Amieと黄泉

下野 みかも

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天使と悪魔

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「ね、ね」
 また、すり寄って来た。うざい。ほっとけよ。
「ね。三つ編み、かたいっぽだけ、とれてるよ。直してあげる」
「うっさいな。自分でやるよ」
「だって、上手じゃないよ。私、ほそーく、先まで編めるよ。やったげる」
 髪を、触ろうとしてくる。あたしは怖い顔を作って、振り返る。あいつの手をパシッと、叩き落としてやる。
「触んなって」
「ぶー。どうして。髪、ぴしっとしてあげるよ。天使は、親切なの」
「ありがた迷惑って言葉、知んないの? ばか天使」


 教えてやったら、背を向ける。こいつとは、あんまり喋りたくない。ばかが、うつるから。
 なのに、こいつ。あたしの背中にぴたっと頬っぺたをくっ付けて、すりすりしてくる。
「知んなかった。教えてくれて、ありがと。悪魔も、親切だね。やさしいね」
 ぞわっとする。あまい、ミルクみたいな匂い。胸が、どきどきする。むずむずして、気持ち悪い。やめろ。
「さ・わ・る・な!」
「きゃっ」
 振りほどくと、天使はころん、と転げて尻餅をつく。ふ、ふん。ばーか。だっさーい。
「ふぇ……。いたいよう」
 眉毛をハの字にして、でっかい目に涙をためて、唇をぎゅっと噛んでいる。
「あ……。 羽根、折れちゃった……」
 ちらっと見ると、大きな羽根が何本か、真ん中で折れている。
「あ……あたしのせいじゃ、ないし!」
 なんだよ。根性なしの、天使の羽根! ばか。知らない。あたしは、二人で座ってた小さな雲を飛び出した。





「よみちゃん…… よみちゃぁん……」
 あいつが、あたしを探す声。天使の声は大きくなくても、よく響く。今は、全然聞きたくない。胸が、痛くなるから。
「よみちゃぁん…… どこぉ……」
 声は、半泣きだ。泣いても、知らないし。あたしのせいじゃないし。
 ていうか、気付けよ。すぐ近くだよ。
 あたしは、さっきの雲からちょっとだけ離れた、上層の小さな雲で寝転がってる。 
「うっ……。うぇえ……。こわいよう……」
 天使は、いつも群れてる。あいつらは弱虫だから、大勢じゃないと行動できない。一人でふらふら飛ぶのは、とっても怖い事らしい。
「よみちゃん……。アミ、ここだよぉ。こわがらないで、出てきて」
「怖がってねえよ! 怖がりは、お前だろ! ばかアミ!」
 思わず、立ち上がって叫んでしまった。あたしの、あほー。悪魔は皆んな、短気(いいところでもある)。





「よみちゃん」
 アミの、ほっとした声。天使の声は、響く。あたしの心も、ほっとしてしまう。
「よみちゃん、よみちゃん」
 すいっと真っ直ぐ、あたしの胸に飛び込んでくる。あたしの胸元が、濡れる。
「泣いてたのかよ。ばか」
「だって、よみちゃんがいなくなっちゃうんだもん。よみちゃんが、迷子で泣いてるかと思って……」
「は? なんで、あたしが。 お前こそ、羽根、痛いだろ」
「羽根、平気だもん。もう、痛くないもん。よみちゃん、ごめんね。私が泣いたから、びっくりしちゃったんだよね。やさしいね」


 まじで……うざ! 悪魔は、やさしくねえし!
 うざい天使は、空気を読まずに、あたしの胸に頭をこすり付ける。
「よみちゃん。やさしい、よみちゃん。好き……」
「お前……ほんと、おかしいよ」
 こんなとこ、他の天使や悪魔に見られたら、フクロだよ。あたしはこいつを引きはがしたいけど、腕に、全然力が入らない。こいつの甘い匂いと、ガラス玉みたいな、きれいな声のせいだ。 あたしはつい、こいつのふわふわの、白っぽい金髪を撫でてしまう。気持ちいい。 心が、ほわほわする。


 アミは、甘えた声を出す。
「ねえ、ぎゅうしたまま、寝ようよう」
「だ、だめだよ。ばか。ねどこ、帰れよ」
「ぶー。よみちゃんの、けちんぼ」
「うるせえ。バレたら、あたしもお前もただじゃ済まされないだろ」
「けちんぼじゃなかった……やさしい。私の事、心配?」
「うざ! あたしが心配なのは、あたし! お前なんて、心配してないから!」
「嘘。分かるもん。よみちゃん、私がほかの天使に意地悪されたら可哀想、って思ってる」


 アミは、あたしの頬っぺたを人差し指でぷにっとする。そのまま指をスライドさせて、唇に触れる。
「よみちゃんは、やさしいもん」
「お前……いい加減にしろよ」
 あたしは、その指をぱくっと食べる。がりっと、噛んでやる。痛いだろ。ばーか。
 アミの顔を見ると、なんだか変な顔をしている。目がとろんとして、口をちょっと開けて、頬っぺたが赤くなっている。
「よみちゃん……。アミも、お指食べたい」
 そう言うと、アミはあたしの人差し指を取って、ぱくっと食べた。ちゅうちゅう、吸う。
「や、やらっ!」
 あたしは叫んで、噛んでたアミの人差し指を口から離す。吸われてるあたしの指も外したくて引っ張るけど、アミは離してくれない。ちゅうちゅう、ぺろぺろし続ける。
「やめろよぉ……」
 気持ち悪い。気持ちいい。天使は、全部気持ちいい……。



「よみちゃんのお指、おいしかった」
 気が済んだのか、アミはにこにこしている。あたしは、ぐったりだ。しゃぶられてた指はふやけて、すっかり白くなってる。
「よみちゃん、また遊ぼ。今度は三つ編み、ぴしっとしてあげるから」
「ふん。今度は三つ編み、取れないようにしてくから。お前になんて、直させないよーだ」
 あたしはべーっと舌を出す。悪魔の舌は、怖いぞ。二股に分かれてて、長いんだ。 
 アミは、あたしのかっこいい舌をちょん、と触る。こいつは、すぐに触ってくる。どこでも。
「よみちゃん、かわいい。大好き。ほんとは、おくち同士でキスしたい……」
 あたしの舌に触れた自分の指を、ちゅっと舐める。


「お前……そういうの、やめろよ。怒られるぞ」
「いいもん。怒られたって、よみちゃんが好きだもん……」
 アミは、あたしにぎゅっと抱き付いてくる。あたしの背中の羽根の、付け根をやさしく触る。ぞわっとする。 気持ち悪いんじゃない、お腹の奥がしびれるような、気持ちいいやつだ。あたしもつい、アミの羽根の付け根に触れてしまう。アミも、身体をぴくん、とさせる。
「羽根……ごめん」
「平気だよ。どうせ、そのうち抜ける羽根だったんだよ。よみちゃんは、悪くないよ」



 あたし達は、しばらくそのままぎゅっとした。 
 空がすっかり暗くなって、星がきらきら光るまで、そうした。そしてお互い、ねぐらに戻り、アミは天使の仲間たちと、あたしは一人で、今日のことを思い出しながら、眠った。
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