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第一章〜幼年期編〜
願いへの一歩
しおりを挟む「おじい様達の補佐と、学業を両立…ですか?」
「8歳とはいえ、アンナの民に向ける慈愛は理解出来ます故、補佐というのは理解出来ますが…学業を両立するという事に意味があるとは…」
ユイ様の言葉の裏にある真意を読み取ろうとし、オウム返しのように言葉にするが、頭の中では様々な憶測や未確定の情報があり頭が回らないでいると、親父が口を出す。
「甘いですよ、フリードリヒ。私は“神槍を完全に使いこなせるようになるまで”と言った筈です。…アンナとリンの戦いぶりを見させて頂きましたが、神槍の力はあんなものではない、それは扱った事がある本人が一番理解しているのでは?」
「…はい、正直扱うというよりは振り回されていた、というのが正しいかと」
そう、確かに今の俺は神槍に振り回されるのがやっとだ。確定では無いが、俺自身に宿る神槍を具現化させる条件とそれに到る力の引き出し方は理解した。
だが、完全に使いこなせる様になるには何年掛かるかは定かではない、それだけこの神槍は底が知れないのだ。
「正直、年齢と星武器を扱う様になった期間を考慮すれば、振り回される段階に至れただけでも才能は感じさせますが…それではダメです。神槍の力を最大限使いこなし、自分から振るえるようにならなければG級の名が泣きますよ?」
「…分かりました、神槍を使いこなせるようになるまで今まで以上に精進致します」
「良い返事です、…これから貴女は色々と嫌なものを見る事でしょう。星騎士としても、ヒトとしても…それでも、貴女なら乗り越えられると私は信じます、…だって、貴女は私とあの方の子孫なのだから」
苦い顔をしている俺を叱咤激励するユイ様に対し、今まで以上に努力する事を告げるとユイ様もこのチカラの危険性や、人間、亜種族、龍族といったヒト全般の弱さを“まるで見てきたように”口にする。…恐らくだが、ユイ様にとって親しい人物がそういった憂き目にあった事があるのだろう。
無論、それは俺も理解している。前世で血も涙もない悪魔、と幼少期から言われた事のある俺にとっては“ヒトとはそういうもの”という認識は持ち合わせている。
───だからこそ、俺は俺より前にこの神槍を振るい、使いこなしていただろう前任者に興味を抱いた。
「はい、…ユイ様、先程の口振りから察するに、ユイ様はこの神槍の真の力を見た事があるのだと思いますが、私に宿った神槍の元の担い手も神…だったのですか?」
「…その神槍はね、紆余曲折を経て私の兄の手に渡ったものなの。神格を宿せる位立派な器は元々兄が手にしたものなのよ」
「ユイ様の…お兄様…」
ユイ様の兄が前任者、か…どんな人物だったのだろうか。本人に聞いてみるのも良いかもしれない、案外、過去の担い手の事を知る事が、俺がこの神槍を扱いこなすヒントになるかもしれないな。
「話が逸れてしまったわね。G級星騎士、アンナ・ノワール…その頂に恥じぬ健闘を期待します」
「はい、アンナ・ノワール…確かにその任を拝命致します」
中世の騎士がそうするように、片膝を付き一礼する。
この時を以て、アンナ・ノワールはノワール国の王族である前に、世界に数少ないS級を超える星騎士となった。
そこにS級…否、全星騎士からの挑戦を受け、打ち負かす事で強者で在り続ける義務と責任があるのを理解した上で、だ。
「私からの話は大方済みました、…取り敢えず、ユリウスとフリードリヒにはアンナちゃんの話に耳を傾け、必要だと感じたらアンナちゃんの案を取り入れるように厳命しているのだけど…アンナちゃんはどんな国になったら良いなぁ、っていう具体的な案はあるのかしら?」
「そう、ですね…その事なのですが、SSSリーグは私にも参加資格はあるのでしょうか?」
念の為にだが、確認を取る。勿論S級以上の星騎士が集まるリーグ関係はG級星騎士として参加は義務付けられるだろう。
だが、ユイ様はこう仰った。親父とユリウスの爺さんの補佐と、学業を両立せよ、と。8歳から14歳迄の星騎士が集まるSSSリーグは学業に入るのだろうか、という問いにユイ様は穏やかに微笑む。
「あるわ、というより今までの会話で弱い者イジメになるから出ない、なんて言う子じゃないものね、アンナちゃんは。勿論、4年に一度開催されるS級リーグにも参加して貰うけど。あれは『星々の騎士団』にとっては競い合う場になっているから」
「各方面から顰蹙を買うのは理解しておりますが、神槍を使いこなす為には少しでも多くの経験値が必要だと思うので。…それに、副次的に手に入るものも有効活用したいですし」
矢張り、というか前々から思っていたがユイ様も人が悪い。俺がSSSリーグに出る事は既に予見していたようだ。
俺自身、手加減を覚える必要はあるが、様々な魔法、様々な能力、様々な戦術、様々な星騎士と出逢う事で力を付ける事が出来るだろう。…何より、SSSリーグでも上位の星騎士になる事で得られる物はこの先、俺が考えてる事業と政策にはあって困るものではない。
「ほっほ…なるほどのぅ、強かな孫娘に育ったものじゃ」
「全く、誰に似たのやら…」
ユイ様が嫋やかに微笑み、ユリウスの爺さんが感心したように呟き、親父が額を片手で抑えているが、俺は前世での願い、それを叶える第一歩を口にする。
「ユイ様やおじい様、お父様もご理解頂けたようで何よりです…私が望むのは───」
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