を閉める。 なぜか、鍵も。
 にこにこしながら、私を真っ直ぐ見る。 私はたまらず、目を逸らす。
「久しぶりですね。 始業式の次の日、以来です」
 先生も、私に肩を貸してくれる。
 いい匂いがする。 
 二人で、ベッドに腰掛ける。


 先生は、私の頭と腰に腕を回して、ぎゅうっと抱き締める。 こんなこと、誰からもされた事ない。 
 そして、髪を撫でながら、聞く。
「かわいい子。 どうして、ちっとも来なかったんです」
「よ、用、なかったから。 保健室ってみんな、毎日は、来ないです」
「まぁ。 あんな事したのに、用がなかったなんて。 寂しい」
「あ、あんな事したの、先生です。 あんな、変なこと…」
 思い出すとまた、もじもじしてしまう。 あんな、気持ちいい、変な事…。
「せっ、先生が、あんな事するから。 私、先生のこと、あの、気になって、全然勉強、手に付かなくなっちゃったんです」
 先生は、ふーん、と言いながら、すっと私の両頬に両手を当てる。
 これ、知ってるんだから。 されたら、やばい。 
「キス、だめです。 し、しません。 先生と生徒は、そういう事、しちゃダメだから」
 先生の胸に両手を当てて、ぐいっと離れる。
「分かりました。 キス、やめておきましょ。 ところで、今日はどうしました? 確かに、顔色がよくありません」
 先生は両手をぱっと上げて、降参してくれた。
「あの…すみません、多分、寝不足なだけで。 頭がガンガンします」
「まぁ。 かわいそうに。 ベッドで、休んでいいですよ」
 頭をなでなでしてくれる。 嬉しいし、どきどきする。
「気が済むまで、寝て、どうぞ。 すっきりしたら、声を掛けてから教室に戻ってくださいね」
 そう言って、先生はカーテンを閉めた。
 私は、すぐに眠ってしまった。


 起きたら、外は真っ暗だった。
「うそ」
 時計を見る。 十八時半。
「起こしてよ…」
 思わず、口から出てしまう。
「あっ、おはようございます。 よく休めたみたいですね」
 カーテンが開く。 先生は、にこにこしている。
「先生… 途中で起こしてくれたって」
「うーん、あんまり、ぐっすりだったので。 起こしたら、かわいそうかなと。 大丈夫、担任の先生には体調不良とお伝えしてあるから」
 はあ。 変なの。 こんなに寝てたら、担任もおかしいと思うべきだよ。
「ねえ、素敵な寝言、言ってましたよ」
 先生は、にこにこしている。
「せんせい、すき すき ですって。 先生、嬉しくなってしまいました」
「う、うそ! そんな事言ってたの?」
 は…恥ずかしい…。 毎晩、そういう事言って、ひとりでしてたからかな。 恥ずかしすぎる…。
 ベッドの上でのたうち回るわたしに、先生は、また聞く。
「ねえ、キスしてもいい? 私の事、好きなんでしょう」
「い…いいです。 先生の事、好きだから」


 私たちは、保健室のベッドでぎゅっと抱き合って、たくさん、たくさんキスをした。 帰る頃には、時計は十九時半を過ぎていた。
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