41 / 48
第一章〜幼年期編〜
憩い
しおりを挟むシュリに準備をして貰い、俺は今、エミルとミモザとアリスの3人で浴場の湯に浸かっている。
矢張り家の風呂が一番だ、湯加減も丁度良いしな。
「こうして一緒にお風呂に入るのも久しぶりですね」
「アンナさま、居なくて寂しかった…」
「ミモザもだけど私も寂しかったです…」
「入院するような試験ってどんなもんだったんだ?…その、オレも寂しかったし…」
湯船に浸かりながら甘えてくる3人の頭を優しく撫でながら、エミルに問われた試験当日に何をしていたかを3人にも分かるように答える。エミルは俺とリンの鍛錬も見ていたみたいだし星騎士としての活動に興味があるのだろう。
「寂しがらせてごめんなさい、…最初は筆記試験…ようは、どれだけお勉強が出来ているかというテストと、その次は星騎士としての実力を測る実技テストですね、実技テストは途中からリンが受け持ってくれましたが」
「リンさんが?…つまり」
「悪いのはリンさん?」
「…強くなったら仕返ししてやる」
「さ、3人とも…?リンも悪気があってやった訳ではありませんし、ほぼほぼ私が暴走した所為ですから…」
3人の目に、一瞬昏い焔が灯ったような幻視を見て慌ててフォローに入る。エミルに至っては何か呟いてたし。
「「「暴走…?」」」
「えぇ、3人も多分見た事はあるでしょう?神槍と呼ばれる古代の遺物を」
3人は不思議そうに小首を傾げる、まぁ、言葉通りに受け取るならどう暴走するのだろう、と不思議に思うのも理解は出来る為、何が起きたのかを端的に伝える。
「うん、知ってる」
「あの立派な槍…ですよね」
「あぁ、あのかっけー槍か、あれって使えたんだな」
「正確にはあの槍に宿っていた神格が私に宿っている状態…らしいので、あれは中身の無い器のような状態ですが」
3人ともメイドの仕事をちゃんとこなしているようだ、その感想は俺が当初抱いていた神槍の感想と差程遜色は無いが、魔力を正確に探知出来るようになった今の俺だからこそ、あの槍が器であった事を察する事が出来る。
「そんなもん使って大丈夫なのか?アンナさま…」
「大丈夫…では無かったのかもしれません、それ故の暴走ですから」
エミルの赤い髪を優しく撫でながら、今の俺では神槍は暴走状態でしか扱えないだろう事を伝える。
あの神槍を扱うには魔力もそうだが、何より強い“覚悟”を必要とするのだろう。
あの日、あの時。リンに問われた言葉に俺の魂が強く反応した事で神槍はその姿を現した…あの槍の名を知った今だからこそ、そう感じずにはいられないのだ。
「病院で入院する、なんて本来は有り得ない事、って…シュリさんが」
「心配…」
「心配を掛けてごめんなさい、でも今は何ともありませんから」
本当に俺の事を心配してくれていたのだろう、目尻に涙を溜めながら呟き、俯き、案じてくれる3人を両腕を広げ抱き寄せる。
「…今、甘やかして貰ってるから…ミモザは許すの」
「わ、私も許します、よ?」
「…アンナさまは悪くねぇよ、オレ達みたいな奴を助ける為に色々考えて動いたんだろ?なら、オレ達はアンナさまを支えるんだ、あんたはオレ達の希望なんだから」
「…えぇ、私が存在し続ける限り、貴女達は私が護ります」
前世で妹を護れなかった俺だからこそ、大事だと思う。この3人も、今を生きる為に望まぬ窃盗を繰り返す子供も、弱い奴が普通に生きれる世界を望む心、っていうのは。
◆❖◇◇❖◆
窓から刺す夕日を背景に、久しぶりの私室で寛いでいると3回のノックの後、シュリが部屋に足を踏み入れてきた。
「アンナ様ー、お湯加減は如何でしたか~?」
「えぇ、シュリ。とても良い湯加減でした。つい長湯をしてしまう位には」
「ふふー、それは良かったです~、気合い入れて燃えた甲斐があります~」
「ぇ…?その…まさか毎回私達がお風呂に入る時にシュリ自ら湯を沸かしていた…なんて事はありませんよね?」
いや、まさかな…エミル達と知り合う前に一人で風呂に入ってた時はシュリと一緒に会話してた記憶があるし。…いや、でもシュリに関していうなら底が深すぎて読み切れん…!
「ふふふー、それは企業秘密です~」
「そ、そうですか…何時もありがとうございま、す…?」
「いえいえ~、この後はお食事の後、ユイ様、ユリウス様、フリードリヒ様との家族会議ですので気合い入れて望んで下さいね?」
「家族会議、ですか…」
にこにこと笑い、家族会議という比較的軽めな言葉を選びながら、この国の王と次期国王、何より他国でも絶大な権力を持つ女傑の3人と対談に気を引き締めるように促すシュリは本当に出来た使用人だ。
「はい~、ユイ様からは『星々の騎士団』の活動内容、及びこれからアンナ様が就く任務の説明がなされると思います~」
「『星々の騎士団』の活動内容…ですか、分かりました、それで子供達は?」
星々の騎士団、前世の記憶を思い出そうとしても出てこなかった組織だが…覚悟なら既に出来ている。それよりも風呂から出て姿を見ないエミル達の事を問うとシュリはくすくすと笑う。
「はしゃぎ過ぎたのかお眠の時間みたいです~、アンナ様が入院している間はずっと心配してましたからね~」
「そうですか、…今日はもう休ませてあげてください、本当に心配を掛けていたようなので」
「分かりました~」
満足に眠れない程に案じてくれた3人の為にも、気後れはしていられない。
誓いと約束を果たす為に、俺は左右の掌で頬を叩き気合いを入れた。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ
トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!?
自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。
果たして雅は独りで生きていけるのか!?
実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
【第1部完結】勇者参上!!~東方一の武芸の名門から破門された俺は西方で勇者になって究極奥義無双する!~
Bonzaebon
ファンタジー
東方一の武芸の名門、流派梁山泊を破門・追放の憂き目にあった落ちこぼれのロアは行く当てのない旅に出た。 国境を越え異国へと足を踏み入れたある日、傷ついた男からあるものを託されることになる。 それは「勇者の額冠」だった。 突然、事情も呑み込めないまま、勇者になってしまったロアは竜帝討伐とそれを巡る陰謀に巻き込まれることになる。
『千年に一人の英雄だろうと、最強の魔物だろうと、俺の究極奥義の前には誰もがひれ伏する!』
※本作は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させて頂いております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる