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第一章〜幼年期編〜

憩い

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 シュリに準備をして貰い、俺は今、エミルとミモザとアリスの3人で浴場の湯に浸かっている。

 矢張り家の風呂が一番だ、湯加減も丁度良いしな。

「こうして一緒にお風呂に入るのも久しぶりですね」

「アンナさま、居なくて寂しかった…」
「ミモザもだけど私も寂しかったです…」
「入院するような試験ってどんなもんだったんだ?…その、オレも寂しかったし…」


 湯船に浸かりながら甘えてくる3人の頭を優しく撫でながら、エミルに問われた試験当日に何をしていたかを3人にも分かるように答える。エミルは俺とリンの鍛錬も見ていたみたいだし星騎士としての活動に興味があるのだろう。


「寂しがらせてごめんなさい、…最初は筆記試験…ようは、どれだけお勉強が出来ているかというテストと、その次は星騎士としての実力を測る実技テストですね、実技テストは途中からリンが受け持ってくれましたが」

「リンさんが?…つまり」
「悪いのはリンさん?」
「…強くなったら仕返ししてやる」

「さ、3人とも…?リンも悪気があってやった訳ではありませんし、ほぼほぼ私が暴走した所為ですから…」


 3人の目に、一瞬昏い焔が灯ったような幻視を見て慌ててフォローに入る。エミルに至っては何か呟いてたし。
 

「「「暴走…?」」」

「えぇ、3人も多分見た事はあるでしょう?神槍と呼ばれる古代の遺物を」

 3人は不思議そうに小首を傾げる、まぁ、言葉通りに受け取るならどう暴走するのだろう、と不思議に思うのも理解は出来る為、何が起きたのかを端的に伝える。


「うん、知ってる」
「あの立派な槍…ですよね」
「あぁ、あのかっけー槍か、あれって使えたんだな」

「正確にはあの槍に宿っていた神格が私に宿っている状態…らしいので、あれは中身の無い器のような状態ですが」


 3人ともメイドの仕事をちゃんとこなしているようだ、その感想は俺が当初抱いていた神槍の感想と差程遜色は無いが、魔力を正確に探知出来るようになった今の俺だからこそ、あの槍が器であった事を察する事が出来る。


「そんなもん使って大丈夫なのか?アンナさま…」

「大丈夫…では無かったのかもしれません、それ故の暴走ですから」


 エミルの赤い髪を優しく撫でながら、今の俺では神槍は暴走状態でしか扱えないだろう事を伝える。

 あの神槍を扱うには魔力もそうだが、何より強い“覚悟”を必要とするのだろう。

 あの日、あの時。リンに問われた言葉に俺の魂が強く反応した事で神槍はその姿を現した…あの槍の名を知った今だからこそ、そう感じずにはいられないのだ。


「病院で入院する、なんて本来は有り得ない事、って…シュリさんが」
「心配…」

「心配を掛けてごめんなさい、でも今は何ともありませんから」

 本当に俺の事を心配してくれていたのだろう、目尻に涙を溜めながら呟き、俯き、案じてくれる3人を両腕を広げ抱き寄せる。

「…今、甘やかして貰ってるから…ミモザは許すの」
「わ、私も許します、よ?」
「…アンナさまは悪くねぇよ、オレ達みたいな奴を助ける為に色々考えて動いたんだろ?なら、オレ達はアンナさまを支えるんだ、あんたはオレ達の希望なんだから」

「…えぇ、私が存在し続ける限り、貴女達は私が護ります」


 前世で妹を護れなかった俺だからこそ、大事だと思う。この3人も、今を生きる為に望まぬ窃盗を繰り返す子供も、弱い奴が普通に生きれる世界を望む心、っていうのは。

◆❖◇◇❖◆

 窓から刺す夕日を背景に、久しぶりの私室で寛いでいると3回のノックの後、シュリが部屋に足を踏み入れてきた。


「アンナ様ー、お湯加減は如何でしたか~?」

「えぇ、シュリ。とても良い湯加減でした。つい長湯をしてしまう位には」

「ふふー、それは良かったです~、気合い入れて燃えた甲斐があります~」

「ぇ…?その…まさか毎回私達がお風呂に入る時にシュリ自ら湯を沸かしていた…なんて事はありませんよね?」

 いや、まさかな…エミル達と知り合う前に一人で風呂に入ってた時はシュリと一緒に会話してた記憶があるし。…いや、でもシュリに関していうなら底が深すぎて読み切れん…!


「ふふふー、それは企業秘密です~」

「そ、そうですか…何時もありがとうございま、す…?」

「いえいえ~、この後はお食事の後、ユイ様、ユリウス様、フリードリヒ様との家族会議ですので気合い入れて望んで下さいね?」

「家族会議、ですか…」

 にこにこと笑い、家族会議という比較的軽めな言葉を選びながら、この国の王と次期国王、何より他国でも絶大な権力を持つ女傑の3人と対談に気を引き締めるように促すシュリは本当に出来た使用人だ。


「はい~、ユイ様からは『星々の騎士団』の活動内容、及びこれからアンナ様が就く任務の説明がなされると思います~」

「『星々の騎士団』の活動内容…ですか、分かりました、それで子供達は?」


 星々の騎士団、前世の記憶を思い出そうとしても出てこなかった組織だが…覚悟なら既に出来ている。それよりも風呂から出て姿を見ないエミル達の事を問うとシュリはくすくすと笑う。


「はしゃぎ過ぎたのかお眠の時間みたいです~、アンナ様が入院している間はずっと心配してましたからね~」

「そうですか、…今日はもう休ませてあげてください、本当に心配を掛けていたようなので」

「分かりました~」


 満足に眠れない程に案じてくれた3人の為にも、気後れはしていられない。

 誓いと約束を果たす為に、俺は左右の掌で頬を叩き気合いを入れた。
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