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第一章〜幼年期編〜

護り、救うということ

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 2振りの小太刀を巧みに操りながら攻撃をしてきた襲撃者から3人を庇うべく星武器を瞬時に展開し、小太刀を受け止めると同時に押し返す。

 展開したのは普段と変わらない双剣銃。槍では無かったことに内心安堵しつつ、襲撃者の力量を魔力を視るが…不自然な事に“魔力の流れが感知出来ない”

 その為、軽口で煽ってみる事にする。


「…此処は病院ですよ?そんなに殺気を漲らせてどうかしましたか?」

「…知れた事、御前達4人に用があるからに決まっているだろう?」


 俺だけじゃなくてエステルやルカ、ルカの婚約者であるミラまで狙っているという事は両国の王族に恨みのある存在か、或いは、両国の関係を悪化させたい存在…って所か、少なくとも思い通りにさせる気は無いが。


「……やれやれ、せっかちなお客様ヒットマンですね…、エステル、ルカ、ミラ、怖いでしょうがそこから一歩も動かないようにしてください」


「…えぇ、分かりました」
「は、はい…!」
「これは…結界術?ミラのと比べて魔力が…」


 少し離れた位置で固まっていてくれた事が幸いした、初めて試すが俺が無意識に溢れさせている魔力を半ドーム型に形成させ、3人を結界で囲う。

 三者三様、結界の中で事の成り行きを見守る3人を護る俺を忌々しげに睨みながら刃を向ける暗殺者に星武器を構えたまま対峙する。

「…想定外だが問題無い、御前を片付ければその3人は丸裸だ…!」

「やらせると思いますか?」

「結界術の同時展開だと…!?」

「何もせずに入院していた訳ではありませんからね、対象の情報を元に襲撃するのは良い心掛けですが私は常に前に進みますよ」


 垂れ流れる魔力を、今度は肉体を護る薄いヴェールを纏うイメージで固定すれば刃先は肌に届く前に砕ける。

 それと同時に、空いている横腹を剣の腹でぶっ叩く事で戦意を砕こうとするが咄嗟に後方に飛び退かれる形で躱される。


「く…っ…」

「未だやりますか…完全にタイミングを合わせたカウンターを食らわせたと思ったのですが…」

「負けられないんだ…オレは…!」

「……気配が消えた…?これが貴方の能力ですか…」

「…………」

「沈黙、ですか…なら此方は此方で対策するとしましょうか」

「…ッ!」

 唯の暗殺者にしては熱く、決して負けられないという決意を感じるが、そんなものは俺も同じだ。身体に纏っていたヴェールを俺を中心に半径500メートルを覆う結界として展開する。

 本来星騎士にとっては結界術とはマイナーな技だ、何せ星戦を行う時は必ずと言って良い程フィールドという名の結界が展開される。…だが、レイはそんなマイナーな術を極めてS級の地位に立っている。レイに比べたら未熟だが、これくらい出来ないでレイに鍛えられた、とは言えない。


「これで貴方は逃げられない、逃げられない以上、私を倒すしか道がない。…エステル、ルカ、ミラ、その結界から絶対に出ないでくださいね」


「これが、今のアンナさま…」
「分かりました…!」
「はい…!」

貴方の暗殺者ヒットマンとしての技量に敬意を表し…今の私の全力を出すとしましょう」

「ッッ!!」

七重奏の弾丸セプテット・バール

「ぐあ゛ぁあ゛ぁぁぁッ!?」

 今のありったけをぶつけるように、姿の見えない難敵へ七発の弾丸を叩き込むと、その次の瞬間には悲鳴と共に血に塗れた赤髪の女が地べたに倒れ込んでいた。

◆❖◇◇❖◆


 他に暗殺者の仲間が居ないかを確認しつつ、ルカには王子として警察に連絡を入れて貰いながら、仰向けに倒れ込む女を見下ろす。

「ぐ…っ…ぢくしょう…っ……」

「…ミラさん、治療は出来ますか…?」

「は、はい!多分大丈夫です…!」

「き、きさま…なんのつもりだ…!」

 ミラに傷の治療を頼むと、彼女はバトンの様な星武器を手に魔力を波動として女に流し込む、すると女の傷はみるみるうちに癒える…初めて治癒術を見るが、現代を生きる奴が見れば奇跡と呼ぶものだろう。


「…このまま死なせるのは勿体無いと思っただけです、それに此処は病院ですからね。…貴方は私が相手をした星騎士の中で誰よりも伸び代があるから…強い、と言っても良いでしょう」

「オレが…強い、だと…?」

「えぇ、勿論改善すべき点はあるでしょうが…気配を完全に無に出来る、透明人間になれるのは才能です。殺意も隠せる暗殺者ヒットマンは中々居ませんから」


 前世ありきの話し方をしてしまっているが、ルカやミラは兎も角、エステルならウーノ兄弟の事だと誤解してくれるだろう、ぶっちゃけ口にしたもんを言い間違えとは言えないしな。

「………このまま生かしたとして、また牙を剥くとも限らないぞ…?」

「その時はその時、また倒すだけです」

「…ふ、…変わった女だ…助けられておいて今すぐ牙を剥く程、恥知らずではない…オレが殺す迄誰にも殺されるなよ、アンナ・ノワール」

「アンナ、あれで良かったのですか…?僕としてはあまり事を荒らげたくなかったので任せて頂けて良かったのですが…」

「えぇ、寧ろ任せてしまい申し訳ありません、ルカ。エステル、ミラ、巻き込んでしまい申し訳ありません…そして、私を信じてくれてありがとうございました」


 連絡を受けて直ぐにやってきた警察に連れられていく形で女はパトカーに乗るが…あの能力だ、直ぐに脱獄するだろう。

 一先ずは3人に礼を、そして安否確認を取りつつ様子を見る。


「そんな…私は任せるしか出来ませんでしたから」

「私もです…暗殺者さんを助けただけ「そんな事ありませんよ」アンナ様…?」

「私には治癒魔法の心得はありません、この場、この時に限り私にとってミラはどんな名医より名医で頼りになりました、ルカは良い婚約者を持ちましたね?」

「ッ!……は…ぃ、…ありがとうございます…!」

「…えぇ、彼女は僕の誇りです」


 傷を癒せるミラ、病気を治せるルカ、どっちも欠けちゃあいけない存在だからこそ、2人には支えあって生きて貰いたい、というのが俺の考えだ。…誇り、という言葉にミラが涙を流しているのを見て困ったような笑みを浮かべるルカを他所に、俺はエステルに感謝の言葉を告げる。


「それに、エステルも、貴女が信じてくれたから私は全力で戦えました、ありがとう…」

「いえ、私こそありがとうございます。アンナさま」

 穏やかに浮かべる微笑みを見て、俺自身笑みを浮かべながら遠くで響き渡るパトカーのサイレンの音を耳にした。
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