上 下
48 / 48
番外編〜12の年〜

何時かの夢と花束

しおりを挟む


 季節は春、様々な花が咲き誇る季節。俺は学園から、ノワール城への帰路を辿り城下町の噴水広場で待ち合わせをしていたリンと落ち合った。

「次はアルカンシエルの視察、でしたね」

「はい、今日のスケジュールはそれで最後になりますが…最近お疲れではありませんか?アンナ様」

「ありがとう、リン。でも大丈夫ですよ、寧ろ早く園の子供達に逢いたいのでわくわくしています」

 そう、今日は4年前に設立した児童養護施設と学園、両方の性質を持つ孤児、一般問わず各々の優秀な才能を開花させる手伝いをする場。アルカンシエル学園の視察に赴く日だ。

 設立して暫くは好奇の目で見られていた学園ではあるが、今では孤児、一般枠で入学した者問わず才能を開花させ、あらゆる業界から期待されるまでになっている。


「アンナ様は本当に子供達が好きですね…では、園に着くまでは少し仮眠を取っていてください、到着次第起こしますので」

「ありがとう。…では、少しだけ休ませて頂きますね…」

「はい、おやすみなさい。アンナ様」


 噴水広場から少し離れた駐車場に停めていた車に乗り込み、促されるがままに座席に体重を預け眠りにつく、此処からなら普通に走れば30分で着くだろう。

 重たい瞼をゆっくりと綴じれば、そのまま眠りに着いた。

◆❖◇◇❖◆

 夢の中、というのは不思議なものだ。俺自身が夢だと認識しているにも関わらず、俺は前世の夢を見ていた。


「おかえり!お兄ちゃん!」

「おう、ただいま。ちゃんと寝てたか?」

「うん、ちゃんと寝てたよ?私も早く学校行きたいなぁ…」

 妹の春姫はるきは生まれた時から身体が弱かった、アルビノ…それに伴い幼い春姫は昔から奇異の目で見られ、心無い言葉を投げ掛けられていた。

 その度に俺は春姫を侮辱した奴等を殴る日々を送っていたが…それ故に血も涙もない悪魔、という呼び名が定着した。

 だが、それ自体に後悔の念を覚えた事はない、寧ろ俺自身が悪魔なら春姫を虐めた奴等にとっての鏡として存在する事が俺にとっては誇りでもあったからだ。


「はしゃぐとまた熱上がるぞ、…ほら、身体拭いてやるから服脱ぎな」

「は、恥ずかしいよ…それに身体なんて一人で拭けるから…」

「何恥ずかしがってんだか、…赤ん坊の頃から世話してんだから今更だろ。……ごめんな、親父もお袋もあんなんでよ」


 まだ小さな春姫が何故恥ずかしがってるのか、当時の俺には理解出来なかったが、事業に失敗して呑んだくれる親父とそんな親父に隠れて浮気をしているお袋が情けなかったのは今でも覚えている。


「どうしてお兄ちゃんが謝るの?それに今が苦しいだけだよ、ちゃんとお仕事が決まればパパ達もまた前みたいに…こほっこほっ」

春姫はるき!…俺がもっと早く生まれてりゃ…ごめん、ごめんな…」

「だい…じょぶ…っ…ぁ…身体を拭いたらゲームしよ…?お兄ちゃん、おままごとはしてくれないけどゲームはどんなのでも一緒にしてくれるから…」

「っ…ばーか、おままごとなんてこの歳でやれっかよ、ゲームは…まぁ、嫌いじゃねーからな」

「もう…っ…えへへ…お兄ちゃんの手…優しくて大好き…」

 虐めにより精神的に弱っていたからか、それともアルビノという体質がそうさせるのかは、当時の俺には理解は出来なかったが、身体が弱い春姫と遊ぶツールの1つとしてゲームは大いに役立ってくれた…身の回りの世話と一緒に遊んでやる事しか出来なかった俺にとって、ゲームは春姫との繋がりだったんだ。


『おにぃちゃ……いき、て…ね…?』


◆❖◇◇❖◆


「アンナ様、到着しました。…どうかなさいましたか、アンナ様…?」

「……いえ、少し懐かしい夢を見ていたようです」

「…左様でございますか、…矢張り今日はもうお休みになられた方が」


 心配そうに見詰めてくるリンに、俺は目尻に溜まった涙を拭い笑みを浮かべる。どうやら泣いていたようだ。


「いえ、問題ありません。子供達が待っていますから」

「…お供いたします、アンナ様」

 最近重みを感じてきた胸を揺らしながら車を降りると園の入口へと歩き出す。リンもそんな俺に従うように3歩後ろを歩き始めた。


─────
───


 2時間後、俺はリンを伴いアルカンシエルの施設を園の責任者であり理事長でもある、シエラに案内されていた。


「本日はお越し頂きありがとうございます、殿下」

「いえ、一ヶ月に一回は足を運びたいと言ったのは私ですから…あれから変わりはありませんか?」

「はい、園でお世話をしている子供達も皆、大病を患う事もなく健やかに過ごしております。また、園の外から来る子供達も皆優秀な子ばかりでノワール国の未来も明るいかと」

「そうですか、それは何よりです」


 芸能、料理、服飾、星騎士…あらゆる職業に就く為の才能を開花させる為の一助とする学園の長の言葉に穏やかな笑みを浮かべていると、3人の生徒が入ってきてその内、真ん中の少女が色鮮やかな花束を差し出してきた。


「「「アンナさまー、お花あげます!」」」

「私に…?宜しいのですか…?」

「はい、子供達がどうしても殿下に差し上げたい、と…1輪ずつ育てたものです、どうか貰って頂けたら私共としても…」


「…分かりました、皆、ありがとうございますね?」

 この花、1本1本が此処に居る子供達の気持ちなら有難く貰おう、俺は満面の笑みを浮かべる自分アンナとそう変わらない子供達に笑みを浮かべ返し花束を受け取った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました

平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。 しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。 だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。 まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

処理中です...